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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。
社交パーティリベンジ!
しおりを挟む進級試験は2日に分けて行われた。
結果は1週間後に出る。それから、希望の学部の偏差値に到達できなかった人は進路指導が行われる。2月の下旬までには全員の進路が確定するそうだ。
最後まで足掻こうと思ったけど、夜になるといつもと決まった時間に眠くなってしまったので、普通に寝てしまった。翌朝スッキリ目覚めて、そのまま試験に臨んだよ。
てなわけで、試験が終わっても私は全く安心できなかった。
問題用紙は全て回収されたので自己採点も出来ないし、あとになってあの問題ああすれば…と不安に思うこともあったが、一晩寝たらなるようになるよね。と開き直った。
不安がってもどうしようもない。結果が帰ってきた時に考えることにしたの。
「…パーティ?」
訪問者がやってきたと言われて廊下に出ると、そこには丸山さんがいた。挨拶もそこそこに、彼女はパーティへのお誘いをしてきた。
「はい、私のお父様が主催する交流パーティなのですが……そこで私とお付き合いしていただいている方を二階堂様に是非ご紹介したくて」
「あぁー…」
私はパーティという響きに微妙な顔をした。前回のブドウジュース事件があるので、何かが起きそうな気がして気が引けるんだなこれが。
丸山さんから「交際相手が出来たら自慢する」と宣言されていたから、ここでは出向いて紹介されるべきなんだと思うのだが、ブドウジュース事件が脳裏をよぎる。なんたってポンコツ令嬢な私がセレブパーティに出向いたら……ねぇ?
まるでそこに現れたら都合よく事件が起きる名探偵のようになにか起きそうじゃない。
「ご都合が悪いですか?」
「いや、そういうわけじゃなくて…」
「あっそうですわ、慎悟様と一緒に来ていただいても構いませんのよ! 後々の社会勉強にもなります。いい機会になると思いますの!」
招待してくれた丸山さんに、ブドウジュース事件の顛末を語るのもどうかなと思ったので言葉を濁していると、彼女は慎悟同伴で来たらどうかと提案してきた。
…とは言われても慎悟にも都合があるもんな。パーティは土曜の夜の予定だ。ちょっと急な気がするのだが……。
「…俺は構わないけど」
「え」
「でしたらお2人で是非! いらっしゃるのを心待ちにしておりますわ」
どこから話を聞いていたのか、慎悟の一声で私は参加することになっていた。
え、なに意識高い系の慎悟ってば人脈づくりに勤しみたいってわけ?
丸山さんは明日正式な招待状をお持ちしますねと言ってその場から去ってしまった。……私は横に立っている慎悟をジト目で見上げる。
「…慎悟」
「悪い話じゃないと思うぞ。あんたもこれから参加する機会が増えるんだ。少しでも人脈づくりをしておいたほうが良い」
慎悟の言葉に私は押し黙った。
そりゃ私も徐々にパーティ慣れしないといけないとはわかってんだけどさ……なんとなーく気が乗らないんだよなぁ。
「…ずっと一緒にいてくれる?」
「そうだな、今度は一緒に会場入りしよう。あんたはどうにも人の視線に鈍感だから」
「どういう意味だそれ」
彼女が不安に感じて一緒にいてってお願いしているのにまた私を貶そうとして。エリカちゃんが美少女で注目を浴びるのは今更なことでしょ。それを言うならあんたはどうなんだ、この歩く誘蛾灯め。
慎悟は私を見下ろすと、フンと鼻を鳴らしていた。
「先日のパーティで、縁組狙いの親子に声を掛けられてヘラヘラ笑っていたんだろ? 西園寺さんに教えてもらったよ」
「あれは……失礼があってはいけないから、当たり障りなく対応していただけで」
「だろうと思った。今度は俺から離れるなよ」
真顔で言われたそのセリフに私はときめいてしまった。
感情の赴くまま、ドスッと音を立ててその胸に飛び込むと、慎悟が咽ていた。すまん勢い余って加減できなかった。
「…離れるもんか」
深い意味をもたせた言葉じゃないとわかっているんだけど、なんかキュンと来たんだよ。…言われなくても離れないよ。私は慎悟の婚約者だもの。
不安はあるけど、慎悟が隣にいるなら百人力だ。無難に乗り切って、経験値をあげることに専念しよう。
ポンポンと頭を撫でられたかと思えば、横に流れていた髪の毛をそっと耳にかけられた。
「……笑さん、ドレスを贈ってもいいか?」
小さな声で耳元に囁かれたその単語に私の反応は15秒位遅れた。
……何故唐突にドレスなんだ。パーティで着用するドレスを買ってくれるってことか? 私は慎悟の胸から顔を離して彼を見上げた。
「ドレスは持ってるから、必要ないよ」
そう遠慮すると、慎悟の表情が微妙なものに変わった。
彼氏として格好つけたいのかもしれんが、ドレスには困っていないので必要ないよ。前にも言ったと思うけど、親の金で買われても嬉しくないんだ。
「ドレスは武隈さんにもらったものを再利用する。だってもったいないじゃない!」
