125 / 312
続編
小話・幼稚園児なあやめと山ぴょんのちっちゃな冒険。
しおりを挟む「先輩に山ぴょんの恥ずかしい過去をバラしてやるからな!」
「だから俺の恥ずかしい過去ってなんだよ!」
「お前ら…高校三年にもなってそんな子供みたいなことしてないで…」
「だって先輩!」
「お前が俺の過去をばらすというならこっちにだって切り札があるんだからな!」
「なにっ?!」
学校帰りに放課後デートをしていた私達に、たまたま駅近くで会った山ぴょんが声を掛けてきた。
普通に挨拶していたはずの山ぴょんだったが、私の事を意地悪くからかい始めた。
イラッとした私は山ぴょんに反撃がてら尻キックをしようと足を振り上げたのだが、先輩にそれを阻止されてしまった。
「短パン履いてるの知ってるでしょ!? 大丈夫ですよ」
「それでもやめろ」
「お前そんなんじゃ先輩からそのうち愛想尽かされるぞ!」
「なんですって!?」
「山浦もあやめをけしかけるんじゃない」
その流れから冒頭のやり取りになったのだ。
うるせー! 彼女と長続きしたことねー奴に言われたくないわ! お前はバスケットボールと付き合ってろ!
そして結婚してしまえ。勿論キリスト式でな! 大勢の目の前でバスケットボールに誓いのキスをするがいい!
山ぴょんと私はずっとこんな感じだ。幼馴染らしいロマンスが生まれた試しがない。ここまで来ると同い年の姉弟みたいなものである。
「ほんっと和真も生意気だけど山ぴょんも生意気! 弟が増えるなら先輩みたいな可愛い弟が欲しいよ!!」
「可愛いってお前な…」
「はぁー!? お前自分が姉とでも思ってんのか!? お前が弟みたいなもんだろうが!」
「何言ってるの? 一人っ子のくせに兄貴ぶるなんて片腹痛いわ! 幼稚園の時のあのおにいちゃんみたく頼りがいのある男になってからそのセリフを言いなさいよね!」
「にいちゃんはだいぶ年上だったろうが! 俺だってあの年齢ならもっと」
喧嘩する私達を先輩は遠い目をして見つめていた。疲れた表情をしているのは気のせいだろうか。
「……何をしているんだお前たちは」
「兄さん」
口喧嘩する私達に呆れた声を掛けてきたのは橘兄だった。弟が困っているのを見かねたようである。
「そうそう! 先輩のお兄さんみたいに頼りがいのあるお兄さんになってごらんよ!」
「初対面だからどれだけ頼りがいがあるかわからんわ!」
以前は幼馴染でも他人だからと嫉妬していた先輩も、私と山ぴょんの掛け合いを見て下方修正したらしい。もう諦めの表情を浮かべていた。
兄弟げんかのような私達の掛け合いを見て、橘兄が何かを思い出していたかなんて知ることもなく、私は山ぴょんの太ももに回し蹴りをかました。
☆☆☆
「大志くん、昨日のテレビ見た?」
「見た! アマゾン探検だろ!」
「てなわけで今日は探検ごっこをしようと思います!」
「えっ…」
「オー!」
二人の幼児がノリノリで探検ごっこをしようと準備を始めたのを残る一人がオロオロして見守っている。
「お。お姉ちゃん、大志兄ちゃん…遠くに行くと怒られるよ」
「和真は家にいていいよ。大丈夫、ちゃんと帰ってくるから」
「そうそう。母ちゃん達に言うんじゃねーぞ」
「えぇ…」
涙目で二人を見上げる男の子にそう告げると、二人は水筒やお菓子をリュックサックに収めてそれを背負うなり意気揚々と出かけていった。
探検とはいっても二人は幼稚園年長組。幼児の足じゃそこまで遠くにはいけない。
自分達の家や近くのスーパー、公園や幼稚園周辺が行動範囲である彼らはもっと知らない世界を冒険したいという野心が生まれていた。
親に言ってもきっと駄目だと言われるに決まっているから黙ってやって来た。
幼い頃によくある無謀な行動である。
「こっちの方行ったことないからこっち行ってみよう!」
「あっ川があるぞ! 行こう行こう!」
普段なら危ないからと近寄らせてもらえない河川敷に入ると、この川が続く先まで行ってみようと二人は寄り道しつつ先へと進んでいく。
二人は今まで入ったことのない場所に興奮していた。だから後先を考えずに前へ前へと進んでいく。
だからどんどん日が暮れ始めていることに気づかないで遊びまくっていた。
「…あれ、ここどこだっけ?」
「お日さま見えなくなっちゃったね」
二人が我に返ったのは空が夕焼けを通り越してとっぷり真っ暗になった頃である。
辺りは家や外灯の明かりで真っ暗ではないが、川は不気味に光り、それを見た二人はゾッとしたらしく河川敷から離れて一般道に出てきた。
二人は歩道に突っ立ち、辺りを見渡す。
「…お家、どこだろう」
「…足が痛いよ」
「大志くん、我慢して。えっと、川がここだから、向こうの方に行けばお家に着くかな」
「痛いよう…母ちゃん…」
「もう! 泣かないの! 大志くんいつも和真には泣くなって言ってるのに自分が泣いたら駄目でしょ!」
片割れの男の子がべそをかき出したので女の子が喝を入れるものの、相手は泣き止まない。
幼児の涙は感染するもので、同じく心細くなった女の子もじわじわと涙目になっていく。
「泣いちゃ、駄目なんだから……」
スンスンと鼻をすすりながら、女の子はしゃくり上げながら泣いている男の子の手を引くと、歩き始めた。
暗くなっているというのに幼児二人組がうろついているのが目についたのか、二人に声をかける人物がいた。
「…どうしたの? 迷子?」
