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番外編・大学生活編
中の人は可憐でも気弱でもない。それは錯覚だ。
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「元気そうだな二階堂」
「お久しぶりですコーチ!」
大学祭開催中に行われた他校とのバレー試合に、高等部時代の女子バレー部コーチが遊びに来た。コーチにとって丁度いい位置にあるらしい私は頭をワシャワシャ撫でられる。彼はそのままぴかりんや他の学生らに声を掛けていた。
まるで空いた手でペットを撫でるかのような仕草である…。前から思っていたが、コーチにとって私は犬猫なのだろうか。
──ゴスッ
「!?」
「コーチッ! 来てくださったんですか?」
「おぉ平井も元気そうで良かった」
体当たりをされた。誰にって……コーチに好意を抱く先輩である、平井さんにだ。
思いっきり突き飛ばされた私はたたらを踏んだ。楽しそうにコーチと話す平井さんは、コーチの視線が一瞬外れたそのタイミングで私をキッと睨みつけると、手であしらうようにシッシッと払ってきた。
……ひどくない? 私何も悪いことしてないのに何この仕打ち…
私はてっきり、彼女の好意は『女子高生が大人の男性に憧れる時期特有のほのかな恋心』かと思っていたのだが、平井さんは大学生になってもコーチに好意を抱き続けていた。…コーチにはまだその想いは伝わっていないがな。
こんな乱暴な所見せたらコーチが引くぞ。全くもう。
「大丈夫か?」
「あ、慎悟。観に来てくれたの?」
今回私は待機で出番はなかったのに。
試合には出場しない事を事前に話しておいたから、てっきり友達と大学祭エンジョイしているのかと思った。
慎悟の側に近づくと、大きな紙袋を渡された。
「これ差し入れ」
「わぁ、ありがとう!」
わざわざ差し入れを持参してくれるとは、出来た婚約者である。気遣いの化身か。
差し入れの中身は大学の外にある洋菓子店のミニシューだった。軽く食べられるものをチョイスしてくれたみたいだ。私はそれを女子バレー部員に配っていく。
すると、それを受け取った先輩が慎悟をまじまじと見つめて言った。
「いいなぁ、エリカには優しい婚約者がいて」
「ほんっと愛されてるわよねー」
「セレブで成績優秀、美形で優しい婚約者とか……なんなの?」
はぁーとため息をつく彼女らは私を羨望の眼差しで見つめてきた。
慎悟を褒められた私は鼻高々である。
「でしょー! ファビュラス&マーベラスな慎悟は私にはもったいない婚約者なんですよー」
「うわリア充うざっ」
「ひっこめエリカー!」
ドヤ顔で自慢してやると、ブーイングが飛んできたが、これは愛のあるブーイングなので心配しないでほしい。好きなだけ野次ればいい。私は痛くも痒くもないぞ。
「その呼び名やめろ。…悪化してるじゃないか」
「なんでー?」
慎悟は恥ずかしがり屋だなぁ。本当のことを言っているんだからいいじゃん。褒めてるんだし。
だけど慎悟は口をへの字にさせてムスッとしている。気に入らないようだ。
「加納君、誰か紹介してぇぇ」
「セレブとは言わん、誰かいい人をぉぉ…」
「誰でもいいからぁ」
ゾンビのように唸る先輩方。大変だ。「彼氏がほしい病(誰でもいいver)」に罹ってるぞこの人達。
ゾンビたちの懇願に慎悟は困った顔をしていたので、私が代わりに返事をしてあげる。
「手頃なサイコパスで良ければ、同級生紹介しますけど」
私が提案すると、先輩方は神妙な顔をして一斉に私を凝視してきた。
「……それって、エリカにつきまとってる男の子でしょ?」
「いくらセレブでも、他の女の尻追っかけてる男はちょっとねぇ…」
おい、今さっき誰でもいいと言っただろうが。
…だめか。あいつも彼女が出来たら狂気から目覚めるかもと思ったのに。他の女に目を向けるまたとない機会だと思ったのになぁ。
「おい、先輩に変なの押し付けようとするなよ」
「だって!」
慎悟だってあいつには手を焼いているじゃないか。私達の心の平穏のためにも、なんとか私から興味をなくさせたいんだよ!
「僕の話をしているの?」
ねっとりとした声に私は寒気を憶えた。奴は背後に迫っていた。
全然気配を感じなかった…!
