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12.求婚失敗した男【ナインside】

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最悪だ。
僕は姉様に対し、無様な姿を見せてしまった。真っ赤になり、ただ立ち竦むだなんて、格好悪過ぎる。

ナインは今にも消えてしまいたいと考えながら、一人で頭を抱えた。

(どうして僕は…………姉様のあからさまな色仕掛けに負けてしまったんだ!!)

僕は内心叫びたい気持ちを抱えながら、なんの意味もなくうろうろと自室を歩き回る。心を落ち着かせようとしてのことだった。


姉の色仕掛けに当てたれたあの後、僕は暫く経ってからハッと自分の状況に気付いた。そして、無意識のうちに姉の部屋から飛び出していた。
部屋へと一直線に戻ると、俺は壁に手をつき頭を抱える。恥ずかしさに打ち震えながらも、心臓な今までにないほど大きく高鳴っていた。

なにせ、大好きな女性に女として触れてもらったのだから。それが例え、策略のうちだとしても。

思い出すのは、頰に触れた義姉の柔らかな唇の感触。耳にかかる温かい吐息。体から立ち昇る、華やかな薔薇の香り。

煩悩を抱える思春期の男には、目の毒とも言える。姉様を愛してやまない僕は、普段ならその毒を喜んで口にするだろう。だが、それは心の準備があってのことだ。けして不意打ちではない場合なのだ。

僕は全ての物事において、器用にこなしていく自信があった。元々、要領が良いために何かに苦労することも少なかったのだ。

勉強も、苦労せず同年代の輩よりも優秀な成績でいたれた。男子たるもの武力がなければならないという国の教えに則り、剣術を学べばすぐさま師をも追い抜いた。人間関係も、幼い頃に円滑に進める方法を編み出し、現在に至るまでほとんどトラブルに巻き込まれることもなく生きてこられた。それゆえか、友人も多い方だろう。


だが、そんな僕にも最大たる弱点があった。周囲には知られていないようだったが、それは僕が懸命にひた隠しにし続けていたために他ならない。



そう、その弱点こそ『恋愛』だったのだ。

 

姉に恋情を抱いてから、全てにおいて計算が狂った。こんなことでは家のためにならないと思い、他の娘に目を向けようと努力をしたこともある。だがそれも無駄に終わるのが常だった。


ディアナほど、自分の心を動かす存在はいないのだ。


近くにいるだけで安心を覚え、自分の存在を再確認できる。僕がここにいて良いのだと、教えてくれるのは義姉だけだった。

彼女は、安心以外の感情も教えてくれた。優しく声をかけられ手を握られると、心臓がドクドクと大きく音を立てる。そして、息が苦しくなるのだ。だがそれは、けして嫌悪感を抱くようなものではなく、むしろ歓喜を覚えたのだった。



だが。
それが恋情だと気がついた時、同時に自分の失恋も確定したのである。



なにせ、ディアナは本物の王子に恋しているのだから。

彼女の幼馴染である第三王子は、あまり良い評判を聞かない。姉に対しては罵詈雑言をぶつけ、陰で泣いている彼女を何度目撃しただろうか。
姉が幼馴染だからと言って、僕と第三王子は特別親しくなかった。
正直にいうと義姉を愛する以前から、あの男を疎んじていた。なにせ、大好きな姉にまとわりつく鬱陶しい人という認識をしていたのだから。

第三王子に目を向けている間、義姉は自分のことを見てくれないのだ。自分たち家族の側に来ないでほしいと思うのも当然だと言える。

ディアナに対し暴言ばかり吐くあの男は、余程歪んだ執着を抱えているのだろう。そんな相手をひたむきに思い続ける義姉に、憐憫の気持ちがなかったかといえば、それは嘘になる。

(姉様、お願いだからそんな男は諦めて、僕のところに来てよ)



ーー家族という形を壊したくない。だけど、壊したくてたまらない。



僕はこれまで、溢れ出る思いを胸に堰き止め続けていたのだ。
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