呪縛 ~呪われた過去、消せない想い~

ひろ

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一章

不吉な前兆②

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「よっし、ギリギリセーフ。やったねユウ君!」
 息を切らしながら、俺たちは何とか予鈴前に校門へと滑り込んだ。
 いつもよりもかなりぎりぎりの登校だった。
「お、俺はもうちょっと、ゆっくり登校したい」
 ぜえぜえと肩を上下させながら、俺は小言を漏らす。
「私のせいじゃないからね! 悪いのはユウ君だからね!」
「……ああ、そうだな。もうそれでいいよ」
 実際のところ、確かに俺の方に非があったのでそこは素直に認めておいた。
「わかればよろしい。じゃあ早く教室行くよ」
 大きく頷くと、みらいは俺の腕を引っ張り昇降口へと向かった。
 だがその途中で、
「……何だ?」
 昇降口横にある花壇の前に、大きな人だかりができているのが見えた。そしてその向こうには、普段はそこにあるはずのない救急車とパトカーが一台ずつ停まっている。俺たちは思わず足を止めた。
 何やらひどく興奮する生徒たちを、教師陣が必死になって教室に戻るよう促している。
 ……何かあったのだろうか?
 みらいと一緒に近づいてみると、その人だかりの中心には大きなブルーシートが見えた。ちょうど人一人がすっぽりと収まるくらいのブルーシートが、何かに被せられてこんもりと膨れ上がっている。
「何があったんだ?」
 俺は近くにいた男子生徒に訊ねた。
 いきなり話しかけられたその男子生徒は、びっくりしたようにこちらを振り返り、
「あ、ああ、いや……僕も詳しいことはわからないんですけど……」
 少しおどおどするような様子を見せた後、
「うちの生徒が一人、亡くなってたみたいなんですよ。あの、花壇の横で……」
 震えた指で、ブルーシートの方を指さしてそう言った。
「なに?」
 予想していなかった答えが返ってきて、俺は思わず聞き返してしまう。
「ですから、あの花壇の所でうちの生徒が一人、死んでたんですよ」
 何度も言わせるなと言うように、彼は眉を顰めてそう言った。
「……嘘だろ?」
 にわかには信じ難い話だった。
 しかし、
「こんなことで嘘なんかつきませんよ。本当です」
 険を含んだ声で、彼ははっきりとそう言い切った。
「何かの間違いとかじゃないのか……?」
「間違いなんかじゃないですよ」
 男子生徒はやけに自信のある口調だった。
「でも実際に死体を見たわけじゃないんだろ?」
 俺が少し語気を強くすると、彼は視線を少し落とした。
「いや、それが……さっきあのブルーシートが風で少し捲れた時に、見ちゃったんですよ」
「見たって、何を……」
「だからその……人の足のようなものが……」
 と言った。
 ドクンッ―――
 心臓が跳ねた。
「……人の足」
 思わず俺は呟いていた。
 ちらりと、そのブルーシートの方に視線を移す。ごく普通のどこにでもあるようなブルーシート。
 しかし、あの下に人間の死体がある。そう考えただけで、その景色は全く違って見えた。
 ゾワリ。
 悪寒が走った。軽い頭痛と吐き気が俺を襲う。
 二年前の光景が脳裏にフラッシュバックしてきた。
「あの、大丈夫ですか?」
 気が付くと、男子生徒が心配そうに俺の顔を覗きこんでいた。
「あ、ああ……悪い。大丈夫だ」
 俺は軽く頭を振る。
「それで……その、一体誰が亡くなってたんだ? うちの生徒なんだろ?」
「え、ああ……いや、これは、さっきちらっと聞いただけなんですけど……」
「……ああ」
「亡くなったのは、二年の生徒さんみたいです」
「え……?」
 俺は弾かれたように顔を上げた。
「二年って……俺と同級生の奴ってことか」
「そうなんですか? まあ……僕は一年なのでよくは知りませんが」
「そんな、まさか……」
 俺は言葉を失う。
「そいつの名前は……?」
「えっと―――」
 その名前を聞いて俺は驚愕した。
 亡くなった生徒は俺と同じクラスの女子生徒だった。そこまで親しくはなかったが何度か話をしたことはある。
 昨日まで、彼女は普通に登校していた。授業も普通に受けていた。どこも変わった様子はなかったはずだ。それなのに―――
 亡くなった? 今日突然に……?
 現実味が湧いてこなかった。頭がぼーっとして上手く思考が働かない。信じられなかった。まさか自分の通う学校で、クラスメイトが突然亡くなるなんて―――想像もしたことがなかった。
 しばらくの間、俺は茫然とその場に突っ立っていた。しかし不意に背中のシャツを引っ張られ我に返った。
 振り返ると、顔を真っ青にして唇を小刻みに震わせたみらいが、俺のシャツを皺ができるほどに強く握りしめていた。
「みらい、大丈夫か?」
 俺は彼女の顔の前で手を振る。
 彼女は、はっと顔を上げて、
「……ご、ごめん。大丈夫。ちょっと、びっくりしただけ……」
 ぱっと握りしめていた手を離すと、
「も、もう教室行こ。あんまり見ていたくないし……」
 震えた声で言った。
「あ、ああ……そうだな」
 確かにこの光景は、長時間見ていて良いものではないだろう。亡くなった生徒にも悪いし精神的にもよろしくない。みらいは亡くなった彼女と大して面識はなかったはずだが、それでも突然の同級生の死には色々と感じるところがあるはずだ。
「気分が悪いなら、保健室行くか?」
「ううん、平気。そこまでじゃないから」
 彼女は小さく首を横に振った。
「わかった。じゃあ早く教室に行こう」
 俺は震える彼女の手を取る。
 そして最後に、
「悪かったないきなり声かけて。もう行くよ。ありがとう」
 その男子生徒に礼を言って、俺たちはその場を後にした。
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