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番外編・大学生活編
テニスで勝負だ! 慎悟と一緒に寝るのは私だ!
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時折パーキングエリアで休憩しつつ車で辿り着いたのは避暑地と呼ばれる高級別荘地である。別荘地だからか住宅街のような賑わいはなく、静か。
その中にある立派な別荘前に私は降り立った。洋館のような作りをしたその建物は他の建物に引けを取らない立派なものであった。
「わーすごい」
「二階堂家にだって別荘のひとつやふたつあるだろ」
「別荘なんて行ったことないもん。毎年パパの妹さんが占拠していたし、私もパパママも今までなんだかんだで忙しかったしね」
私は今年大学1年生になった。エリカちゃんに憑依して丸3年経過したところだが、別荘というものをお目にかかったことがないのだ。
せいぜい年に数回泊まる程度の別荘を所有するセレブ……もったいないと感じるのは、私にはセレブの価値観が理解できていない証拠だろう。
綺麗に整備された庭を通って、玄関に出向くと、そこには一人のおじいさんがいた。
「お坊ちゃま、お待ちしておりました」
「お坊ちゃまはやめてくれよむず痒い」
その建物の前で待機していた老紳士が深々と頭を下げている。普段この洋館を管理している人であろうか。
三浦君って…セレブだったんだね…お坊ちゃんにしては態度が粗暴だからちょっと疑ってた、ごめん。彼は三浦君の後ろにいた私と慎悟の姿を見てニッコリと笑った。
「どうも、加納様お久しぶりです。そちらのお嬢様がご婚約者様になられた二階堂様ですね、遅くなりましたがご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます、稔さん」
何度かここへやって来たことのある慎悟とは顔見知りのようだ。
「二階堂です、今回はお世話になります」
「こちらこそ。ささ、外は暑いでしょう。中へどうぞ」
別荘内に通されると、中もすごかった。
二階堂家もすごいけど、タイプの違う凄さ。そしてやはり別荘なので、生活感があまりない感じがする。
「お部屋ですが、殿方とお嬢様でお分けしましたがよろしいですか?」
「それでいいだろ? 慎悟」
三浦君と管理人の稔さんの会話に私はぐるっと振り返った。
「そんな! 私は夜通し慎悟と遊ぼうと思って沢山ゲームを持ってきたのに!!」
「ガキかよ」
修学旅行はそんなイベントなかったし、お泊りデートの時はそういう空気じゃないし……別荘へのお誘い(私はついでだけど)を受けた時に、寝る前にたくさん遊んでそのまま疲れて眠れたら楽しいだろうなって計画してきたのに!
「だーめ。あんた女だろ。仮にもお嬢様なんだから慎みを持てよ」
三浦君はそんな私を見て鼻で笑っていた。
私は慎悟の婚約者なのに……婚約者と夜通し遊ぶのがはしたないとでも言いたいのか…!?
ただ三浦君が慎悟と一緒の部屋がいいだけなんじゃないのか!?
「異議あり! 三浦君に勝負を挑む! 勝ったほうが慎悟と同じ部屋で眠れる権利を得るのだ!!」
納得できなかった私は三浦君に勝負を挑んだ。
慎悟を巡って私と正々堂々と戦え!
「またあんたは変な勝負を吹っかけて……」
「それとも慎悟はムキムキの男と一緒に眠りたいっていうの!?」
呆れた顔で慎悟が止めようとしてきたが、私は本気だ。
私は婚約者だぞ。それに私達はもう清らかな関係ではない。はしたないもなにもないと思うのだ! 大好きな彼と一緒の部屋になりたいと願ってなにが悪いのか!
「ふーん? なら去年保留になっていたテニス対決で勝負つけるか」
「おい三浦…」
「望むところだ!!」
元々、三浦君が別荘でテニスしようと慎悟をお誘いしているところに私が割り込んだのだ。テニスコートがあると聞いていたので、当初からテニスする気満々だった。ちゃんとテニスウェアやラケット、シューズも持ってきたぞ!