「ほらぁー! 噂をすれば影ー!」
なんでいるかな! あんたは!
私が素早く距離を取ると、サイコパスは眉を八の字にして困った風に首を傾げていた。
「変なのだなんて失礼だな……それに僕は彼女だから狙ってるんだよ?」
「それが迷惑だと言ってるだろ」
慎悟の指摘に対して、上杉は目を細めた。
男2人の間で火花が散っているようにも思えた。
「三角関係のはずなのに、エリカが間に入るとコメディになるよね」
「見た目はお嬢様なのに、中身はお嬢様っぽくないもん」
先輩の指摘にちょっぴりギクッとしたが、彼女の見立てはだいたい合っている。
見た目は薄幸系美女、中身は脳筋。二階堂エリカの中の人である松戸笑は口の中にプチシューを詰めて笑ってごまかしたのである。
いいじゃないの、脳筋でも!
私はお嬢様なんて柄じゃないんだから!
■□■
交流試合を終えた私は着替えた後に慎悟と合流したのだが、そこには奴もいた。
待たせていた慎悟とずっと口撃し合っていたみたいだ。ふたりとも口がよく回るからなぁ……飽きないのだろうか。
慎悟と同じ学部に入れてよかったと思う一方で、上杉までもれなくついて来るので私の心は穏やかとはいえない。
「どこに行くの?」
「あんたのいない所」
私は慎悟と大学祭デートに行くんだよ。サイコパスはお呼びじゃないの。慎悟の手を握って引っ張っていると、誘ってもないのに上杉が横にくっついてくる。
どっかいけと言ってもつきまとってくるので、いないモノ扱いすることにした。
大学祭は盛況であった。ワイワイガヤガヤと賑わうキャンパス内。この大学、こんなに人がいたのかと改めて感心したわ。
特設会場ではなにかのイベントが行われ、テンションノリノリの司会者の声が響いてくる。…が、あまり興味ない私は出店で食べ物を購入していた。おなか空いたんだ。お昼は軽くしか食べてなかったから。
農学部が畜産農家とコラボしたというソーセージを使ったアメリカンドックはなかなか大きかった。コンビニとかで売ってるものって年々サイズが小さくなっているのに、この大きさはありがたい。きっとお腹も満足すること間違いなしである。
購入したアメリカンドックに好きなだけケチャップとマスタードをかける。ちょっとケチャップかけすぎたけどまぁ大丈夫だろう。
「いただきまーす」
あーんと大口開けて食べようとすると、上杉がその顔をじっと見てニヤニヤしていたので、私は食べるのを中断して上杉を睨みつけた。
何見てんだよ。あげないぞ。
「なんか…いやらしいよね」
……?
サイコパスがなにか言っているが、私は理解できずにぽかんとする。隣にいた慎悟が「セクハラだぞ」と上杉を注意していたので、それでなんとなくどういう意味で言った言葉なのか理解した。
上杉が気持ち悪いので、思いっきり歯を立てて噛み付く。あーアメリカンドック美味しいなぁ。
口周りにケチャップが付いたが知るもんか。はしたない? 食べ方が汚い? そんなお説教は後である。このサイコパスの思い通りになるわけにはならん。
恐らくこいつは恥じらうエリカちゃんの顔が見たかったのだ。そんな不埒者の妄想なんぞぶち壊してやる。お前の考えていることはすべて幻想だ!
