183 / 312
続編
ピカピカの一年生に這い寄る闇の手。やめろ私は先輩一筋なの!
しおりを挟む
あやめ大学入学直後のお話です。
ーーーーーーーーーーーーー
「じゃーん! 似合いますか!?」
4月1日、私は大学生になった。
下ろしたてのスーツを身にまとって、亮介先輩に見せびらかした。スーツのスカートはプリーツが入ってないから少し歩きにくいけど、私は一歩大人に近づいたと感じた。
「大人っぽいですか? かっこいいですか!?」
「…見慣れない姿だから違和感があるな」
「似合ってないってことですか…」
先輩の返答に私はしょんぼりする。そりゃ最近まで高校生だったから違和感はあるだろうけどさ…。
「そういうわけじゃなくて、高校の制服の方が見慣れているから…」
まぁ、それはあるかもしれないな。これ以後スーツ着る機会は…就活の時になるだろうし。成人式は振袖を着る予定だし。
でも今日は入学式らしく清楚メイクにしたし、髪もまだ黒いままなんだよ!もっと褒めてよ!
「そう膨れるな。…可愛いから」
「……」
先輩に頭を撫でられて私は機嫌が治った。相変わらずちょろい女である。私は彼の腕に抱き着いて甘える。
「ほら、行くぞ」
「…はい」
私の大学入学祝いに食事に連れて行ってくれるというので、先輩と一緒に街へと繰り出したのであった。
先輩に連れられたちょっとお高いお店は、隠れ家のようなお店だった。なんでもシェフが有名なホテルの料理人として修行した後、独立してお店を開いたんだそうだ。
目玉商品はオニオングラタンスープ。すっごい美味しいって噂だ。もうすでに店内にはいい匂いが漂っていて、私のお腹がグウグウ鳴っている。早く食べたい。
「サークルの勧誘っていつ頃から始まるんですかね?」
料理を待っている間に私は先輩に質問した。中学高校と帰宅部だったけど、この際サークルに参加してみようかと思うのだ。
「…多分…明日からもう始まるんじゃないか? 入るのか?」
「お菓子研究とかのサークルがあったら入ろうかなと思ってるんですけど…」
サークルってよくわかんないから体験してから入会は決めたいな。
「変なやつもいるから、よく吟味して入れよ」
「はーい」
その時の私は先輩の忠告をあまり重くは受け取らなかった。
確かに各地のニュースで大学生の問題行動が取り沙汰されているが…まさか自分が巻き込まれるなんて思わないじゃない?
先輩がいるから、私は大丈夫だからと安心しきっていた部分があったから。
先輩の言う通り、翌日から大学内で新歓イベントが行われていた。様々なサークルがブースを設けて、新入生を呼び込んでいる声が響き渡っていた。
「そこの子! テニスに興味ない!?」
「あーいや、すいませんけど…」
料理関係のサークルを捜していた私だったが、あちこちから勧誘の声を掛けられる。この辺りはスポーツ系の多いのかな。ちょっと離れた場所に移動してみるか。
「ねぇねぇ彼女!」
「!」
「どんなサークル捜してるの?」
馴れ馴れしく私の肩を抱いてきたのは化粧っ気のない素朴そうな女性だった。見た目は大人しそうなのにすごい距離ナシである。同じ女性ではあるが、その近さに私は警戒した。
それに気づいていないのかニコニコとこっちを見てくる相手。私は相手の動きを注視しながら、ついでに質問をしてみた。
「…料理関係のサークル捜しているんですけど…」
「料理? 食べる方? 作る方?」
「…どっちでもいいんですけど」
「それならウチのサークルちょうどいいよ! うちね、色んな事するサークルなんだ! 新歓パーティでは皆で楽しく飲み会するし、夏はキャンプに花火、秋は大学祭イベントとハロウィンパーティ、冬はクリスマスパーティやバレンタインもするんだよ!」
パーティしすぎだろ。色んな事するって…つまり遊ぶだけなの? 私は料理やお菓子の研究か、食べるかのサークルに入りたいんだけど。スポーツとかには興味ないし。
