攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

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番外編

犬はアクセサリーじゃない。そして犬友はマウンティングの道具でもない。

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 走り回って疲れ切った私が芝の上に座り込むと、先輩が代わりにワンちゃんたちとボール遊びを始めていた。
 一部のワンちゃんたちと先輩は楽しそうにボール遊びに興じている。その他の犬達は私の周りに集って、さらなる遊びを要求しているけどね…犬専用遊具で遊んだり、追いかけっこしたりで私は疲れた。わかる? パ○ラッシュ、私疲れたんよ…

 ワンちゃんたちの飼い主は、ワンちゃん放ったらかしでおしゃべりに興じている。
 おいおい、自分の愛犬から目を離すなよ……
 全く、赤の他人である先輩が厚意で相手しているってのに。自分たちは放し飼いですか。 

 それに比べてさっきのスパニエルのココアちゃんの飼い主さんは、しっかり自分の愛犬を見ていた。犬同士の交流は大事にしているようで、愛犬のココアちゃんが他の犬と遊んでいるところには手出し口出しはしないようだ。
 ワンちゃんは仲間が必要だもんね、ココアちゃんのために犬友会に参加してるのかな。人間には厳しくとも、愛犬には優しい人なのかもしれない。


「ごめんねーたくさん遊んでくれて。あそこに併設のドッグカフェがあるからお茶しましょう。お腹すいたでしょ? おばちゃんが何でもごちそうしてあげるから!」
「そんな悪いよおばちゃん」
「いいのいいの。橘君も遠慮しないでね!」

 お昼も過ぎたので、軽くランチを兼ねてお茶をしようとおばちゃんに誘われたので、併設のカフェでランチをごちそうになった。
 私はハヤシライス、先輩はハンバーグを頼んだ。ドッグカフェらしく、骨の形に盛ったご飯が出てきて、ワンちゃん専用の小包装ジャーキーもおまけで付いてきた。これは後でタロくんにあげようとポケットに仕舞っておいた。

 食事をしている間、犬友マダムたちの口から出てくるのは、犬に与える餌やおやつへのこだわり、犬の自慢、挙句の果てに他人のワンちゃんを自分の手柄のように自慢するという、正に犬友マウンティングである。
 いや、うん…マウンティングはされたことあるからわかるけど、年齢が変わって、状況が異なっていてもマウンティングしちゃうんだね……自分の子が一番と思う気持ち誰しも持っている感情なんだろう。
 だけど……相手が与えている食べ物を否定した挙げ句に、自分はこんなにも体にいい餌やおやつをあげているんだとアピールするのは、相手が不快に思うだけだ。
 相手のことを否定せずに、おすすめする程度に抑えたらいいのになぁ。犬を飼っていない私は口出ししにくかったので、静かに食事をしながら聞き流していた。

 そんな中で、やっぱりココアちゃんの飼い主さんはマウンティングな会話に入らずに、ココアちゃんのために注文した、ジャーキーを与えていた。ココアちゃんは嬉しそうにそれを噛んでいた。
 犬用のヤギミルクとジャーキーを与えている飼い主さんの表情は優しかった。ココアちゃんを我が子のように慈しみ、大事に思っているのが伝わってきた。

 うん、やっぱりいい飼い主さんなんじゃないか。
 私がじっと見ているのに気がついたのか、ココアちゃんの飼い主さんは怪訝な表情で私を見返してきたので、私は会釈してサッと目をそらした。つい、まじまじ見すぎてしまった。



 午後もワンちゃん達と戯れ、解散の時間を迎えた。ワンワン接待がようやく終わる…

「そうだ! 今日はね、あやめちゃんがワンちゃんのためにビスケットを焼いてくれたの!」

 さつまいもを練り込んだシンプルなビスケットはおからパウダーで作った。タロくんはこれが大好きなんだ。 
 おばちゃんが犬友さん達にそれを配っていると、ありがとうと声を掛けられた。喜んでくれて何よりだ。

 だが、問題は起きた。
 ココアちゃんの飼い主さんが受け取り拒否したのである。

「うちの子に変なものあげられないわ!」
「変なものって…忙しい合間を縫ってあやめちゃんが作ってくれたのに、ちょっと失礼じゃなぁい?」

 ムッとした様子の加藤のおばちゃん。だけどさっきマダムたちがドッグカフェでしていた会話の内容を思い出すと、私もでしゃばった真似をしてしまったかなと感じた。

「いいの、おばちゃん。気にしないでください。これはタロくんの好物なので、たくさんあってもタロくんが消費してくれるので大丈夫ですよ」

 私が割って入ったことで加藤のおばちゃんは引いてくれた。その顔はまだ不満が残っているが、ここは争いの種を残さずに爽やかに別れたいじゃないか。
 私は他人だけど、おばちゃんたちは犬を介した友達なのだから。ワンちゃんのために引いてくれ。

「皆さん、ワンちゃんの餌やおやつにこだわりを持っていらっしゃるのに、でしゃばってお菓子作ってきてすみませんでした。アレだったらここで回収しますので」

 私は犬友マダムたちに頭を下げた。タロくんが好きだから他のワンちゃんもという考えがそもそも浅はかだった。
 先程までの和やかな空気が微妙な空気に変化した。ココアちゃんの飼い主さんが注目の的となり、なんだか嫌な雰囲気になったので、私はフォローするべく、なるべく明るい声で話しかけた。

「飼い主さんはココアちゃんをとても愛しているんですね。食べるものを気遣うだけでなく、ここにいる間もずっとココアちゃんを見守っていらっしゃった。…飼い主さんを見てたらなんとなくわかりますよ。私は全然気にしてませんから!」