「三浦もこの人をけしかけるなって」
慎悟が力なく注意すると、三浦くんはニヤリと笑い返していた。
「じゃあ30分後にここに集合な」
私は自分にあてられた客室に開けると、勇んでいた心がしぼみそうになった。まさに女性のためのお部屋だったのだ。
壁紙にはお花が描かれ、天蓋付きベッドはクイーンサイズ。家具や小物はアンティーク調で、とても乙女チックなお部屋であった……エリカちゃんの部屋に初めて入った時の衝撃を思い出したぞ。
だが今はとにかく勝負だ。私は持ってきていたキャリーケースを開けると、その中から靴やテニスウェアを取り出した。
■□■
三浦くんは余裕だった。
こちらは慎悟とのダブルスで、あっちはシングル。他にも色んなハンデを与えられたというのに……私は、私ってやつは…!
「ちくしょう!」
悔しさに耐えきれず、私は地面に崩れ落ちた。
「いや、でも素人にしてはなかなかいい線行ってたぜ? 流石ピンチヒッターやってただけあるな」
三浦君は腕を持ち上げて、額を流れる汗を袖で拭っていた。その顔はまだまだ余裕そうだ。爆弾を抱えていた足の甲はしっかり治療されており、今では全快のようだ。大学のテニスサークルでも楽しそうにやってるもんね…本領発揮と言ったところであろうか。
私はテニスコートに膝をついて悔しがっていた。やっぱり前の身体じゃないからか。手足が短いからか、筋肉が足りないというのか…!
地面を平手でペチペチ叩いて八つ当たりをしていると、後ろから慎悟に抱き起こされてしまった。
「笑さん、その格好はまずい……下にタイツか何か穿けって言っただろう」
「だからアンダースコート穿いてるってば!」
慎悟はまた人のことを露出狂呼ばわりする。今見えているのはアンダースコート! いわゆる見せパンだよ。めくれていたらしいキュロットスカートをパタパタと戻される。
「約束だぞ。勝負は勝負だ。あんたは負けた。一人部屋だ!!」
「ぐぬぬ…」
くそぅ…。こんなはずじゃなかったのに…!
三浦君のドヤ顔を見ていたら闘志がメラメラ燃えてきた。
「そろそろ戻るか?」
「おー。しかしあちぃな。汗流すついでにプールでも入るか」
私としてはまだ戦い足りなかったのだが、男性陣の中ではもう勝負は終わりのようだ。
三浦君と肩を並べて先をゆく慎悟を見て思った。慎悟は、私と一緒じゃなくて寂しくないのかって。友情を取るのかって。
そう、思ったけど……負けは負けだ。仕方ない。認めよう。
強豪校出身だもんな。レギュラーになったことはないとはいえ、三浦君は上手だった。
私は先程まで試合をしていたテニスコートにちらりと視線を向ける。このテニスコートは三浦君の家の私有地なんだそうだ。彼いわく、好きな時にプレイできるように親に作ってもらったそうだ。そんで慎悟や他の友人を誘って別荘に遊びに行ってはテニスに興じていたそうだ。
……セレブめ。
私も望めばバレーコートの1つや2つ……いや、バレーって団体競技だから、持っててもだめか…私の場合一日中サーブ練習とかしちゃいそう。あ、バレーボールのトレーニングマシーンがあれば一人でも……
「おねーさん、ひとり?」
「…え?」
背後から声を掛けられたので私がパッと振り返ると、そこには同年代くらいの青年がいた。その後ろには数人同じ年代くらいの男女が固まっている。…どこかの別荘に泊まりに来た集団だろうか…?
