かくれんぼ〜恥ずかしいと逃げていたのに、捕まってしまったようです。〜

霜月満月

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かくれんぼ〜恥ずかしいと逃げていたのに、捕まってしまったようです。〜

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━王立学園。

それは王国でも由緒ある学び舎。
貴賤問わず、優秀な者には門戸を開く。

そんな王立学園で今年度、生徒達の間でとある噂が広がり始めていた。

『学園の図書室に茶髪の妖精がいる』

『妖精を見ることができた者にはいいことが起こる』

と。

神出鬼没の妖精は放課後の時間が一番目撃者が多い。
その情報を得た者達が興味本位で放課後、図書室に向かったこともあった。

だが、妖精は毎日いる訳ではなく。
会えなかったとがっかりする者達は数知れず。

そして、妖精と呼ばれていることなど欠片も知らない本人は、普通に図書室を利用しているだけである。

まあ、最近では逃げ込む場所━避難場所━にすらしている節があるのだが。

走るなどしなくても緩く波打つふわふわの茶髪を靡かせる様はその低い身長もあって、妖精そのものの様であった━

*****

突然ですが、ごきげんよう。
わたくしの名前はクリスティーナ・ベルジェ。
侯爵家の長女です。─長女とはいっても、他の兄妹は2歳上の兄がいるだけなのですが。

さて、今のわたくしの状況ですけれど‥‥
一言で申し上げますと、『逃亡中』ですわ。

何故? ━恥ずかしいから。
何が? ━婚約者様とお話するのが。

‥‥現実逃避。時間の無駄。逃げたところでいいことなどない。

それはもちろん、承知の上です。
ですが、仕方ないのです!
逃げたくもなるものなのです!

わたくしと彼が並んでも‥‥釣り合わないのですもの!

もちろん、家格ではありません。
我が家は侯爵家、彼の家は公爵家。爵位は一つしか違わないのですから。‥‥まあ、その公爵家に『筆頭』が付くのですけれど‥‥

ではなく。
容姿の話ですわ。

わたくしの婚約者様。
お名前はエドモンド・ルヴェリエ様。紺色の艷やかな髪と澄んだ水色の瞳を持つ、麗しい美丈夫なのです。
茶髪に緑の瞳である、ぱっとしない容姿。且つ身長も他の令嬢に比べて低いわたくしと並ぶと‥‥
自分ごとながら悲しくなりますが、エドモンド様の隣は合わないのです。きっと。

加えて、エドモンド様は無口な方なので、最初の顔合わせの際も自己紹介が終わったら、無言に‥‥
エドモンド様のご両親が両隣から肘でつついているのを視認しましたが、それでも無言でした。

なので、
この婚約が嫌なのか‥‥
はたまたわたくしが婚約者なのが嫌なのか‥‥
━って同じことでしたわ。

とにかく、最初の顔合わせでエドモンド様のお声を聞いたのは自己紹介のみでした。
表情も全く動かないので、感情が読み取れないのです。
だから、エドモンド様がわたくしとの婚約をどう思っていらっしゃるのか、全く分からないままなのです。

ちなみに最初の顔合わせは、わたくしが10歳。エドモンド様が12歳の頃の話です。

そして、現在。
わたくしは16歳。エドモンド様は18歳にそれぞれなる年。
今年、わたくしは王立学園に入学した年で、エドモンド様とわたくしのお兄様、お兄様の婚約者様は今年度で卒業です。

ちなみに、エドモンド様とお兄様は友人です。
なので、エドモンド様が我が家に遊びにいらっしゃることもあるのですが、わたくしはその度に侍女と共に街に出かけるという逃亡をしておりました。

何故か。

婚約してからの6年間、贈り物や手紙など頂いたこともなく‥‥
わたくしも何を書けばいいのか分からず、手紙を書くこともできないままですし、贈り物も筆頭公爵家の彼に何をあげればいいの!?とこちらも判断に迷い、結局誕生日もパーティーで『おめでとうございます』の言葉と花束のみ。
━誕生日パーティーはお互いに。ですけれど。

‥‥‥婚約してからは誕生日の『おめでとう』しかお声を聞いてない気がしますわ‥‥

今更気付いた事実に衝撃を受けていると━

(まずいですわ!)

わたくしははっと復活しました。

現在のわたくしは学園内でエドモンド様を発見し、逃亡。
今は学園内にある図書室の一角に潜んでおります。

「ティーナ~?」

(お兄様!?)

