攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

文字の大きさ
224 / 312
番外編

結局はお金で買える恋は偽物というわけだ。

しおりを挟む

「…先輩が私の飲み会の制限をしないなら、私も先輩の飲み会には目を瞑ります。それが出来ないなら先輩は剣道サークルの飲み会には参加しないで下さい」

 私の出した2択に先輩は、究極の選択を迫られたかの様な表情をしていた。そんなに迷うような事じゃないのに。

「…4年の相模先輩という面倒くさい先輩がいなくなるまでだ。…もう少し耐えてくれないか?」
「じゃあ先輩も私の参加する飲み会にはついてこないでくださいね」
「それは駄目だ。酒が入ると人間は豹変するから」

 おい、また振り出しに戻ってるじゃないか。先輩はわがまますぎる! 過保護をやめろと言っているだろうが!
 
「…なら私も先輩のこと束縛しますよ? 飲み会に着いていきますし、女性との接触をことごとく邪魔する重い女になりますよ? …それでもいいんですか…?」

 先輩と同じ事をするよ? それにうんざりする事間違いなしだ。
 ほら嫌だろう? 鬱陶しいだろう? どうなんだ?

「…ついてきてもつまらないぞ。俺が言うのは何だが、サークルの相模先輩という人はすごく癖があって、性格も良くないから…お前が嫌な思いをする可能性だってある」
「知りません。先輩が私を束縛するなら、私だって束縛し返します」
 
 そんなこと言っても私は引いてやらないよ。面倒くさい4年がいるのは聞いてた。だけどそんなの気にしない! 
 私は決めたぞ。先輩を束縛してやると。そうと決まれば剣道サークルの飲み会で先輩にベタベタくっついて牽制してやる。先輩を酒に酔わせてお持ち帰りを狙う女達なんて私が追い払ってくれるわ。
 
 先輩は「本当に楽しくないぞ?」と念押ししてくるが、私は曲げない。行くったら行くんだよ。私の意志が固いとわかると先輩は複雑そうな顔をして押し黙っていた。
 …先輩は私がどれだけ不安を感じているかわかっていない。私がホストクラブに行ったとわかって嫌な気分になったでしょう。それと同じくらい嫌な気分なんだよ。

「…先輩はひどい。私は先輩のこと大好きで大好きで愛しているのに、私の不安な気持ちを理解してくれないんですから」
「そういう訳じゃない。ただ…」
「私がホストクラブに行ったと知ってどう思いました? 嫉妬しませんでした? 他の異性に会いに行ったと知ってむかつきませんでした? …私は、先輩が飲み会に行く度にその気分で見送ってきたんです」

 私の言葉に先輩は苦々しい表情で閉口した。
 2週間ぶりくらいだろうか。先輩の顔をこんな近くで見たのは。…やっぱりどんなホストよりも先輩の方がかっこいい。
 ホスト……
 そういえば私は、先輩という彼氏がいながらホストクラブに行ったんだったな…これは善意有過失の浮気未遂になるんだろうか?

「…私もすみませんでした。浮気みたいな行動をとってしまって…だけど決してやましい気持ちで行ったのではありません! それだけは信じてください!」

 元はといえば、私がホストクラブに行ったことが冷戦の原因なのだ。自分の意志ではないとはいえ、自分の非は詫びないと。この間は虫の居所が悪くて、ついつい不満をぶちまけるついでに先輩に反発しちゃったけど、全面的に私が悪いよね。

「……こういう事を秘密にするのはやめろ。お前の口から聞かされるのと、別の人間から聞かされるのとじゃ受取り方がだいぶ変わるんだから。…もう行くなよ」
「行きませんよ! だって先輩よりもかっこいい男はいませんでしたもん。どんなに口説かれても先輩に敵う男なんていません…黙っててゴメンなさい」

 8千円払うなら、先輩と美味しいもの食べに行ったほうが楽しかったに違いない。…黙っていたことは本当にごめんなさい。
 先輩はまだなにか言いたそうな顔をしていたが、私の頬をまた掴んでブニュッと潰してきた。これで仲直り成立らしい。
 なぜ彼女の頬を潰してブサイクにしたがるのか。悔しいから私もやり返していたけど、先輩は頬の肉があまりないので思ったような顔にはならなかった。
 顔を潰してもイケメンだって言いたいのか! それとも私が太ったと言いたいのか!

