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六章
明かされる過去⑤
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「本当に大丈夫なのか? 今日から俺の家で暮らしてもいいんだぞ」
「ううん。今日は大丈夫。あの人たちには、きちんと自分の口で伝えたいから」
「いや、でもなあ……」
登りの二倍ほどの時間をかけて、俺たちは無事に下山を果たした。
しかしその後、俺たちはみらいの家の前で、押し問答を繰り返していた。
「大丈夫だよ。あの人たちだって鬼じゃないんだから、ちゃんと事情を話せばわかってくれるよ」
「事情って、どう説明するんだよ……?」
「それは、まあ……上手いこと……誤魔化しながら……」
「ほら。やっぱり無理じゃないか。あいつらは平気でお前に暴力を振るう奴らなんだぞ。いきなり家を出るなんて言って、快く了承なんてしてくれるはずないだろ」
「いや、まあ……。でもほら、ユウ君の家で暮らすにしても、着替えとか最低限の生活品は取りに帰らないとだし」
「それは、そうだけど……」
「だから……ね。今日は大丈夫」
「うーん……でもやっぱり、今日から一緒に暮らした方がいいんじゃ……。お前の親には、俺から説明しとくからさ」
「ユウ君がそこまでする必要ないよ。私なら大丈夫だから」
「……本当に大丈夫なのか?」
先ほどから、ずっとこれの繰り返しだ。
俺は今日からでも、こちらの家で暮らした方がいいんじゃないかと主張するのだが、何故かみらいはそれを頑なに拒み続けるのだ。先ほどの山の中では、もう既にその気になっていたように思えたのだが……。
確かに、彼女の言う通り、最低限の生活必需品は必要だろう。何の持ち物もなしに、いきなり俺の家で暮らすことができないのは当然だ。
しかし、今日は帰らない方がいい。
帰りが遅いことに激高した母親から、どんなひどい仕打ちを受けるかわからないからだ。今あの家に帰るというのは、自ら火の海に飛び込んでいくようなものだ。絶対にやめた方がいい。やめた方がいいと思うのだが―――
「大丈夫だって。私、ちゃんとできるから。ユウ君は心配し過ぎだよ」
当のみらいが言うことを聞いてくれない。彼女は今日、何が何でも自分の家に帰るつもりのようだ。自分の口であいつらを説得するとのことだが、上手くいくとは思えない。まともに話ができるかどうかも怪しいだろう。
どうしたものかと、俺がおとがいに手を当て難しい顔をしていると、
「ほらユウ君! 早く家に入らないと風邪引いちゃうよ。あんまり遅くなると初音ちゃんだって心配するでしょ」
と言って、着ていたコートを俺に押し付けてきた。
「お、おい」
「それにね、私なら本当に大丈夫。このお守りもあるしね」
チリンという音と共に、みらいが自分の顔の横に何かをぶら下げた。
それは小さな二つの鈴の下に、可愛らしい熊のマスコットが付いた、キーホルダだった。
見たことのない物だ。
「……それ、どうしたんだよ?」
「んー、なんか今日帰ってくるときに貰ったの」
「貰った? 誰から……?」
「男の人。歩いてたら急に後ろから声かけられて、このキーホルダをくれたの」
「なんだそれ。どういう状況だよ」
「私にもよくわかんないよ。でも、肌身離さず持ってたらきっといいことがあるよ、ってその人が言ってた」
「それ絶対怪しいだろ。お金とか要求されなかったか?」
「ううん。そういうのは全然。私にこのキーホルダ渡したら、すぐにどっか行っちゃった」
「……変な奴だな」
「だよねー。でもまあ、せっかくだからお守り代わりに使ってみようかなって」
「……まあ、それくらいならいいんじゃないか」
「うん。だから私は大丈夫。心配無用だよ」
グッとみらいが胸の前で握り拳を作ってみせる。
「いやいや、そうはならないだろ。やっぱり今日はやめた方がいいって。遠慮なんかせずに、俺の家に来ていいんだぞ?」
またしても無限ループに陥り始める。
しかし今度は、
「大丈夫。それじゃ、また明日ね!」
言うが早いか、みらいはくるりと俺に背を向け、玄関の中へ入って行った。
「あ、おい! ちょっと、待て―――」
だが俺が呼び止めた時には、彼女の姿は既に家の中へと消えてしまっていた。
一瞬、彼女の家に押し入ろうかと考えたが、さすがにそれはやめておいた。
代わりに、俺はしばらくの間、彼女の家の前で耳をそばだてていた。
何か異変があれば、すぐにでも駆け付けられるように準備をしていたのだ。
……しかし、いくら経っても、彼女の家からは誰かの怒鳴り声だとか、何かがぶつかるような派手な物音だとか、そんな音は特に聞こえてはこなかった。不気味なほどに、彼女の家は静寂に包まれていた。
とりあえずは、大丈夫……だったのだろうか?