「ティーナ様~?」

(と、このお声はレティお義姉様!?)

なんと、追って来たらしいのはわたくしの兄と兄の婚約者様の様です。

ちなみに、わたくしの兄ですが、名前はレオナール。お父様の金髪と容姿、お母様の青色の瞳を受け継ぐ美男子。実際、妹のわたくしから見てもお兄様は綺麗な顔立ちなのです。

わたくしはお母様の髪色と容姿、お父様の瞳の色を受け継いでおります。‥‥お母様にそっくりだとお父様もお兄様も仰いますが、娘のわたくしから見ても可愛らしい容姿のお母様。ぱっとしない容姿のわたくしがそんなお母様に似ているとは到底思えません。
どちらかというとお母様寄りかな。という程度にしか似てないとわたくしは思うのです。

━それはよくて。

お兄様の婚約者様ですが、お兄様と同い年の伯爵令嬢です。
お名前はレティシア・プラドン様。
わたくしはレティお義姉様とお呼びしてます。
クリーム色の髪と琥珀の瞳の儚げ美女です。

もう、お兄様とレティお義姉様が並んだ姿といったら!
お似合いなのです!かなり羨ましいです。
妹ながら惚れ惚れするのです。ずっと見ていられます。

━ってまた話がずれましたわ。

お兄様とレティお義姉様がいらっしゃるなら、すぐにでも出ていき、そのお姿を拝見したいところですが、先程エドモンド様も一緒にいらっしゃるところを発見した次第なので、油断禁物なのです。

そうして様子を窺っていると━

「‥‥レオ、レティシア嬢。」

「ん?」「はい?」

(やっぱりエドモンド様もいらっしゃいましたわ!)

「私はやっぱり‥‥」

「違う!」「違いますわ!」

(ん?なに?)

「しかし、こうしてクリスティーナに‥‥」

(!?‥‥お名前、初めて呼んで頂けた‥‥)

わたくしが知らないだけで、お兄様達と話す時はさすがに名前で呼んで頂いているのでしょうか?

「エド。‥‥ティーナも悩んでいる。」

「っ!‥‥私の、せい‥だよな。」

「当然。」

「‥‥どうしたら‥‥いいんだろうな‥‥」

「とりあえず、無理やりにでも話さないとティーナと結婚できないかもしれないぞ?」

「何故だ!?」

「ティーナのクラスに帝国の第二皇子殿下がいらっしゃるだろ?」

「ああ。」(はい。いらっしゃいますわ。)

「父上が教えてくれたんだが、第二皇子殿下からティーナに婚約の打診があったらしい。」

「は!?」(はい!?聞いてませんわよ!?)

「もちろん、婚約者がいるからと丁重にお断りしたぞ?だがな‥‥」

「なんだ?」(なんですの!?)

「その婚約が無くなる様なら、次のティーナの婚約者は是非。と仰ったらしい。」

「つまり‥‥」

「虎視眈々とその機会を窺ってらっしゃる。ということだろうな。」

「(!!)」

「‥‥駄目だ‥‥」

(エドモンド様?)

「クリスティーナは私の婚約者だ。例え皇子殿下といえど‥」

「そうだな。」(!!!)

‥‥期待、したくなってしまいますわ。エドモンド様。

そうして一人しゃがんだまま俯いていると、ふと影ができたことに気付き、見上げて─固まった。

「え、エド、エド‥モンド‥様‥」

影の主━エドモンド様は上からわたくしを覗き込んでおられました。

見つかってしまったのです。

「ど、どど、どうして‥」

動揺のあまり、言葉が続かないわたくし。
それでもエドモンド様の表情は一切崩れず、『無』でした。

実際、わたくしが咄嗟に隠れた場所はこの図書室の中でも、誰も寄りつかない奥の奥。窓があるので外からの自然光はあるものの、なんとなくじめっとしている様な‥‥とりあえず、普通の令嬢なら近付きもしない様な場所にある机の下なのです。

「やっと見つけた。」

「え‥‥」

エドモンド様はそう仰ったあと、振り返り━

「レオ、レティシア嬢。クリスティーナ、いた。」

「「え!?」」

足音2人分が近付く音の後、お2人の顔が覗き込んできました。

「お。」「あら。」

「こんなところにいたのか、ティーナ。」

「ふふっ。かくれんぼの上手な妖精さんが本当にいたわ。」

(妖精さんとは誰のことですか?レティお義姉様。)

