お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。

さては熱で冷静な判断ができないんだな!? ダメったらダメです!

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「では、近くで待機してますのでまたご連絡ください」
「わかりました。ありがとうございます」

 慎悟を学校から家まで送り届けるのに、二階堂家の運転手さんにはかなり助けられた。慎悟のお着替えまで手伝ってもらっちゃった。意識がない慎悟はされるがままであった。
 本当は寝かせたらそのまま学校に戻るつもりであったが、慎悟の状態が心配なのでちょっと様子を見てから学校に戻ろうと思う。

 薬局で購入した冷えピタとアイス枕で頭を冷やしているが、慎悟はしんどそうである。私はというとマスクで自衛をしている。念のために後でうがい手洗いをしたほうがいいかもしれない。私まで風邪でダウンしたら元も子もない。
 他にスポーツドリンクとレトルトのお粥、薬剤師さんに薦められた風邪薬も購入したので、起きたときにでも飲ませるか。

 加納家には誰もいなかった。
 離れにお手伝いさんが住んでいる二階堂家とは違って、加納家は通いの家政婦さんが週に数回やって来るだけ。今日は家政婦さんのお休みの日だったようである。
 おばさんの連絡先を聞いていたので、着信とメールはしておいたが、返事は来ていない。
 慎悟も子どもじゃないのでこのまま寝かせておいても大丈夫だとは思うんだけど、意識がない状態なので心配だ。
 せめて目覚めてくれたらなぁ…冷えピタを貼っている慎悟のおでこを上からそっと撫でた。

「……」
「あ…慎悟、気がついた?」

 うっすらと目を開けた慎悟はぼんやりと天井を見上げていたが、私の声に反応して視線を動かした。頭を動かすのは億劫そうで、その目は虚ろである。

「え、み…さん」
「あんた熱出して学校でぶっ倒れたんだよ? 水分取れる?」

 のどが渇いているのかな。声が嗄れている。受け答えは危ういが、意識が戻ったのであれば良かった。私は薬局で購入したスポーツドリンクのペットボトルを取り出して蓋をあけてあげた。
 だが寝ている慎悟にこのまま飲ませるとなると溢しちゃうな。とりあえず軽く起き上がらせよう。一旦飲み物をサイドテーブルに置いて、寝ている慎悟の背中に腕を差し入れた。
 …重い。だが水分補給は大事である。慎悟に抱きつく形で腕を回して無理やり起き上がらせると、サイドテーブルに腕を伸ばした。

 だが、横から伸びてきた腕によってサイドテーブル上のペットボトルは遠ざかっていった。
 身体を引っ張られて、ベッドの上に引き倒された私は既視感に襲われていた。上から私を見下ろす慎悟、フカフカのベッドに組み敷かれた私……あれ、なんだかこの感覚最近にも…そうだ、社交パーティの夜だ! 

「こらっ! 風邪っぴきがなにしてんの!」

 こんな時に何を考えているんだこいつは。清く正しい交際以前に病人は水分とって寝ていろ!
 私は慎悟の両肩を鷲掴みにして形勢逆転を狙った。所詮今の慎悟は病人である。病人に負ける気はしない。 

「くっ…!」

 何処からそんな元気が出てくるのか。その元気を回復するためのエネルギーとして活用して欲しいところである。
 体を起こして慎悟を引き倒そうと頑張ったが、ダメであった。やっぱりこの小柄な身体では無理なのか…!
 そうこうしている間にも、慎悟は無体を働いてくる。あろうことか私の制服の中に手を突っ込んで来たのだ。

「こらこらっ! 私はまだそれを許した覚えはないよ! やめなさい!」

 貞操は大切にすると決めているのだ。…確かに慎悟にだけは許すと誓ったが、それは今ではない。先の話である。
 婚約できるか出来ないかの瀬戸際に一線を越えるだなんてどうかしているんじゃないか!? 清く正しい男女交際すると誓ったじゃないの!

「…うるさい」
「ふぐ」
「…邪魔」

 私の口を塞ごうと慎悟はキスをしてきたが、私は風邪感染予防でマスク着用しているので、マスク越しのキスになった。
 それが不満だったのか、慎悟は顔を少し離して、私の口元のマスクをずらそうとしてきたので私はそれを止めた。

「だめ! 風邪っぴきとはキスしてあげません!」

 私が拒否すると、慎悟は目を丸くして情けない顔をしていた。なんだかショックを受けているらしい。

「風邪治したら…ね? 今日はおとなしく寝てよう?」
「やだ…」

 私は優しく宥めてあげたのだが、こいつは眉間にシワを寄せて不満そうに返事してきた。
 やだ…じゃないよ! 子どもか! 
 キスしたいなら風邪を治せ! なにイジケてる風なんだよ! かわいこぶっても聞いてあげませんよ!?

「風邪がうつって私までダウンしたら元も子もないでしょ! 文化祭1週間前なのに」
「やだ、する」
「いつからあんたは駄々っ子になったの!? 普段年下扱いするなって言ってくるくせに」

 熱のせいで幼稚化してるぞこのイケメン。どうした、普段の慎悟とは違うぞなんか。熱で知能が落ちているのか?
 しかも体調悪いくせに力強いな……さっきから抜け出そうとしているけど、足も抑え込まれてしまっている。抵抗している私は風邪とは別の意味で身体が熱くなってきたぞ。暴れても暴れても全く意味を成さないんですけどねぇ!

