ワールドマテリアルズ~転生先は、自分が原作者の異世界でした。

依槻

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第一部

20:道具も危険も使い様

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 昼を過ぎても冒険者向けの討伐依頼はまだ入ってきていないため、ティエラの手伝いをすることになったシノは、二人でクラド村付近の森林へとやってきていた。
 ティエラは採集道具一式に加えて、念のため護身用の魔法道具を準備してきている。

「あまり私から離れないようにねー。魔物がいたらやっちゃうから」

「分かってますよ。そこは頼りにしてますので」

「なんだかこうしてると、普段のお出かけと変わりないように思えてくる」

「ふふ、それは私達ならではといった感じでしょうね」

 いつもは特に何も持っていないシノだが、今日はなんとなく杖を持ってきていた。殆ど家のお飾りなので滅多に使うことなどないが、雰囲気というやつだろう。
 村に戻って夜になれば、ここ最近の武勇を語って聞かせるという仕事(というのかはさて置き)もあるのだ。久々に会ったのだから少しでも頼もしげなところを見せておかなければ。

「相変わらずこういう収集に関しては私じゃサッパリだよ。よく見分けられるよね」

「職人の勘というものですよ。思わぬ素材から思わぬ物が生まれることもあるのですから」

「薬草とかから魔法の爆弾が出来たりするのって一体……」

 森林の中で周囲を見回しては何かを見つけて採集していくティエラの様子を、後ろをついていくシノが不思議そうに見守っていた。
 魔法道具の制作過程を見ていると、ティエラがやっていることは錬金術に近い気もする。これも彼女が持つ才能ということか。たまにドジこそやらかすが、それはそれとして。


「とりあえず、今日はこのぐらい集めれば十分でしょう。そろそろ帰りましょうか」


 森林に入ってから一時間ほど経った後、ティエラは採集用の籠を背負って立ち上がる。中には薬草だったり淡い光を放つ石だったりと様々なものがところ狭しと入っていた。相変わらずシノは、それをどう使うのかサッパリな様子。

「特に何も起こらなかったね。ま、それが一番なんだけれども」

「むしろ、何か期待してたのですか? 村も近いんですから、そうそう何も起こりませんよ」

「それはそうだけど……せっかく杖だって持ち出したのに――――――」

 使う機会がなかったなぁとちょっと残念そうなシノをよそに、ティエラは来た道を引き返し始める。
 若干苦笑しつつもその後を追いかける彼女だが、言葉を言い終わる前に――――――――


 ――――――ズズゥゥン……


 まさに、今言っていた何かが起こった。地震とまではいかないが、歩いていた二人はハッキリとした空気の揺れのようなものを感じ取る。
 何の前触れもなかったので何事かと思った二人は立ち止まり、周囲を見回した。

「……何、今の? どこかで爆発でもした?」

「何か巨大な物が動いたような音でしたよ。あちらの方から聞こえましたが」

 ティエラはそう言って山間部方面を指さす。クラド村とは反対で、別の街がある方角だ。あっちは街道が続いている場所なので、巨大な物などなかったはずなのだが……

「とりあえず、確認しに行ってみよう!」

「荒事が起こってなければいいんですけどね」

 シノの言葉にティエラが頷くと、山間部方面の森林出口へと向かって走り出す。一分も経たないうちに森林を抜けて開けた街道に出ると、すぐに辺りを確認した。
 さっき音が聞こえてきた方角を改めて見てみると、そこには――――――――


「……ゴーレム!? どうして街道に、あんな魔物が!?」


 二人の視線の先にいたのは、巨大な岩の魔物であるゴーレム。魔物の中でもそれなりに上級クラスに位置する存在だ。
 だが問題はそこではない。街や村をつなぐ普通の街道にあんなものが何故いるのかということだ。