ぽかんとしているわたくしにお兄様とレティお義姉様は揃ってくすりと笑ったあと、お兄様が『ほら、制服が汚れるだろ?』と手を差し出してくださいましたので、素直にその手に自分の手を置きました。
そして、引っ張り出してくださったのはいいのですが‥‥

「「「「‥‥‥」」」」

いたたまれないです‥‥

わたくしがどうしよう‥‥と俯いておりますと、エドモンド様が躊躇いがちに━

「その、クリスティーナ‥‥?」

「っ!‥‥は、はい。な、なんでしょうか‥‥?」

(なんとかお返事できましたわ!)

━俯いたままですけれど。

「そんなに‥‥私のこと‥‥嫌、なのか‥‥?」

「え‥‥?」

そんなお言葉がくるとは思っていなかったため、戸惑いと驚きで思わずエドモンド様を見上げますと━

(あ‥‥お辛そう‥‥?)

うっすらですが、表情に変化がある様に見受けられました。それも辛そうな雰囲気にです。
‥‥何故でしょうか?

わたくしは思わずこう問い返しました。

「嫌、なのは、エドモンド様の方ではないのですか‥‥?」

「え‥‥?」

「最初の顔合わせは自己紹介以外お声を聞いてませんし、それ以降もお誕生日のお祝いのお言葉を頂くぐらいしかお声を聞くことがありませんでした。お手紙や贈り物も‥‥これはわたくしも同じですが、お誕生日の時の義務的なもの以外頂いたこともありません。‥‥わたくし、エドモンド様のことを何も存じ上げないのです。好きな色や食べ物でさえ。‥‥なので、わたくしのことも興味がないかもと思い、お伝えしても仕方ないのではと好きな色や食べ物以外はお伝えする機会を逃し続けておりましたし‥‥」

わたくしのこの言葉に一番動揺したのは何故かお兄様でした。

「おい、ちょっと待てティーナ。今の話は本当か?」

「はい。」

「ティーナ。俺がエドを屋敷に呼んで話す時、毎回逃げていたのは‥‥」

「わたくしなぞ、いつ婚約解消されるか分かりませんもの。‥‥わたくしが嫌なら最初から婚約なぞなさらないでほしかった。例えエドモンド様のお隣が似合わなくても、なるべく‥‥と願ってしまうではないですか‥‥」

また俯いてしまいながらお答えしますと、お兄様に呼ばれました。

「ティーナ。」

「はい‥‥?」

「無口なエドが完全に悪いが、一応確認な。」

「はい?」

「ティーナは入学前は月一でやっていたお茶会で、少しはエドと話そうとはしたのか?」

「もちろんですわ!婚約したばかりの頃にそれこそ好きな色とかお伺いしましたわ。けれど、逆にわたくしの好きな色等を問い返されたのでお答えして、それで終わりでした。それが続きましたので、わたくしにはお話したくないのかと‥‥むしろわたくしとのお茶会すら煩わしいのではないかと‥‥思ってしまって、最近では話し掛けることすら躊躇っておりました‥‥」

「は!?‥‥エド~?」

わたくしの話に驚いたお兄様はエドモンド様を睨んでいらっしゃいます。

その姿は我が兄ながらかっこいいです。

━と、今はそれどころではありませんね。

「‥‥確かに会話がすぐに途切れた記憶しかない‥‥」

「はあ!?‥‥エド、確認だが、俺の妹はお前の婚約者として不満なのか?」

(お前って‥‥筆頭公爵家の方に不敬では‥‥)

「!! そんな訳ない!!」

「っ!」「やっぱりな。」

あの無口なエドモンド様が突然大声を出されたことに驚きましたが、すぐに戸惑いました。

こんなにすぐ否定の言葉を聞けるとは思ってなかったからです。

(え‥‥?)