何だか少し拍子抜けしながらも、俺は自分の家へ戻ることにした。彼女を背負ってあの山道を下りたことで体力の限界が近かったし、寒さで身体も芯から凍えきってしまっていた。
詳しいことはまた明日、彼女の口から聞こう。
そう思った。
# # #
しかし翌朝、みらいはいつものように、俺を迎えには来てくれなかった。
おかげで俺は盛大に寝坊をかましてしまった。
ベッドの上で目を覚ました時には、既に太陽は頭上に近い場所にまで登っており、家の前の通学路は静まり返っていた。
途中、初音が部屋に入ってきて、横たわる俺の身体を揺さぶっていたような気もするが……正直あまり覚えていない。どうやら昨晩の疲れが予想以上に出てしまったらしい。
……だがこの日、俺は学校へは向かわなかった。それよりもみらいのことが気になった。彼女の身に何かあったんじゃないかと、胸のざわめきが止まらなかったからだ。
着替えを済ませると、俺はすぐに彼女の家へと向かった。
ピーンポーン。
みらいの家のインターホンを押す。
「………」
……誰も出ない。
もう一度押してみる。
ピーンポーン。
「………」
……やはり誰も出ない。中で人が動くような気配もない。
「………」
胸のざわめきが、少し大きくなった。
悪いとは思ったが、俺は門を開けて、彼女の家の敷地内に侵入する。
少し躊躇った後、俺は玄関扉を引いてみた。
ガチッ!
しかし、扉は開かなかった。鍵がかかっていた。
どこかへ出掛けているのだろうか……?
昨日のことでみらいが風邪でも引いて、病院にでも行っているのだろうか……?
俺が神経質になりすぎているのか―――?
しばらく扉の取手を握ったまま、俺は思案に耽っていたが、このままずっとここにいても仕方がないので、俺は仕方なく踵を返そうとした。
が、その時、
カツン―――
小さな音が聞こえた。
その音で、俺は立ち止まる。
カツンッ―――
また聞こえた。今度は少し大きい。
何か……堅いもの同士がぶつかり合うような、そんな少し高めの音だ。
カツンッ―――
その音は、裏庭の方から聞こえてくるようだった。
誰か、いるのか……?
裏庭には玄関横の通路から出ることができる。
音の正体が気になった俺は、足音を忍ばせその裏庭へと向かった。
……何故だろう。胸のざわめきが徐々に大きくなっていく。
俺は通路から顔を出し、そっと庭の様子を窺った。
―――人がいた。
庭の隅の方に、誰かがいた。
そいつは分厚めの黒のダウンをフードと共に頭から被り、しゃがみこんで何やら作業をしているようだった。
……と思ったら、次の瞬間には立ち上がった。
そいつは俺に背を向けていたため、誰なのかは判別できない。
しかしそいつの手には大きなシャベルが握られていた。そのシャベルで、何やら熱心に、庭の地面に穴を掘っているのだ。
すぐ横には、掘り返された土が、こんもりと小さな山を作っていた。
カツンッ―――!