 私のせいでココアちゃんの活動先が無くなってしまうのは心苦しい。犬は群れる動物だ。友達がいなくなるのは可哀想過ぎる。

「キャワン!」

 この微妙な空気を敢えて理解しなかったのか、ココアちゃんが私に飛びついてきた。飼い主さんがリードの紐を手放してしまったからである。

「ほら、ココアちゃん。飼い主さんのもとに戻ろうね」

 なるべく触らないようにして、リードを引っ張って飼い主さんのもとに連れて行くと、飼い主さんは罰が悪そうな顔をしていた。
 彼女はさつまいもおからビスケットの入った袋を手に取ると、それを半分に割って……サクサク音を立てながら食べた。それには犬友マダムたちもポカーンとしている。
 ……いや、人間でも食べられるものだけど、ワンちゃんのために作ったんだけどな……?
 ビスケット半分を食べ終わった彼女はココアちゃんに視線を向けた。
 
「……ココア、おすわり」

 飼い主さんの声に即座に反応したココアちゃんはシュバッとその場におすわりして次々出てくる命令に忠実に答えていた。
 そして半分残しておいたさつまいもおからビスケットを手づから与えていた。

「…ごちそうさま。悪かったわね。きつい言い方して」

 何事なの? さっきまであげたくないって突っぱねていたのに…毒味して大丈夫そうだから与えたとでも言うの…?
 ココアちゃんが「美味しかった! もうないの?」と目で訴えかけているが、君の分は飼い主さんが半分食べたからもうないよ。

「…ココアに触りたかったら触ってもいいのよ」

 別にすごく触りたいわけじゃないです。とは言えない空気だったので、私は言われるがままココアちゃんを撫でまくった。
 ココアちゃんは目を細めて、キュフキュフと気持ち良さげな声を漏らしている。いい毛並みだ。しっかり手入れされてるね。
 
「……あなた、柴犬が好きなの?」
「あ、いえ…これは柴犬飼いの知人が贈ってくれた服で…」
「キャバリア・キングチャールズ・スパニエルも可愛いと思わない?」
「……そうですね…」

 なんだ、その犬種の服を着ろって言いたいのか? ココアちゃんは可愛い。これには同意してやろう。だけど変な圧力をかけないでくれないか。
 
「ワォン!!」

 その直後、嫉妬したタロくんに突進されて、私は地面に倒れこんだけど、ココアちゃんはしっかり守ったので無事だ。
 タロくん、君体重20キロくらいあるから本当に加減してくれ。
 先輩がタロくんをどかしてくれたけど、私が着てきた服は更に土埃だらけになってしまった。


 
 ドッグランを後にした私達は加藤のおばちゃんの車で家まで送ってもらった。これでお別れするのはなんだ。折角なので先輩を家に招こうと玄関の門扉を開いた。
 すると、先輩が「あやめ」と名前を呼んた。私は足を止めて振り返る。

「俺の出る幕はなかったな」

 何故か先輩は苦笑いをしてそんな事を言ってきた。私は目を瞬かせて首をかしげた。

「え? 何かありましたっけ?」
「放っておいたらすぐに何かしらのトラブルに巻き込まれるだろお前。だけど自分でちゃんと解決できていたな」

 褒めているのか貶しているのか…。
 ココアちゃんの飼い主さんのことを言っているのか? 私だってもう大人だ。丸く収めるすべくらいは身につけているさ。

「先輩、もっと私を褒めるのです。犬と同じで私は褒められて伸びるのです」
「…安心したところでお前はまた変なことに巻き込まれるからなぁ」

 先輩はため息交じりに私の頭をワシャワシャしてきた。
 そんなことないよ。私はいつでもベストな道を選んでる。…先輩に頼ってばかりのか弱い女の子ではない。いつまでも男の背に隠れたままの女でいたくない。

「先輩が警察官になったら、市民を守る事になります。いつまでも私のことばかり気にすることは出来ないです。…ですから、私も気をつけるように努力しているんですよ?」

 “私”よりも“公”を優先しなければならなくなるのだ。国のために働くというのはそういうことである。
 私だってそのくらいわかっている。覚悟はしている。来年からは公務員試験が待っており、いよいよ先輩の夢へ向かってするのだ。
 私はそれを見守っていたい。大事な時期に先輩の気を散らすような真似はしないのだ。
 
「先輩の足かせにはなりません。私は先輩の支えになるのです」
「…それは頼もしいな」

 先輩がフッと笑ってくれた。
 その笑顔で自信がついた私はドンっと拳で胸を叩くと、自信満々に宣言した。

「ですから大船に乗ったつもりでいてください!」
「それとこれとは別の話だけどな」

 ちょっと! 今すごくいい雰囲気だったのになにそれ! そこは彼女を信じてうなずく場面でしょう!?
 私が先輩の胸をベシベシ叩いていたら、玄関が開いた。

「あら亮介君! …あやめ何してるの、立ち話してないで入ってもらいなさい。今日はサンマなのよ。和真がお友達と遊んで来るから夕飯いらないって言ってきてね、余ってるから亮介君食べていって」
 
 中から出てきたのは母さんだ。ご近所迷惑だから外で騒ぐなと注意されてしまった。私の声は思いの外、響いていたらしい。私の宣言がご近所様に筒抜けになっていたらどうしよう。
 
 その日の晩御飯は秋の味覚サンマ。
 不漁続きとは聞くが、綺麗で身のつまったいいサンマであった。


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