「っ。‥‥クリスティーナ、驚かせてすまない。」

「い、いえ‥‥」

「その、クリスティーナ。」

「な、なんでしょうか?」

「その、手だけにするから、触れていいだろうか?」

「え?‥‥は、はい‥‥?ど、どうぞ?」

わたくしはエドモンド様が何故いきなり触れる許可を求めたのか理解しておりませんでしたが、嫌ではなかったので、戸惑いつつお答えしました。

すると、エドモンド様は多分ほっとされたあと、ゆっくりわたくしの右手をとられました。

━多分なのは相変わらず表情の変化が微々たるものだからです。

「クリスティーナ。」

「は、はい。」

すると、エドモンド様は突然その場に跪いてしまわれました。
もちろん、わたくしは大いに焦りました。

「エドモンド様!?制服が汚れますわ!立ってくださいませ!」

「いいから。聞いて?クリスティーナ。」

「え‥‥?」

「‥‥‥」

今呼吸を整えてらっしゃるエドモンド様。
そんなに緊張されること‥‥
はっ!まさか、やはり

「クリスティーナ。違うよ。」

「え!?」

心の声を読まれた様で驚きました。

「婚約の解消も破棄も絶対しない。」

「っ!」

「クリスティーナ。まずは私が口下手で且つ表情筋が正確に動いてくれないことで不安にさせたこと、本当にすまなかった。最初の顔合わせからずっと、クリスティーナが嫌とかは全然感じたことなどないんだ。」

「え!?」

「むしろ最初の顔合わせの時、こんなに可愛い子が私の未来のお嫁さんなのかと喜んでいたんだよ。」

「うそ!?」

淑女どこいったは今は気にしてられませんの!

「本当だよ。」

「っ!」

くすりと笑って仰る姿が‥‥!
初めて拝見したので、破壊力抜群ですわ!!

「‥‥エドモンド様。」

「ん?」

「ほんの僅かですが、初めて笑ったお顔を拝見しましたわ。」

「え?‥‥ごめん、クリスティーナ。表情筋は物心つく前から正常に動いてくれなくなっていたんだ。‥‥ずっと、怖かった‥‥?」

「いいえ。」

「え‥‥?」

「睨まれていたら怖かったと思います。ですが、エドモンド様はお茶会の時、必ず椅子を引いてくださったりしておりましたし、わたくしが転けそうになったらさり気なく助けてくださったりしたでしょう?お優しい方なのは伝わっておりましたから、怖いと感じたことはありませんわ。ひたすら何を考えていらっしゃるのかが分からない戸惑いだけでした。」

「っ!‥‥よかった‥‥」

エドモンド様はほっとした様な声音でそう仰ったあと、再びわたくしを見上げ━

「クリスティーナ。今後も婚約の解消とか絶対しないから、話したいから、これからは逃げないでくれ。」

「は、はい。」

「まずは‥‥クリスティーナ。私も愛称で呼んでいいか?」

「え?は、はい。もちろんですわ。」

「じゃあ‥‥家族やレティシア嬢はティーナって呼んでるみたいだから‥‥」

と少し考えたあと

「クリス。はどうかな?」

「っ!‥‥いい‥と思いますわ。」

「嫌なら私もティーナにするよ?」

「いえ、特別感があって戸惑っただけで、本当に嫌とかはありませんわ。」

「じゃあ、クリスでいいかな?」

「は、はい。」

「ん。じゃあ、クリスな。‥エドモンドって愛称エドぐらいしかないよな‥‥?」

「だな。でも、エド様って微妙じゃないか?」

「そう‥だな。」

「ならこれまで通りエドモンド様ってことでいいんじゃないか?結婚したら『旦那様』とか『あなた』呼びになるだろうし。」

「っ!‥‥そうだな。」

途中からするっと会話に混ざってきたお兄様。
2人で話したあと、エドモンド様の視線がわたくしに戻ってきました。

「クリス。それでいいか?」

「は、はい。」

「あと、提案‥‥じゃないな。お願いがあるんだが‥‥」

「は、はい?」

「これからはとりあえず、私達が卒業するまでは登下校を共にしないか?迎えに行くから。」

「え!?で、ですが、お兄様」

「俺もティーナと一緒にレティを迎えに行ってから3人で登下校してたろ?それを分けないかって相談だよ、ティーナ。」

「え?‥‥‥はっ!お兄様、レティお義姉様。今まで気付かず甘え続けて申し訳ございませんでした!」

「「え?」」

「2人きりの機会を奪い続けてしまってましたから!」

「「!!」」

「ティーナ!?そんなことは言ってないぞ!?」

「そうよ!?私達がこうして気軽に話せる様になったのはティーナ様のお陰なのよ!?」

「え?」

すると、エドモンド様が漸く立ち上がってくださったのを感じて、見上げますと━

「クリス。今日の放課後から一緒に帰ろうか?」

「え?で、ですが、エドモンド様も生徒会が‥‥」

「うん。だから、ちょっと待っててもらうことにはなるけど、どうかな?」

「!!‥‥元々お兄様とレティお義姉様も生徒会ということで、よく待ってましたので構いませんわ。待つ相手が変わるだけです。なので今日からはエドモンド様を大人しくお待ちすることにしますわ。」