「見てください! あそこだけ地面が一部無くなっています。ひょっとすると……」

「地面に擬態してたのが今更になって動き出した、ということね……」

 ティエラが指した先には、そこだけ穴が空いたかのような箇所があった。ゴーレムは地面や岩に擬態する能力を持っているので、今の今まで眠っていたのだろう。見つからなければ脅威として認識されないし、そもそも討伐依頼だって入ってこないはずだ。
 そして何よりもゴーレムの他に二人の目に入ったのが、


「シノ、あそこで冒険者達が戦っています!」


 三名ほどの冒険者が巨大なゴーレムと戦っている姿だ。剣士の男性が二人に弓使いの女性が一人。状況を見るに、彼らから戦いをふっかけにいったわけではなさそうだ。
 近くを通りかかったら擬態していたゴーレムが動き出して、戦闘になってしまったのだろう。

「くっ……こんな大物に出くわすなんて、ツイてねぇな!」

「コイツはヤバイぞ! 応援を呼んだほうがいいんじゃないのか!?」

「応援っていったって……コイツが付いてきちゃうよ!」

 剣士と弓使いではゴーレムに対しての火力が圧倒的に足りておらず、見るからに苦戦を強いられていた。そして弓使いの彼女が言うように、近隣の街へあんなものが付いてこられるとさすがに被害が及んでしまう。

 ……ならばどうするべきか? ここで取るべき行動は一つしかないに決まっている。


「よし……ちょっと、加勢してくるよ。ティエラは後ろに下がっててね」

「分かりました。ですが、無理だけはしないで下さいね」


 持っていた杖を握りなおすと、冒険者達に加勢すべくシノが走り出した。ほどなくしてその姿に気付いたのか、冒険者達は当然のごとく驚いた表情をしている。

「あれは、クラド村のシノさんじゃないか!?」

「俺達の加勢にきてくれたのか!」

「よ、よかった……これで何とかなりそう」

 どうやらシノが加勢しにきたことによって、彼らの士気も少しだけ上がったようだ。そうでなくてはこの場合困るのだけれども。
 ゴーレムのような魔物に対しては相当な重い一撃でもない限り、物理攻撃の効果はない。彼らはその攻撃手段をもっていないため、足止めや僅かな削りぐらいが関の山だ。

「皆さん、私がゴーレムを何とかします! なので、少しだけ時間を稼いでください!」

 ならば、有効打となるのはシノの魔法だけとなる。それもただ何か放てばいいというだけではなく、ある程度の火力が必要だ。あれほど大きなゴーレムともなれば、初級魔法程度では殆どダメージが与えられない。
 上級魔法で一気に決める必要があるが、いつも使っているようなものとは違ってこれらは詠唱時間が必要となってくる。もちろん、ゴーレムを避けながらではそれは無理だ。

「わ、分かった! 行くぞみんな!」

「おうっ! 何とかしてみるか!」

「し、仕方ないわね……っ!」

 再びゴーレムへ向かっていった三人を確認した後、シノはすぐに距離を取ると杖を頭上に掲げ、詠唱の準備をするために魔力を高め始めた。空気が魔力を巻き込み、シノの周囲を舞うと同時に光を放つ。
 一撃で決めなければ冒険者達だけではなくティエラにも被害が及んでしまうため、失敗は許されない。

(散歩程度で外出したら、まさかこんなのに出会うなんてね……)

 起こるとしてはちょっとやりすぎなレベルだとは思うが、ぼやいても仕方がない。魔力を高め終えたシノはようやく構えを取ると、上級魔法の詠唱を始めた。
 これで、あと数十秒後にはゴーレムを一撃で仕留めることが出来るだろう。
 
 このままいけば勝利が確定か。と思われたその時――――――――


「うおわぁっ!!!」


 巨大な腕を思い切り振りまわしたゴーレムの攻撃を避け切れず、冒険者達が吹き飛ばされてしまった。
 それと同時に、魔法を発動しようとしていたシノにも気付いたのか、ゴーレムがこちらを向くのが見える。もはや吹き飛ばされた三人には目もくれず、巨大な身体はどんどんこちらへ迫ってきていた。

(マズい、このままだと詠唱が間に合わない……!)

