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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。
正々堂々と戦おうじゃないか!
しおりを挟む「てなわけで、私と慎悟のこの後のことはスカッシュ対決でケリをつける事になりました! 三浦君に負けたら私達別れなきゃいけないみたい」
電話で報告すると、向こうで息を呑む音が聞こえた。
『……なにを、勝手なことを…』
「だって話してもわかってくれないんだもん。でも安心して? 絶対に私が勝つからね!」
慎悟だけ蚊帳の外というわけには行かないので、三浦君とスカッシュ対決で勝負をつけるという話をしたら、電話口の慎悟が唸っていた。
ごめんごめん、勢いに任せて勝負ふっかけちゃったけど、どっちにしても何らかの形でケリを付ける必要はあったと思うんだよ。
『…三浦は強いぞ』
「強豪校にいたくらいだもんね。私もテニス経験はあるけど…三浦君の実力を見たことがないからなんとも言えないなぁ」
私が中学生の時に助っ人プレーヤーとして、テニス地区大会に出場したことがあるが……あれから年数経過しているし、あの時とは身体が違うからなんとも…
多分慎悟の言う通り三浦君はそれなりに強いのだろう。
しかし、やってみないとわからない。テニスに対して投げやりになっている今の三浦君には負けない気がする。
この件に関しては言い出しっぺは私なので、最後までやりきってみせるよと声を掛けておいた。慎悟は心配そうな様子であった。
準備期間も兼ねて、決戦は9月の第1日曜日と決まった。
事前にスカッシュのルールの確認と、実際にスカッシュの自主練習もしてみた。
スカッシュは四角い部屋の中で交互にボールを打ち合う室内競技だ。使える壁面は前後左右で使える範囲が決まっている。天井はアウト。
一番最初は、右か左のどちらかのサービスボックスとよばれる場所に、自分の片足、もしくは両足を入れて正面の壁の真ん中と上のラインの間の壁に直接ボールを打つ。
もし右側から打った場合は左側の相手コートに。左側からなら右側の相手コートに打つ。相手はそのボールが床にワンバウンドしてからか、ノーバウンドで打ち返す。
ボールが床にツーバウンド以上してしまった場合
前の壁に届かない場合
四方の壁の赤いラインの上だった場合
正面の一番下のライン下だった場合はアウトになる。
基本的に真ん中のTポジション取りをするのがスカッシュ。相手をそこから動かすことが出来るかが勝負の鍵である。
8月の下旬に新学期が始まり、最終進路希望表を出すようにと担任の先生に言われたり、11月に行われる文化祭での招待試合のレギュラー編成で、珠ちゃんが新たに選抜されたりして、学校が本格的に忙しくなり始めたが、私の頭の中はスカッシュ対決のことでいっぱいであった。
私も文化祭の招待試合に出場するので、その事を最優先で考えねばならないのだが、どうにも目先の勝負のことに意識が向いていたのだ。なんたって勝負に負けたら慎悟とお別れだからだ。
動きやすいテニスウェアや運動靴を取り寄せておいた。あとスカッシュ用ラケットはスポーツ用品店で見繕ってもらったので、市販のものを購入済である。
スカッシュは激しく動き回る必要がある。用心には用心でしっかり対策をとって行かねばと思っている。捻挫再びや膝蓋腱炎の再燃は勘弁願いたいからね。
■□■
9月第1日曜日、朝10時にスポーツクラブ前で待ち合わせると、既に三浦君は到着していた。私達は闘心露わにして睨み合うと、お互い言葉数少なめに施設内に入っていった。
準備をしたらレンタルしたスカッシュ専用のボックス前に集合と言うことで、私は素早くテニスウェアに着替えると、日課の準備運動、ストレッチをこなして怪我の予防に努めた。
忘れずにアイガードを装着しておく。狭い室内競技だ。ボールが目にあたったら大変だ。
因みに慎悟は家の用事が先約で入っているためにここには来ていない。どうしても外せないと言っていたが、ここには勝負する私達さえいれば問題ないから心配しないで欲しい。
勝手に賭け勝負を吹っかけたことを怒られちゃったけど、絶対に勝つと宣言したので安心して報告を待っていて欲しい。
慣らしで壁打ちを行った後から勝負開始である。
「ラリーポイント方式でいいかな?」
「構わないよ。じゃんけんしようか」
