攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

文字の大きさ
223 / 312
番外編

ひとりでできるもん! 私はやってやるぞ!

しおりを挟む

 私は幸本さんの腕を掴んだまま、走りに走っていた。追手を撒くのではなく、最短距離で駆けてく。通行人がギョッとして私達を目で追ってくるが、それを気にしている余裕なんてなかった。
 捕まるわけにはいかないのだ。狡猾な手段で女性を陥れようとする男たちなんかに屈してはならない!

 幸本さんに檄を飛ばしながら走り続けると、大学の最寄り駅の直ぐ側にある交番がやっと見えてきた。交番の入口に特攻した私は大声で助けを求めた。

「すいません! 追われています助けてください! ついでに追いかけてきた人を捕まえてくださーい!」

 奥の方でお仕事をしていたお巡りさんは目を丸くして此方を見ている。驚かせてすみません。だけど危機なんです。助けてください。
 私は安全なテリトリー内から外の様子を窺った。外には私を追いかけてきたホストの姿が人混みの中にあった。相手は交番を見て狼狽えている様子であった。

「あいつです! スーツのホストっぽい男がこの子を風俗に売り飛ばそうと大学構内にまで入ってきたんです!」

 私は声高らかに犯人を指差した。相手はお巡りさんに怖気づいて後ずさっていたが、動きが不審だったこともあり、交番から出てきたお巡りさんに捕まって職務質問をされていた。

 私に引っ張られながら走って来た幸本さんは苦しそうに呼吸しているが、彼女にはまだまだ任務がある。休んでいる暇はないよ。

「ほら幸本さん、被害を打ち明けなさい。泣き寝入りしてたら、お水の世界で働かなきゃいけなくなるよ」
「でも…私は」
「散々人に迷惑を掛けておいて、自分が親に怒られたくないからって言い訳はよしてね?」

 幸本さんの瞳には涙が滲んでいたが、私は容赦しない。お巡りさんの前に座った私は幸本さんの腕をしっかり握って、口を開いた。

「私が事情を知ったのは、彼女の騙し討ちでとあるホストクラブに連れて行かれた時なんですけど…」

 私が知っている事情をお巡りさんに説明し始めると、幸本さんが隣でウックヒックとしゃくりあげ始めていたが、私はそれに構わず続けた。

「それで…」
【♪♫♬…】
「あーもうこんな時に! うるさい!」

 聴取中にタイミング悪く先輩から電話がかかってきたので、留守電設定にしておいた。今忙しいんだよ! 
 私が一生懸命説明しているのを隣で聞いている内に幸本さんも腹をくくったのか、ボソボソと事情を語りだした。時折感情的になって泣き喚いていたので、お巡りさんが苦笑いしていた。
 だけど彼女は、ホストの夢からようやく目が覚めたようで、私はホッとしていた。

 
 事情聴取の際、事を重く受け止めたお巡りさんによって幸本さんのお母さんに電話が行った。警察から受けた電話にお母さんはすぐにこっちに向かうとのことだった。多分これで幸本さんはもう大丈夫であろう。
 幸本さんの実家は隣県のためお母さんの到着は時間がかかったけども、高速道路を飛ばして急いでやってきたようだ。化粧なんて申し訳程度で、服は普段着。本当に娘のことを心配して慌ててやって来たように見えた。

 幸本さんのお母さんは娘を見るなり、キッと目を吊り上げていた。そして右手を振り上げると、娘の頬を思いっきり張ったので、パーンという破裂音が交番内に響いた。

「何してるのあんたって子は! …こんな事させるために大学進学させたんじゃないのよ!」
「ご、ごめんなさい…」
「学生の分際で何をバカなことしているの! ホスト? 風俗? …お父さんが聞いたら泣くわよ!? 勉強しないなら大学を辞めてしまいなさい!」

 幸本さんは頬を抑えて項垂れ、泣いていたが、これはお母さんの愛のムチなのだと思うよ。しっかり叱られなさい。

 私はそこでお役御免となった。私の被害は少額だし、訴えても金は戻ってこない気がする。
 何かあれば証言しますとお巡りさんに連絡先だけ渡しておいた。

「あの、田端さん!」
「…幸本さん?」

 交番から出る手前で幸本さんから呼び止められた。お母さんに今しがた叩かれた頬が赤く腫れている幸本さんは泣き顔だが、どこか安心したような表情をしていた。

「一緒に逃げてくれてありがとう! それと迷惑かけてごめんね」
「本当にありがとう。この子が迷惑かけてしまった分のお詫びは後日改めてさせて頂きますね」

 幸本親子からお礼を言われた。
 電話番号聞かれたので、お母さんに連絡先を教えて、そこで彼女たちと別れた。
 お節介だったかもだけど、いい事したなと私の心は晴れ晴れとしていた。無事やりきってみせたぞ!
 自分へのご褒美になにか買って帰ろうかなとスッキリした気分で交番から一歩外に足を踏み出した。