アメリカンドックにがぶがぶと歯を立てて食べてやると、痛そうな顔をする上杉。その顔を見た私は勝利を確信した。咀嚼しながらニヤニヤ笑ってやる。
『加納慎悟さん!』
変態上杉に対抗して、口の周りケチャップでスプラッターにさせた私は呼ばれた名前に固まる。視線がこちら…隣にいる慎悟に集まったからだ。
慎悟の名を呼んだのは、特設会場のステージの上にいる女子学生。ちょっとしたパーティードレス姿の彼女は何やら王冠とマントみたいなのをつけている。…後ろの垂れ幕には“英学院大学部第〇回ミスコンテスト”と書かれていた。
あぁミスコンだったんだ。
私は武隈嬢や瑞沢嬢、加納ガールズなど数多くの美女を多く知っているが、その中の誰も参加してないのか。彼女たちならいいとこまで進めそうだけどなぁ。
『2年家政科の槙島美月です! 好きです、私とお付き合いしてください!』
その告白におぉぉ、とギャラリーが声を漏らしていた。
上級生からの告白、しかも隣に婚約者がいる男に対しての交際へのお誘いである。よほど自分に自信があるのだろう。
…おい、私はここにいるんだぞ。すごい度胸だな。
「お久しぶりですコーチ!」
大学祭開催中に行われた他校とのバレー試合に、高等部時代の女子バレー部コーチが遊びに来た。コーチにとって丁度いい位置にあるらしい私は頭をワシャワシャ撫でられる。彼はそのままぴかりんや他の学生らに声を掛けていた。
まるで空いた手でペットを撫でるかのような仕草である…。前から思っていたが、コーチにとって私は犬猫なのだろうか。
──ゴスッ
「!?」
「コーチッ! 来てくださったんですか?」
「おぉ平井も元気そうで良かった」
体当たりをされた。誰にって……コーチに好意を抱く先輩である、平井さんにだ。
思いっきり突き飛ばされた私はたたらを踏んだ。楽しそうにコーチと話す平井さんは、コーチの視線が一瞬外れたそのタイミングで私をキッと睨みつけると、手であしらうようにシッシッと払ってきた。
……ひどくない? 私何も悪いことしてないのに何この仕打ち…
私はてっきり、彼女の好意は『女子高生が大人の男性に憧れる時期特有のほのかな恋心』かと思っていたのだが、平井さんは大学生になってもコーチに好意を抱き続けていた。…コーチにはまだその想いは伝わっていないがな。
こんな乱暴な所見せたらコーチが引くぞ。全くもう。
「大丈夫か?」
「あ、慎悟。観に来てくれたの?」
今回私は待機で出番はなかったのに。
試合には出場しない事を事前に話しておいたから、てっきり友達と大学祭エンジョイしているのかと思った。
慎悟の側に近づくと、大きな紙袋を渡された。
「これ差し入れ」
「わぁ、ありがとう!」
わざわざ差し入れを持参してくれるとは、出来た婚約者である。気遣いの化身か。
差し入れの中身は大学の外にある洋菓子店のミニシューだった。軽く食べられるものをチョイスしてくれたみたいだ。私はそれを女子バレー部員に配っていく。
すると、それを受け取った先輩が慎悟をまじまじと見つめて言った。
「いいなぁ、エリカには優しい婚約者がいて」
「ほんっと愛されてるわよねー」
「セレブで成績優秀、美形で優しい婚約者とか……なんなの?」
はぁーとため息をつく彼女らは私を羨望の眼差しで見つめてきた。
慎悟を褒められた私は鼻高々である。
「でしょー! ファビュラス&マーベラスな慎悟は私にはもったいない婚約者なんですよー」
「うわリア充うざっ」
「ひっこめエリカー!」
ドヤ顔で自慢してやると、ブーイングが飛んできたが、これは愛のあるブーイングなので心配しないでほしい。好きなだけ野次ればいい。私は痛くも痒くもないぞ。
「その呼び名やめろ。…悪化してるじゃないか」
「なんでー?」
慎悟は恥ずかしがり屋だなぁ。本当のことを言っているんだからいいじゃん。褒めてるんだし。
だけど慎悟は口をへの字にさせてムスッとしている。気に入らないようだ。
「加納君、誰か紹介してぇぇ」
「セレブとは言わん、誰かいい人をぉぉ…」
「誰でもいいからぁ」
ゾンビのように唸る先輩方。大変だ。「彼氏がほしい病(誰でもいいver)」に罹ってるぞこの人達。
ゾンビたちの懇願に慎悟は困った顔をしていたので、私が代わりに返事をしてあげる。
「手頃なサイコパスで良ければ、同級生紹介しますけど」
私が提案すると、先輩方は神妙な顔をして一斉に私を凝視してきた。
「……それって、エリカにつきまとってる男の子でしょ?」
「いくらセレブでも、他の女の尻追っかけてる男はちょっとねぇ…」
おい、今さっき誰でもいいと言っただろうが。
…だめか。あいつも彼女が出来たら狂気から目覚めるかもと思ったのに。他の女に目を向けるまたとない機会だと思ったのになぁ。
「おい、先輩に変なの押し付けようとするなよ」
「だって!」
慎悟だってあいつには手を焼いているじゃないか。私達の心の平穏のためにも、なんとか私から興味をなくさせたいんだよ!