音がした。
なるほど―――。
どうやら、先ほどから聞こえていた音の正体は、これだったようだ。シャベルの先端が、小石か何かにぶつかる音だったのだろう。
しかし、一体何の目的があってあんな穴を掘っているのだろうか。ちょうど人一人がすっぽりと入りそうなくらいの大きさだが……。
そもそもあいつは一体誰なんだ。泥棒、ではなさそうだし―――
「あの、すいません―――」
だが声を掛けて、一歩踏み出したその瞬間―――俺はそのことに気が付いた。
今の今まで、穴を掘る人物の影になって見えていなかった。
穴の中からは―――白くて細い棒のようなものが一本、飛び出していた。
それが、血の気を失った人間の腕だということに気付くまで、俺の頭は数秒の時間を要した。
「――――――ッ⁉」
悲鳴にもならない声が俺の喉から洩れる。
血液が沸騰し視界がぐらりと歪む。全身の肌が泡立ち、気が遠くなるほどの警鐘が頭の中に鳴り響き始めた。
本能的に危険を察知した。俺は脱兎のごとく逃げ出そうとする―――が、
駆けだそうとしたその瞬間、足元に放置されていた箒に足を引っかけ、俺は盛大に素っ転んでしまった。
「―――ッ、く……そ……」
すぐさま立ち上がろうとするが、足に力が入らない。身体の震えが止まらない。完全に腰が抜けてしまっていた。
転んだ音に気づいたのか、穴を掘っていた人物の手がピタリと止まった。そして、やけにゆっくりとした動作でこちらを振り返る。
……フード下の顔が、露わになる。
その顔を認めた瞬間、俺は雷に打たれたような衝撃を感じた。
「あ……そん……な」
ザザ、ザザザザザ―――。
砂嵐のようなものが、俺の視界の中を走る。
思考が止まる。時間が止まる。
「いや……だ……」
ザザ、ザザザザザザザザザ―――。
視界が霞む。
相手の顔が見えない。
ザザザ、ザザザザザザザザザ―――。
そして、プツンと音をたてて俺の意識は途切れた。
「ううん。今日は大丈夫。あの人たちには、きちんと自分の口で伝えたいから」
「いや、でもなあ……」
登りの二倍ほどの時間をかけて、俺たちは無事に下山を果たした。
しかしその後、俺たちはみらいの家の前で、押し問答を繰り返していた。
「大丈夫だよ。あの人たちだって鬼じゃないんだから、ちゃんと事情を話せばわかってくれるよ」
「事情って、どう説明するんだよ……?」
「それは、まあ……上手いこと……誤魔化しながら……」
「ほら。やっぱり無理じゃないか。あいつらは平気でお前に暴力を振るう奴らなんだぞ。いきなり家を出るなんて言って、快く了承なんてしてくれるはずないだろ」
「いや、まあ……。でもほら、ユウ君の家で暮らすにしても、着替えとか最低限の生活品は取りに帰らないとだし」
「それは、そうだけど……」
「だから……ね。今日は大丈夫」
「うーん……でもやっぱり、今日から一緒に暮らした方がいいんじゃ……。お前の親には、俺から説明しとくからさ」
「ユウ君がそこまでする必要ないよ。私なら大丈夫だから」
「……本当に大丈夫なのか?」
先ほどから、ずっとこれの繰り返しだ。
俺は今日からでも、こちらの家で暮らした方がいいんじゃないかと主張するのだが、何故かみらいはそれを頑なに拒み続けるのだ。先ほどの山の中では、もう既にその気になっていたように思えたのだが……。
確かに、彼女の言う通り、最低限の生活必需品は必要だろう。何の持ち物もなしに、いきなり俺の家で暮らすことができないのは当然だ。
しかし、今日は帰らない方がいい。
帰りが遅いことに激高した母親から、どんなひどい仕打ちを受けるかわからないからだ。今あの家に帰るというのは、自ら火の海に飛び込んでいくようなものだ。絶対にやめた方がいい。やめた方がいいと思うのだが―――
「大丈夫だって。私、ちゃんとできるから。ユウ君は心配し過ぎだよ」
