文字の大きさ
大
中
小
3 / 18
3.変わる関係
あの日から、ダニエルとディアナの運命は分かたれたに違いない。いや、周囲の人から見れば全く変わりはないように思えるだろう。変わったのは、二人の関係性だけなのだから。
*
「おはようございます、ダニエル様!」
ディアナは気まずい空気を味わった翌日、いつものようににダニエルに挨拶をした。何もなかったことにしたかったとも言えた。だがその一方、ダニエルはというと……。
「挨拶なんてしてくるな。勘違いも甚だしい」
「……え」
一瞬、聞き間違いかと思った。
(ダニエル様がおっしゃったの!?)
王子特有の傲慢なところはあったが、いつもディアナに対してだけは対等に接してくれていた。常に幼馴染ゆえの何者にも立ち入れぬ特有の空気が、二人を包んでいるのは明らかだった。だが。
「……馴れ馴れしく話しかけてくるなと言っているんだ。そんなこともわからないのか」
よくよく見ると、冷たい表情の奥には何か試すような感情が浮かんでいることに気づく。ディアナはなぜ、ダニエルがそのような事をするのか分からなかった。
(この人は一体誰なの……)
いつもと違いすぎる彼に、ディアナの心は追いついていなかった。あまりの事に呆然としていたが、ふと考える。
どうして彼は、いきなり変わってしまったのだろう。きっかけは昨日の出来事であるに違いないが。
ディアナは一つ、思い至ることがあった。
(ダニエル様は今までもコンプレックスによってプライドを傷つけられてきた。そしてついに昨日、その鬱憤が頂点にまで達したのではないかしら……)
塵も積もれば山となる。それを体現したかの様に、辛さや痛みが積み重なっていったのたろう。
王族ともなれば、鬱憤を晴らすことができる場など限られている。溜め込んで溜め込んで、ついに弾け飛んでしまったのではないか。
そして、ディアナに対しこの様にきつく当たるのはその鬱憤ゆえなのではないのか。ということは。
(彼が心の苦しさを晴らすことができる相手は私しかいない)
試すような瞳が垣間見えるのは、そういう理由なのではないだろうか。幼い頃からダニエルの立場を近くで見てきているディアナは、そう予測した。そしてこの予測はおそらく間違っていないだろう。
ディアナは目の前にいるダニエルに作り笑いを向けた。どのような理由があっても、好意を抱いている相手にぞんざいな対応をされれば芯から明るく振舞うことなど出来ないのだ。取り繕うように優しげな微笑みを向ける。
「申し訳、ありません……。以後、気をつけます」
「……っ!…………それでいい」
ダニエルは探るような目つきをディアナに向けていた。
このときのディアナの予測は間違っていたのだろうか。もっと違う対応をした方が良かったのだろうか。
ーー今となってはもう、分からない。
ただ、この日からディアナに対するダニエルの対応は鋭利な刃物のようなものへと変わっていった。
「馬鹿でのろまなんだよ」
「大した器量でもない癖に、男に媚び売ってるなよ」
「お前を好きになるような物好きなんてーーーーこの世にいるはずない」
人前で恥をかかされ、様々な罵詈雑言をぶつけられた。エリィの心はズタズタに切り裂かれ、傷だらけだ。
淡い恋心は時とともに泡となって消え失せ、失望へと変わっていった。
例えどのような理由があろうとも、傷つけることが当たり前と思っている人に対し良い印象など持つことはできないだろう。
初めてきつい言葉をぶつけられたあの日は、今日くらい仕方ないと思えた。これからこんな対応が続くとは思っていなかったのだから。
(私は間違っていたのね)
ようやく気づいた時には、すでに修復できない関係に拗れていた。いや、拗れているというのは正しくないだろう。ディアナはダニエルに憎まれているのだ。理由は思い至らないが、ディアナの恋心が失望へと変わっていったように、ダニエルの鬱憤ばらしも時を経てまた別のものへと変わっていったのだろう。
好きだった人に何故か憎まれているという苦しみが続いたある日、ディアナはダニエルから信じられない言葉を聞かされたのだ。
「俺とお前との婚約が成った」
ディアナは信じられなかった。だが、ダニエルの真剣な口調から、真実だということはおおよそ察せられた。
(どうして今更?私と結婚することは、あり得ないことなんじゃなかったの!?)
