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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。
去年の今頃は現世にいなくて祝えなかったから、今年は2倍祝ってやる。
しおりを挟む9月に入ったがまだまだ暑さが残る。去年の今頃は地獄で鬼ごっこをしていた私は、今日という日を特別な気分で迎えた。
いつもと同じ朝のようで、その日は私にとって特別な朝であった。
「おはよう、18歳の誕生日おめでとう慎悟!」
いつもより早めに学校に到着して、下駄箱で待ち伏せしていた私は、登校してきた慎悟に紙袋を差し出すとお祝いの言葉を投げかけた。
その日は9月7日、慎悟の誕生日であった。
「…ありがとう」
紙袋を受け取った慎悟は少し驚いた様子だったが、表情はほころんでおり喜んでいる様子である。
去年はあの世にいたので、慎悟に誕生日おめでとうと言えなかったからその分気合い入れてきたんだ。
「早く教室に行こう! プレゼントを見て欲しいんだ!」
私は慎悟の手を掴んで引っ張っていく。
だいぶ前から目星をつけて、予約注文した商品がぎりぎりになって届いたんだ。間に合ってよかった。慎悟が貰ったことのないものだといいけど…慎悟はバレンタインの時色々貰っているからなぁ…
プレゼントを見た時の慎悟の反応を楽しみにして教室に入ると、そこには彼女たちが待ち構えていた。
「おはようございます慎悟様!」
「お誕生日おめでとうございます!」
「喜んでくださるといいのですが…お誕生日プレゼントです」
慎悟の机の周りに集結していた加納ガールズたち。彼女たちが慎悟をお出迎えするのはいつものことだが、今日はいつもよりも気合が入っているように見える。さてはメイクに力を入れたな? 巻き毛の髪はいつもより多く巻かれている。
おい、私を教室から押し出そうとするな。巻き毛が力ずくで慎悟と私を引き剥がそうとしてくるが私は耐えた。その間にロリ巨乳と能面が慎悟にプレゼントを渡している。
「香水なのですが、慎悟様にピッタリのものを作らせましたの。慎悟様の魅力を最大限引き出してくれるに違いありませんわ」
「ネクタイピンに慎悟様のお名前を刻印していますの。是非普段遣いしてくださいませ」
「私は、私の写真をプリントしたマグカップを…」
「最後のは引くわ。なに、自分の写真をプリントしたマグカップって…」
テレ顔で自分の写真をプリントしたらしいマグカップを慎悟に差し出す巻き毛。私はドン引きした顔で彼女を見てしまった。ロリ巨乳と能面はまだまともな品なのに…いやちょっとだけ気持ちが重いけどさ。自分の写真入りのマグカップはないわぁ…
私の指摘にムッとした巻き毛が睨んできた。…だってさ、私がそれを上杉にされたらドン引きどころかその場で叩き割っちゃうよ。
「じゃああなたはどうなの? どのような品を用意したと言うの?」
「それは今から慎悟に見てもらうよ。ねぇねぇ慎悟、私があげたプレゼント開けてみて」
私のは物的に大きすぎた気がするが、でも慎悟は車通学だから持って帰るのはそんなに大変じゃないでしょう?