「っ!‥‥ありがとう、クリス。」

「ふふっ。図書室の妖精さんはこれからも継続ね。」

「「「え?」」」

「レティお義姉様。その図書室の妖精さんとはなんですの?」

「あら?噂、知らない?」

「はい。」「「ああ。」」

「あら、男性陣もなのね。─ふふっ。ティーナ様はよくこの図書室を利用してるでしょう?」

「え?は、はい。放課後、お兄様達をお待ちする間とか、昼食後とかに。」

「ええ。そのティーナ様を見た生徒達から噂が広がったのよ。茶髪の妖精を見た者にはいいことが起こると。」

「「「は!?」」」

「そ、それは本当にわたくしのことですの!?」

「ふふっ。ええ、そうよ?─ティーナ様も毎日図書室にいる訳ではないでしょう?」

「は、はい。借りた本を教室でそのまま読んでお兄様達をお待ちすることもありましたから。」

「でしょう?だから、周りからしたらいつティーナ様が図書室に現れるか予測不能なのよ。」

「え?‥で、でも、それがわたくしとは‥」

「窓から入り込む自然光の光の加減で金色に見えたりするそうよ。そして、もちろん本を読んでいるのだから、俯いたまま。だから顔も分からない。─けれど、近くを通りかかったら顔くらい見えるでしょう?」

「はい。」

「それで、図書室の妖精がティーナ様だと大半の方には広がってるわ。」

「大半の?ということはレティ、その妖精が誰か知らないやつもいるってことか?」

「ええ。─ここに噂すら知らない人達もいるぐらいだもの。噂の広がり具合によるのよ。」

「「「‥‥‥」」」

レティお義姉様の仰る通りなら、わたくしが本人なのですが、全く存じ上げませんでしたわ‥‥

「ふふっ。妖精さん。噂通りよね。」

「「「え?」」」

「妖精さんを発見したらいいことが起こるらしいもの。私も、レオ様との仲を取り持ってもらえたもの。─ね?レオ様。」

「ああ、そうだな。─それはエドもだな。」

「え?」「ああ。」

「クリス。これからは今まで話せなかった分、頑張るから。だから、頼むから私を見限らないでくれ。」

「え!?み、見限るなど、そんな、ぎ、逆では!?」

「逆?‥‥悪いところなど何一つない、可愛いクリスを見限る要素がどこにある?」

「可愛い!?」

「「ああ。」」「ええ。」

「「「可愛いぞ?(わよ?)」」」

「え!?」

「‥‥なあ、ティーナ。昔から疑問だったんだが、何故そんなに自己肯定感が低いんだ?」

「え?‥‥だって、お父様もお兄様も家族の贔屓目なしでも素敵ですし、お母様も娘のわたくしから見ても可愛らしい方ですから。‥‥わたくしだけが低身長でぱっとしない容姿ですもの‥‥」

「‥‥もしかして、私のせいか?」

「「「え?」」」

「いつだったか、クリスが侍女に溢していただろう?『せめてわたくしの身長がもう少しあれば少しは自信が持てるのかしら‥』と。」

「っ!」「「え?」」

(聞いてらしたの!?)

「‥‥正解みたいだな。─クリス。」

「は、はい‥‥?」

「私は身長差など気にしない。私にとってはクリスの存在自体にこそ意味があるんだ。」

「え?‥‥わたくし自身に価値など‥‥」

「価値とか言うな。」

「エド。放課後、帰りの馬車の中ではっきり言ってやれ。じゃないと、ティーナはずっとこのままだ。」

「‥‥その様だな。─レオ、レティシア嬢。改めて、今日の放課後からクリスと登下校を共にすることを許してくれるか?」

「「もちろん。」」

「ありがとう。─クリスもいいか?」

「は、はい。もちろんですわ。」

「よかった‥‥では、昼休憩も終わるし、一旦解散だな。」

「だな。」「ええ。」

そうなのです。わたくしはもちろん、お兄様達も昼食後のゆっくり時間の筈の時間にかくれんぼしていたのです。
‥‥正確にはわたくしが敵前逃亡━エドモンド様なので敵ではありませんが━の後、図書室に隠れただけなのですが。

