お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。

どんなに着飾っても私はハリボテお嬢様。そもそもお嬢様ってなんだ?

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 ハチャメチャだった文化祭も終わり、時期はもう11月下旬だ。
 12月に行われる春高予選の試合に向けて、バレー部の練習には熱が入っている。普段は朝練のある曜日が決まっているが、大事な試合がある時はみっちり毎日朝練が行われる。
 私も練習に没頭していた。最後の春高大会。なにが何でも出場して、結果を出したいと考えていたからだ。
 予選突破がなによりも肝要である。怪我せず、トラブルなく、万全の体制で試合に望みたいところである。


「えっちゃん、今日の習い事が終わった後にでもクリスマスパーティのドレス作りに行きましょうか」
「……えっ?」

 土曜の朝、今日も部活に向かうために制服に身を包んでモリモリと朝食の厚切り食パン(二枚目)を頬張っていた私にママがそんな事を言ってきた。
 たしかに今日は部活の帰り道にそのまま華道の教室に向かう予定ではあるが…その後にドレス作り?
 ドレスなら去年作ってもらったし、パーティの時のお詫びで同系色のドレスを武隈嬢にもらったばかり……私はもったいない精神で辞退しようとしたが、ママは見栄を張らせて頂戴と言って引かなかった。

 誰がどんな服を着ていても気にする人はいないと思うけどなぁ。
 …クリスマスパーティ。そうかクリスマスパーティか…私は去年のことを思い出して笑ってしまった。ボッチ参加のはずだったけど、いつの間にか慎悟と一緒に参加していたんだよなぁ。

「ダンスレッスンも入れましょう。今年はパートナーがいることだし、相手に恥をかかせるわけにはいかないものね」

 それもそうだな。
 簡単なステップは去年慎悟に教えてもらったけど、どうせならもっと複雑なステップを踊れるようになりたい。てなわけで、基本的なステップを覚えるために後日ダンスレッスンを受けることになった。
 大学部でもクリスマスパーティがあるらしいので踊れて損はないと思うんだ。別にダンス競技を行うわけじゃない。申し分程度に踊れたら及第点じゃないかな。ていうか習い事と部活があるからダンスまで本格的に習う余裕がないとも言える。


 その日の夜、習い事を終えた私は二階堂ママと共に去年も利用したブティックで、クリスマスパーティ用のドレスを見繕っていた。
 そのお店には試着せずとも、姿見前に立つと服を着用しているように見える不思議な鏡が設置されている。パソコンと鏡が繋がっていて、試着したい服を選ぶと、鏡の前に立つ人間があたかも着用しているように見えるのだそうだ。
 私はそれで何種類かドレスを試し、スマホで撮影すると写真を送信した。どんなドレスが好きなのかを慎悟に確認しようと思ったのだ。慎悟は何系が好みなのであろうか。

「去年はオレンジだったから別の色にするのもいいわね……でも、ロングドレスはまだ年齢的に早いのではないかしら?」
「やっぱり?」

 去年のクリパのダンス最中に慎悟から、『えみにはロングドレスが似合うだろう』と言われたのを思い出したので、試しに着用したが……高校生のエリカちゃんには大人っぽすぎて浮いて見えた。
 背伸びは良くないな。大人しく年相応のものを身に着けよう。

 程なくして慎悟から来た返信には、【黄色のドレスが一番似合う】とあった。
 一応、エリカちゃんの外見に合わせてピンクや白のドレスも着用したけど、慎悟の目には肩出しの淡いパステルイエローのドレスが留まったみたい。
 オーダーメイドで作ってもらうために採寸を済ませ、使用する布地も指定しておく。小物や靴も注文した。ドレスの出来上がりが楽しみだ。
 慎悟はドレススーツを新しく新調するんだろうか。それともレンタルだろうか? どっちにせよ着飾るとあいつはパワーアップするからなぁ…色気に誘惑されないようにしないと…