 すると何故か、交番の外には彼氏様(絶賛冷戦中)がいた。彼は植え込みのレンガの囲いを椅子代わりにして、参考書を開いて座っている。
 私が交番から出てきたのを確認すると、参考書を鞄に戻してゆっくり立ち上がった。

 …えっ? 何でここにいるの? 
 私のスマホ、GPSか何か設定してたっけ? 電話も会話せずに切ったのによく居場所がわかったね。

「…何か用ですか?」

 私は先輩を胡乱に見上げた。
 お説教なら結構。私はひとりでやりきりましたから怒られる謂れはなくてよ。

「…大学内でお前が男に追いかけられてるのを見かけた。その後を追いかけたけど姿を見失ったから、その辺りの人に聞いて回ったんだ。…見つけた時は事情聴取中だったから、交番の外でずっと待ってた。……何してるんだ本当に」

 苦々しい表情で私を見てくる先輩。
 また…過保護か。私の中に残っていた反発心が飛び出てきた。

「もう解決しました。先輩が心配するようなことは何もありませんよ。私はひとりでも解決出来るんです」

 私は仁王立ちをして自信満々に言い放った。
 どうだ、私は成長したんだぞ。いつまでも彼氏に甘えきっている子供じゃないんだからな…!

「…お前」
「私だってやればできるんですよ! 風俗に売られそうになった女の子を見事救出してみせましたよ。すごいでしょう?」

 なんなら褒めてくれてもいい。今の私は達成感に満ちていた。

 ブニュッ
「……なにひゅるんでふか」
「…俺も悪かったから…1人で暴走するのはやめてくれ」

 言ってる事とやってる事が矛盾してるよ。なぜ私の頬を握りつぶすんだこの人。

「男に追い掛けられているのを見かけて…心臓が止まるかと思った」
「……」
「…束縛野郎だと罵ってもいいから、危ない事に足を踏み入れるな。心配かけさせないでくれ…」 

 私はジト目で先輩を見上げた。彼はシリアスな空気を醸し出しているが、私は頬を潰されてとてもブサイクな顔にされている。シリアスにしたいのか、コミカルにしたいのかどっちだ。まさかこの顔も可愛いとか言い出すんじゃないだろうな。
 …そもそも、私が一番イヤなのは束縛ではない。先輩が合コンもどきの飲み会へ参加してるのが私は大変不満なのだ。
 それを先輩は全く理解していない。私は頬を掴んでいる先輩の大きな手を振り払い、キッと睨みつけた。

「…束縛野郎、私が不満に思っていることはそれじゃありません。幾らサークルの先輩に逆らえないからって合コンに参加していることが許せないのです」
「…それは」
「束縛野郎は私の飲み会にはついてきて行動を制限しますが、私は信用されてないようでとても悲しいです」

 私のことを少しは信用してくれないか。束縛ということは信じてもらえない事と同義だと思うのだ。
 私の言葉に先輩は難しい顔をしていた。理解してもらわないと、また同じことでぶつかる。それならここでハッキリ決断してほしい。

「束縛野郎」
「やっぱりその呼び方止めてくれ」

 自分で罵ってもいいって言ったくせに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?

夕立悠理
恋愛
もうすぐ高校一年生になる朱里には、大好きな人がいる。義兄の小鳥遊優(たかなしゆう)だ。優くん、優くん、と呼んで、いつも後ろをついて回っていた。  けれど、楽しみにしていた高校に入学する日、思い出す。ここは、前世ではまっていた少女漫画の世界だと。ヒーローは、もちろん、かっこよくて、スポーツ万能な優。ヒロインは、朱里と同じく新入生だ。朱里は、二人の仲を邪魔する悪役だった。  思い出したのをきっかけに、朱里は優を好きでいるのをやめた。優くん呼びは、封印し、お兄ちゃんに。中学では一緒だった登下校も別々だ。だって、だって、愛しの「お兄ちゃん」は、ヒロイン様のものだから。  ──それなのに。お兄ちゃん、ちょっと、距離近くない……? ※お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね? は二人がいちゃついてるだけです。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

処理中です...