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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。
彼が例の三浦君。…なんだろうこの違和感は。
しおりを挟む車に揺られてしばらく。
目的地に到着した私達は早速図書館に入った。思っていたよりも大きな図書館だ。読書家な運転手さんオススメなだけあって、蔵書数がすごい。
慎悟が興味しんしんに本棚へ視線を向けていたので、本を選んだら所定の席に集合することに。私も検索パソコンで自分が好きそうな本はないか探すことにした。
図書館に到着して約1時間経過した。
慎悟は小難しそうな推理小説みたいな本を黙々と読み進めている。私はというと、スポーツ医療やバレーボール関連の本を持ってきて、大人しくそれを読んでいた。
結構古い本が残っていたよ。図書館の本棚でなくて、司書さんだけが出入りできる保管庫に保存されている古い本を借りてきた。
本を開くとそこには、私の祖母が憧れた東洋の魔女の白黒写真が載っていた。私は祖母の又聞きで東洋の魔女に憧れ、当時の映像を見た程度でしか知識がない。
この写真で見てみると、今の日本人選手よりも更に背が小柄なのが見て取れる。メンバー全員の平均身長を確認したら169cmと書いてあった。生前の私よりも小さい。
現在の日本代表女子バレー選手の平均は178cm前後だ。
平均身長が一番高いのはオランダの186.71cm。同じ東アジア人であるお隣中国の選手ですら185.76cmの高身長だ。中には2メートル超の選手もいる。……食べ物なのか、遺伝子的なものなのか…。
その代わりといってはなんだが、日本女子バレーは世界トップレベルの団結力がある。切り替えも早いし、監督の存在感もある。身長の低さを他の部分で補って世界で戦っている。
粘り強さが日本バレーの特徴なのだ。
いずれ…依里がこの中に入るのだと考えると、今からワクワクソワソワしてしまう。実業団に入った依里にとってこれからが重要なのだ。
私も依里の役に立ちたいのだが、出来ることは何があるだろうか。
「…あれ、慎悟?」
「三浦……?」
私が東洋の魔女の写真を依里に見立ててニヤニヤ妄想していると、慎悟の名が呼ばれた。
私が顔をあげると、そこには短髪でこんがり小麦色の肌をした少年がいた。背丈は…多分180近くあるはず。細身ながら筋肉がしっかりついているのが、半袖のシャツから覗く腕を見ればわかった。あっさりとした顔立ちで、一重に見えた瞳はよく見ると奥二重だ。
彼は私の顔を見ると目を丸くして、パッと慎悟をみた。
「……慎悟の彼女って二階堂さんだったんだ? …2年前に宝生と婚約破棄になったってのは聞いたけど。ていうか今日の誘い断ったのは彼女とデートだったからか」
「…こっちのほうが先約だったんだ。別にお前をないがしろにしたわけじゃない」
慎悟は付き合っている相手が誰だと、三浦君へ話していなかったのか。
……慎悟のことだ。中の人が私だから、相手が二階堂エリカだと紹介するのを躊躇ったのかもしれないな。
決して三浦君を無下にしたわけじゃないと慎悟が否定すると、三浦君は困ったような笑顔で慎悟の肩を叩いていた。
「そんなのわかってるよ。…久しぶりだね、二階堂さん。元気だった?」
「…ごきげんよう」
私に声を掛けてきた三浦君。中の人である私は彼とは初対面である。私は当たり障りのない挨拶だけを返した。
エリカちゃんや慎悟と小・中学が同じで面識のある相手。ただ、エリカちゃんがボッチマスターだったのが救いであろうか。共通の思い出とか出されたら会話に困るもん。いざとなれば「事件の影響で記憶が曖昧」を使いたいが、事件から2年以上経過しているのでそれが通用するかどうか…
「あんなに宝生にべったりだったのに、よく婚約破棄に同意したね」
「はぁ…まぁ…色々ありまして」
私はエリカちゃんじゃないので宝生氏のことはわりかしどうでもいいんです。
2年経っても婚約破棄のこと引っ張られるのね。もうお腹いっぱいなんだけど。もういいです。
「……もしかして…あの事件が関係していたりする? 婚約破棄直後の殺人事件だったもんね」
「……」
奥二重の目を細めて言われたその言葉に私は閉口してしまった。
あの事件のニュースでは、エリカちゃんの名前は出ていないが……他校の三浦君も知っているということは、セレブネットワークで広まっているのかな。