■□■


「慎悟様、クリスマスパーティは私と踊ってくださいませね」
「楽しみですわね、パーティが待ち遠しいですわ」
「慎悟様の今年のご衣装は何色ですの? どんな衣装でもきっと慎悟様は素敵に着こなしてみせるのでしょうね」

 月曜に朝練を終えて教室に入ると、加納ガールズが慎悟にダンスパーティのお誘いをしていた。
 去年までの私ならば、このリアルハーレム野郎めと思いつつも傍観できていたが、今年は違う。私は彼らの間に割って入って妨害しようと思ったけど、その必要はなかったようだ。

「…ごめん。今年からは踊れない」
「えっ…!?」
「彼女がいるのに他の女性と踊るような不誠実な真似はしたくないんだ。悪いな」

 何故かって、慎悟がキッパリとお断りしたのだ。
 今までは独り身であったし、女の子に恥をかかせないようにダンスの相手はしてあげていたみたいだけど、今はそうではない。私を不安にさせないために、お誘いを断ってくれたのだ。

 それが当然のことだというのはわかっていたけど、わかりきっていた上で私はキュンとときめいた。その勢いで慎悟の背中に抱きついた私は悪くないと思う。
 ガバっと勢いよくタックルすると、慎悟がぎょっとした顔で振り返って来たが、犯人が私だとわかるとため息を吐いていた。

「おはよ慎悟!」
「…おはよう」

 私がニコニコしていたから、今の話を聞かれていたと察したのだろう。彼は少々気恥ずかしそうだったが、私は嬉しかったぞ。

「私も同じだよ。慎悟以外の男の人とは踊らないよ!」

 私がそう宣言すると、慎悟は苦笑いしていた。
 去年慎悟は他の女の子と踊ったくせに、私が男の子と踊ることにへそを曲げていた。それでちょっとした喧嘩になったけど、お互いパートナー同士だけと決めておけば喧嘩することもない。
 他の人と踊る理由はないし、それでいいよね。踊りたかったら私がいくらでも付き合うから。

「今度ダンスのレッスン受けに行くんだ! 慎悟の足を踏まないようにしっかり身につけてくるね!」
「あんたならすぐに覚えるだろ。去年教えた時も思ったよりも飲み込みが早かったし」

 それは慎悟の教え方が上手だったのと、本当に単純なステップだったからだよ。まぁもともと体を動かす系は得意だから。…ヒップホップダンスをする機会があれば、今度は私が教えてあげると慎悟に言ったら、踊る機会が見当たらないと返されてしまった。
 確かに機会がないね…なんで体育にダンスなんて科目が増えたんだろうね。どっちかといえば護身術の方が役に立つと思うんだけど。例えば逮捕術とか暴漢撃退術とか。

 去年まではクリスマスパーティにそこまで関心がなかったけど、今年は違う。とうとう私までパーティピーポーになってしまう時が来たようだ。ダンスパーティの前に春高予選と期末テストが待っているのはわかっているけど、パーティが待ち遠しくてついつい浮足立っちゃうよ!

「ひ、ひどいですわ…!」
「1年に1度のダンスパーティですのに! 慎悟様と密着できるまたとない機会を…!」
「おのれ二階堂エリカ…!」

 そこのロリ巨乳、あんたさらっとセクハラ染みた発言するの止めなさいよ。確かにダンスは密着して踊るものだけどさ…。
 彼女たちの反応は既に予測していた。野次を飛ばされても知るもんか。私にだって独占欲があるのだ。
 
「二階堂さん、今年は加納君のパートナーになったんだね」

 出た。
 いつかやってくるだろうなと思ったけど、出没しちゃったよ。同じクラスだから中々避けられないんだよね。…大学の講義でもこんな感じで付きまとわれるのかなぁ…嫌だなぁ。