「サークル体験したら大体の流れがわかると思うよ! それにね、サークル内で恋人作れるし!」
「あ…いえ、私彼氏いるのでそういうのはいいです」
「…そうなんだ…」
私が遠慮すると、女性の顔が一瞬無表情になった。それを見てしまった私は一瞬ゾワッと鳥肌が立った気がしたが、彼女の表情が笑顔であるのを見て、見間違えかとホッとした。
一旦そこでは「考えます」と返事をして逃げた。なんか…ちょっと怖いし、私が求めているのとは違う気がしたから。
私は料理やお菓子を研究するサークルの元へ足を運んだ。
私が目をつけたのは、食べ歩き&実践をテーマにしたお料理サークル。そっちの方は私が求めていた活動内容だったので、サークル体験の申込書に記入して、女子部長さんとアプリのID交換を済ませた。
来週、駅前にある洋菓子店のケーキを買って来て、サークルの部室で皆で新歓お茶会パーティを開くそうだ。
会費も良心的で、イベント事が多いわけでなく自由参加だからありがたい。サークルのメンバーの先輩方の印象も悪くなかったし。
しかも同じ理工学部専攻学科の先輩もいたのでなんか幸先いい!
目的を果たした私がホクホク気分で新歓サークルブースを出ていく姿を先程の彼女が、じっと人形のような目をして見ていたことに気づかなかった。
■□■
「…え?」
「悪い、今から飲み会に誘われてるんだ」
「…先輩、未成年じゃないですか…それに…他校の女子学生もいるって…それコンパじゃないですか」
「…心配するな、先輩に付き合ったらすぐに帰る」
「……」
先輩の言葉に私は顔を歪めた。
先輩はちょくちょく飲み会に行ってしまう。まだ未成年だから飲めないけど、サークルの先輩に連れられて行く。
そこには女子生徒もいて、コンパみたいな集まりになることもあるらしい。
「行っちゃやです…」
私は先輩の手首を掴んで行かないで欲しいと伝えた。先輩が私を大事にしてくれているのは十も承知である。
だけどそれとこれとは別だ。どこの誰とも知らない女が彼氏に親しげにしているなんて考えるだけで嫉妬心が燃える。
先輩は「サークルの先輩には逆らえない」といつも言うけど、本当にそうなの?
「…あやめ、約束する。帰る時連絡するから」
「……」
むくれる私の頬を両手で包むと、先輩がキスを落としてきた。
き、キスなんかで誤魔化され……
「お前は寄り道しないでまっすぐ帰れよ」
「………」
……ズルい。先輩はズルい…
「先輩の馬鹿! こんなので誤魔化されないから!」
「!?」
行かないでっていう私の気持ちを理解してくれないのか! 先輩の馬鹿! もう知らない!
何度目だ! このやり取り! 私が大学に入学する前からカウントして10回くらいか? その度私は文句を堪えつつも我慢してきたけどさ、いつもいつも「サークルの先輩が」って…そんなにサークルの先輩が大事ならその先輩(男)と付き合っちゃえ!
最後辺りの心の叫びを先輩に向けて吐き捨てた気がするが、私は言い捨てて逃げた。先輩の呼び止める声なんて無視だ!
もー腹立つな!
私は鼻息荒く怒りながら帰宅していたのだが、このまま帰るのもスッキリしないので、先輩の言いつけを破って寄り道することにした。
大学合格が分かってから、私はファーストフード店でのアルバイトを再開した。学業優先だからそう多くはシフト入れないけど、少ないお給料でも十分なお小遣いになる。
先月分のお給料も入ったことだし洋服でも見に行こうかと街に足を伸ばした。
大学に通い始めて思ったけど、人によって服装がぜんぜん違うよね。サークル荒らしの女王・光安嬢のような大人っぽいフェミニンファッションの人がいれば裏原宿だったり、カジュアルだったり、パンク系だったりとみんな個性豊かだ。
パンク系の人が成績優秀だったりして本当に驚かされることがある。あれかな。勉強のストレスをファッションで晴らしているのかな?