心の中には嬉しさなどはなく、戸惑いと恐れに溢れていた。なにせ彼は、自分を憎んでいるのだから。
それから三年。
ーーーー本日、ダニエルが婚約を決めた理由が判明したのだ。
【婚約破棄をして、ディアナを今までで一番傷つける】
だが、その思惑は残念ながら成功しなかった。
この3年間で既にディアナの心は奥底まで擦り切れていたのだ。そのため、既に動揺することもなかった。ただ、早くこのような茶番は終わらせたいと願うばかりだった。
そして、物語のような新たな恋を見つけたいと願っているのだ。
感想 15
あなたにおすすめの小説
王妃は春を待たない〜夫が側妃を迎えました〜
羽生王妃シルヴィアは、完璧だった。
王であるレオンハルトの隣に立ち、誰よりも正しく、誰よりも美しく、誰よりも“王妃らしく”あろうとしてきた。
けれど、結婚から五年が経っても2人には子は授からず、ついに王は側妃を迎えることになる。
明るく無邪気な側妃ミリアに、少しずつ心を動かしていくレオンハルト。
その変化に気づきながらも、シルヴィアは何も言えなかった。
――王妃だから。
けれど、シルヴィアの心は確実に壊れていく。
誰も悪くないのに。
それでも、誰もが何かを失う。
◇全22話。一日二話投稿(投稿予約済み)
◇ コメント欄にて様々なご意見・ご感想をいただきありがとうございます。本作はすでに最後まで執筆済みのため、いただいたご意見によって今後の展開が変わることはございませんが、ひとつひとつ大切に拝読しております。それぞれ感じ方の分かれる物語かと思いますが、最後まで見守っていただけましたら嬉しいです。
【完結】捨てられた侯爵夫人の日記
ジュレヌク十五歳で侯爵家に嫁いだイベリス。
夫ハイドランジアは、愛人と別邸に住み、三年の月日が経った。
白い結婚による婚姻不履行が間近に迫る中、イベリスは、高熱を出して記憶を失う。
戻ってきた夫は、妻に仕える侍女アリッサムから、いない月日の間書き綴られた日記を手渡される。
そこには、出会った日から自分を恋しいと思ってくれていた少女の思いの丈が詰まっていた。
十八歳になり、美しく成長した妻を前に、ハイドランジアは、心が揺らぐ。
自分への恋心を忘れてしまったとしても、これ程までに思ってくれていたのなら、また、愛を育めるのではないのか?
様々な人間の思いが交錯し、物語は、思わぬ方向へと進んでいく。
【完結】聖女と国王は恋仲にしか見えませんので、私は妻をやめます
月乃しずく王妃アリアは、国王レオンと聖女セレナが愛し合っているという噂に苦しんでいた。夜通し共に過ごし、人前で名前を呼び合い、触れ合う二人は、誰の目にも恋仲にしか見えない。
それでもレオンは「国を守るために必要なことだ」と妻の痛みに気づかず、セレナも王妃の席へ座り、妻のように振る舞い続ける。ついに礼拝堂で、アリアは皆の前で二人を問いただす。
「お二人には、本当に呆れましたわ」そして結婚指輪をレオンへ投げつけ、「私は、あなたの妻をやめます」と宣言する。だが王妃が去った直後、妻になったつもりで振る舞う聖女へ、王宮中の視線は冷たく変わっていき。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「お前とは結婚できない」って言ったのはそっちでしょ?なのに今さら嫉妬しないで
ほーみ王都ベルセリオ、冬の終わり。
辺境領主の娘であるリリアーナ・クロフォードは、煌びやかな社交界の片隅で、ひとり静かにグラスを傾けていた。
この社交界に参加するのは久しぶり。3年前に婚約破棄された時、彼女は王都から姿を消したのだ。今日こうして戻ってきたのは、王女の誕生祝賀パーティに招かれたからに過ぎない。
「リリアーナ……本当に、君なのか」
――来た。
その声を聞いた瞬間、胸の奥が冷たく凍るようだった。
振り向けば、金髪碧眼の男――エリオット・レインハルト。かつての婚約者であり、王家の血を引く名家レインハルト公爵家の嫡男。
「……お久しぶりですね、エリオット様」
国王の子である異父妹は伯爵家の娘である私のことを可哀想だと見下すけど、本当にそうかしら?
藤谷 要伯爵令嬢メルには婚約者がいるが、「自分にはもっと相応しい相手がいあるはずだ」と彼から嫌われていた。しかし、王家が勧めた縁組の解消は難しかった。困っていたところ、いきなり彼からメルは婚約破棄される。メルの異父妹サラと真実の愛に目覚めたらしい。サラは自分のほうが愛されていると異父姉のメルをいつも見下していたが、メルはいつもサラの期待するような反応をしなかった。そのせいで、メルの婚約者に目をつけたらしい。
※表紙はAI生成です。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中