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第一部
24:旅する修行人
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店からの依頼で近場の泉まで水を汲みに来たまではよかったのだが、帰ろうとした矢先に目の前で少女が倒れるという緊急事態に遭遇。そこに駆け寄って急いで抱き起こしたシノは、焦ったように呼びかけた。
「ちょっと、どうしたの! 大丈夫!?」
その少女は短い茶色の髪に金色の瞳をしており、優しげな雰囲気の顔立ち。薄く目を開けていたので気を失ってはいないようだが、弱っていることには違いなかった。
そしてシノは、しばらくその身体に触れているうちにあることに気付く。
(この子ってもしかして、精霊……?)
見た目こそ人間の少女のように見えるのだが、身体から不思議な力を感じ取ったからだ。それは普通の人間や他の種族にはない特別なもので、熟練者の彼女レベルでないと察知できないだろう。
やがてシノに気付いた少女は、少し弱々しい感じでその口を開く。
「あ、あなたは一体……?」
「私はシノ。近くの村に住んでる冒険者だよ」
「よ、よかった……近くに住んでる方なんですね。私の名はリエルといいます」
リエルと名乗った少女は、シノの言葉を聞いて心底安心している様子だ。弱ったままだと話もし辛そうなので、ちょうど水筒に汲んでいた水を飲ませてあげると少し顔色が良くなる。
「……ぷはっ。ありがとう御座います、少し生き返りました……!」
「あなた……精霊だよね。どうしてこんなところにいるの?」
「実は、スピリティアから旅をしてきまして――――――」
「スピリティア!? あんな遠くからここまで来たっていうの……!?」
精霊だと見抜かれたことにリエルは驚いてはいないようだが、彼女の旅の行程を聞いたシノが逆に驚いてしまった。
スピリティアは遥か北の大森林の中にある精霊達が暮らしている里で、世界でも指折りの秘境だ。しかも、里には許可なく立ち入ることが出来ない上に詳しい場所を知っている人も少ない。
世界の原作者であるシノは場所ぐらいなら知ってはいるが、自分で行ったことなどもちろんなかった。
「修行のために故郷を出て、定住地を探していたんですが……気付けばこんなところまで来てしまって」
気付けばきてしまうような距離ではないのだけれど。と、シノは内心苦笑する。秘境などと言われているだけあって、各地からのアクセスは相当悪い……というか単純にものすごく遠い。
クラド村の港から船を乗り継いでいったとしても十日はかかってしまうことだろう。
「それはまぁなんというか……ご苦労だったね……。それで疲れて倒れちゃったの……?」
「前に立ち寄った街からもう丸一日、何も食べていなかったもので……」
「うーん……色々と前途多難な旅路だ」
ここから一番近い街といえば例の武道大会を行ったジェネスだと思うのだが、歩いて一時間もかからない。だとすると、前に立ち寄って宿を取った街というのはもっと遠くの方なのだろう。
さすがに稼ぎの宛てなしのまま行く先々で宿を取っていては、手持ちがすぐに尽きてしまう。
「とりあえず、まずは村まで来る? ご飯食べてないのは見過ごせないし……」
「は、はい! 是非ともお願いします!」
物凄く遠くから旅をしてきて、なおかつ行き倒れかけてる子を放ってなどおけない。詳しい事情も訊いておきたいし、まずは村で休ませてあげるべきだろう。
「それじゃあ村はすぐそこだし、行こっか。ちゃんと立てる?」
「はい! お気遣いありがとう御座います」
「村一番の料理上手のご飯でも食べて、まずは元気だしてね」
「む、村一番の……?」
何を隠そうローザのことなのだが、それを聞いた途端に心なしか元気が増したような気がする。というか元気にならないほうがおかしい。そこらの回復薬よりずっと効果はあると自慢できるレベルだ。
シノはまだちょっと足がおぼつかないリエルの手を引くと、クラド村への道を引き返していくのであった。
◇
村へ戻ってきたシノは、依頼の報告もあるのでまずは森の訪れへと向かう。リエルが未だ腹ペコなのでそちらも早くなんとかしなければならないのだし。
村人達はリエルの姿を見てこそいたが特に驚いたりしている様子はなく、普通の人間からしてみれば、精霊であるという見分けはついていないようだ。
「ただいま、ローザ! 依頼完了の報告ですよー」
「おかえりなさいシノさん! ……って、あれ? その方は……」
帰ってきた彼女を明るく出迎えたローザの視線は、すぐさま横にいたリエルへと留まる。