私は手持ちの洋服の中でも子供っぽくないものをローテーションしているが…段々レパートリーがなくなっている。そんな大量に洋服買う余裕なんてないし。
下はジーンズとかスカートを着回せばいいけど上がな…
手頃な金額の洋服を手にとって見比べていると、肩をポンと叩かれた。店員さんかな? と思ったけど店員さんは肩叩かないか。
…振り返った先には満面の笑みを浮かべた、新歓イベントのときの女性がいた。私は思わぬ相手の出現に持っていた服を落としそうになり、慌てて拾い上げた。
「久しぶりー! 買い物してたの?」
「あ、どうも…」
「そうだ、今からうちのサークルのメンバーの家でお茶会するんだ! 一緒に来ない?」
「え…」
お茶会?
私達から少し離れた場所には、彼女のサークルのメンバーらしい、男女学生が集っていた。…10人くらいいるだろうか?
結構な人数だけど……これ全員お家に入るんですか? 随分広い部屋なんだな。
気乗りしないし、この人の距離やテンションに違和感しかない私はやんわりお断りしようとしたのだが、いつの間にか沢山のサークル生に囲まれてしまっていた。四面楚歌な私は無理やり参加させられることになっていた。
…だって怖かったんだよ。数人に包囲されて説得するかのように勧誘されてさ。一度体験して合いませんでしたと言って逃げるしかないと思ったんだ…
周りを囲まれるようにして移動した先には、古ぼけた雑居ビルみたいな場所。
ここを割安で借りて住んでいるらしいけど…ここ住居用じゃなくない?
もうすでに胡散臭さがいっぱいなんだけど、私はしっかり両サイドの腕を掴まれていて逃げる隙がなかった。
ビルの一室に通されると殺風景で、冷たい床の上に絨毯が敷かれていた。この空間に不似合いな家具。それがアンバランスで異様であった。
女性からソファに座るように勧められが、私はやっぱり帰りたくて仕方がなかった。
申し訳程度の給湯室でお茶を入れている彼らを見て手伝おうとしたが、良いからとソファに座らされた。
…なんか、甘い匂いがする。なんだろうこれ…
嗅ぎ慣れない謎の甘い香りに私が眉を顰めていると、隣に知らない男性が座ってきた。
「何ちゃんっていうの? ここに参加するのはじめて?」
「…いや、あの…」
「かわいいねぇ、どこの学部?」
「………」
私の座る席の両サイドに男性。
何これ…すっごい嫌なんだけど。この人達パーソナルスペースって理解しているかな? 私が身を縮めて拒否感を示していると、彼らは何を思ったのか「男慣れしてないんだね」と言ってきた。
は? 違うし。
私は亮介先輩にしか興味がないんです! このたわけが!