「なったと言うより、お付き合いしているから自然にだね」
 
 私と慎悟はお互いに誘わずとも自然にパートナーになってたよ。ていうか交際相手がいるのに他の人のパートナーになるって滅多にないでしょう。
 わかってて声をかけるとか……毎年断っているのに本当に懲りないやつだな。

「誘っている僕のこと袖にするんだ、一度くらい踊ってくれてもいいと思うんだけどな」
「そんな義務も義理もこの地球上に存在しないだよ。知ってた?」

 全く学習しないサイコパスだな。
 真面目に拒否してもサイコパスには伝わらない。こいつの口ぶりでは、誘われたなら一度は踊るのが筋みたいな意味合いに聞こえるが、私には踊りたくないと拒否する権利があると思うんだ。
 前はエリカちゃんの体を汚したくない一心であったが、今はそれに加えて操を慎悟だけに捧げる覚悟なので、なんとしてでも接触を避けたい。
 だってあの上杉だよ。出会った当初から不気味でサイコパスな上杉だ。踊ってあげるという情はこれっぽっちも湧かないんだよ!

「慎悟様! あの女は令嬢として欠落しております! きっと貴方様に恥をかかせるに違いありませんわ!」
「そうですそうです!」
「慎悟様にふさわしくないというのに、正妻面して気に入りませんわ!」
「そういう言い方するのはやめろ」

 私が上杉をあしらっている横で、加納ガールズはいつものように私を貶していた。慎悟が窘めているが、彼女たちの勢いはもう止まらない。最近慎悟の言うことを聞かなくなってきたもんね。
 何度か、色んな人から“令嬢らしくない”と言われてきたが、私はここへ来て首を傾げてしまった。
 令嬢らしさとはなんだろうと。

 当初は、お淑やかで上品で温和な女性がお嬢様だと思っていた。
 だけどこの学校でいろんなお嬢様と出会って、私の中のお嬢様像がよくわからなくなってきたのだ。
 
 例えば、卒業生で元生徒会副会長だった寛永さん。お嬢様のイメージを具現化した彼女は美人でお淑やかなお嬢様だったが、料理は下手だし、アニメが大好きな一面がある可愛い人だった。
 3年になって親しくなった武隈嬢は、婚約者を尻に敷いた女王様然とした苛烈な美女だが、乗馬が得意で愛馬を心から愛している。親の会社のイメージのために自分の容姿には気を遣っており…なんというか…性格がいいとは言えないけど、どこか憎めない人なんだよね。私は彼女のこと嫌いじゃないんだ。

 他にも、好きな人が奪われそうだからと言って人を隠れ蓑にしていじめをするお嬢様達もいたし、奨学生が気に入らないからと権力と金に物を言わせて好き勝手にいじめをする成金お嬢様もいた。
 加納ガールズのような、一見お淑やかなレディぶっているけど、やっていることが過激派なお嬢様も存在する。
 裁縫が大好きで手先が器用なお嬢様がいれば、クラスマッチで目覚めてバレーボール部に入っちゃうお嬢様もいる。好きな人を追いかけて英学院に入学してくる積極的なお嬢様だっていた。

 大人しく従順なお嬢様もいれば、我が道を行く元気なお嬢様もいるのだ。
 いろんなお嬢様がこの学校にはいる。

 私が考えてたステレオなお嬢様はあくまでイメージで、決してお嬢様方全員がそのステレオに当てはまるわけではないと。
 エリカちゃんはお淑やか・従順で努力家な女の子だったと聞くけど、私からしたら行動力の化身に見えた。
 今思えば、地獄まで追いかけてくるその行動力があれば何でも出来たと思うんだよなぁ。 


 私は何を目指せばいいんだろう。
 私はあくまで私でしかないから、ステレオなお嬢様にはきっとなれない。
 だけどそれでは慎悟に恥をかかせてしまうかもしれない。

 ならば、どうしたらいいのか。お嬢様って何なのだろう…?
 そう、ふと頭に疑問が降って湧いたのである。

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