そして、わたくしも午後からの授業のためにお兄様達と分かれて教室に向かいました。

***

放課後。

わたくしは図書室にて本を読んでおります。

そこに一人、近付く方がいて━

わたくしはエドモンド様が来てくださったのだと思ったので、顔を上げたのですが、違いました。

まさかの第二皇子殿下でした。
わたくしは慌ててカーテシーで礼をとりました。

「畏まらなくていいよ、ベルジェ嬢。」

「ありがとう存じます。」

ゆっくり姿勢を戻し、殿下と相対しますと━

「ベルジェ嬢。父君から聞いてるかな?」

「何をでしょうか?」

「私との婚約の話だよ。」

「いえ。」

お兄様とエドモンド様の会話で聞いただけなので、知らぬ存ぜぬを貫く。

「そうか。─ベルジェ嬢には婚約者がいるそうだね。」

「はい。高位貴族ですので、当然かと。」

「そうだね。─婚約者とは上手くいってるのかな?」

きっと、今朝迄のわたくしなら『全く』とお答えしていただろう。
でも今は━

「はい。」

「っ!‥‥そうか‥‥─望みは‥ない、かな‥‥?」

「‥‥申し訳ございません。」

「‥‥‥」

殿下は俯いてしまったけれど、それも僅かで。
悲しそうな笑顔でしたが、仰ってくださいました。

「君が幸せになれそうならそれでいい。─できれば私の手で君を幸せにしてあげたかったけれど、ね。」

「お気持ちは大変光栄ですし、嬉しく思いますわ。これからもクラスメイトとして、よろしくお願いします。」

「っ!‥‥(クラスメイトとして、か‥‥ちょっときついな‥‥けど、皇子たる者ちゃんとしないと、な。)」

殿下が呟く言葉は上手く聞き取れなかったけれど、問い掛けていいことではない気がして、待つことにしていると━

「殿下、我が婚約者に何かご用事でしょうか?」

「エドモンド様!」「ルヴェリエ殿。」

「お待たせ、クリス。」

「はい!」

「‥‥ベルジェ嬢の婚約者はルヴェリエ殿だったか‥‥筆頭公爵家の後継者の婚約者は横取りする訳にはいかないな‥‥」

わたくしとエドモンド様の様子を見た殿下が呟き、その言葉を聞いたエドモンド様が感情の読めない表情のまま━

「そうですね。例え帝国の皇子殿下といえど、我が婚約者の横取りは国際問題に発展しますよ?」

「‥‥理解した。だから、敵認定は止めてくれないか?まだまだ生徒会では共に活動する仲間なのだから。─ベルジェ嬢ともクラスメイトとしての距離感から逸脱しないと誓うから。」

「畏まりました。」

「‥‥ルヴェリエ殿。会長なのだから、堂々としてくれ。皇子という立場は学園にいる間、忘れろとは言わないが、少し意識する程度でいい。‥まあ、貴殿はそう言っても真面目に対応してくれるのだろうがな。」

「もちろんです。‥‥ですが、お言葉は覚えておきます。」

「ああ、それでいい。‥では、邪魔者は大人しく去るよ。─2人共、また明日な。」

「「はい。」」

そして殿下は颯爽と去って行った。

「‥‥クリス。」

「はい?」

「殿下となに話してたんだ?」

「エドモンド様と上手くいってるの?って聞かれましたので、『はい。』とお答えしておきましたわ。」

「!!‥‥ありがとう、クリス。」

「‥‥今朝、同じ質問をされていたら濁していたかもしれませんけれど。」

「うっ‥‥挽回の機会をありがとう、クリス。」

「‥‥‥」

「クリス?」

「エドモンド様‥‥」

「なんだ?」

「表情が‥‥」

「え?」

「‥‥触れてもよろしいですか?」

「え?あ、ああ、もちろん。」

許可を頂けたので、エドモンド様の頬に両手で触れさせて頂きました。

「エドモンド様。」

「ん?」

「ふふっ。先程から、表情がお優しくなっておいでですわ。」

「え?」

「やっぱり僅かではありますが、変化が分かる程度には表情が動いてますわ。─お話も。お昼休憩の時から沢山お話できて、とても嬉しいですわ。」

「っ!!‥‥‥確かに妖精だな。」

「え?」

「クリスは私にとっても可愛い妖精だ。」

「え!?」

わたくしは驚いて手を離し、固まりました。

「クリス。笑顔が特に可愛いよ。─今まで勿体ないことをしたな‥‥」

そう言いながらわたくしの手をとったエドモンド様にぐっと引っ張られ、咄嗟に反応できなかったわたくしは、気付いたらエドモンド様の腕の中でした。

「え!?」

「クリス。‥‥やっと捕まえた。私だけの可愛い妖精さん。」

「!!」

無言のまま少しの間抱き締められたあと━

「帰ろうか?クリス。」

「っ!‥はい。」

そうして、ルヴェリエ公爵家の馬車に乗せてもらったあと、馬車内で━

「クリス。今までどうしたらいいか考え込んでばかりで口にできてなかったこと、全部伝えて行くから、覚悟してくれ。」

「え!?か、覚悟‥‥?」

「そう。覚悟。─先にこれだけは言っとこうかな。」

「な、なんでしょうか‥‥?」

「私達の婚約な、私がクリスがいいと強請ったのが発端なんだ。」

「え!?‥‥初耳ですわ‥‥」

「だろうね。私からクリスに言うまで言わないでくれと両家の両親とレオに頼んでたからな。」

「え!?」

「クリスにとっては顔合わせが初対面だろうけど、その前にレオと友人になってな。ベルジェ侯爵邸にお邪魔したことがあったんだ。その時、クリスは庭を侍女と散歩していたんだが、その様子を見て、私は思わず『天使がいる』と呟いていたらしい。」

「らしい?」

「無意識だったんだ。レオが教えてくれた。─加えて、レオが自慢気に『可愛いだろ~?俺の妹。』と言ってきてな。馬鹿正直に頷いていたよ。」

「え!?」

「だからまずな、その場でレオに聞いたんだ。『その可愛い妹がほしいって言ったらどうする?』と。」

「‥‥お兄様はなんと?」

「少し考える様子はあったが、すぐに『お前なら俺が会いたいって言ったら会わせてくれるだろうから、いいぞ。ただし、ティーナがお前を好きになるなら。だ。』と言われてな。とりあえず、クリスの一番近くにいたはずのレオの許可が得られたなら。と屋敷に帰ってすぐに父上に頼み込んだんだ。」

「‥‥何故筆頭公爵家の嫡男であるエドモンド様がわたくしを?とずっと不思議でしたが‥‥」

「ああ。今思えば、あれは一目惚れだったんだろうな。─昔からずっと可愛い、私のクリス。」

「っ!!」

今度は若干表情が綻んでましたわ!!
素敵過ぎます、エドモンド様!

きっと、今のわたくしは顔が真っ赤です。
恥ずかしい‥‥!

「クリス?俯いてないで、その可愛い顔を見せて?」

無口のエドモンド様はどこに行きましたの!?

「‥‥クリス。」

「は、はい‥‥?」

「クリスが自分自身に価値などないとか言わなくなるぐらい、これからこうして少しずつ伝えていくから。」

そう言って対面に座っていたエドモンド様はすっとわたくしの隣に座り直しました。

「私の気持ちも。ね。」

「っ!!」

耳元でそれは止めてくださいませ!!
わたくしの寿命が縮まりますわ!!

「‥‥‥クリス?‥‥何故だ?いつもと反対になってしまった‥‥」

『少なくとも、ティーナに免疫がつくまではこのままだろうな。』

その後、何故かエドモンドとクリスティーナの両方からこの馬車内の事を相談されたレオナールは2人にそう答えた。

そして━

かくれんぼする必要がなくなった図書室の妖精はいずれ学園の生徒全員にその正体を知られたものの、婚約者に対し幸せそうに微笑む姿も目撃され、『発見するといいことがある』という噂はいつしか『癒やしをもらえる』に変わったという。

それはエドモンド達が卒業したとしても変わることはなかった。

何故なら、エドモンドは卒業後もクリスティーナの登下校のみ共にすることを継続したため、図書室でエドモンドが迎えに来るのを待つことは変わらなかった。
エドモンドが来るまで、クリスティーナは毎日会える嬉しさを噛み締めつつ、『早く来てくれないかな』とうきうきしながら待っており、その表情が綻んでいる様子を目撃されていたからであった。
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