当のみらいが言うことを聞いてくれない。彼女は今日、何が何でも自分の家に帰るつもりのようだ。自分の口であいつらを説得するとのことだが、上手くいくとは思えない。まともに話ができるかどうかも怪しいだろう。
どうしたものかと、俺がおとがいに手を当て難しい顔をしていると、
「ほらユウ君! 早く家に入らないと風邪引いちゃうよ。あんまり遅くなると初音ちゃんだって心配するでしょ」
と言って、着ていたコートを俺に押し付けてきた。
「お、おい」
「それにね、私なら本当に大丈夫。このお守りもあるしね」
チリンという音と共に、みらいが自分の顔の横に何かをぶら下げた。
それは小さな二つの鈴の下に、可愛らしい熊のマスコットが付いた、キーホルダだった。
見たことのない物だ。
「……それ、どうしたんだよ?」
「んー、なんか今日帰ってくるときに貰ったの」
「貰った? 誰から……?」
「男の人。歩いてたら急に後ろから声かけられて、このキーホルダをくれたの」
「なんだそれ。どういう状況だよ」
「私にもよくわかんないよ。でも、肌身離さず持ってたらきっといいことがあるよ、ってその人が言ってた」
「それ絶対怪しいだろ。お金とか要求されなかったか?」
「ううん。そういうのは全然。私にこのキーホルダ渡したら、すぐにどっか行っちゃった」
「……変な奴だな」
「だよねー。でもまあ、せっかくだからお守り代わりに使ってみようかなって」
「……まあ、それくらいならいいんじゃないか」
「うん。だから私は大丈夫。心配無用だよ」
グッとみらいが胸の前で握り拳を作ってみせる。
「いやいや、そうはならないだろ。やっぱり今日はやめた方がいいって。遠慮なんかせずに、俺の家に来ていいんだぞ?」
またしても無限ループに陥り始める。
しかし今度は、
「大丈夫。それじゃ、また明日ね!」
言うが早いか、みらいはくるりと俺に背を向け、玄関の中へ入って行った。
「あ、おい! ちょっと、待て―――」
だが俺が呼び止めた時には、彼女の姿は既に家の中へと消えてしまっていた。
一瞬、彼女の家に押し入ろうかと考えたが、さすがにそれはやめておいた。
代わりに、俺はしばらくの間、彼女の家の前で耳をそばだてていた。
何か異変があれば、すぐにでも駆け付けられるように準備をしていたのだ。
……しかし、いくら経っても、彼女の家からは誰かの怒鳴り声だとか、何かがぶつかるような派手な物音だとか、そんな音は特に聞こえてはこなかった。不気味なほどに、彼女の家は静寂に包まれていた。
とりあえずは、大丈夫……だったのだろうか?
何だか少し拍子抜けしながらも、俺は自分の家へ戻ることにした。彼女を背負ってあの山道を下りたことで体力の限界が近かったし、寒さで身体も芯から凍えきってしまっていた。
詳しいことはまた明日、彼女の口から聞こう。
そう思った。
# # #
しかし翌朝、みらいはいつものように、俺を迎えには来てくれなかった。
おかげで俺は盛大に寝坊をかましてしまった。
ベッドの上で目を覚ました時には、既に太陽は頭上に近い場所にまで登っており、家の前の通学路は静まり返っていた。
途中、初音が部屋に入ってきて、横たわる俺の身体を揺さぶっていたような気もするが……正直あまり覚えていない。どうやら昨晩の疲れが予想以上に出てしまったらしい。
……だがこの日、俺は学校へは向かわなかった。それよりもみらいのことが気になった。彼女の身に何かあったんじゃないかと、胸のざわめきが止まらなかったからだ。
着替えを済ませると、俺はすぐに彼女の家へと向かった。
ピーンポーン。
みらいの家のインターホンを押す。
「………」
……誰も出ない。
もう一度押してみる。
ピーンポーン。
「………」
……やはり誰も出ない。中で人が動くような気配もない。
「………」
胸のざわめきが、少し大きくなった。
悪いとは思ったが、俺は門を開けて、彼女の家の敷地内に侵入する。
少し躊躇った後、俺は玄関扉を引いてみた。
ガチッ!
しかし、扉は開かなかった。鍵がかかっていた。
どこかへ出掛けているのだろうか……?
昨日のことでみらいが風邪でも引いて、病院にでも行っているのだろうか……?
俺が神経質になりすぎているのか―――?
しばらく扉の取手を握ったまま、俺は思案に耽っていたが、このままずっとここにいても仕方がないので、俺は仕方なく踵を返そうとした。
が、その時、
カツン―――
小さな音が聞こえた。
その音で、俺は立ち止まる。
カツンッ―――
また聞こえた。今度は少し大きい。
何か……堅いもの同士がぶつかり合うような、そんな少し高めの音だ。
カツンッ―――
その音は、裏庭の方から聞こえてくるようだった。
誰か、いるのか……?
裏庭には玄関横の通路から出ることができる。
音の正体が気になった俺は、足音を忍ばせその裏庭へと向かった。
……何故だろう。胸のざわめきが徐々に大きくなっていく。
俺は通路から顔を出し、そっと庭の様子を窺った。
―――人がいた。
庭の隅の方に、誰かがいた。
そいつは分厚めの黒のダウンをフードと共に頭から被り、しゃがみこんで何やら作業をしているようだった。
……と思ったら、次の瞬間には立ち上がった。
そいつは俺に背を向けていたため、誰なのかは判別できない。
しかしそいつの手には大きなシャベルが握られていた。そのシャベルで、何やら熱心に、庭の地面に穴を掘っているのだ。
すぐ横には、掘り返された土が、こんもりと小さな山を作っていた。
カツンッ―――!
音がした。
なるほど―――。
どうやら、先ほどから聞こえていた音の正体は、これだったようだ。シャベルの先端が、小石か何かにぶつかる音だったのだろう。
しかし、一体何の目的があってあんな穴を掘っているのだろうか。ちょうど人一人がすっぽりと入りそうなくらいの大きさだが……。
そもそもあいつは一体誰なんだ。泥棒、ではなさそうだし―――
「あの、すいません―――」
だが声を掛けて、一歩踏み出したその瞬間―――俺はそのことに気が付いた。
今の今まで、穴を掘る人物の影になって見えていなかった。
穴の中からは―――白くて細い棒のようなものが一本、飛び出していた。
それが、血の気を失った人間の腕だということに気付くまで、俺の頭は数秒の時間を要した。
「――――――ッ⁉」
悲鳴にもならない声が俺の喉から洩れる。
血液が沸騰し視界がぐらりと歪む。全身の肌が泡立ち、気が遠くなるほどの警鐘が頭の中に鳴り響き始めた。
本能的に危険を察知した。俺は脱兎のごとく逃げ出そうとする―――が、
駆けだそうとしたその瞬間、足元に放置されていた箒に足を引っかけ、俺は盛大に素っ転んでしまった。
「―――ッ、く……そ……」
すぐさま立ち上がろうとするが、足に力が入らない。身体の震えが止まらない。完全に腰が抜けてしまっていた。
転んだ音に気づいたのか、穴を掘っていた人物の手がピタリと止まった。そして、やけにゆっくりとした動作でこちらを振り返る。
……フード下の顔が、露わになる。
その顔を認めた瞬間、俺は雷に打たれたような衝撃を感じた。
「あ……そん……な」
ザザ、ザザザザザ―――。
砂嵐のようなものが、俺の視界の中を走る。
思考が止まる。時間が止まる。
「いや……だ……」
ザザ、ザザザザザザザザザ―――。
視界が霞む。
相手の顔が見えない。
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