ワールドマテリアルズ~転生先は、自分が原作者の異世界でした。

依槻

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第一部

22:来訪百年祭

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 一週間ほど前から感じていた違和感の正体が明らかになるのか否か。ティエラの出迎えを受けて森の訪れへ来たシノ。
 そこで彼女を出迎えたのは百名を超える村人達の盛大な祝福で、


「こ、これは一体……? それに今、百周年って……」


 聞き間違いでなければ、確かに皆はそう言っていた。シノがこのクラド村へ来てから百周年であると。
 驚きのあまり口に両手を当てたまま彼女が固まっていると、集まっている皆をかき分けるように村長の男性が前へと出てきた。

「代々の村長から聞かされていましてな。まさに今日が、シノさん。貴女が此処――――――――クラドの地にやってこられてちょうど百年目なのですよ」

「百年前の今日、私が……?」

「ええ、そうですとも。少し前から内緒で、村の皆と計画しておりましてな……百年という記念すべき日を、是非とも祝わせて頂きたいと」

 時が過ぎるのは早いとはよくいったものだ。この世界に転生してクラド村の住人となってから百年もの時が過ぎていたとは、シノにとっても驚きだろう。
 それがちょうどこの日であると聞かされ、ここ数日の村の雰囲気が違っていた理由もこれでハッキリする。皆が、この日を自分のために祝おうと準備をしてくれていたのだ。

「……私はただ、この村に住んでいただけですよ?」

「はっはっは、ご謙遜を。この百年という長い年月の間に、シノさんのお世話になった者は親の代から孫の代まで大勢いるではありませんか。時には冒険者として皆を守っても下さっていた。感謝の理由としては十分過ぎるほどですよ」

「そ、それはまぁ……」

 村長の誉め言葉になんだか照れ臭くなってしまい、思わず顔が下を向いてしまう。
 シノ自身にとっては普通に暮らしていたぐらいの感じだったが、まさかそこまで貢献していたとは。僅かな積み重ねが気付かない間に百年も積もった結果というものだろうか?

「いよっ! この村で一番綺麗な最年長者っ!」

「せんせー、いつもありがとうっ!」

「アンタが居てくれたからこの村も一層活気付いたんだ。感謝してるよ!」

 村の皆から次々と言葉をかけられ、シノの顔が若干赤くなっているように見える。普段は大抵のことでは恥ずかしがらないのだが、さすがにこの状況ではそうもいかないようだ。
 しばらくの間、皆から期待の視線でじーっと見つめられていたシノは遂に観念したのか、


「……分かりました! 今日は、皆さんのご厚意に甘えようと思います!」


 顔を上げると同時にとびっきりの笑顔で言ってみせた。直後に村の皆から喝采が起こり、店内の空気は更なる盛り上がりに包まれる。
 するといつの間に用意していたのか、皆がそれぞれコップやグラスを手に持ち始め、


「それでは、この百周年という日を祝しまして――――――」

「乾杯ーっ!!!」


 シノが音頭を取った後に村長が続くとそれに合わせた全員の声が、森の訪れの店内へと割れんばかりに響き渡ったのであった。

(……うん。たまにはこういうのも悪くないかもね)

 自分がペリアエルフなんていう崇高だったり特別な種族だからというわけではなく、この小さな村で皆と一緒に住み、見守ってくれている一人の仲間として見てくれている。
 シノはあまり崇められるような扱いが好きではないのだが、これはどちらかというと慕われている感じだ。だからこそ彼女にとって悪い気はしないということだろう。
 ペリアエルフなんていう珍しい種族だから。強い冒険者だから。などという理由ではない。村の皆は総じて「シノという人だから」という思いで慕ってくれている。

「シノさんシノさん! 村に来た当時の話、聞かせてくれよっ!」

「あっ、ズルいぞお前! 俺だって爺っちゃんから噂ぐらいしか聞いてないんだからさー」

「昔の冒険者のお話とかも、是非聞いてみたいです!」

 皆と談笑していると、村の若い子や子ども達がすぐさま寄ってくる。こういった面でも相変わらずシノは人気者だ。
 こういう特別な日でもなければ聞けないことだってたくさんあることだろう。彼女は声に振り返りつつも皆を両手で抱え込むと、

「わかった。今日は気の済むまでお話ししてあげる!」

 銀色の瞳をより一層輝かせながらの返答をしてみせた。こうしていると、まるで近所のお姉ちゃんかのようだ。
 これは、顔なじみ達と酒を酌み交わすより長い席になりそうだなと思い、心の中で気合を入れた。皆がここまで盛大に祝ってくれているのだ。こっちもそれに応えてあげなければ!

