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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。
希望をつなげ、次の世代へ。
しおりを挟む「春の高校バレー大会は2回戦での敗退となりましたが、皆さんよく頑張ったと思います。お疲れさまでした! 本日は美味しいお肉をご用意させていただいてますので、たくさん食べてくださいね!」
始まりの挨拶を簡単に済ませると、私は烏龍茶の入ったグラスを掲げた。
「それでは、乾杯!」
打ち上げ場所はいつもの二階堂グループチェーンの焼肉店だ。今回高校最後の大会ということで、一等美味しいお肉を用意してもらったんだ。
2回戦敗退という結果に終わった春の高校バレー大会。だが私はこの上なく晴れ晴れとした気持ちでいた。
今まで未練とか夢とかギャップとかでぐちゃぐちゃになることが多かったバレーボール大会だったけど、ここまでやりきって初めて穏やかに結果を受け入れることが出来るようになったのだ。
これはバレーボールだけでなく、周りの人達のお陰でもある。
試合を終えた後に、ぴかりんから「2回戦負けで泣くと思ったのに、今回は泣かなかったね」と声を掛けられた。私も不思議なんだけど、私の中で夢の欠片を消化できたってことなのかなって思っている。
それに私には未来がある。大学でもバレーを続けるし、社会人になっても私はバレーを続けたいんだ。なんなら結婚して母親になっても続けてやるさ。可能性は無限大だ。
私はご機嫌になって肉を焼いていく。女子といえど、体育会系女子の集う女子バレー部一同は腹ペコ状態。どんどん肉がなくなっていく。焼かれたお肉は肉食系女子(物理)によって消費されていった。
「お前らよく食うなぁ」
「あっ、工藤先生ってば一人で何食べてるんですか!?」
「俺はお前らと違っておっさんだから油が受け付けないんだよ」
50代の顧問は胃がもたれるお年頃なので、別で注文した石狩風鍋を食べていた。1月限定の鍋メニューである。いつものようにコーチを道連れにして酒を交わしているが、酒が実費なの覚えているだろうな?
カラになっていく大皿を持ち上げて、新たに到着したお肉の大皿と入れ替える。だがわんこそばのように無くなっていく肉に私も店員さんも大忙しである。
「二階堂先輩、全然食べられていないじゃないですか。お肉食べてください!」
「ありがとう珠ちゃん」
私が全く手を付けてないことに気がついた珠ちゃんが焼けたお肉を小皿に乗せてくれた。新たにやってきたお肉も代わりに焼いてくれるようだ。なんと気が利く優しい後輩なんだ。
…珠ちゃんがバレー部に入部した時、私は彼女のことが眩しくて……過去の自分のことを思い出した。
努力をすればいつか実を結ぶ。願っていれば夢は叶うはずなんだと信じていた愚かな自分を思い出して悲しくなったことは片手では足りないほどある。彼女の才能に嫉妬して、自分の不甲斐なさに自己嫌悪したこともある。
松戸笑に憧れて、バレーを始めた女の子が今はこうして形を変えて隣にいる。まだ成長段階だけど、彼女はきっとこの学校の部活動を通してますます強くなるはずだ。今日の試合を見てそう確信していた。
もしかしたら彼女は私の夢見た世界にたどり着けるかもしれないと。私の親友の依里と肩を並べて世界の舞台に立つかもしれないと。
……やっぱり羨ましくて妬ましいけど、こればっかりは仕方がない。
私はその隣にはいられないけど、遠く離れた場所で応援している。私は私のすべきことをするから、珠ちゃんは自分の望む道を突き進んで欲しい。
私は珠ちゃんを見上げて笑った。彼女はそんな私を不思議そうに見下ろす。
「どうしたんですか?」
「ねぇ珠ちゃん、夢を託してもいいかな?」
「…夢、ですか?」
珠ちゃんは首を傾げて、疑問の表情を浮かべていた。
これまでに色々あったけど、私達が3年間培ってきたものはきっと、前進するための糧になっていると信じているから。
「…英学院女子バレー部の未来を」
言葉にすると仰々しいけど、なんてことはない。今回2回戦突破出来た英学院女子バレー部にはもっと更に高みへ登って欲しいという意味だ。
「私が初めて大会に参加したときはね、初戦負けだったんだ。私はその時補欠待機だったけど……出場した先輩方は皆悔し泣きしていた」
地区予選大会では万年準優勝。強豪誠心高校にボロ負けしての準優勝だった。そして全国大会は毎度、1回戦での敗退。県内では強い方でも、全国となると相手にされないレベルだったんだ。
松戸笑として英学院と戦ったことが一度だけあるが、あの頃の英学院女子バレー部はそこまで手応えがなかった覚えがある。
だけどこの数年で躍進した。ずっと見てきた私が言うんだ。間違いない。顧問やコーチも同じことを言うと思うぞ。
「今回は2回戦で敗退したけど、これは大きな一歩なんだよ。それだけ私達のバレー部は進化したってこと」
私はもう見守ることしか出来ないけど、残された後輩である珠ちゃんたちはまだまだ戦うことになる。
「だからもっと強くなってね」
私の自分勝手な願いに珠ちゃんは……
「わかりました! もっと上を目指します!」
キラキラした目で大きく頷いて返してくれた。眩しい、昔の私を見ているような希望に満ちた瞳。
「努力は無駄にはならない。きっと糧になっているはずだよ。…大きな壁にぶつかって挫けてもいいよ。だけど諦めないで。…頼んだよ」
「はい!」
来年度珠ちゃんは2年生。きっとインターハイでも活躍を見せてくれるに違いない。
バレーに一生懸命で一途な彼女がいたら、きっと周りの人も影響を受けて、英女子バレー部はもっともっと団結して強くなるに違いない。
部員のことを考えてくれる顧問やコーチもついているんだ。
ここにいるのはしっかりした後輩たちだから、私は安心して卒業できる。後のことを任せられる。
「よし! お肉食べよう!」
私が気合を入れて、網の上の焼けたお肉にトングを伸ばそうとしたその時、このお店の店長さんがお皿を持ってひょこっと登場した。
「エリカお嬢様、社長から差し入れのシャトーブリアンです」
「…えっ!?」
パパからの差し入れを持ってきてくれたそうだが、私はその単語を耳にして度肝を抜かれた。その名は……! しゃ、シャトーブリアンですって!?