 交番前で先輩と頬潰し合戦をしていたが、私だけがチャウチャウ犬みたいになっていると「そこにいるバカップルは亮介と田端姉か?」と帰宅途中の大久保先輩に声を掛けられた。

「今回の喧嘩長かったな。…亮介はお前と何かあるとイライラして始末に負えないからあんまり喧嘩すんなよ」
「…すいません」
「コイツ、お前が追われているのを発見した時の行動速かったぞ。流石、田端姉のセ○ムだよな」
「健一郎、余計な事言うな」

 そういえば大学から追いかけてきたんだよね…だけど今回は1人で大丈夫だったし。…セコ○ってなによ。人を監視対象みたいに…

「ご心配には及びません。私は今回、1人でか弱き女性を救う事ができましたので!」
「今回はたまたまだ。調子に乗るな」

 ゴチッと軽く小突かれた。痛くないけど口から「あいてっ」と言葉が漏れる。

「まぁ痴話喧嘩も程々にしろよ。じゃーな」
 
 大久保先輩は私達を冷やかして、アッサリ去って行った。

「お前は退化してないか? 高2の時に逆戻りしてるじゃないか」
「そんなことないですよ! 失礼な! 私は二十歳の大人の女性なんですよ!?」
「大人ならもうちょっと落ち着いてくれ」

 長めの冷戦期間をおいていたが、仲直りを終えると喧嘩なんて何となかったかのように、私達は肩を並べて駅の改札まで歩いて向かった。何も言わずにお互いの手をつないで、二人仲良く帰宅したのであった。



 あの悪質ホストクラブ事件の後日談になるが、私達だけの被害で終わるかと思っていたこの一連の流れ…話はドンドン大きくなっていき、自分たちが思っていたよりも被害者の数が多いということが判明した。
 あのホストクラブでは違法脱法を繰り返していた。料金形態の説明をおろそかにした挙句、わけのわからないサービス料をつけたり、ツケの請求で言葉巧みに、時には脅しをかけて売り飛ばした風俗店の紹介料だけでなく、売上金から数%天引きして、その上ツケという名の借金も取り立ててボロ儲けさせていたそうだ。
 その悪巧みは店全体、グループ店全体で行われており、沢山の人間が悪事に加担していたそうだ。他にも新たにボロが出てきていて、現在余罪を捜索中だそうだ。

 金づるとして狙われたのは地味めな如何にも男慣れしていなさそうな若い女性。特にモノの善悪の付かなそうな純粋な女性、一人暮らしをしている女性をターゲットにしていたそうだ。
 頼れる親が傍におらず、慣れない地にひとりの心細い女性のその心の隙間を利用して甘い言葉をかけ、依存させて、借金漬けにしたら風俗に売り飛ばす。そんな手口を繰り返して、年間数千万円の収入を得ていた。
 そしてホストとして女性を落としていたのは、ホストクラブの人間からスカウトをされた見目の良い若い男性達。彼らは金儲けの話を聞かされてそれに乗ったというわけだ。女を騙して手に入れた金は、生活費、学費に、あるいは遊ぶ為・別の女性に貢ぐ為に使われたという。

 やり方が完全に裏社会の人間のやっていることだったので、お店にガサ入れが入って、その後そのことを知った被害者女性たちが続々被害を訴え始めたと言う訳らしい。
 加担した奴らはもちろんタダじゃ済まない。無傷ではいられないであろう。
 あとは警察におまかせコースである。

 幸本さんは後日お母さんと一緒に詫びを入れに来てくれて、私に感謝していた。それと、今後は心を入れ替えて勉学に励むと言っていた。もう変な男に引っかかるなよ。


 蛇足だけど、彼氏様が私のママンにホストクラブ事件の顛末をチクったので、私は二十歳にもなって般若の顔をした母さんに説教された。彼氏の前で公開説教されたのだ。
 先輩やっぱりまだ怒っているでしょう…なんでチクるのさ…

 過去のことを振り返っても人は前に進めないのよ!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

処理中です...