「ここ、おねーさんが借りてるコート?」
「いえ…ここは私有地で、持ち主の厚意で使用していただけです…」
時々このコートを別荘地共有のコートだと勘違いして使用する人がいるらしいが、ここ、私有地なんだよ。無断使用が目に余ったので、今は周りをフェンスで覆って鍵をかけてるんだって。
私がそう教えてあげると、青年は眉を八の字にして「そっかー」と残念そうな顔をしていた。彼の手にはテニスラケットが入っていると思われるケースがあったので、ここで練習しようと思ってやって来たのだろうか。後ろにいたお仲間さん達もがっかりした顔を浮かべている。
「笑さん、なにしてるんだ」
「あ、うん」
いつまでも戻ってこない私に気づいて引き返してきたらしい慎悟に声を掛けられた。慎悟はフェンス越しにいる青年らの姿に気がついたようで訝しむ表情を浮かべていた。
「三浦君の家のコートが共用だと思っていたみたい」
「あぁ…」
慎悟は納得した様子で頷いていた。
とはいえ、私達にはどうしようもない。持ち主ではないので、なんとも…
「今日はもう使用しないから、夕方までなら使っていいですよ」
「えっいいんすか!?」
「壊したり汚さない程度でお願いしますね」
話を聞いていたのか、ゆっくり歩いて引き返してきた三浦君が事も無げに言った。そんなあっさり…いいの? 無断使用が嫌だから鍵かけてるのに……私が問うと、彼は片眉をひょこっと器用に動かしていた。
「無断で使用した挙げ句に器物破損とか、深夜まで騒ぐ輩が多かったんだよ。それで鍵かけていただけ」
ちゃんと伺い立ててくれて、マナーを守ってくれるなら構わないさ、とあっさり了承していた。
この閑静な別荘地にそんな乱暴者がいるの…? と私が慎悟に問いかけると、「別荘を管理できなくなった人が貸し出しするようになって、色んな人間がやってくるようになったんだ」と教えてくれた。
あぁ、なるほどそういう……北海道の土地とかも某国人に買い漁られてるって言うもんね……マナーの悪い人が出てきても仕方がない。
「ありがとうございます! えぇと、」
「俺はそこの別荘にいるから、なにかあったらそこの管理人のじいさんに声かけてくれ」
三浦君はスマートであった。そのスマートさと、あふれるセレブ感に後ろにいた女性陣がときめいている様子である。私の中ではただの慎悟スキーな男なのだが、世間一般的に考えたら背も高いし、まぁまぁイケメンであるし、意地悪なところを抜いたらきっとモテるだろう。
彼らは大学生…だろうか? 大学のサークルの集まりか何か?
最近の大学サークルは別荘地に合宿に来るのか……セレブだな。セレブ校に通っている私でも一般の合宿地に行くというのに……それかあの人達もお金持ちの子どもなのかな。
「あのー…あの人彼女さんですか?」
「いや、ツレの婚約者」
「婚約者!? えっ何歳ですか? 大学生くらいですよね?」
慎悟の婚約者と紹介されて、バッと私に視線が集まる。
「19歳…?」
三浦君が私の年齢を言うのに疑問風に答えていた。三浦君、中の人は20歳だよ。
三浦君が女性陣に話しかけられて引き留められていたが、私は慎悟が狙われぬよう、彼の手を引いてその場を後にした。肉食系女子が慎悟に狙いを定めていたからだ。
あぁ怖い怖い。
日常から離れた場所だとちょっと浮かれちゃうんだよね。ひと夏のアバンチュールを狙っているんだろう。最近の女子は本当に積極的だからな。
だけど私の目が黒い内は婚約者に指一本触れさせないからな!
その中にある立派な別荘前に私は降り立った。洋館のような作りをしたその建物は他の建物に引けを取らない立派なものであった。
「わーすごい」
「二階堂家にだって別荘のひとつやふたつあるだろ」
「別荘なんて行ったことないもん。毎年パパの妹さんが占拠していたし、私もパパママも今までなんだかんだで忙しかったしね」
私は今年大学1年生になった。エリカちゃんに憑依して丸3年経過したところだが、別荘というものをお目にかかったことがないのだ。
せいぜい年に数回泊まる程度の別荘を所有するセレブ……もったいないと感じるのは、私にはセレブの価値観が理解できていない証拠だろう。
綺麗に整備された庭を通って、玄関に出向くと、そこには一人のおじいさんがいた。
「お坊ちゃま、お待ちしておりました」
「お坊ちゃまはやめてくれよむず痒い」
その建物の前で待機していた老紳士が深々と頭を下げている。普段この洋館を管理している人であろうか。
三浦君って…セレブだったんだね…お坊ちゃんにしては態度が粗暴だからちょっと疑ってた、ごめん。彼は三浦君の後ろにいた私と慎悟の姿を見てニッコリと笑った。
「どうも、加納様お久しぶりです。そちらのお嬢様がご婚約者様になられた二階堂様ですね、遅くなりましたがご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます、稔さん」
何度かここへやって来たことのある慎悟とは顔見知りのようだ。
「二階堂です、今回はお世話になります」
「こちらこそ。ささ、外は暑いでしょう。中へどうぞ」
別荘内に通されると、中もすごかった。
二階堂家もすごいけど、タイプの違う凄さ。そしてやはり別荘なので、生活感があまりない感じがする。
「お部屋ですが、殿方とお嬢様でお分けしましたがよろしいですか?」
「それでいいだろ? 慎悟」
三浦君と管理人の稔さんの会話に私はぐるっと振り返った。
「そんな! 私は夜通し慎悟と遊ぼうと思って沢山ゲームを持ってきたのに!!」
「ガキかよ」
修学旅行はそんなイベントなかったし、お泊りデートの時はそういう空気じゃないし……別荘へのお誘い(私はついでだけど)を受けた時に、寝る前にたくさん遊んでそのまま疲れて眠れたら楽しいだろうなって計画してきたのに!
