お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

文字の大きさ
321 / 328
番外編・アメリカ留学編

自称ボクサーVS自称守られたい女

しおりを挟む
『ホーアタァーアチョー!』

  ──鳥?
 暗闇から飛び出してきたそれに私は刮目した。鳥と錯覚したけど、現れたのは人間だ。彼女はどこからともなく現れて、私を殴ろうとしていた男の腕を払い、ボコボコボコと連続攻撃を放った。
 相手に反撃の機会すら与えない攻撃。ドレスにヒールの靴をはいているとは思えないくらい軽々とした身のこなし。まるで、本場のカンフーシーンを見ているようだった。

『な、何だお前!?』
『アタァーッ』
『グアッ』

 続いて慎悟に手を出そうとしていた男に掌底をお見舞いしていた。薙ぎ払いで相手の手を振り払うと、人間の急所を的確に突いてあっという間にダウンさせた。

『口ほどにもないわね!!』
『しょっ、笙鈴!?』

 ペカーッといい笑顔で仁王立ちする彼女を見た私の声は裏返った。
 いつもニコニコ笑顔の笙鈴がまるで、亡き香港スター、ブルース・リーのようであったからだ。

 瞬殺だ。
 先程までの絶体絶命の状況が一瞬で逆転した。
 今の私の身体よりも一回り大きな笙鈴だが、自称ボクサーのアメリカンに比べたら華奢な女性である。それなのに、筋肉ダルマ2体をボコボコにのしてしまったのだ。
 驚かないわけがない。

「笑さん!」

 呆然としていた私にガバァッと慎悟が抱きついてきた。その体は震えており、声にも動揺の色が含まれていた。

「! 慎悟、大丈夫!? 怖かったね!!」

 慎悟の背に腕を回して撫でてやる。
 見ず知らずの男に顔を舐められて怖かったね。まさか男なのにと思ったのだろう。男でもあれは普通に怖いわ。男も女も関係ない。
 ファビュラスでマーベラスな婚約者様の美貌は万国共通。男すら引き寄せる罪な男よ……最悪の事態にならず良かった。
 ぐりぐりと慎悟から首元へ顔を擦り付けられた。くすぐったいが、それほど怖かったのだろう。黙ってそのままにしておいた。

 その間に笙鈴がどこかに電話していた。彼女の足元に転がる男はうめき声を上げている。笙鈴が攻撃したうちの一人は手の指が変な方向に曲がっている。…彼女が罪に問われたりしないであろうか……
 通話を終えた笙鈴が顔を上げてこちらを見ると、いつものニコニコ笑顔を浮かべた。

『ふたりとも無事で良かった!』
『ありがとう。笙鈴、強いね!』
『助かったよ…ありがとう』

 私と慎悟がお礼を言うと、笙鈴は自慢げな笑みを浮かべていた。

『女も強くなくてはと幼少期から中国武術を習わされたの』

 フンッと力こぶを作るかのように筋肉を見せつける笙鈴。
 十分強いのに、守られたいのか笙鈴。これだけ強ければ、男側が自信喪失するのも仕方ない気がするな…

『気になったことがあったから追いかけてきたけど、間に合ってよかったわ』
『気になること?』
『2人を嫌な目で睨みつけている女がいてね、気のせいかなと思っていたんだけど、どうにも嫌な予感がしてね』

 女……?
 誰だそれ。
 私と慎悟は顔を見合わせたが、思い当たるフシがなくて、お互いに首を傾げるだけで終わった。

 その後騒ぎを聞きつけた笙鈴の兄・浩然さんが現場にやって来て、それと同じくらいのタイミングでポリスメンも到着した。赤と青のパトランプが暗闇に輝いていた。

『兄さんはポリスに知り合いがいるの。後のことは任せて!』

 劉兄妹のおかげで簡単な事情聴取だけで済んだ。慎悟が消沈していたので私が代わりに被害を訴えていると、ポリスメンが慎悟を見て「あぁ…」と妙に納得していた。
 おまわりさんにもわかるか、この罪な美貌を。慎悟はポリスメンからの同情の眼差しを受けて死んだ目をしていた。