決して慎悟の気持ちをないがしろにしてるわけじゃない。それにそんなにたくさん着るわけじゃないドレスを何着も持っていても仕方ないと思うんだよ。もったいないだろう。
説明はしたけど、慎悟の表情は浮かないまま。その後加納ガールズに特攻されて引き剥がされたので、その意味を問うことは出来なかった。
■□■
部活を終えた私は家に帰るなり、お手伝いの登紀子さんから「奥様がホームエステをご予約されております」とか言われて、一月ぶりのエステを受けさせられた。
今回は主役でないので、エステは必要ないような気がするが、ママの気が済まないのだろう。ママがドレスを急ごしらえで用意しようとしたのをお断りしたので、とにかく何かしたかったのかな。
私はそのままエステを受け、エステティシャンのゴッドハンドによる昼寝の後、準備を始めた。髪の毛のセットはここの住宅街の中にある美容室でヘアメイクしてもらうつもりだ。
こうして準備していたらいつの間にか約束の時間が迫っていた。時間の経過が早すぎる。
二階堂家まで慎悟が迎えに来てくれるのだ。慌てて家を飛び出すと、もう既に車が到着していた。車のドアが開かれ、そこから現れたのはスーツ姿の慎悟だ。
男子制服と同じような形なのに、スーツを着用するとガラリと雰囲気が変わる。クリスマスパーティの時のドレススーツとはちょっと違う、大人の男に一歩近づいたように見える慎悟を見た私は、ホゥ…と感嘆のため息を吐いてしまった。
あ、やべ、格好いい…と惚れ直してしまった事は内緒である。
「…なにか香水でもつけているか?」
車に乗り込んだ私を見てた慎悟が首を傾げた。
「ううん、なにも。…もしかしたらマッサージオイルの中に入れたアロマかな」
私は手首を持ち上げて、スンスンと匂いを嗅ぐ。鼻が匂いに慣れてしまっているのでよくわかんないけど、エステティシャンの人に今日の気分はどんな香りですか? と聞かれて、ピンときたアロマオイルを使用してもらったんだよね。
「これじゃない?」
手首を慎悟の顔の前まで持っていくと慎悟は納得した様子でうなずいていた。
「臭いかな?」
「そうでもないよ。オレンジかなにかの匂いか?」
「…エレミだったかな? オレンジっぽい匂いがするアロマだって言ってたな」
アロママッサージしてもらったから、羽織っている上着を脱いだらアロマが香るかもしれない。慎悟の嫌いな香りじゃなくてよかった。
到着した頃には空が真っ暗。だけど目的地は明るくライトアップしており、玄関ポーチに続々車が出入りしていた。パーティ会場に選ばれたのは全国展開している大手高級ホテル。私は慎悟についていく形で会場入りした。
結婚式で使用されることのある広い広い一室には大勢の人が集まっていた。辺りを見渡すと年齢層が高い。これ皆丸山さんのお父さんの会社と繋がりがある人かな。
さて、前回パパママと一緒に参加したパーティでは挨拶合戦からの商談に移り変わっていたが、何から始めたら良いんだ?
今日は慎悟の動き方を観察するために自分からは動かないことにしよう。徐々に慣れていって、馴染んだら自分から動くようにしたい。ポンコツ令嬢な私にはそれがベストだと思う。
まずは招待してくれた丸山さんに挨拶をしようとの彼女の姿を探していたが、見当たらない。恐らく明るい色のドレスを着用しているだろう。暗い色のスーツを着用した男性たちの中に紛れ込むドレス姿の女性を探していたら、私の目にピンクドレスを着用した女性が目に写った。
うっ、ピンクドレス…とブドウジュース事件を思い出したが、アレとは別人だ。
なんたってその人物のお腹はぽっこり膨らんでおり、雰囲気が令嬢っぽくなかったからだ。例の加納ガールズ増量版の彼女たちは曲がりなりにもお嬢様で、その雰囲気が見て取れた。なので全くの別人だと判断できた。
美人な女性を嫁にもらうセレブ男性はよくいるので、玉の輿系の人かなと思ってそのままスルーしようとしたのだが、その隣にいる中年太りのおっさんの顔を目にした私は二度見してしまった。
……あれは、瑞沢父ではないか。
一昨年の文化祭で二階堂に喧嘩を売るような発言をしてきた瑞沢父じゃないか! んー…なんかちょっと雰囲気変わったけど間違いなくいけ好かない瑞沢父だ。
あのおっさんと丸山さんのお父さんはビジネス関係なのか…と微妙な心境に陥って、ふと思った。
…あの女性は……本妻?
でも、それにしては若すぎる。だって本妻は子どもを亡くして塞ぎ込んでるって話を聞いたことがあるもの……あそこにいるピンクドレスの妊婦は二十歳前後に見える。想定する年齢が合わないから多分、本妻ではないな……
まさか第二の瑞沢嬢をもうけてしまったんじゃないのか? あのオッサン、性懲りもなく……!
……瑞沢家の事情は今のところどうなっているのかは知らない。私はあのオッサンが嫌いだし、首を突っ込む気もないが……
なんか見てはいけないものを見てしまった気分になってしまった。
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