「だーめ。あんた女だろ。仮にもお嬢様なんだから慎みを持てよ」
三浦君はそんな私を見て鼻で笑っていた。
私は慎悟の婚約者なのに……婚約者と夜通し遊ぶのがはしたないとでも言いたいのか…!?
ただ三浦君が慎悟と一緒の部屋がいいだけなんじゃないのか!?
「異議あり! 三浦君に勝負を挑む! 勝ったほうが慎悟と同じ部屋で眠れる権利を得るのだ!!」
納得できなかった私は三浦君に勝負を挑んだ。
慎悟を巡って私と正々堂々と戦え!
「またあんたは変な勝負を吹っかけて……」
「それとも慎悟はムキムキの男と一緒に眠りたいっていうの!?」
呆れた顔で慎悟が止めようとしてきたが、私は本気だ。
私は婚約者だぞ。それに私達はもう清らかな関係ではない。はしたないもなにもないと思うのだ! 大好きな彼と一緒の部屋になりたいと願ってなにが悪いのか!
「ふーん? なら去年保留になっていたテニス対決で勝負つけるか」
「おい三浦…」
「望むところだ!!」
元々、三浦君が別荘でテニスしようと慎悟をお誘いしているところに私が割り込んだのだ。テニスコートがあると聞いていたので、当初からテニスする気満々だった。ちゃんとテニスウェアやラケット、シューズも持ってきたぞ!
「三浦もこの人をけしかけるなって」
慎悟が力なく注意すると、三浦くんはニヤリと笑い返していた。
「じゃあ30分後にここに集合な」
私は自分にあてられた客室に開けると、勇んでいた心がしぼみそうになった。まさに女性のためのお部屋だったのだ。
壁紙にはお花が描かれ、天蓋付きベッドはクイーンサイズ。家具や小物はアンティーク調で、とても乙女チックなお部屋であった……エリカちゃんの部屋に初めて入った時の衝撃を思い出したぞ。
だが今はとにかく勝負だ。私は持ってきていたキャリーケースを開けると、その中から靴やテニスウェアを取り出した。
■□■
三浦くんは余裕だった。
こちらは慎悟とのダブルスで、あっちはシングル。他にも色んなハンデを与えられたというのに……私は、私ってやつは…!
「ちくしょう!」
悔しさに耐えきれず、私は地面に崩れ落ちた。
「いや、でも素人にしてはなかなかいい線行ってたぜ? 流石ピンチヒッターやってただけあるな」
三浦君は腕を持ち上げて、額を流れる汗を袖で拭っていた。その顔はまだまだ余裕そうだ。爆弾を抱えていた足の甲はしっかり治療されており、今では全快のようだ。大学のテニスサークルでも楽しそうにやってるもんね…本領発揮と言ったところであろうか。
私はテニスコートに膝をついて悔しがっていた。やっぱり前の身体じゃないからか。手足が短いからか、筋肉が足りないというのか…!
地面を平手でペチペチ叩いて八つ当たりをしていると、後ろから慎悟に抱き起こされてしまった。
「笑さん、その格好はまずい……下にタイツか何か穿けって言っただろう」
「だからアンダースコート穿いてるってば!」
慎悟はまた人のことを露出狂呼ばわりする。今見えているのはアンダースコート! いわゆる見せパンだよ。めくれていたらしいキュロットスカートをパタパタと戻される。
「約束だぞ。勝負は勝負だ。あんたは負けた。一人部屋だ!!」
「ぐぬぬ…」
くそぅ…。こんなはずじゃなかったのに…!