「初めまして、リエルといいます。村の外で、シノさんに助けて頂きまして……」
「そうなんだよ。実はね――――――」
自己紹介したリエルに続いて、シノが事の顛末を説明し始めた。
当然ながらローザは驚いたりしていたのだが、やがて納得がいったのか頷きつつ話を聞いている。職業がてら、珍しいお客にはそれなりに慣れているのだろう。
「スピリティア……それはまた、凄い場所から来られたんですね」
「里もそうだけど、あの大森林もまだ謎が多い地域だからねー」
シノでさえ謎が多いなどと称しているが、これは別に嘘などではない。
あの設定集の中でさえも、謎の多い大森林としか書かれていなかったので詳細が不明だからだ。当時はそこまで書く考えが及ばなかったのかロマンを求めたのかは闇の中である。
まさにそこ出身のリエルはというと、ローザの作った料理に先ほどから夢中になっていた。
「こんなに美味しい料理は初めて食べました……! もぐもぐ……」
ここ最近で彼女の料理を最も美味しく食べたのは間違いなくリエルだろう。それに加えて、なんだかキラキラしたオーラが見えるような気がする。
これを見ていると、ローザは引っ込み思案なことを除けば物凄くよく出来た子だというのに、未だにローザに嫁の貰い手が現れないのが実は一番の謎なんじゃないだろうか?
「――――――御馳走様でした!」
などと、シノが余計なことを考えている間に、オムライスを食べ終えたリエルは満面の笑みを浮かべていた。それを片付けているローザもまた、嬉しそうである。料理人冥利に尽きるといった感じか。
ひとまずこれでリエルの行き倒れ問題は解決したが、重要となるのは今後どうするかについてだ。
「ところでリエルさん。定住地を探すという話ですが……どうするのですか?」
「正直、私も宛てがないんですよね……落ち着ける場所があればいいのですが」
各地を渡り歩いて武者修行というのも悪いとは言わないが、また行き倒れそうで心配ではある。精霊は繊細な存在なのだし、落ち着くことのできる定住地は必須となってくるだろう。
ローザとリエルが二人そろって頭を悩ませていると、
「それなら……私の家に来る?」
思いがけない提案をシノがしてみせた。当然のごとく驚いた二人は彼女を同時に見る。
「えっ? シノさん……?」
「いいん……ですか……!?」
リエルの反応を見る限りでは、これからも各地を渡り歩いて探すつもりだったようだ。
まさかここで定住地が見つかるとは予想していなかったのか、驚く二人をよそにシノはなんてことはないといった表情。
「リエルさえよければ、私は全然構わないよ。宛てのない旅をこれからも続けさせるのは、やっぱり心配だから……」
これから先住む場所が見つかったとしても、知人の一人もいない地で暮らすのはさすがに辛い。シノはまだ遭遇したことがないが、精霊を迫害するような地域に当たってしまうと最悪だろう。
それならば、少なからず縁の出来たこの村に住んだ方が心身的にも落ち着くことができる。
「わ、私はもちろん良いんですが……お邪魔になったりしませんか?」
「お邪魔どころか、むしろその逆だよ。私の家って無駄に広いんだよね……。空き部屋は未だにあるし、そのせいで掃除は大変だし」
「確かに、一人暮らしするような大きさの家ではないですからね……」
「それこそ、二人暮らしでも有り余るかもだしね」
貰った当初は特に何も思わなかったのだが、こうも長年住んでるとさすがに思うところがある。
だからこそティエラと一緒に住むという計画も持ち上がったのだが見事に撃沈したのだし。
「べ、別に百年も一人暮らしで寂しいとかそんなんじゃないからねっ」
演技なのか本気なのか、シノの口からツンデレのそれに似た台詞が飛び出した。
それはさておいて、両者にとって悪い話ではないだろう。リエルの精霊修行にシノが付き合うことだってできるのだし、逆もまた然りだ。
顔を若干伏せてしばらく考えていた彼女だが、やがて顔を上げると、
「……それじゃあ、これからお世話になろうと思います!」
シノの家に住むことを快諾したのだった。ともあれ、これで話は決まったようだ。笑顔で頷くシノの横では、ローザが小さく拍手をしている。
「これからよろしくね、リエル!」
「よろしくお願いします、シノさん! ローザさん!」
ペリアエルフの次は精霊の少女。クラド村にまた新たな仲間が加わった瞬間であった。
「ちょっと、どうしたの! 大丈夫!?」
その少女は短い茶色の髪に金色の瞳をしており、優しげな雰囲気の顔立ち。薄く目を開けていたので気を失ってはいないようだが、弱っていることには違いなかった。
そしてシノは、しばらくその身体に触れているうちにあることに気付く。
(この子ってもしかして、精霊……?)