 だからといって詠唱を中断して逃げ続けても有効打は与えられないため意味がない。もう一度彼らに時間を稼いでもらうにしても、これ以上無用な負傷をさせては駄目だ。
 これは一体どうしたものかと思い悩んでいると、


「――――――そうはさせませんよっ!」


 後ろからティエラの声が聞こえた直後、シノの真横を青く輝く何かが通り過ぎるのが見えた。
 その正体は、雪結晶のような形をした魔法道具。全力投球されたそれはシノに迫りくるゴーレム目掛けて飛んでゆき、


 ――――――パキィィィンッ!!!


 鋭くも澄んだ音と共に炸裂すると、下半身を完全に凍結させて動けなくしてしまった。
 足の動きを奪われたゴーレムは思い切りバランスを崩して巨大な両手を地面につき、その際に少し地面が振動する。

「シノ、今がチャンスです!」

 ティエラの声に応えるようにシノは頷くと、高めていた魔力を一気に解放する。
 杖を身体の前で構えて目を閉じると、上級魔法の発動が始まった。



「穿つほのおよ。舞う爆炎よ。悠久なる循環より目覚め顕現けんげんせよ」



 発動に合わせるようにゴーレムの足元に紅い魔法陣が出現し、その周囲を取り囲むように次々と小さな魔法陣が生み出されてゆく。
 だが、魔法道具による凍結も長くは持たないのか、段々とゴーレムが動き始める。凍り付いた足が動き出すまであと十数秒といったところだろう。

 だとしても――――――――既に遅い。


「――――――エクスプロージョン!!!」


 シノが杖を前方へかざした瞬間、ゴーレムを取り囲んだ魔法陣から爆炎が発生し、巨大な身体へと襲い掛かり焼き尽くした。
 更に魔法陣の内側で次々と爆発が巻き起こり、岩石状の身体がどんどん崩れ去ってゆく。
 そのまま数十秒ほど過ぎただろうか。爆炎によって巻き起こった煙が晴れると、そこには焼け焦げたゴーレムの残骸と大量の魔結晶が転がっていた。
 討伐を確認して安心したのか、シノは胸を撫で下すと大きく息をつく。

「……ふぅ。なんとか片付いたみたいだね」

「シノに向かってきたのが運の尽きでしたね」

 後方から戻ってきてシノと並んだティエラは得意げに笑ってみせた。
 彼女が咄嗟に援護してくれなかったら延々とイタチごっこが続いていたか、討伐にもっと時間がかかっていたことだろう。そういった意味では一番の功労者かもしれない。魔法道具も決して馬鹿にはできない威力ということだ。
 先ほど吹き飛ばされていた三人は既に立ち上がっており、こちらに向かってくるのが見える。

「本当に助かったよ、ありがとう!」

「こちらこそ、協力感謝します! 大事にならずによかったです」

 礼を言われた後に、拾い集めてきた魔結晶を受け取ってほしいと言われるが、やんわりと断っておき全て彼らに渡すことにした。
 ただ単にシノ自身がそこまでお金を必要としていないのと、本職の冒険者である彼らの方が資金が必要だと思ったからである。

 ……シノも本職では冒険者の筈なのだが、これが彼女の性格なのでツッコむだけ野暮だろう。

 まさかの申し出に驚きこそしたものの、改めて礼を言った彼らに別れを告げた。
 ティエラは心なしか物欲しそうな顔をしていたが、こちらは商人として十分な収入があるのだし、元からお金に困っていないとは思う。

「……さて! 早いとこ村へ帰ろっか」

「シノは本当にお人好しですよね……いっそ尊敬すら覚えますよ」

「ふふふ、一応先生なんだから尊敬されてなんぼだよ」

 呆れたような溜息をついたティエラを尻目に、シノは村への帰路を歩き出す。こうやって冗談めかした言い合いが出来るのも昔からの仲である二人ならではだろう。

 二人が歩き去った後、焼けた残骸が転がった街道にはいつも通りの静けさが戻ったのであった。
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