パパ奮発しすぎじゃない!?
「社長が直々に出向いて競り落としたものなんです。良いお肉ですよ」
「うわぁーうわぁー……」
そんな、ここでまたセレブと庶民のギャップ……優勝したわけじゃないんだ、そこまで奮発しなくてもいいのに。
「シャトーブリアンってお肉の名前なんですか? 銘柄?」
「ヒレとサーロインの近くにある超希少部位ですよ」
珠ちゃんがお肉を眺めながらのんきに質問していた。…わかるよ。私も初めて聞いた時はシャトーブリアン? ワインの銘柄? とか思ったもん!
あぁ、これは味わって食べなきゃ……
私はその超高級肉を50回くらい噛んで味わいたかったが、ホロホロっと口の中で崩れてしまった。
とても美味しゅうございました。
■□■
「僕も2月に試験がありますので、ご一緒できるのが今日までになります。すみません」
「いえいえ、ここまで本当にどうもお世話になりました」
1月の半ばを差し掛かった辺りで、家庭教師井上さん最後の授業の日がやってきた。最初から契約は進級試験前までという取り決めだったので前々からわかっていたが、これで終わりとなると寂しくなるな。
井上さんがぺこりと頭を下げたので、私も深々と頭を下げる。……すると、テーブルの上にドスン、と音が立てられた。
なにか、重いものを置いたようなその音に私はパッと顔を上げる。
「てなわけで、進級試験の傾向と対策を立てて、苦手克服に向けたプリントを作ってきましたので、これは試験前までに一通り行ってください」
「……」
横から見たら分厚さが2センチ位あった。ちなみに進級試験までもう2週間もない。
…鬼じゃ、ここに鬼がいるぞ。
「ではまずテストを行います。3年間の復習を兼ねたテストになります。制限時間は60分です。テストの途中でメモをとっても構いません。それでは始めます」
「えっ、ちょちょちょ」
アホな私にも容赦ない井上さんはどこまでも井上さんであった。
「文字を見つめすぎて目がショボショボする……」
「……すごい量ですね…」
「ね。でもやんなきゃ…」
試験までの間、部活はない。習い事もお休みだ。その間私は出来る限り勉強に時間を費やしていた。
とはいえ、私は集中力があまりないので夜はしっかり寝るし、わからない部分は周りの人に助けを求めたりしているからそこまで無理はしていない。
メリハリは大事だ。スポーツと同じ。
教室の中にいるクラスメイトたちも進級試験に向けて勉強モードだ。余裕を噛ましているのは秀才組だけだろう。
試験まであと僅か。私は自分のすべき事に全力投球していた。私は無事に試験をクリアして、希望の学部に進めるのであろうか……
「頑張らなくても、僕が一生面倒見てあげるよ?」
「幹さん、ここ教えて」
そんな時に悪魔のささやきが聞こえてきた。だがそれが全く魅力的に聞こえないのは、ヤツの普段の行いのせいである。
無視だ。無視を貫くんだ。
こいつは邪魔をしに来たんだ。相手にするんじゃない。私が相手にするから調子に乗るんだ。
私は聞こえないふりをして無視して差し上げた。
「ここはね、ひっかけ問題になっているよね」
「幹さん、ここ!」
幹さんに質問しているのに横から教えてくるんですけど。何なの、無視しているのにゴリ押ししてくるよ。
幹さんはそんな上杉に少々引き気味である。
「邪魔するなって。この人は今必死に頑張ってるんだ」
「僕は教えてあげているんだよ? 邪魔だなんて失礼しちゃうな」
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やんなるよ全く!
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