…ていうか被害者の前でそんな事聞いちゃうのか? ちょっと無神経じゃない? …三浦君にとっては他人事だろうけど。
…ちょっと…さぁ…デリケートな内容なんだから…。
「三浦、不躾だ」
「えっ!? そんなつもり無いんだけどな。気に触ったならごめんね二階堂さん」
「……」
慎悟が間に入って話を止めてくれた。真実を知っている慎悟も拙いと判断したのであろう。慎悟から嗜めるように睨まれた彼は、困ったような笑みを浮かべて謝罪してきた。
私はそれに何も言葉を返せなかった。
三浦君の無神経な発言にもだけど、ちょっと……彼の態度に違和感を覚えたんだ。なんとなく、友好的ではない空気を感じたのである。私の野性的勘がそれを告げてきたのだ。
私に失言を謝ってきた三浦君はヘラヘラしており、自分の発言に頓着してないようだ。
「それよりも2人で図書館デートしてたんでしょ? 邪魔してごめんね~。二階堂さんは何の本を読んでるの?」
私は複雑であった。
慎悟の親友のはずだが、私にとっては警戒対象となってしまった三浦君。慎悟が親しくしている友人なら、私も友好的に行きたいが……
「…バレーボールの本? …随分古い本読んでるんだね。二階堂さんって、バレー好きだったっけ?」
「うん。前からバレーしているの…来月のインターハイにも出場するよ」
当たり障りない返事を返すと、三浦君は興味なさそうにふーんと言っていた。聞いてきた割には気のなさそうな返事だな。
「…そうなんだ? 二階堂さんにバレーボールとか似合わないねー」
「…そうかな?」
「うん、だってボールに潰されそうじゃない」
「…流石仲良しなお友達同士、同じこと言ってくるんだね」
それ、出会った当初に慎悟にも言われたことあるわ。類友かあんた達は。
私がニコッと笑って正面に座っている慎悟を見ると、慎悟はそっと目を逸らしていた。その反応は自分の発言を覚えているんだろう? 私だからってわけじゃなくて、エリカちゃんに対しても言ってはいけなかった暴言だよ? わかってんのあんた。
「二階堂さんは身長が高いわけじゃないし、厳しいんじゃない?」
「そうだね、プロにはなれないよね。それはわかってる。だけど私バレーが好きなんだ。これからも続けていきたいと思ってる」
大学でも、社会人になってもアマチュアとしてバレーを続けることは出来るんだ。バレーが好きだから、バレーを続けるだけ。これは私が選んだ道だ。何も問題ない。
「…あれ? でも英学院って結構バレーボール強かった気がするけど…」
「言っておくけど、お金とか権力使わずにレギュラー入りしたからね」
ここでも慎悟と同じ発言をされそうな気がしたので、先回りで否定しておいた。私の言葉を信じているのか信じていないのかは謎だが、やっぱり三浦君は生返事を返すだけであった。
「…そういう三浦君はテニスの強豪高校にいるんだよね? 大学進学準備で部活は引退なのかな?」
「…あぁ、慎悟に聞いたの? そうだよ、俺は試合には出場しないし、大学受験があるから夏休みで引退するよ」
「じゃあ大学でまたテニスするの?」
エスカレーター式の英学院高等部への進学を止めて、強豪校に進むくらいだ。彼はテニスが好きなはずだ。屋外で行うスポーツを行っているからこそ、彼はこんなにも日焼けをしているのだろう。
私だって大学でもバレーを続ける。だからそれと同じ意味で質問をしてみたんだけど、彼は一瞬無表情になった。
だけどそれは私の見間違いだったのだろうか、次の瞬間にはへらっと笑っていた。
「テニスねぇ…ま、趣味程度で大学のサークルに入るかもね!」
「そうなんだ」
「中等部の時に結構いい成績残せたからさぁ、テニスの強い高校に入学したけど…慎悟いないとつまんないし、大学は同じところに進学する予定!」
そう言って三浦君は座っている慎悟の肩を組んでいた。慎悟は胡乱に彼を見上げているが、嫌がっている風でもない。やっぱり彼らは仲がいいんだな。
学校にも、慎悟の友人は沢山いるけども、こんなにもスキンシップを取っている友達は初めて見たかもしれない。ちょっと慎悟のお父さんを思い出させるな、三浦君は。
私が彼に違和感を覚えるのは…単なる人見知りなのかな。
慎悟の友達なんだ、出来れば仲良くなりたいというのが私の本音。彼のことを慎悟の前で悪くは言いたくない。
先程の彼の失言は大目に見てあげようと思ったのである。
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