なんだか段々加減腹が立ってきたので、ソファを立ち上がってお暇をしようとしたけど、腕を引かれてソファに逆戻りさせられた。
「まぁまぁお茶でも飲んで落ち着いて」
「……」
女性がニコニコ笑顔で差し出してきたのは何の変哲もないコーヒー。お茶じゃないんかい。
まぁ…出されたものだし…飲んだらテキトーに帰るか…
私は渋々コーヒーのカップを傾ける。
それをサークルの男性陣がニヤニヤして見ているなんて全く気づかずに、コーヒーを飲んでいた。
なんだろう、コーヒーを飲んだのだから頭がしゃきっとするはずなのに…
頭がフワッフワする…身体からも力が抜けていく感じがする。
グーラグーラ、と前後左右に揺れる私の身体を支えるように、隣に座っていた男性に支えられた。私はそれにハッとして体制を整えたが……何故か力が抜けていく…
手に持っていたカップを落とさないように回収されて……
私の意思とは裏腹に私の意識はどんどん闇へと沈んでいったのだ…
ーーーーーーーーーーーーー
「じゃーん! 似合いますか!?」
4月1日、私は大学生になった。
下ろしたてのスーツを身にまとって、亮介先輩に見せびらかした。スーツのスカートはプリーツが入ってないから少し歩きにくいけど、私は一歩大人に近づいたと感じた。
「大人っぽいですか? かっこいいですか!?」
「…見慣れない姿だから違和感があるな」
「似合ってないってことですか…」
先輩の返答に私はしょんぼりする。そりゃ最近まで高校生だったから違和感はあるだろうけどさ…。
「そういうわけじゃなくて、高校の制服の方が見慣れているから…」
まぁ、それはあるかもしれないな。これ以後スーツ着る機会は…就活の時になるだろうし。成人式は振袖を着る予定だし。
でも今日は入学式らしく清楚メイクにしたし、髪もまだ黒いままなんだよ!もっと褒めてよ!
「そう膨れるな。…可愛いから」
「……」
先輩に頭を撫でられて私は機嫌が治った。相変わらずちょろい女である。私は彼の腕に抱き着いて甘える。
「ほら、行くぞ」
「…はい」
私の大学入学祝いに食事に連れて行ってくれるというので、先輩と一緒に街へと繰り出したのであった。
先輩に連れられたちょっとお高いお店は、隠れ家のようなお店だった。なんでもシェフが有名なホテルの料理人として修行した後、独立してお店を開いたんだそうだ。
目玉商品はオニオングラタンスープ。すっごい美味しいって噂だ。もうすでに店内にはいい匂いが漂っていて、私のお腹がグウグウ鳴っている。早く食べたい。
「サークルの勧誘っていつ頃から始まるんですかね?」
料理を待っている間に私は先輩に質問した。中学高校と帰宅部だったけど、この際サークルに参加してみようかと思うのだ。
「…多分…明日からもう始まるんじゃないか? 入るのか?」
「お菓子研究とかのサークルがあったら入ろうかなと思ってるんですけど…」
サークルってよくわかんないから体験してから入会は決めたいな。
「変なやつもいるから、よく吟味して入れよ」
「はーい」
その時の私は先輩の忠告をあまり重くは受け取らなかった。
確かに各地のニュースで大学生の問題行動が取り沙汰されているが…まさか自分が巻き込まれるなんて思わないじゃない?
先輩がいるから、私は大丈夫だからと安心しきっていた部分があったから。
先輩の言う通り、翌日から大学内で新歓イベントが行われていた。様々なサークルがブースを設けて、新入生を呼び込んでいる声が響き渡っていた。
「そこの子! テニスに興味ない!?」
「あーいや、すいませんけど…」
料理関係のサークルを捜していた私だったが、あちこちから勧誘の声を掛けられる。この辺りはスポーツ系の多いのかな。ちょっと離れた場所に移動してみるか。
「ねぇねぇ彼女!」
「!」
「どんなサークル捜してるの?」
馴れ馴れしく私の肩を抱いてきたのは化粧っ気のない素朴そうな女性だった。見た目は大人しそうなのにすごい距離ナシである。同じ女性ではあるが、その近さに私は警戒した。
それに気づいていないのかニコニコとこっちを見てくる相手。私は相手の動きを注視しながら、ついでに質問をしてみた。
「…料理関係のサークル捜しているんですけど…」
「料理? 食べる方? 作る方?」
「…どっちでもいいんですけど」