三浦君のドヤ顔を見ていたら闘志がメラメラ燃えてきた。
「そろそろ戻るか?」
「おー。しかしあちぃな。汗流すついでにプールでも入るか」
私としてはまだ戦い足りなかったのだが、男性陣の中ではもう勝負は終わりのようだ。
三浦君と肩を並べて先をゆく慎悟を見て思った。慎悟は、私と一緒じゃなくて寂しくないのかって。友情を取るのかって。
そう、思ったけど……負けは負けだ。仕方ない。認めよう。
強豪校出身だもんな。レギュラーになったことはないとはいえ、三浦君は上手だった。
私は先程まで試合をしていたテニスコートにちらりと視線を向ける。このテニスコートは三浦君の家の私有地なんだそうだ。彼いわく、好きな時にプレイできるように親に作ってもらったそうだ。そんで慎悟や他の友人を誘って別荘に遊びに行ってはテニスに興じていたそうだ。
……セレブめ。
私も望めばバレーコートの1つや2つ……いや、バレーって団体競技だから、持っててもだめか…私の場合一日中サーブ練習とかしちゃいそう。あ、バレーボールのトレーニングマシーンがあれば一人でも……
「おねーさん、ひとり?」
「…え?」
背後から声を掛けられたので私がパッと振り返ると、そこには同年代くらいの青年がいた。その後ろには数人同じ年代くらいの男女が固まっている。…どこかの別荘に泊まりに来た集団だろうか…?
「ここ、おねーさんが借りてるコート?」
「いえ…ここは私有地で、持ち主の厚意で使用していただけです…」
時々このコートを別荘地共有のコートだと勘違いして使用する人がいるらしいが、ここ、私有地なんだよ。無断使用が目に余ったので、今は周りをフェンスで覆って鍵をかけてるんだって。
私がそう教えてあげると、青年は眉を八の字にして「そっかー」と残念そうな顔をしていた。彼の手にはテニスラケットが入っていると思われるケースがあったので、ここで練習しようと思ってやって来たのだろうか。後ろにいたお仲間さん達もがっかりした顔を浮かべている。
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「あ、うん」
いつまでも戻ってこない私に気づいて引き返してきたらしい慎悟に声を掛けられた。慎悟はフェンス越しにいる青年らの姿に気がついたようで訝しむ表情を浮かべていた。
「三浦君の家のコートが共用だと思っていたみたい」
「あぁ…」
慎悟は納得した様子で頷いていた。
とはいえ、私達にはどうしようもない。持ち主ではないので、なんとも…
「今日はもう使用しないから、夕方までなら使っていいですよ」
「えっいいんすか!?」
「壊したり汚さない程度でお願いしますね」
話を聞いていたのか、ゆっくり歩いて引き返してきた三浦君が事も無げに言った。そんなあっさり…いいの? 無断使用が嫌だから鍵かけてるのに……私が問うと、彼は片眉をひょこっと器用に動かしていた。
「無断で使用した挙げ句に器物破損とか、深夜まで騒ぐ輩が多かったんだよ。それで鍵かけていただけ」
ちゃんと伺い立ててくれて、マナーを守ってくれるなら構わないさ、とあっさり了承していた。
この閑静な別荘地にそんな乱暴者がいるの…? と私が慎悟に問いかけると、「別荘を管理できなくなった人が貸し出しするようになって、色んな人間がやってくるようになったんだ」と教えてくれた。
あぁ、なるほどそういう……北海道の土地とかも某国人に買い漁られてるって言うもんね……マナーの悪い人が出てきても仕方がない。
「ありがとうございます! えぇと、」
「俺はそこの別荘にいるから、なにかあったらそこの管理人のじいさんに声かけてくれ」
三浦君はスマートであった。そのスマートさと、あふれるセレブ感に後ろにいた女性陣がときめいている様子である。私の中ではただの慎悟スキーな男なのだが、世間一般的に考えたら背も高いし、まぁまぁイケメンであるし、意地悪なところを抜いたらきっとモテるだろう。
彼らは大学生…だろうか? 大学のサークルの集まりか何か?
最近の大学サークルは別荘地に合宿に来るのか……セレブだな。セレブ校に通っている私でも一般の合宿地に行くというのに……それかあの人達もお金持ちの子どもなのかな。
「あのー…あの人彼女さんですか?」
「いや、ツレの婚約者」
「婚約者!? えっ何歳ですか? 大学生くらいですよね?」
慎悟の婚約者と紹介されて、バッと私に視線が集まる。
「19歳…?」
三浦君が私の年齢を言うのに疑問風に答えていた。三浦君、中の人は20歳だよ。
三浦君が女性陣に話しかけられて引き留められていたが、私は慎悟が狙われぬよう、彼の手を引いてその場を後にした。肉食系女子が慎悟に狙いを定めていたからだ。
あぁ怖い怖い。
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