「僕の話をしているの?」
ねっとりとした声に私は寒気を憶えた。奴は背後に迫っていた。
全然気配を感じなかった…!
「ほらぁー! 噂をすれば影ー!」
なんでいるかな! あんたは!
私が素早く距離を取ると、サイコパスは眉を八の字にして困った風に首を傾げていた。
「変なのだなんて失礼だな……それに僕は彼女だから狙ってるんだよ?」
「それが迷惑だと言ってるだろ」
慎悟の指摘に対して、上杉は目を細めた。
男2人の間で火花が散っているようにも思えた。
「三角関係のはずなのに、エリカが間に入るとコメディになるよね」
「見た目はお嬢様なのに、中身はお嬢様っぽくないもん」
先輩の指摘にちょっぴりギクッとしたが、彼女の見立てはだいたい合っている。
見た目は薄幸系美女、中身は脳筋。二階堂エリカの中の人である松戸笑は口の中にプチシューを詰めて笑ってごまかしたのである。
いいじゃないの、脳筋でも!
私はお嬢様なんて柄じゃないんだから!
■□■
交流試合を終えた私は着替えた後に慎悟と合流したのだが、そこには奴もいた。
待たせていた慎悟とずっと口撃し合っていたみたいだ。ふたりとも口がよく回るからなぁ……飽きないのだろうか。
慎悟と同じ学部に入れてよかったと思う一方で、上杉までもれなくついて来るので私の心は穏やかとはいえない。
「どこに行くの?」
「あんたのいない所」
私は慎悟と大学祭デートに行くんだよ。サイコパスはお呼びじゃないの。慎悟の手を握って引っ張っていると、誘ってもないのに上杉が横にくっついてくる。
どっかいけと言ってもつきまとってくるので、いないモノ扱いすることにした。
大学祭は盛況であった。ワイワイガヤガヤと賑わうキャンパス内。この大学、こんなに人がいたのかと改めて感心したわ。
特設会場ではなにかのイベントが行われ、テンションノリノリの司会者の声が響いてくる。…が、あまり興味ない私は出店で食べ物を購入していた。おなか空いたんだ。お昼は軽くしか食べてなかったから。
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購入したアメリカンドックに好きなだけケチャップとマスタードをかける。ちょっとケチャップかけすぎたけどまぁ大丈夫だろう。
「いただきまーす」
あーんと大口開けて食べようとすると、上杉がその顔をじっと見てニヤニヤしていたので、私は食べるのを中断して上杉を睨みつけた。
何見てんだよ。あげないぞ。
「なんか…いやらしいよね」
……?
サイコパスがなにか言っているが、私は理解できずにぽかんとする。隣にいた慎悟が「セクハラだぞ」と上杉を注意していたので、それでなんとなくどういう意味で言った言葉なのか理解した。
上杉が気持ち悪いので、思いっきり歯を立てて噛み付く。あーアメリカンドック美味しいなぁ。
口周りにケチャップが付いたが知るもんか。はしたない? 食べ方が汚い? そんなお説教は後である。このサイコパスの思い通りになるわけにはならん。
恐らくこいつは恥じらうエリカちゃんの顔が見たかったのだ。そんな不埒者の妄想なんぞぶち壊してやる。お前の考えていることはすべて幻想だ!
アメリカンドックにがぶがぶと歯を立てて食べてやると、痛そうな顔をする上杉。その顔を見た私は勝利を確信した。咀嚼しながらニヤニヤ笑ってやる。
『加納慎悟さん!』
変態上杉に対抗して、口の周りケチャップでスプラッターにさせた私は呼ばれた名前に固まる。視線がこちら…隣にいる慎悟に集まったからだ。
慎悟の名を呼んだのは、特設会場のステージの上にいる女子学生。ちょっとしたパーティードレス姿の彼女は何やら王冠とマントみたいなのをつけている。…後ろの垂れ幕には“英学院大学部第〇回ミスコンテスト”と書かれていた。
あぁミスコンだったんだ。
私は武隈嬢や瑞沢嬢、加納ガールズなど数多くの美女を多く知っているが、その中の誰も参加してないのか。彼女たちならいいとこまで進めそうだけどなぁ。
『2年家政科の槙島美月です! 好きです、私とお付き合いしてください!』
その告白におぉぉ、とギャラリーが声を漏らしていた。
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