「それならウチのサークルちょうどいいよ! うちね、色んな事するサークルなんだ! 新歓パーティでは皆で楽しく飲み会するし、夏はキャンプに花火、秋は大学祭イベントとハロウィンパーティ、冬はクリスマスパーティやバレンタインもするんだよ!」
パーティしすぎだろ。色んな事するって…つまり遊ぶだけなの? 私は料理やお菓子の研究か、食べるかのサークルに入りたいんだけど。スポーツとかには興味ないし。
「サークル体験したら大体の流れがわかると思うよ! それにね、サークル内で恋人作れるし!」
「あ…いえ、私彼氏いるのでそういうのはいいです」
「…そうなんだ…」
私が遠慮すると、女性の顔が一瞬無表情になった。それを見てしまった私は一瞬ゾワッと鳥肌が立った気がしたが、彼女の表情が笑顔であるのを見て、見間違えかとホッとした。
一旦そこでは「考えます」と返事をして逃げた。なんか…ちょっと怖いし、私が求めているのとは違う気がしたから。
私は料理やお菓子を研究するサークルの元へ足を運んだ。
私が目をつけたのは、食べ歩き&実践をテーマにしたお料理サークル。そっちの方は私が求めていた活動内容だったので、サークル体験の申込書に記入して、女子部長さんとアプリのID交換を済ませた。
来週、駅前にある洋菓子店のケーキを買って来て、サークルの部室で皆で新歓お茶会パーティを開くそうだ。
会費も良心的で、イベント事が多いわけでなく自由参加だからありがたい。サークルのメンバーの先輩方の印象も悪くなかったし。
しかも同じ理工学部専攻学科の先輩もいたのでなんか幸先いい!
目的を果たした私がホクホク気分で新歓サークルブースを出ていく姿を先程の彼女が、じっと人形のような目をして見ていたことに気づかなかった。
■□■
「…え?」
「悪い、今から飲み会に誘われてるんだ」
「…先輩、未成年じゃないですか…それに…他校の女子学生もいるって…それコンパじゃないですか」
「…心配するな、先輩に付き合ったらすぐに帰る」
「……」
先輩の言葉に私は顔を歪めた。
先輩はちょくちょく飲み会に行ってしまう。まだ未成年だから飲めないけど、サークルの先輩に連れられて行く。
そこには女子生徒もいて、コンパみたいな集まりになることもあるらしい。
「行っちゃやです…」
私は先輩の手首を掴んで行かないで欲しいと伝えた。先輩が私を大事にしてくれているのは十も承知である。
だけどそれとこれとは別だ。どこの誰とも知らない女が彼氏に親しげにしているなんて考えるだけで嫉妬心が燃える。
先輩は「サークルの先輩には逆らえない」といつも言うけど、本当にそうなの?
「…あやめ、約束する。帰る時連絡するから」
「……」
むくれる私の頬を両手で包むと、先輩がキスを落としてきた。
き、キスなんかで誤魔化され……
「お前は寄り道しないでまっすぐ帰れよ」
「………」
……ズルい。先輩はズルい…
「先輩の馬鹿! こんなので誤魔化されないから!」
「!?」
行かないでっていう私の気持ちを理解してくれないのか! 先輩の馬鹿! もう知らない!
何度目だ! このやり取り! 私が大学に入学する前からカウントして10回くらいか? その度私は文句を堪えつつも我慢してきたけどさ、いつもいつも「サークルの先輩が」って…そんなにサークルの先輩が大事ならその先輩(男)と付き合っちゃえ!
最後辺りの心の叫びを先輩に向けて吐き捨てた気がするが、私は言い捨てて逃げた。先輩の呼び止める声なんて無視だ!
もー腹立つな!
私は鼻息荒く怒りながら帰宅していたのだが、このまま帰るのもスッキリしないので、先輩の言いつけを破って寄り道することにした。
大学合格が分かってから、私はファーストフード店でのアルバイトを再開した。学業優先だからそう多くはシフト入れないけど、少ないお給料でも十分なお小遣いになる。
先月分のお給料も入ったことだし洋服でも見に行こうかと街に足を伸ばした。
大学に通い始めて思ったけど、人によって服装がぜんぜん違うよね。サークル荒らしの女王・光安嬢のような大人っぽいフェミニンファッションの人がいれば裏原宿だったり、カジュアルだったり、パンク系だったりとみんな個性豊かだ。
パンク系の人が成績優秀だったりして本当に驚かされることがある。あれかな。勉強のストレスをファッションで晴らしているのかな?