 こうして大盛り上がりの空気に包まれる中、百年目の特別な宴の時は過ぎていくのであった。


 ◇


 これ以上騒ぎ倒した日などないのではないかというぐらい盛り上がりを見せ、来訪百年祭と銘打ったこの催しもそろそろ終わりが見えようとしていた。
 村長から始まり村人から子ども達に至るまで、何十年分は語り明かしたと思う。店の外まで広がっていた宴の会場も段々と人が減り始め、皆撤収作業に入り始めていた
 もう殆ど真夜中だというのに、森の訪れにこれほど大勢がいるというのもかなり珍しいだろう。

「今日は、本当にありがとう御座いました! 今までの百年で一番思い出に残る一日でした」

「はっはっは! そう言って頂けると、我々も用意した甲斐があったというものです。今後とも、この小さな村をどうぞよろしくお願い致しますよ」

「もちろん。私の瞳が銀色のうちは、任せておいてください!」

 シノ独特の言い回しと共に、彼女は笑顔で大きく頷いてみせた。
 仕事に支障が出ては駄目だということで、奥さんに迎えられた村長は一足先に場を後にする。ワリと暇しがちな自分と違って仕事人だなぁと思いつつ、シノはその後ろ姿を見送った。
 それから自分も何か手伝うことはないかと店内を見回していたが、ふとカウンター席の方を見ると、そこで寝ている誰かを見つける。


「ローザ、ほら起きて。もうみんな帰り始めてるよ」


 それはまさかのローザであった。どうやら酔ってしまっているようで、いつもの彼女の雰囲気とは大違いである。赤みが差しているその顔は、いつもより数割増しで幼く見えた。
 シノが何度か呼びかけてようやく気付いたのか、眠そうな青い瞳を少しだけ開けて反応。

「うーん……もうちょっと寝かせてくださいお母さん……」

「誰がお母さんだっ」

「いひゃい」

 酔っているというか寝ぼけているようで、呆れて苦笑したシノは軽く頭を叩いておく。
 こんなローザの姿を見れるのは後にも先にもこういう時だけかもしれない。いずれ話のネタに出来ると思うし覚えておこう……なんて、ちょっと悪戯めいた考えも浮かんだ。
 そんなローザを目の当たりにして背負っていったほうがいいのかどうしようかと考えていると、


「もう、しょうがないねぇこの子は……よっと!」


 店内の片づけを行っていた内の一人が現れ、慣れた動作でローザを背負ってみせる。
 シノと同じくらいの背丈に、白髪交じりの黒髪を三つ編みにした初老の女性。森の訪れの先代店主にしてローザの母親、エリザであった。

「世話かけさせて悪いねぇ、シノさん」

「ううん、今日は私がその何倍もお世話になったからね」

「そう言って貰えるのが一番さ! 特にこの子は張り切ってたからねぇ」

「ローザが……?」

 この百年祭自体は村の皆が総出で計画していたが、まさかその先頭にローザがいたとは。引っ込み思案な普段の彼女を見ているシノとしては、かなり意外だった。

「まるで実の姉かのように、シノさんを慕ってたからねぇ。それこそ、知らない所で何度もお姉ちゃん呼ばわりしてたこともあったくらいさ」

「そういえば昔、ローザが珍しく大慌てで逃げていったことがあったような……。今思うと、アレはそういう理由だったんだね……」

「癖で、シノさんの目の前でお姉ちゃんって呼びそうになってたからねぇ。部屋に閉じこもって出てこなかったから、何事かと思ったもんさ。あっはっは!」

 当の彼女を背負ったまま、夜も近づいた村を歩きながら、エリザは昔話に花を咲かす。
 もう数十年も前のことになるが、エリザが店頭に立っていた頃は色々と馬鹿を言い合っていたものだ。
 その役目は今や娘であるローザに受け継がれ――――――てるとは言い難いけれども。あと数年もすれば、今よりもっと明るく、色々と言える子になってくれるに違いない。
 そしてそれを、親であるエリザ達と共に見守るのは他でもないシノ自身だ。

「よっこらせ……っと! こりゃあ明日の昼までは起きないだろうねぇ」

「お店どうするんだろう……エリザさんに任せちゃうことになるけれど」

「たった半日ぐらいどうってことないさ! 風来坊どもの相手なんてお手のもんだよ」

 シノの心配をよそに、エリザは一切年齢など感じさせない力強さで答えてみせる。
 彼女が店を任されていた頃は、ベテラン冒険者も思わず一歩退く迫力だったっけ……。シノ自身もそれを実際に体感してきた一人だからなお更だ。
 本当ならまだ現役でもいいはずなのだが、そこはローザの将来を案じてのことだろう。早いうちから任せて慣れさせておこうという親心なのかもしれない。

「というか、もう昔みたいに呼び捨てで呼んではくれないのかい?」

「そこは年配の方への配慮ということで」

「あっはっは! 最年長者のくせして、なーに言ってんだいっ!」

 さん付けを気にしたエリザが問いかけてみるが、冷静に年配の方と返されてしまった。それに対して、快活な笑い声と共に背中をバシンと叩かれ、ツッコミを入れられる。
 シノの方が倍以上年上ではあるのだが、エリザはもうお母さんだし人間としては年配だ。そこは一応、礼儀としてちゃんとしておかなければというところだが、

「まぁでも、今日ぐらいは別にいいのかも――――――ね、エリザ?」

 シノはそう言うと、友人としての笑顔をエリザへと向けた。
 突然、昔のような呼び捨てで名前を呼ばれた彼女は少し驚きこそしたものの、すぐに笑顔へと変わる。それこそまさに、数十年前から何度となく見ていた友人としての表情に。

「うんうん、そうこなくっちゃね! 今日は無礼講なんだ、もうちょっと付き合ってくれるかい?」

「エリザさえいいのなら、喜んで付き合うよ」

 まだ夜は長いのだし、今日はとことん付き合ってあげるとしよう。昔もよくこうやって付き合わされたことがあったなぁと、シノは思い出していた。特別な日ということも相まって、今日はいったいどんな面白い話が飛び出すのやら。

 シノにとっては一生に一度の特別な日。百年祭の夜は、こうして更けていくのであった。
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