慎悟が紙袋から最初に取り出したのは、ブラッ○サンダーのギフト箱だ。特注で一つ一つのパッケージに写真を印刷してもらったのだ。世界で唯一つのチョコレートである。
「…これ」
「あちこちデートした先で撮影した写真をプリントしたんだ~。あ、どこかにペロと一緒に撮影したものが混じってるよ。それが当たりね」
プレゼントは色々考えたんだけど、慎悟は必要なものはちゃんと取り揃えているだろうし、完全に彼の好みを把握しているわけじゃないので無難かつ、絶対に自分で買わなそうなものにしたんだ。
箱に入ったチョコレートの小袋を見て慎悟は目を丸くしている。だけどそれだけではない。まだ入っているんだよ。
続いてオレンジ色の包装紙に包まれたなにかを手にとった慎悟はそれを丁寧に開封した。それを加納ガールズたちがすごい形相で凝視しているのが怖い。
現れたのはネイビーカラーのネックピローだ。
「…ネックピロー?」
「うん、電池式でマッサージ機能・タイマー付きだよ。慎悟は肩こりが酷いんじゃないかなと思って。これなら持ってなさそうだし、絶対に役に立つと思ってさ」
「……」
「揉み、擦り、肩たたきモードを選べるんだよ」
慎悟はネックピローをじぃっと見つめていた。私がニコニコと慎悟を見守っていると、横でハッと嘲笑する声が聞こえてきた。
言わずもがな加納ガールズたちである。
「…なんて色気のない…」
「お菓子とマッサージ機ですって…!」
「そんなチープなもので慎悟様がお喜びになるわけが…」
ウィーン…グイングイン…
「…ちょっと慎悟、別に今使わなくてもいいよ」
肩こりが酷くて本気で困っていたのか、席に座った慎悟が早速首にネックピローを装着していた。
こんなに喜んでくれるとは思わなかったよ。この間肩こりのせいで頭が痛いとか言っていたから、これで少しはマシになればいいけど…
「し、信じられませんわ…!」
「慎悟様、私達のプレゼントよりもその女狐のものをお喜びになるといいますの…!?」
「そんなお姿、私見たくありません…!」
マッサージ機能の強さを調節しながら堪能する慎悟を見た加納ガールズたちは泣いていた。
えぇ、そんなことで泣くか? と私は衝撃を受けたが、彼女たちは「覚えていなさいよぉ、二階堂エリカ!」と捨て台詞を吐いて教室を飛び出していった。
……もうすぐHRの時間だが、大丈夫であろうか。
彼女らは慎悟が肩こりしない鋼の肉体を持つ人間だとでも思っているのだろうか。慎悟だってマッサージ機くらい使うでしょうよ…
そんなことでショック受けるなよ…
「慎悟、あまり強くすると痛くない?」
「大丈夫」
慎悟は目をつぶってネックピローのマッサージを受けていた。それほど肩こりが酷いのであろうか。後で肩を揉んであげようか。
「二階堂さん、僕の誕生日は11月なんだ」
私がネックピローの取扱説明書を読んでいると、後ろから上杉が不気味に登場してきたのでビクッとしてしまった。
奴の急な誕生日アピールに思わず顔を顰めてしまう。何を企んでいるんだ。
「…それで?」
「僕の誕生日の時もなにかプレゼントが欲しいな、お金は出すから」
「いやです」
金は出すって…それは嬉しいのか? 私の手からモノを貰うことに快感を感じるのかあんたは。もらった金で変なものを購入して渡しても喜ぶんか? シュールストレミングでも贈ってやろうか。
それと朝から変なことで絡んでくるのはやめてほしい。…よし、サイコパスは無視しよう。
「ねぇ慎悟、お昼にはケーキもあるからね。ご飯のあとに一緒に食べよう。有名なケーキ屋のオペラケーキを学校まで届けてもらったんだ。食堂の冷蔵庫に今保管してもらってるの」
「…そこまでしなくてもいいのに。手間だっただろう」
「今年は去年の分まで2倍祝うって決めてるの。ほら私去年」
「僕を無視するのやめてくれないかな」
上杉うるさい。元々割って入ってきたのはあんただろうが。
去年の今頃私は地獄で鬼ごっこをして過ごしていた。17歳になった慎悟に誕生日おめでとうといえなかったんだ。その分倍にして祝いたいんだよ。
だから私の邪魔をするなサイコパス。
「ねぇねぇ他になにかして欲しいこととかない?」
「なにかと言われても…」
「お昼ごはんおごるとかでもいいよ? 肩もみしてあげてもいいし」
できれば放課後デートとかしたいけど、私が部活なのでそれは出来ない。学校にいる間で思いっきり祝ってあげよう。
慎悟の要望を聞こうとしたら、教室に担任の先生が入ってきた。いつの間にか始業の時間になっていたらしい。私は素早く自分の席に戻った。
ちなみに巻き毛は戻ってきていない。遅刻扱いになってしまうよ。
■□■
「ごちそうさま」
「美味しかったね。ここのケーキ頼んで正解だった」
お昼ごはんの後のデザートまで食べ終えた私は美味しいお昼ごはんに美味しいケーキを食べられて満足であった。
小さめのケーキだったけど、その味は濃厚。別に頼んだコーヒーとよく合う大人な味で実に美味であった。
現在お昼時だが、私達は至って平和に食事ができている。これは加納ガールズ対策、上杉対策とも言える。
そのために初めて自分で有料席をサーブしたよ。
しかも最上級クラスの席。他の有料席とは隔離された個室である。予約する際にその利用金額に躊躇ってしまって、念の為二階堂ママにお伺いを立ててみたら、
『いいわよ別に。えっちゃんにとって特別な日だものね』
とあっさり承諾を受けたので、震えながら予約したんだ。
この席を予約しておいて良かった。せっかくの記念日に邪魔されたら私の計画が全て水の泡になってしまうからね…!
お茶をしながら、2人でおしゃべりを楽しんでいたが、私は大切なことを思い出した。
「そうだ、考えてくれた? してほしいこと。今日だけは特別だよ。肩揉みでも、荷物持ちでも何でもする。なんなら売店にひとっ走りしてくるよ!」
「…そんなパシリみたいなことはさせないよ、流石に」
「えー…だってさぁ私去年いなかったじゃない。祝いたいんだよ、もっと祝わせてよ!」
「……そんな事言われてもな…」
慎悟は返事に窮している様子であった。して欲しいことはなんか一つくらいあるだろう。こんな時くらい我儘言ってくれよ。
──私は考えた。
何か、慎悟が喜びそうな何かを。
「あ、じゃあさ…キスしてあげようか?」
名案をひらめいたと思って私はほくそ笑みながら提案した。いつも私がされる側だから、今日は私が優位に立ってリードしてあげよう。
私の予想では慎悟のテレ顔がみられると思っていたのだが、慎悟は真顔になっていた。…想像と違った。やっぱりこういう所でするのはふしだらすぎるか。
無理強いはするつもりはない、と言おうとしたら、慎悟が先に口を開いた。
「…じゃあしてくれよ」
「……え?」
「笑さんからしてくれるんだろ?」
まさかの返事に私は返事が遅れた。アッサリとした反応がくるとは思っていなかったのだ。何だその余裕は。私は慌てふためいた紅顔の美少年を期待していたんだ。
生意気だぞ慎悟…! 少しは照れてよ!
だが、私が先に言った事だ。年上の余裕でスマートにこなしてやろうと思う。
座っていた席を立ち上がって、対面に座っていた慎悟の前に立つと、彼の肩に手をおいて、屈み込んだ。
イザ…! と意気込んだのだが、顔に突き刺さってくる視線に私のやる気は萎んでいく。
「…あの、目をつぶってくれないかな。そんなに見られると……しにくいんだけどな」
「早く。昼休みが終わるだろ」
目をつぶれと言っているのにしっかり目を開けて、めっちゃこっちを見てくる。恥ずかしいわ!
まだなにもしていないのに顔が熱くなってきたぞ。私はドキドキしながら慎悟にキスを落とした。初めてでもないくせに、ファーストキスのようにドキドキするのは何なんだ。
慎悟のせいだなきっと、うん。
軽く触れるだけのキスを何度か繰り返す。唇だけでなく、頬やおでこにもキスを落としてみた。
ミッション・コンプリート出来たと判断した私はゆっくり離れた。だが腰に回ってきた腕によって逆戻りさせられてしまった。
身体を引き寄せられた私は、慎悟の膝の上に座ってしまった。驚いている私のことなんかお構いなしに、そのまま彼から唇を奪われてしまったのだ。
私からキスすると言ったのに、慎悟がキスしたら本末転倒ではないか!
しかも何だこの座り方。恥ずかしいよ!! 人目がないことをいいことに、また慎悟ははしたない事して! 清く正しい男女交際はどこに行ったの!?
慎悟から唇を剥がそうとしたが、顔をしっかり抑え込まれていて離れられない。
ムゴムゴと声を出そうとしても、その声さえ封じ込めるようなキスをされ、私はいつの間にか慎悟のペースに巻き込まれていたのであった。
いくら個室といえど、誰かにドアが開けられるかもしれないというスリルと、私を翻弄する慎悟のせいで心臓バクバクして疲れたけど、当の慎悟は妙に満足そうだったので……誕生日お祝いは成功としておこうと思う。
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