呪われ少女と傲慢令息の結婚契約録

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院長の手紙 ①

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 今朝、2通の手紙が届いた。もうかれこれ3年ほど住んでいる家で、古くなった木の椅子に座り、手紙を確認する。
 ――1通はこの3年間お世話になっていた孤児院の院長の訃報を知られる手紙であった。

「院長……」

 エリィはか細い声で一人、呟いた。

 あの日、生きると決意したときから長い間お世話になっていた。人に不幸を撒き散らしたくないと言ったエリィに、森の外れにある一軒家を紹介してくれたのも彼だった。

 森の外れはなかなか不便ではあったが、ほとんど人と接する機会はなく安心して暮らすことができた。エリィは孤独な生活の中で、自身の《不幸の呪い》と向き合い、その解決方法を探っている最中だったのだ。
 彼は非常に優しく、エリィの心の支えでもあった。

 エリィに近しいものは、皆自身より先にいなくなってしまう。そんなことは、ずっと前から分かっていた。
 思わず諦めに似たため息をつく。

 近しい人がいなくなることに慣れてしまったのか、はたまた心が錆びついて動かなくなってしまったのか。しばらくすると、訃報に動揺していた心は徐々に落ち着くを取り戻していった。
 自身のことながらなかなかの薄情者だと、内心嘲笑った。

 されど自嘲の笑みを浮かべながらも、もう1通の手紙を手にする。
 差出人は不明で、エリィは首を傾げた。不思議に思いながら開封すると、それもまた院長の筆跡だった。先ほどの手紙は、院長の親類を自称するものが森の入り口のポストへと持ってきていると聞いたことがある。以前、院長が言っていたのだ。
 人と接することのないよう人里離れた場所に身を置くエリィ。彼女の自宅のポストは森の入り口付近に立っている。そこへ毎度、散歩がてら手紙や荷物の確認をしに行くことが毎日の日課だった。

 エリィは手紙の内容を確認しようと文章の書き出しを目にした。だがその途端、落ち着きを取り戻した心臓は再度暴れ回ることとなる。

 手紙の一番初めの行にはこう書かれていた。




――『君の呪いの解呪方法が分かった』と。




 エリィは目を疑った。こんなに呆気なく解呪方法が見つかるだなんて、全く信じられなかった。動揺した気持ちを抱えたまま、院長の文字を追う。

 そこには、さらに仰天することが連なっていたのだった。




 ――――私の本当の名前は、ロアン・プロマイアと言う。君の知っている通り孤児院の院長をやっている爺だ。だがこの名前を聞いて、頭の良い元伯爵令嬢の君ならばなにかしら勘付いたかもしれない。
 そうだ。私はプロマイア公爵家を実家に持ち、現在はプロマイア公爵と名乗っている貴族なのだ。いや、この手紙を書いているときには既に当主は交代しているかもしれない。私は病気を患っており、もう長くはないと医者に宣告されていてね。明日にでも死ぬかもしれないのだよ。

 さて、こんなことをつらつらと書き連ねていても仕方あるまい。何故、今になって私が院長のとしてではなく、公爵として君の前に現れようと考えたのか。それは……君を養子として我がプロマイア家に迎え入れたからである。迎え入れたいという希望ではない。この手紙を読んでいるとき、君は既にプロマイア公爵家令嬢なのだ。勝手にことを進めてしまい、申し訳なく思っている。
 だが、なんの意味もなく養子入りをさせたわけではない。これは君のために……君が生きていくために必要なことなのだ。

 君はプロマイア公爵家令嬢として、とある男と結婚してもらう。彼こそが君を不幸から救ってくれる救済者であり、キーパーソンといっても過言ではない。

 彼はとある特殊な体質の男だ。
 その体質というものが解呪体質――――つまり、何でもかんでも術を解いてしまうという実に珍しい体質の持ち主だ。そのために、彼は城で行われている魔術研究の場には近づくことも禁止されていると聞くし、色々と苦労も多いのだという。だが、その体質は君にとってはぴったりなものだ。まるで運命かなにかのように!

 彼のそばにいれば、恐らく《不幸の呪い》が解けるのだよ。相当強い術ではあるため、時間はかかるだろうが……だからそのための結婚とも言える。ゆっくりとゆっくりと、解いていくんだ。

 エリィ、君はその間にも君の呪いが周囲を害するのではないかと心配しているかもしれない。だが、心配には及ばない。これも予想の範囲ではあるが、彼の解呪体質は君の呪いを上手く相殺してくれるだろう。魔術に詳しい知り合いが言っていたのだ。間違いはあるまい。

 これまで解呪体質の彼のことは上手く秘匿されていて、情報を見つけるのにかなり時間がかかってしまった。本当に申し訳なく思う。
 これは私が君に対して最後にしてやれることであり、君の幸せを望む私からの最後のプレゼントとでもいえばいいのだろうか。知らない男と結婚する事は嫌かも知れないが……しかし、解呪が上手くいきさえすれば君はもう自由だ。その時は公爵家令嬢なんて重荷は捨ててしまえばいい。この私が全面に許可する。家のものには、解呪後は君の意思を尊重しろと深く言い聞かせてある。もちろんその生活が気に入ったのなら、公爵令嬢のままいてくれたってかまわない。
 君は、君の持てる全てのものを利用して、世界一の幸せをその手に掴むんだ!

 この世から去っても、私はずっと君の幸せを願っているよ。


 ……っとそうそう。大切なことを忘れていた。相手の男の名前を書き記していなかった。彼の名は――――――





「フランツ・レヴィアン……」

 エリィの口から男の名前が洩れる。解呪体質を持つ男の名前は、フランツ・レヴィアンというらしい。 彼はレヴィアン子爵家嫡男で、歳は今年で25。軍に所属している上、中々のハンサムだと言われている。院長の情報によればであるが。

 男はエリィの救世主となるひとなのだ。


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