どっちが先攻するか平等にじゃんけんで決めようと思ったら、三浦君がボールをこちらにパスしてきた。
「いいよ、初心者のあんたが先で」
「…随分ナメられたもんだね」
三浦君は薄ら笑いを浮かべていた。それが返事らしい。
でもまぁ、彼の実力がどんなものかわからないので、こっちに有利な方がありがたい。
この勝負の日まで時間があればスポーツクラブでスカッシュの練習をした。テニスに似ているようでちょっと異なるが、ラケットは軽い。あとはボールを追って、うまいこと相手を撹乱させることが重要である。
サービスボックスに片足を入れると、サーブボールを放った。正面の壁に直径4センチほどの黒いゴム製ボールがぶつかり、跳ね返る。三浦君がすかさずそのボールを追った。
三浦君は初心者にも容赦ない。あちこちに移動させて私を疲弊させたいのか、前後左右の壁へとランダムに打ち込んでいく。
三浦君は私と慎悟を別れさせたいんだもんね、大事な親友の彼女として相応しくないとみなしたから。
だけど私もハイそうですかと諦めるわけには行かないんだよ。
バレーの試合中でもこんなに動き回ることはない。中学の時に出場したテニスの大会でさえ、こんなチョロチョロ動き回ることはなかった。肺が破れてしまいそうに息が苦しい、心臓がドッドッと血液を勢いよく循環させているのが伝わってきた。
バレーボールよりもテニスボールよりも小さなゴム球。目で追うのも一苦労だ。だけど私はそこから目をそらさなかった。ポイントを取られては、ポイントを取り返す。その繰り返しだ。
私がここまで食いついてくるとは思っていなかったらしい三浦君も最初の薄ら笑いから、今では真顔に変わっている。私達は無言で撃ちまくった。
外ではこのジムの職員さんが得点係をしてくれているが、今自分が何ポイントゲットしているのかがわからない。
脳筋である私はこのスカッシュという競技にマジになっていた。絶対に勝つ! 絶対に勝ってやるんだ!! そして、私を認めさせて……その権限で2人に話し合いの場をもたせる。
それは決して三浦君のためではない。気落ちしている慎悟のためだ。
口ではもう無理とは言っていたが、小学校時代からの親友との決別は辛いはずだ。私だって依里と縁を切ると想像しただけで胸が張り裂けそうな気持ちに襲われるもの。
まずは三浦君を打ち負かせて、反省させてやるんだ。話はそこからである。
とにかく勝つ!
幸いなことにエリカちゃんの小柄な身体が功を奏したのか、低い位置のボールが拾いやすい気がする。この狭い範囲内だから小柄な人もプレイしやすいのかも。
テニスだと広いコートでボールを追いかける必要があるから、手足が長い方が有利だ。このスカッシュという競技は壁打ちみたいな形でゆるくラリーを続ければ、女性や子どもでも気軽にプレイできそうな気がする。
額から汗が流れて、アイガードの中に垂れてきた。こんなに汗をかくものなのかスカッシュというのは。
ストレートドライブショットを放つ。だけどこれも三浦君に拾われちゃうんだろうなと思っていた。
だけど、三浦君はボールを追いかけてこなかった。私の背後で「い゛っ…!」と三浦君は呻いていたのだ。壁に当たったゴムボールが何度か床をバウンドした。
異変を感じて私が振り返ると、足を抑えてうずくまっている彼の姿が。
その顔は痛みに歪んでおり、ただ事ではないと気づいた私はすぐにプレイを止めて駆け寄った。
「どうしたの!? 痛めたの!?」
大変だ。もしかしたら受験のために部活引退してから運動をしなくなったからその反動で痛めてしまったのかも。
三浦君は痛みに耐えるように浅く呼吸を繰り返していた。今の今まで小さなゴム球を追いかけ回していたからお互いに汗だくだけど、三浦君は運動してかいた汗とは別の汗をかいているようにも見えた。
彼が抑えているのは足の甲付近だ。捻挫かな?
「病院行く? 今日は日曜だから救急病院に行くしかないけど…あれだったらタクシー呼ぶよ」
「…大丈夫」
病院に行くことを提案してみたが、三浦君は遠慮してきた。
いやいやいや痛いんでしょうが。放置しても痛みは楽にならないよ。まさか私に弱みを握られたくないからってやせ我慢してるのか? しょうもないな。と思い始めた時、三浦君は辛そうな声であることを話し始めたのである。
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