大人の男の人だった。ニコニコとしていて人当たりの良さそうな20代後半くらいの男性。
先程から人とすれ違うこともなく困っていた女の子はやっと人に会えた事に安心して、家までの道を聞こうと相手に助けを求めた。
「あ、あのねあのね、あやめ、お家までの道がわからなくなったの。大志くんもね足が痛いからって泣いちゃって」
「そっか、じゃあお兄さんがお家まで送ってあげるからこっちにおいで?」
「ほんと?」
女の子は藁にもすがる思いだった。
同行者は泣きべそをかいているし、自分は道がわからない。足も痛いし心細い。
その中で差し出された手を取ろうとしたその時である。
「何してるんだ!」
「!」
「おい! 早くこっちに来るんだ!!」
「え? …でも」
「早く!」
怒声のような声を上げて声を掛けてきたのは小学校中学年くらいの男の子。こちらへ早足で近づいてくると園児たちの手を引っ張って男性から引き剥がす。
そして少年は男性を睨みつける様にして見上げると硬い口調で話し始めた。
「…お騒がせしました。もう大丈夫ですので」
「あ、そ、そう?」
「あれっおじちゃん!? どこ行くの!」
先程家まで送ると言っていた男性はそそくさと逃げるようにしてその場から離れていってしまった。
女の子は慌てて引き留めようとしたが、少年に手を掴まれていており、歩を進めることが出来なかった。
「…にいちゃん、だれ…?」
ぐしゅぐしゅと泣いたままの男の子が少年を見上げて尋ねると、少年は脱力したように大きくため息を吐いた。
彼は幼児二人を叱りつけるような視線を向け、何故こんな時間にうろついているのかを問い質した。
そして帰ってきた返答に再びため息を吐く。
「…住んでる町の名前はわかるのか?」
「んとね…」
幸い女の子が住所を把握していたため、少年が町まで歩いて送ってくれたので二人は無事家に帰り着くことが出来た。
「おにいちゃん、ありがと!」
「ありがとー!」
「…これに懲りたら大人に黙って探検なんてするんじゃないぞ。それに知らない大人に着いていこうとするのも駄目だ」
「え? でもあのおじちゃんお家まで送ってくれるって」
「いいな?」
「…はぁーい」
少年に睨まれてしまって、女の子はしょぼんと落ち込んだ。
この年代は危機管理がちゃんと出来ずに知らない大人の言うことにまで従ってしまう事がある。
悪意のある大人に気づかなかったのは仕方のないことだが、なにかがあってからじゃ遅いのだ。キツく叱られるくらいが丁度いい。
「怒られてやんの~」
「お前は人の事を笑える立場だと思っているのか」
「あいてっ」
ゴチっと音を立ててゲンコツされた男の子は「いたーい」とヘラヘラしてるので、あまり力の入ったゲンコツじゃなかったようである。
「とにかく、早く家に帰って家の人に謝ってくるんだな。じゃあな」
「ばいばーい! ありがとー!」
「またねー! おにーちゃーん!」
女の子の『またねー』ところで少年の肩がガクッとなったが、少年は振り返ることなく今来た道を逆戻りして行く。
幼児二人は彼の背中が見えなくなるまでお礼とさよならの挨拶を叫んでいた。
その後二人は無事家に帰宅し、それぞれの親にしこたま説教されてしばらく外に遊びに行くのを禁止されたりしたが、それに凝りもせずに「キャッハー!」と親を悩ますワンパク振りを発揮することになる。
二人共あの時助けてくれた少年とは小学校で会えるかな? と希望を抱いていたが、会うこともなく…
会えずじまいだった。
☆☆☆
「…いや、まさかな」
「? どうした兄さん」
「なんでもない…おいお前たち、他の人の迷惑になるからやめろ」
橘兄に止められてしまい、私は仕方なく山ぴょんをしばくのを止めた。
色々借りがあるので、橘兄にこれ以上逆らうことは出来なかった。
…なのに、奴は私の気に障ることばかり言ってくる。こいつが喧嘩売ってくるのが悪いんだよ!
「お前、あのにいちゃんのこと黒薔薇のプリンス様みたいとか言ってたよな!」
「だまらっしゃい!」
「ていうかあの当て馬、主人公庇って死んだじゃん。そんなキャラを当て嵌めんなよ。失礼だから」
「うるっさい! 山ぴょんなんか初恋が幼稚園の先生で結婚ってなった時泣きながら略奪宣言しに行ってたくせに!!」
「うるせー! 二次元が初恋のお前に言われたくないわ!」
「初恋は橘勇作さんですぅー! このご兄弟のお祖父様が私の初恋ですー! 二次元じゃありませーん」
「………は?」
「…お祖父様…?」
売り言葉に買い言葉。
知っていた先輩はともかく、橘兄と山ぴょんに信じられないものを見るかのような目を向けられた。
特に橘兄のあんな顔初めて見たぞ。
枯れ専とかじゃなくて中身にキュンとした。中学の時の話なんですと説明したが、それでも橘兄はめっちゃ動揺していた。
良いじゃないのよ! ほのかな恋心だったんだから。
…おにいちゃんといえば…今頃なにしてるんだろうか。
私があのおにいちゃんと同じくらいの年頃の時、彼と同じくらい頼りがいがあっただろうか。
男の子になりたいと思った時は彼を意識して頼りがいのあるナイスガイを目指していたけど、彼を超えられただろうか。
かすかに覚えている少年の記憶を思い出してなんだか懐かしくなった。
10
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる