リナリアの幻想〜動物の心はわかるけど、君の心はわからない〜

スズキアカネ

文字の大きさ
6 / 137
この恋に気づいて

応えてくれない元素達

しおりを挟む
 魔法魔術学校での授業は座学から始まった。
 何事も基礎からということで基礎中の基礎から学ばされた。
 一般塔に通う学生たちは魔法の知識が浅い人ばかりだ。わかりやすくかみ砕いた表現で先生達が教えてくれるのだけど、耳慣れない単語が入ってくると混乱しそうになる。

 だけどここで置いて行かれたら後で苦労することになるだろう。
 授業中は必死に先生の話を聞いて、寮に戻ってからは復習した。本格的に実技を習うことになった時に自分が困らぬよう、一生懸命に。

「では、前回習った内容から問題を出します。分かる人は手を挙げて答えてみなさい。──我々の周りに存在する、目に見えない元素の存在について、彼らはどのような存在だと考えられていますか?」

 魔法基礎学の先生が問題を読み上げる。私は慌てて前回習った内容を確認しようとノートの頁をめくった。

「はい。僕たち魔術師が唱える呪文に応じて、術者の魔力と等価交換する形で力を貸してくれる妖精のような存在です。彼らには意思があり、呪文無しで勝手に助けてくれることもあると言われております」

 手を挙げようとしたが、その前に他の人が答えてしまった。私の3列前の席に座る、ダークブロンドの髪の彼は背筋をピッと伸ばしてハキハキと発表していた。

「流石クライネルト君。正解です」

 早い。しかもつっかえることもなくすらすらと……
 クライネルト君は自習でもしてきたのか、どの授業でもどんな問題でも率先して手を挙げていた。もちろんわからないところは先生に教えを乞うている。その姿勢は一般塔所属の新入生のなかでも抜きん出て熱心だった。
 勤勉家で名家出身の彼はクラスの中でも浮いていたけど、先生方からの覚えもめでたかったこともあって皆から一目置かれていた。

「あいつの家有名なんだろ。どうせ家庭教師に習ってるんだって」
「なんだよそれ、ズルじゃん」

 負け惜しみみたいなことをこそこそ言う人もいたが、表立って嫌がらせしてる人はいなかった。

 特別塔にいる王侯貴族出身の生徒たちは入学前から魔法の勉強をしているそうで、私たちよりもレベルの高い授業を受けていると聞く。おそらく代々魔術師家系出身のクライネルト君も家で基本を学んでいるはずだから、今の授業は彼には簡単過ぎると思う。
 実際に眷属の契約について調べたら、本来であれば5年生で習う内容だった。彼の実力はこのクラスと合っていないと考えられる。

 彼に関しては交流関係も謎過ぎた。
 噂によると、特別塔の貴族のお姫様から声をかけられている姿を見かけたって話も聞く。平民と貴族の接触は最小限にするために隔離されているのに一体どこで…? と思ったけど、そこは貴族の権力を使ったのだろう。
 入学した時からただ者じゃないのはわかっていたけど、ますます彼がこの一般塔にいるのが謎に感じる。

 彼は人を寄せつけないわけじゃない。話しかけられたら普通に話す。だけど基本一人行動を好んでいた。休み時間や放課後には図書室の窓辺で本を読むことが多かった。
 美麗な彼を一目見ようと女子達が盗み見しようとして、図書室の司書さんが怒って追い出したとかそんな騒動も聞こえてきた。そんな中でもクライネルト君は静かに穏やかに過ごしていた。

 同じ平民身分で、同じクラスの人だけど、遠い世界の人。
 ルーカス・クライネルト君のことはそんな風に感じていた。


◇◆◇


 ぽひゅん……

 間抜けな音を立てたのは私の手の平から発した魔法だ。
 呪文を唱えたのに、出現したのは小さな風だけ。

「我に従う元素達よ、我に力を貸し給え」

 しーん。
 今度は無反応だ。
 私の周りでは元素に呼び掛けて魔法を発生させている人ばかりなのに、私は残り汁みたいな物しか出現させられない。
 呪文を間違えた? いやそんなまさか。

「我に従う元素達よ! 我に力を貸し給え!!」

 何度も何度も元素に呼びかけたけど、私に力を貸してくれる元素は現れなかった。

「基礎ができないと次の授業ができないから今のうちにできるようになって貰わないと困るんだよねぇ」

 先生に救いを求めると、先生は困った顔をしていた。
 困っているのはこっちなんだけど。コツを教えるとかそういうのはないのだろうか。
 先生には隣についてもらって呪文を唱えたけど、やっぱり無反応で。

「こう……周りにいる元素の気配を探ってみて?」

 そんなこと言われてもわからないし、元素達が応答してくれないんだから仕方ないじゃない。クラスメイトはみんな成功しているのに、クラスの中で私だけがなにもできなかった。

「ブルーム、お前まだできてねぇの?」
「こんな簡単なこと出来ないってヤバいぞ」

 クラスの男の子達が小馬鹿にしてからかってきた。
 私はそれにぐっと唇を噛み締めた。図星だからなにも返せない。

 故郷でも同級生から心ない言葉を吐き捨てられて来た。野次やからかいは慣れているはずだったのだが、今に限ってはその言葉が心に深く突き刺さった。
 多分同じ魔力を持った彼らを仲間だと思っていたから、余計に傷ついたのだ。