見た目こそ人間の少女のように見えるのだが、身体から不思議な力を感じ取ったからだ。それは普通の人間や他の種族にはない特別なもので、熟練者の彼女レベルでないと察知できないだろう。
やがてシノに気付いた少女は、少し弱々しい感じでその口を開く。
「あ、あなたは一体……?」
「私はシノ。近くの村に住んでる冒険者だよ」
「よ、よかった……近くに住んでる方なんですね。私の名はリエルといいます」
リエルと名乗った少女は、シノの言葉を聞いて心底安心している様子だ。弱ったままだと話もし辛そうなので、ちょうど水筒に汲んでいた水を飲ませてあげると少し顔色が良くなる。
「……ぷはっ。ありがとう御座います、少し生き返りました……!」
「あなた……精霊だよね。どうしてこんなところにいるの?」
「実は、スピリティアから旅をしてきまして――――――」
「スピリティア!? あんな遠くからここまで来たっていうの……!?」
精霊だと見抜かれたことにリエルは驚いてはいないようだが、彼女の旅の行程を聞いたシノが逆に驚いてしまった。
スピリティアは遥か北の大森林の中にある精霊達が暮らしている里で、世界でも指折りの秘境だ。しかも、里には許可なく立ち入ることが出来ない上に詳しい場所を知っている人も少ない。
世界の原作者であるシノは場所ぐらいなら知ってはいるが、自分で行ったことなどもちろんなかった。
「修行のために故郷を出て、定住地を探していたんですが……気付けばこんなところまで来てしまって」
気付けばきてしまうような距離ではないのだけれど。と、シノは内心苦笑する。秘境などと言われているだけあって、各地からのアクセスは相当悪い……というか単純にものすごく遠い。
クラド村の港から船を乗り継いでいったとしても十日はかかってしまうことだろう。
「それはまぁなんというか……ご苦労だったね……。それで疲れて倒れちゃったの……?」
「前に立ち寄った街からもう丸一日、何も食べていなかったもので……」
「うーん……色々と前途多難な旅路だ」
ここから一番近い街といえば例の武道大会を行ったジェネスだと思うのだが、歩いて一時間もかからない。だとすると、前に立ち寄って宿を取った街というのはもっと遠くの方なのだろう。
さすがに稼ぎの宛てなしのまま行く先々で宿を取っていては、手持ちがすぐに尽きてしまう。
「とりあえず、まずは村まで来る? ご飯食べてないのは見過ごせないし……」
「は、はい! 是非ともお願いします!」
物凄く遠くから旅をしてきて、なおかつ行き倒れかけてる子を放ってなどおけない。詳しい事情も訊いておきたいし、まずは村で休ませてあげるべきだろう。
「それじゃあ村はすぐそこだし、行こっか。ちゃんと立てる?」
「はい! お気遣いありがとう御座います」
「村一番の料理上手のご飯でも食べて、まずは元気だしてね」
「む、村一番の……?」
何を隠そうローザのことなのだが、それを聞いた途端に心なしか元気が増したような気がする。というか元気にならないほうがおかしい。そこらの回復薬よりずっと効果はあると自慢できるレベルだ。
シノはまだちょっと足がおぼつかないリエルの手を引くと、クラド村への道を引き返していくのであった。
◇
村へ戻ってきたシノは、依頼の報告もあるのでまずは森の訪れへと向かう。リエルが未だ腹ペコなのでそちらも早くなんとかしなければならないのだし。
村人達はリエルの姿を見てこそいたが特に驚いたりしている様子はなく、普通の人間からしてみれば、精霊であるという見分けはついていないようだ。
「ただいま、ローザ! 依頼完了の報告ですよー」
「おかえりなさいシノさん! ……って、あれ? その方は……」
帰ってきた彼女を明るく出迎えたローザの視線は、すぐさま横にいたリエルへと留まる。
「初めまして、リエルといいます。村の外で、シノさんに助けて頂きまして……」
「そうなんだよ。実はね――――――」
自己紹介したリエルに続いて、シノが事の顛末を説明し始めた。
