リナリアの幻想〜動物の心はわかるけど、君の心はわからない〜

スズキアカネ

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乱れる乙女心

忍び寄る手【三人称視点】

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 シュバルツ王国の東部にある港町モナート。
 ここには毎日、異国の船が港に到着しては荷物が運び込まれていく。人通りが多いこの土地は人の出入りも激しかった。

 新参者が来たとしても通常であれば誰も見向きしない。なのだが、目立つ人間は別である。
 この町にそぐわない、黒マント姿の人物はフードを深く被って顔を隠していた。隠れているのかもしれないが、余計に悪目立ちしていた。

 その人物はある少女を探していた。

「リナリア? 家族でどっかに引っ越したよ」

 店番をしていた少年はそう言ってあしらうように手を振った。その少年は探し人の元同級生だった。そして彼女を仲間外れにしていたグループの一員でもあった。

「関わるのはやめとけよ、あいつに殺されるぞ。手を出した奴は瀕死になったらしいから」

 この町のとある評判の悪い男が、欲望に任せてリナリアに手を出そうとして殺されかけたという事件はこの町じゃ有名だ。
 殺されかけた相手はこれまでもたくさんの女性を襲ってきたというので同情もしないし、罰が当たったんだと、この辺に住むもの皆が口には出さないけど同じように思っている。

 廃墟となった家に竜巻が起こり、あっという間に家を分解させて、そこら一帯を丸裸にしてしまった。それだけでなく襲ってきた相手を瀕死に追いやったのだ。

 少年は今まで小馬鹿にしていた幼馴染の恐ろしい力を目の当たりにしてしまい、いまさらながらに脅威を抱いていた。
 今度関われば自分が半殺しにされてしまう。関わるのは勘弁だと言わんばかりに吐き捨てると、商売の邪魔だからと言って尋ね人を追い払った。

 見るからに怪しい、マントを被った人物は諦めずに次なる情報を求めて、他の場所にも足を運んだ。
 そして聞き込みをしていると、他の住民からとある情報を得られた。

「ブルーム商店の倉庫は残っているからそっちに聞けば引越先はわかるんじゃないか?」

 でもリナリアになんの用なんだ? という住民のごもっともな疑問には答えず、マントの人物は教えてもらったブルーム商会の倉庫に向かった。
 海沿いの広い敷地にでんと構えられた倉庫。そこでは船から荷下ろしした商品を仕分けする男たちが忙しなく動き回っていた。海の向こうから仕入れた商品を管理するこの倉庫はいつもこんな感じで忙しい。

 見るからに忙しそうなのだが、マントの男は目的の少女の姿を見つけるために倉庫隅でじっと現場を眺めている男性に話しかけた。

 ──ここの商会の娘はどこに引っ越したのかと。

「リナリアお嬢さんになんのご用で……? そもそもあんたは誰なんだ。役人ではないよな」

 しかしこれまで話してきた住人達とは反応が異なっていた。
 商会では古株であるその男性はリナリアの事情をよく知っていた。そしてリナリアが引っ越した理由をよくわかっているからこそ目の前のマントの人物を警戒した。
 突然やってきた怪しい人物に疑惑の眼差しを向けた男性に慌てたマントの人物は胸元に引っ提げた黒曜石のペンダントを見せびらかした。それはこの国の上級魔術師であると証明するものだった。

「わ、私は魔術師だ、ほら」
「そうだとしても教える義理はねぇな。とっとと帰りな」

 冷たくあしらわれても、それでも情報を得ようと他の人に聞き込みをしようとしたマントの人物だったが、警戒した従業員達に力尽くで追い出された。
 追い出しても情報を探ろうとするマントの人物。従業員が詰め所から警らを呼び出して騒ぎになってようやく、マントの人物は姿を消した。

 余りにも不気味で、怪しかったのでこのことは速達でブルーム夫妻に伝えられた。
 ちょうど長期休暇で一人娘が帰ってきていたこのタイミングで不審者が娘を狙っていると聞かされたブルーム夫妻は神経質になった。
 なので娘の周りの護衛をさらに強化した。五感に優れた獣人のその中でも優秀である護衛達を家の周り、娘の側に配置して、守りに当たらせた。

 そしてリナリア本人も魔法庁であったあれこれを思い出し、その長期休暇期間中の外出を自粛していた。

 それに加え、このことで相談を受けた魔法庁や魔法魔術省の職員も天賦の才能持ちであるリナリアの近辺をこれまで以上に警戒する。
 以前の暴行の件もあるので、リナリアの周辺はこれまで以上にぴりついていたのである。
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