「あ、ダメだってぇ!」

 行為は更にエスカレートしてくる。
 あかんて! 今はそのタイミングじゃない。私達には私達のペースってものがあるんだ。焦らずともそのタイミングがやって来るはずだ。今は、今はまだダメなんだ…!
 鎖骨に慎悟の熱い唇が当たった。この間のパーティのときよりも熱く感じるのは、発熱のせいで間違いない。体温計がないからわからないけど、決して低い熱じゃないんだよ。起きているだけでしんどいはずなのに…

 せわしなく身体をまさぐられ、私はどうしたらいいのかパニックになった。数々の修羅場を乗り越えてきた私だが、このパターンは経験がなさすぎる。
 …慎悟は押しが強いところがあるから、私が本気で嫌がっているわけじゃないとわかると強行突破してくるに違いない。
 私だって嫌なわけじゃないんだよ。その内はって思っている。…ただ、心の準備もだけど、私達の今の立場的にね? 色々マズイというかー!
 私は言い訳がましい事を慎悟に訴えていた。だけど慎悟は聞く耳持たない。
 万事休すである。
 あかん、あかんて…本当にダメだってー! 

 私が覚悟を決めてギュッと目を閉じると、ズシリ…と熱い身体が上に乗っかってきた。流石に重い。耳元で慎悟が荒い息を繰り返している。……今ので余計に熱が上がったようだ。こいつは頭がいいのにアホなのであろうか。
 少々乱暴になるが、慎悟の身体をゴロンッと転がすと、アイス枕の位置を調節してあげ、布団をかけ直してあげた。

 私はササッと身支度を整えると、深々とため息を吐いた。
 …疲れた…。風邪引いているくせになに盛っているんだこいつは。風邪が治ったらしっかり注意しておかなきゃな。
 慎悟はもうちょっと理性的だと思ったのに…風邪ひいてタガが剥がれた……いやそれはないか。パーティの時は風邪ひいてなかったしな。…雰囲気に飲まれたのかな。

 結局水分補給させられなかった。
 どうしようかなと思っていると、ガチャリと音を立てて部屋の扉が開かれた。

「あら…エリカさん、慎悟を看ていてくれたの?」
「おばさま! …慎悟さんの熱が高いのでおばさまと連絡取れるまで様子を見ていようと思って」
「そうなの。電話に出られなくてごめんなさいね。急いで帰ってきたのだけど…」

 最近気温が急激に下がったからそれで体調を崩したのかしらと言いながら、おばさんはベッドで熱にうなされている慎悟の顔を覗き込んでいた。息子のおでこに触れて「あら、結構熱が高いわね」と呟いている。
 
 ……あっぶなかったー…!
 おばさんが帰ってくるのがあと5分くらい早かったら…息子さんとのみだらな姿をお披露目するところだった…!
 私は平静を装ってお嬢様モードに切り替えたが、心臓はバックバクである。いくら恋人同士でも、そういう事を周りに悟られたくないってものである。

「あら、お着替えさせてくれたの?」
「あっ二階堂家の運転手さんに手伝ってもらいましたよ! 私は慎悟さんの玉の肌には触れてませんから!」

 その代わり私が触れられましたけどね!
 疑いを持たれないように弁解しておくと、おばさんは目を丸くしていた。…なにかまずいことを言ってしまったであろうかと思ったが、おばさんはフフフと笑っていたので、多分大丈夫だ。

「それじゃ私は学校に戻りますね」

 私はスマホを手に取り、運転手さんにお迎えをお願いするメッセージを送った。近くで待機していたようで、今から5分くらいで到着すると返事をもらった。

「学校を抜け出してくれたのよね、お手間を掛けてごめんなさいね」

 玄関先までおばさんがお見送りしてくれた。おばさんが看てくれるならもう安心だ。今晩様子を見て、熱が下がらなそうだったらお医者さんを呼ぶと言っていたし。慎悟は幼い頃から季節の変わり目によく風邪をひくタイプだったらしいから、おばさんも慣れているみたい。

「いいえ、たまには私だって役に立ちたいので。文化祭の準備はクラスメイトと頑張るからしっかり風邪を完治させてから学校に来るようにと伝えて頂けますか?」
「必ず伝えるわ。本当にありがとう」


 こうして私は加納家を後にして、お迎えの車で学校に戻っていった。思ったよりも長居してしまっていたようで、私は午後の授業からの参加になった。
 …まぁ致し方ない。
 
「あれ? エリカ、その首どうしたの?」

 私が大好きな部活の時間となり、部室で練習着に着替えていると、ぴかりんから指摘された。
 …まさかと思って鏡で確認すると、そこには見覚えのある痣が。私は首元を手で隠して誤魔化した。

「……なんでもない」
「…聞くのは野暮というものですよ、山本さん」
「あぁ…ごめんね?」
「なにもないから!」

 阿南さんの言葉にぴかりんがなにかを察したらしいが、全くの濡れ衣である。結果的になにもしてないもん! そんなふしだらな真似はまだしてません!
 私達は清い関係です!

 とりあえず慎悟が元気になったら、改めてじっくりお話をしたほうがいいのかもしれない。

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