 瞼にかぁっと熱が集まってきて、涙が溢れそうだった。この中で私だけができなかった。それが恥ずかしくて悔しくて悲しくて、泣きたい気持ちにさせられた。

「クライネルト君、君は一番最初に成功させたね。同じクラスのよしみだ、ブルームさんにコツを教えてあげてくれないか」
「構いませんけど……」

 指導することを放棄した先生は、秀才のクライネルト君に私の指導を投げた。それに優等生のクライネルト君は嫌な顔一つせずに了承していた。
 泣きたい気分なのに、優等生と一緒に練習させられるってすっごい複雑。いや、あっちは面倒で迷惑だろうけど。

 ちょうど最後の授業だったため、私とクライネルト君だけが実技場に居残って呪文の練習をすることになってしまった。

「じゃあ、早速だけど呪文を唱えてみて」
「はい……我に従う元素達よ、我に力を貸し給え」

 言われるがまま唱えてみたけど、不発に終わる。
 私はいたたまれなくて俯いて地面を見下ろした。
 何故できないのか。私の属性だという土の元素達、何故応えてくれないのか。

「ブルームさんの属性は?」
「……いい、自分でなんとかするから」
「え?」
「大丈夫! 人がいるから気が散って出来ないのかもしれない。一人で頑張ってみる!」

 クライネルト君は真面目に私の魔法指導をしようとしてくれていたみたいだけど、私はどうしても耐えられなくなって彼の助けを跳ね退けた。このままだと時間の無駄だし、迷惑しかかけない気がするんだ。
 戸惑った顔をする彼に私は更に言い募った。

「私、自力でできるようになりたいの」
「そうは言うけど、基礎がなによりも大事なんだよブルームさん。このままじゃ君は次の実技に移れない。みんなに置いて行かれることになるんだよ」

 そんなのわかっている。わかっているから言っているんだ。
 ひとりになって集中したら出来るかもしれないじゃない。
 これ以上他人に、親しくもない同級生に情けない姿を見られたくなくて私は意地を張ったのだ。


◆◇◆


「はぁ……」

 無理矢理クライネルト君を帰した後、ひとりで自主練していたけど結局魔法は使えなかった。……どの元素も、私に力を貸してはくれなかったのだ。

 それなのに体は妙に重怠かった。
 これは動物達に「痛いの痛いの飛んでいけ」で治療してあげた時、一定の力を使った後に訪れる症状と同じだった。恐らく、無意識のうちに私の中にある魔力を外に放出させていたのだろう。結局魔法は使えなかったのにも関わらず、である。
 寮の部屋に戻ると、同室者のプロッツエさんは不在だった。まぁ、朝晩に挨拶をするだけの関係性だからもういいんだけどさ。

 ──どうして元素達は応えてくれないのだろう。
 動物達の悪いところを治すときは快く力を貸してくれたのに、どうして──…

 そのまま自分のベッドに横になると、休息を求めていた体は眠りに落ちていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

猫になった悪女 ~元夫が溺愛してくるなんて想定外~

黒猫子猫
恋愛
ディアナは欲深く、夫にも結婚を強いた悪女として知られた女王だ。当然のように人々から嫌われ、夫婦仲は悪く、病に倒れた時も誰も哀しまなかった。ディアナは、それで良かった。余命宣告を受け、自分の幸せを追い求める事などとうに止めた。祖国のためにできる事は全てやった。思うままに生きたから、人生をやり直せると言われても、人間などまっぴらごめんだ。 そして、《猫》になった。日向でのんびりと寝ている姿が羨ましかったからだ。いざ、自堕落な生活をしようと思ったら、元夫に拾われてしまった。しかも、自分が死んで、解放されたはずの彼の様子が妙だ。 あなた、隙あらば撫でようとするの、止めてくれる? 私達は白い結婚だったでしょう。 あなた、再婚する気がないの? 「お前を愛したりしない」って嬉しい事を言ってくれたのは誰よ! 猫になった孤高の女王×妻を失って初めて色々気づいてしまった王配の恋のお話。 ※全30話です。

お兄ちゃんは、ヒロイン様のモノ!!……だよね?

夕立悠理
恋愛
もうすぐ高校一年生になる朱里には、大好きな人がいる。義兄の小鳥遊優(たかなしゆう)だ。優くん、優くん、と呼んで、いつも後ろをついて回っていた。  けれど、楽しみにしていた高校に入学する日、思い出す。ここは、前世ではまっていた少女漫画の世界だと。ヒーローは、もちろん、かっこよくて、スポーツ万能な優。ヒロインは、朱里と同じく新入生だ。朱里は、二人の仲を邪魔する悪役だった。  思い出したのをきっかけに、朱里は優を好きでいるのをやめた。優くん呼びは、封印し、お兄ちゃんに。中学では一緒だった登下校も別々だ。だって、だって、愛しの「お兄ちゃん」は、ヒロイン様のものだから。  ──それなのに。お兄ちゃん、ちょっと、距離近くない……? ※お兄ちゃんは、彼氏様!!……だよね? は二人がいちゃついてるだけです。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

Catch hold of your Love

天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。 決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。 当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。 なぜだ!? あの美しいオジョーサマは、どーするの!? ※2016年01月08日 完結済。

処理中です...