 襲撃者たちはお縄につき、後のことは劉兄妹が片付けてくれるという。犯人は誰かに頼まれたとか言っていたが、その辺は今から詳しく洗い出すのであろう。
 慎悟のメンタルも心配なので、私達はお言葉に甘えて車に乗って帰宅した。



 車の中で慎悟はうなだれていた。
 ひどく落ち込んでいる様子だったのでワシワシ頭を撫でてあげたら、慎悟がぽつりと「守れず不甲斐ない」とつぶやいた。

「何いってんの、あんなの普通の一般人はかなわないよ。ましてや私達は格闘技経験もないんだし」

 別に私は守って欲しいわけじゃないし、慎悟のことを責めたりしてない。
 運が悪かったと思うしかない。
 大体笙鈴が気になっていた女ってのは誰なんだ一体……

「中国人が強いってのは都市伝説のようなものだと思っていたのに」
「笙鈴は香港人だよ。中国人と一緒にされると怒っちゃうよ」

 その辺プライドがあるみたい。
 人種は同じでも、国は違うみたいなプライドがね。中国なのは変わらないけど、イギリスに統治されていたこともあって…まぁなんか色々あるんだろう。
 いやでも私も驚いたよ。彼女がブルース・リーファンなのは知っていたけど、あそこまで強いとは思わなかった。今度お礼しなきゃ。

「……武術とか習おうかな…」

 慎悟の血迷った発言に、私は彼を二度見した。
 武術。
 この美青年が?
 スポーツ系の部活もしたことのない慎悟が??

「武術は一日二日じゃ身につかないよ。頑張れるなら応援するけど、道のりは長いよ?」

 スポーツ習うのとは訳が違うからね。
 武術は人を傷つける可能性のあるものだ。取り扱いに気をつけないといけないし、心構えも全く変わる。
 慎悟が本気ならこれ以上何も言わないが、勉強と掛け持ちしていたらそのうち体壊すぞ。慎悟の場合勉強量がものすごいんだから。そもそも一日二日じゃ強くなれんぞ。
 私に言われずともわかっていたのか、慎悟がため息を吐く音が聞こえた。

「…彼女と笑さんが親しくなった理由がわかった。脳筋だからだ」

 貞操の恩人に向かって何を言ってるんだ。笙鈴が強くなかったら、今頃慎悟は薔薇の世界を味わっていたんだぞ。もっと感謝しなさい。

「こら、悪口はダメだぞ悪口は。笙鈴カッコよかったじゃないの」
「…自分が情けない…」

 ずりずりと私の肩に頭を預けた慎悟は沈んだ声を出していた。
 男なら彼女を守るべきって固定観念に囚われているのか? もしそうならそれはとんだ自意識過剰だ。私は守られるために慎悟と一緒にいるんじゃないんだぞ。

「私は守られるだけの女じゃないってわかってるでしょ? そんなに落ち込まないで…」

 運転手さんの目を盗んで、軽くキスして慰めてあげた。車内は暗いから見えないだろう。
 慎悟が守ろうとした心意気はわかっているよ。撃退は出来なくとも、その気持だけで十分伝わった。
 慎悟だってスーパーマンじゃないんだから時には負けることくらいあるでしょ。今回は笙鈴に助けられて無事だった、運が良かった。それでいいじゃないか。
 もう怖いことはないんだぞ。

 私からキスをされるがままだった慎悟の腕が私の身体に回された。彼の身体はもう震えていなかった。

「…家に帰ったら、沢山甘やかしてあげる」

 お互いの息が届く距離で慎悟の瞳を見つめて言うと、慎悟の瞳が揺れた気がした。
 私は彼の背中を撫でてあげながら彼の唇にキスを贈った。

 慎悟が心折れたときは私が支柱になる。そういったでしょ。
 沢山沢山甘やかしてあげるから早く元気になりなさい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

処理中です...