私は手持ちの洋服の中でも子供っぽくないものをローテーションしているが…段々レパートリーがなくなっている。そんな大量に洋服買う余裕なんてないし。
下はジーンズとかスカートを着回せばいいけど上がな…
手頃な金額の洋服を手にとって見比べていると、肩をポンと叩かれた。店員さんかな? と思ったけど店員さんは肩叩かないか。
…振り返った先には満面の笑みを浮かべた、新歓イベントのときの女性がいた。私は思わぬ相手の出現に持っていた服を落としそうになり、慌てて拾い上げた。
「久しぶりー! 買い物してたの?」
「あ、どうも…」
「そうだ、今からうちのサークルのメンバーの家でお茶会するんだ! 一緒に来ない?」
「え…」
お茶会?
私達から少し離れた場所には、彼女のサークルのメンバーらしい、男女学生が集っていた。…10人くらいいるだろうか?
結構な人数だけど……これ全員お家に入るんですか? 随分広い部屋なんだな。
気乗りしないし、この人の距離やテンションに違和感しかない私はやんわりお断りしようとしたのだが、いつの間にか沢山のサークル生に囲まれてしまっていた。四面楚歌な私は無理やり参加させられることになっていた。
…だって怖かったんだよ。数人に包囲されて説得するかのように勧誘されてさ。一度体験して合いませんでしたと言って逃げるしかないと思ったんだ…
周りを囲まれるようにして移動した先には、古ぼけた雑居ビルみたいな場所。
ここを割安で借りて住んでいるらしいけど…ここ住居用じゃなくない?
もうすでに胡散臭さがいっぱいなんだけど、私はしっかり両サイドの腕を掴まれていて逃げる隙がなかった。
ビルの一室に通されると殺風景で、冷たい床の上に絨毯が敷かれていた。この空間に不似合いな家具。それがアンバランスで異様であった。
女性からソファに座るように勧められが、私はやっぱり帰りたくて仕方がなかった。
申し訳程度の給湯室でお茶を入れている彼らを見て手伝おうとしたが、良いからとソファに座らされた。
…なんか、甘い匂いがする。なんだろうこれ…
嗅ぎ慣れない謎の甘い香りに私が眉を顰めていると、隣に知らない男性が座ってきた。
「何ちゃんっていうの? ここに参加するのはじめて?」
「…いや、あの…」
「かわいいねぇ、どこの学部?」
「………」
私の座る席の両サイドに男性。
何これ…すっごい嫌なんだけど。この人達パーソナルスペースって理解しているかな? 私が身を縮めて拒否感を示していると、彼らは何を思ったのか「男慣れしてないんだね」と言ってきた。
は? 違うし。
私は亮介先輩にしか興味がないんです! このたわけが!
なんだか段々加減腹が立ってきたので、ソファを立ち上がってお暇をしようとしたけど、腕を引かれてソファに逆戻りさせられた。
「まぁまぁお茶でも飲んで落ち着いて」
「……」
女性がニコニコ笑顔で差し出してきたのは何の変哲もないコーヒー。お茶じゃないんかい。
まぁ…出されたものだし…飲んだらテキトーに帰るか…
私は渋々コーヒーのカップを傾ける。
それをサークルの男性陣がニヤニヤして見ているなんて全く気づかずに、コーヒーを飲んでいた。
なんだろう、コーヒーを飲んだのだから頭がしゃきっとするはずなのに…
頭がフワッフワする…身体からも力が抜けていく感じがする。
グーラグーラ、と前後左右に揺れる私の身体を支えるように、隣に座っていた男性に支えられた。私はそれにハッとして体制を整えたが……何故か力が抜けていく…
手に持っていたカップを落とさないように回収されて……
私の意思とは裏腹に私の意識はどんどん闇へと沈んでいったのだ…
10
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる