8 / 91
一章
不吉な前兆②
しおりを挟む
「よっし、ギリギリセーフ。やったねユウ君!」
息を切らしながら、俺たちは何とか予鈴前に校門へと滑り込んだ。
いつもよりもかなりぎりぎりの登校だった。
「お、俺はもうちょっと、ゆっくり登校したい」
ぜえぜえと肩を上下させながら、俺は小言を漏らす。
「私のせいじゃないからね! 悪いのはユウ君だからね!」
「……ああ、そうだな。もうそれでいいよ」
実際のところ、確かに俺の方に非があったのでそこは素直に認めておいた。
「わかればよろしい。じゃあ早く教室行くよ」
大きく頷くと、みらいは俺の腕を引っ張り昇降口へと向かった。
だがその途中で、
「……何だ?」
昇降口横にある花壇の前に、大きな人だかりができているのが見えた。そしてその向こうには、普段はそこにあるはずのない救急車とパトカーが一台ずつ停まっている。俺たちは思わず足を止めた。
何やらひどく興奮する生徒たちを、教師陣が必死になって教室に戻るよう促している。
……何かあったのだろうか?
みらいと一緒に近づいてみると、その人だかりの中心には大きなブルーシートが見えた。ちょうど人一人がすっぽりと収まるくらいのブルーシートが、何かに被せられてこんもりと膨れ上がっている。
「何があったんだ?」
俺は近くにいた男子生徒に訊ねた。
いきなり話しかけられたその男子生徒は、びっくりしたようにこちらを振り返り、
「あ、ああ、いや……僕も詳しいことはわからないんですけど……」
少しおどおどするような様子を見せた後、
「うちの生徒が一人、亡くなってたみたいなんですよ。あの、花壇の横で……」
震えた指で、ブルーシートの方を指さしてそう言った。
「なに?」
予想していなかった答えが返ってきて、俺は思わず聞き返してしまう。
「ですから、あの花壇の所でうちの生徒が一人、死んでたんですよ」
何度も言わせるなと言うように、彼は眉を顰めてそう言った。
「……嘘だろ?」
にわかには信じ難い話だった。
しかし、
「こんなことで嘘なんかつきませんよ。本当です」
険を含んだ声で、彼ははっきりとそう言い切った。
「何かの間違いとかじゃないのか……?」
「間違いなんかじゃないですよ」
男子生徒はやけに自信のある口調だった。
「でも実際に死体を見たわけじゃないんだろ?」
俺が少し語気を強くすると、彼は視線を少し落とした。
「いや、それが……さっきあのブルーシートが風で少し捲れた時に、見ちゃったんですよ」
「見たって、何を……」
「だからその……人の足のようなものが……」
と言った。
ドクンッ―――
心臓が跳ねた。
「……人の足」
思わず俺は呟いていた。
ちらりと、そのブルーシートの方に視線を移す。ごく普通のどこにでもあるようなブルーシート。
しかし、あの下に人間の死体がある。そう考えただけで、その景色は全く違って見えた。
ゾワリ。
悪寒が走った。軽い頭痛と吐き気が俺を襲う。
二年前の光景が脳裏にフラッシュバックしてきた。
「あの、大丈夫ですか?」
気が付くと、男子生徒が心配そうに俺の顔を覗きこんでいた。
「あ、ああ……悪い。大丈夫だ」
俺は軽く頭を振る。
「それで……その、一体誰が亡くなってたんだ? うちの生徒なんだろ?」
「え、ああ……いや、これは、さっきちらっと聞いただけなんですけど……」
「……ああ」
「亡くなったのは、二年の生徒さんみたいです」
「え……?」
俺は弾かれたように顔を上げた。
「二年って……俺と同級生の奴ってことか」
「そうなんですか? まあ……僕は一年なのでよくは知りませんが」
「そんな、まさか……」
俺は言葉を失う。
「そいつの名前は……?」
「えっと―――」
その名前を聞いて俺は驚愕した。
亡くなった生徒は俺と同じクラスの女子生徒だった。そこまで親しくはなかったが何度か話をしたことはある。
昨日まで、彼女は普通に登校していた。授業も普通に受けていた。どこも変わった様子はなかったはずだ。それなのに―――
亡くなった? 今日突然に……?
現実味が湧いてこなかった。頭がぼーっとして上手く思考が働かない。信じられなかった。まさか自分の通う学校で、クラスメイトが突然亡くなるなんて―――想像もしたことがなかった。
しばらくの間、俺は茫然とその場に突っ立っていた。しかし不意に背中のシャツを引っ張られ我に返った。
振り返ると、顔を真っ青にして唇を小刻みに震わせたみらいが、俺のシャツを皺ができるほどに強く握りしめていた。
「みらい、大丈夫か?」
俺は彼女の顔の前で手を振る。
彼女は、はっと顔を上げて、
「……ご、ごめん。大丈夫。ちょっと、びっくりしただけ……」
ぱっと握りしめていた手を離すと、
「も、もう教室行こ。あんまり見ていたくないし……」
震えた声で言った。
「あ、ああ……そうだな」
確かにこの光景は、長時間見ていて良いものではないだろう。亡くなった生徒にも悪いし精神的にもよろしくない。みらいは亡くなった彼女と大して面識はなかったはずだが、それでも突然の同級生の死には色々と感じるところがあるはずだ。
「気分が悪いなら、保健室行くか?」
「ううん、平気。そこまでじゃないから」
彼女は小さく首を横に振った。
「わかった。じゃあ早く教室に行こう」
俺は震える彼女の手を取る。
そして最後に、
「悪かったないきなり声かけて。もう行くよ。ありがとう」
その男子生徒に礼を言って、俺たちはその場を後にした。
息を切らしながら、俺たちは何とか予鈴前に校門へと滑り込んだ。
いつもよりもかなりぎりぎりの登校だった。
「お、俺はもうちょっと、ゆっくり登校したい」
ぜえぜえと肩を上下させながら、俺は小言を漏らす。
「私のせいじゃないからね! 悪いのはユウ君だからね!」
「……ああ、そうだな。もうそれでいいよ」
実際のところ、確かに俺の方に非があったのでそこは素直に認めておいた。
「わかればよろしい。じゃあ早く教室行くよ」
大きく頷くと、みらいは俺の腕を引っ張り昇降口へと向かった。
だがその途中で、
「……何だ?」
昇降口横にある花壇の前に、大きな人だかりができているのが見えた。そしてその向こうには、普段はそこにあるはずのない救急車とパトカーが一台ずつ停まっている。俺たちは思わず足を止めた。
何やらひどく興奮する生徒たちを、教師陣が必死になって教室に戻るよう促している。
……何かあったのだろうか?
みらいと一緒に近づいてみると、その人だかりの中心には大きなブルーシートが見えた。ちょうど人一人がすっぽりと収まるくらいのブルーシートが、何かに被せられてこんもりと膨れ上がっている。
「何があったんだ?」
俺は近くにいた男子生徒に訊ねた。
いきなり話しかけられたその男子生徒は、びっくりしたようにこちらを振り返り、
「あ、ああ、いや……僕も詳しいことはわからないんですけど……」
少しおどおどするような様子を見せた後、
「うちの生徒が一人、亡くなってたみたいなんですよ。あの、花壇の横で……」
震えた指で、ブルーシートの方を指さしてそう言った。
「なに?」
予想していなかった答えが返ってきて、俺は思わず聞き返してしまう。
「ですから、あの花壇の所でうちの生徒が一人、死んでたんですよ」
何度も言わせるなと言うように、彼は眉を顰めてそう言った。
「……嘘だろ?」
にわかには信じ難い話だった。
しかし、
「こんなことで嘘なんかつきませんよ。本当です」
険を含んだ声で、彼ははっきりとそう言い切った。
「何かの間違いとかじゃないのか……?」
「間違いなんかじゃないですよ」
男子生徒はやけに自信のある口調だった。
「でも実際に死体を見たわけじゃないんだろ?」
俺が少し語気を強くすると、彼は視線を少し落とした。
「いや、それが……さっきあのブルーシートが風で少し捲れた時に、見ちゃったんですよ」
「見たって、何を……」
「だからその……人の足のようなものが……」
と言った。
ドクンッ―――
心臓が跳ねた。
「……人の足」
思わず俺は呟いていた。
ちらりと、そのブルーシートの方に視線を移す。ごく普通のどこにでもあるようなブルーシート。
しかし、あの下に人間の死体がある。そう考えただけで、その景色は全く違って見えた。
ゾワリ。
悪寒が走った。軽い頭痛と吐き気が俺を襲う。
二年前の光景が脳裏にフラッシュバックしてきた。
「あの、大丈夫ですか?」
気が付くと、男子生徒が心配そうに俺の顔を覗きこんでいた。
「あ、ああ……悪い。大丈夫だ」
俺は軽く頭を振る。
「それで……その、一体誰が亡くなってたんだ? うちの生徒なんだろ?」
「え、ああ……いや、これは、さっきちらっと聞いただけなんですけど……」
「……ああ」
「亡くなったのは、二年の生徒さんみたいです」
「え……?」
俺は弾かれたように顔を上げた。
「二年って……俺と同級生の奴ってことか」
「そうなんですか? まあ……僕は一年なのでよくは知りませんが」
「そんな、まさか……」
俺は言葉を失う。
「そいつの名前は……?」
「えっと―――」
その名前を聞いて俺は驚愕した。
亡くなった生徒は俺と同じクラスの女子生徒だった。そこまで親しくはなかったが何度か話をしたことはある。
昨日まで、彼女は普通に登校していた。授業も普通に受けていた。どこも変わった様子はなかったはずだ。それなのに―――
亡くなった? 今日突然に……?
現実味が湧いてこなかった。頭がぼーっとして上手く思考が働かない。信じられなかった。まさか自分の通う学校で、クラスメイトが突然亡くなるなんて―――想像もしたことがなかった。
しばらくの間、俺は茫然とその場に突っ立っていた。しかし不意に背中のシャツを引っ張られ我に返った。
振り返ると、顔を真っ青にして唇を小刻みに震わせたみらいが、俺のシャツを皺ができるほどに強く握りしめていた。
「みらい、大丈夫か?」
俺は彼女の顔の前で手を振る。
彼女は、はっと顔を上げて、
「……ご、ごめん。大丈夫。ちょっと、びっくりしただけ……」
ぱっと握りしめていた手を離すと、
「も、もう教室行こ。あんまり見ていたくないし……」
震えた声で言った。
「あ、ああ……そうだな」
確かにこの光景は、長時間見ていて良いものではないだろう。亡くなった生徒にも悪いし精神的にもよろしくない。みらいは亡くなった彼女と大して面識はなかったはずだが、それでも突然の同級生の死には色々と感じるところがあるはずだ。
「気分が悪いなら、保健室行くか?」
「ううん、平気。そこまでじゃないから」
彼女は小さく首を横に振った。
「わかった。じゃあ早く教室に行こう」
俺は震える彼女の手を取る。
そして最後に、
「悪かったないきなり声かけて。もう行くよ。ありがとう」
その男子生徒に礼を言って、俺たちはその場を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/7:『かわぞいのみち』の章を追加。2026/1/14の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
【完結】百怪
アンミン
ホラー
【PV数100万突破】
第9回ネット小説大賞、一次選考通過、
第11回ネット小説大賞、一次選考通過、
マンガBANG×エイベックス・ピクチャーズ
第一回WEB小説大賞一次選考通過作品です。
百物語系のお話。
怖くない話の短編がメインです。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
初恋♡リベンジャーズ
遊馬友仁
青春
【第五部開始】
高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。
眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。
転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?
◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!
第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる