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院長の手紙 ②
しおりを挟むいきなり公爵家令嬢、結婚ときて、正直なにがなんだか分からない。情報の少ない森の外れで3年もの間暮らしていた彼女にとって、頭がパンクしてしまうほどの情報量だった。
見知らぬ男との結婚には不安を感じる。だが、エリィも元伯爵令嬢だ。恋愛結婚などは夢のまた夢であるということはもちろん知っていた。――彼女の父と母は恋愛結婚であったのだが。
エリィの手は自然と右耳へと向かい、考え込むようにして瞳を閉じた。
ようやっとこの暮らしから抜け出せる。もう、孤独でいなくても良いのだ。家のそばに立てた中身のない妹の墓を慰めにする必要もなくなる。
本来の妹の眠る墓、孤児院の子供たちが皆一緒に眠っているあの場所に行く事も出来るかもしれない。
そう思うと心は不思議と前を向き出していた。
院長が最期に暮れた優しいプレゼント。エリィの閉じた瞳から落ちた一粒の雫が、古いフローリングを濡らした。
まだ混乱はしているが、少しずつ頭の整理をしていかねばならない。
エリィは持っていた院長の手紙に再度、目を移す。そういえば最後までまだ読んではいなかった。
彼女が続きを読もうと思ったところで、ドンドンッと家の扉が叩かれる音がした。
こんな辺鄙な場所に一体だれが訪ねてくるのだろうか。今までこの家の扉をくぐった人物は、この3年もの間で3人しかいなかった。エリィ自身に、何故か迷い込んでしまったらしい狩人の男、そして院長。
また迷い人だろうかと、額にしわを寄せながら恐る恐る扉へと近づく。その間にも「もしもし、いらっしゃいますでしょうか」と声が聞こえ、外にいる人物は何度も扉を叩く。声の主は男であった。
エリィはドアノブを回し、ゆっくりと木の扉を開けた。キーッと古びた音がし、外にいる男と顔を合わせる。外にいる人物は森の外れに似つかわしくない、漆黒の執事服をきた壮年の男性であった。
「迎えにきました、エリィ様。……いえ、プロマイア公爵令嬢」
唖然とした顔で男性を見つめると、目の前の男性はエリィが手に握りしめていた読みかけの手紙を指差す。
首を傾げながら、まだ未読であった《追伸》から連なる文字を目で追った。
――――迎えの馬車を寄越すよ。ああ、君が手紙を読んだその日のうちに、ね。
エリィは遠い目をしながら物思いに耽る。
そう言えば、院長は真面目そうに見えて意外と茶目っ気のある人柄の持ち主だった。彼はエリィの頭を休ませる気はないらしい。とんだ鬼畜である。
これにはもう、引きつった笑みを浮かべるほかなかった。
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