当然ながらローザは驚いたりしていたのだが、やがて納得がいったのか頷きつつ話を聞いている。職業がてら、珍しいお客にはそれなりに慣れているのだろう。
「スピリティア……それはまた、凄い場所から来られたんですね」
「里もそうだけど、あの大森林もまだ謎が多い地域だからねー」
シノでさえ謎が多いなどと称しているが、これは別に嘘などではない。
あの設定集の中でさえも、謎の多い大森林としか書かれていなかったので詳細が不明だからだ。当時はそこまで書く考えが及ばなかったのかロマンを求めたのかは闇の中である。
まさにそこ出身のリエルはというと、ローザの作った料理に先ほどから夢中になっていた。
「こんなに美味しい料理は初めて食べました……! もぐもぐ……」
ここ最近で彼女の料理を最も美味しく食べたのは間違いなくリエルだろう。それに加えて、なんだかキラキラしたオーラが見えるような気がする。
これを見ていると、ローザは引っ込み思案なことを除けば物凄くよく出来た子だというのに、未だにローザに嫁の貰い手が現れないのが実は一番の謎なんじゃないだろうか?
「――――――御馳走様でした!」
などと、シノが余計なことを考えている間に、オムライスを食べ終えたリエルは満面の笑みを浮かべていた。それを片付けているローザもまた、嬉しそうである。料理人冥利に尽きるといった感じか。
ひとまずこれでリエルの行き倒れ問題は解決したが、重要となるのは今後どうするかについてだ。
「ところでリエルさん。定住地を探すという話ですが……どうするのですか?」
「正直、私も宛てがないんですよね……落ち着ける場所があればいいのですが」
各地を渡り歩いて武者修行というのも悪いとは言わないが、また行き倒れそうで心配ではある。精霊は繊細な存在なのだし、落ち着くことのできる定住地は必須となってくるだろう。
ローザとリエルが二人そろって頭を悩ませていると、
「それなら……私の家に来る?」
思いがけない提案をシノがしてみせた。当然のごとく驚いた二人は彼女を同時に見る。
「えっ? シノさん……?」
「いいん……ですか……!?」
リエルの反応を見る限りでは、これからも各地を渡り歩いて探すつもりだったようだ。
まさかここで定住地が見つかるとは予想していなかったのか、驚く二人をよそにシノはなんてことはないといった表情。
「リエルさえよければ、私は全然構わないよ。宛てのない旅をこれからも続けさせるのは、やっぱり心配だから……」
これから先住む場所が見つかったとしても、知人の一人もいない地で暮らすのはさすがに辛い。シノはまだ遭遇したことがないが、精霊を迫害するような地域に当たってしまうと最悪だろう。
それならば、少なからず縁の出来たこの村に住んだ方が心身的にも落ち着くことができる。
「わ、私はもちろん良いんですが……お邪魔になったりしませんか?」
「お邪魔どころか、むしろその逆だよ。私の家って無駄に広いんだよね……。空き部屋は未だにあるし、そのせいで掃除は大変だし」
「確かに、一人暮らしするような大きさの家ではないですからね……」
「それこそ、二人暮らしでも有り余るかもだしね」
貰った当初は特に何も思わなかったのだが、こうも長年住んでるとさすがに思うところがある。
だからこそティエラと一緒に住むという計画も持ち上がったのだが見事に撃沈したのだし。
「べ、別に百年も一人暮らしで寂しいとかそんなんじゃないからねっ」
演技なのか本気なのか、シノの口からツンデレのそれに似た台詞が飛び出した。
それはさておいて、両者にとって悪い話ではないだろう。リエルの精霊修行にシノが付き合うことだってできるのだし、逆もまた然りだ。
顔を若干伏せてしばらく考えていた彼女だが、やがて顔を上げると、
「……それじゃあ、これからお世話になろうと思います!」
シノの家に住むことを快諾したのだった。ともあれ、これで話は決まったようだ。笑顔で頷くシノの横では、ローザが小さく拍手をしている。
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