ワールドマテリアルズ~転生先は、自分が原作者の異世界でした。

依槻

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第二部

66:居るべき場所と巡る世界

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 意識らしきものが次に戻った時、シノは全方位が柔らかな白い光に囲まれた空間にいた。身体は真白い光そのものになっており、輪郭ぐらいしか視認することはできない。


 ――――――この場所には憶えがある。転生する前に一度、訪れたことがあったあの空間だ。


 となると、また自分は死んでしまったのだろうか? それにしては走馬灯のようなものは見ていないと思うのだが、毎回そうではなかったりするのかもしれない。

(覚悟はしてたけど、こうなっちゃったか……私がやるしかなかったんだもんね……)

 複数人で発動してもなお、鋼の災厄を撃退止まりにしかできなかった禁呪を単身で発動させ、今度は完全に消滅までさせたのだ。失敗していた可能性だってあったのだし、結果としては十分過ぎるほどだったといえるだろう。
 だがしかし、シノがこの場所にいるということはつまりはそういうことになる。


(私……今度はどこに生まれ変わるんだろう……?)


 周りを見渡してみるも、今度は自分の私物が浮かんでいたりはしない。ただただ綺麗な眩しい光に包まれた空間が広がっているだけだ。
 目を閉じると浮かび上がってくるのは、彼女が一番最後に見たあの光景。喜びに満ちた顔で駆け寄ってくるリエルと、その後ろで勝利に歓喜していた皆の姿。
 これで世界は平和になったのかもしれないが、そこに自分がいないとなると言いようのない寂しさが込み上げてくる。


(でも、これでよかった。これでよかったんだよねきっと……)


 半ば諦めたような気持ちになりながら、光の空間で一人大きくため息をつくシノ。
 あとはこの場所で、次に生まれ変わるであろう時を待つだけだ。むしろ世界を一つ救ったのだから、普通に天国へ行って余生(と呼べるのかはわからないが)を過ごすのもいいかもしれない。
 そんなことを思いつつ目を開けると、先ほどまでとは違うものがシノの目に映った。


(誰かが……いる……?)


 光以外何もない空間に誰かが立っているのを見つけて彼女は思わず驚く。もしや、自分の知っている人物だろうか?
 目を凝らすとその姿は徐々に鮮明になってゆき、改めてその姿を確認したシノは再度驚くこととなった。


「あれは人間だった頃の……私……!?」


 自分と向かい合うようにして立っていたのは、人間の水奈川 志乃。紛れもないかつての自分自身であった。
 黒髪ショートヘアにスーツを着ている、どこにでもいるような普通の姿をした社会人である。その姿を見るのは実に百年振りだが、自分自身のことなので朧気ではあるが記憶には残っている。
 呆けたような様子でその姿を見ていると、前の前の彼女はシノへ一歩近寄ると優し気な笑みを口元に浮かべ、響き渡るような声でこう言った。



「――――――さぁ、起きて。あなたはまだ、あの世界に居てもいいのだから」



 今の自分とは似ても似つかないが懐かしい声が光の空間に木霊する。
 その意味がわかりかねたシノは何かを訊き返そうとするがそれは叶わず、目の前にいた自分自身はあっという間に強い光に包まれて見えなくなってしまった。
 その直後、強い風のようなものが周囲に巻き起こり、シノは思わず顔を腕で覆う。風のようなものは段々と強くなり始め、それに伴って空間を取り巻く光も強くなっていくのがわかった。
 一体これから何が起こるのだろうと思う中、そこで彼女の意識は再び途切れてしまった。


 ◇


 次にシノの意識がハッキリして目を開けると、そこは先ほどまでの光の空間ではないことに気付く。目に映っていたのは見覚えのない天井だった。しかもやたらと豪華な。
 ここが木造の一室であれば転生してきた時と全く同じ状況だったのだが、どうやらそうではないらしい。見える天井と同じくやたら豪華なベッドで寝ていた彼女は身体を動かそうとするものの、上手く力が入らない。
 肩から上ぐらいしか動かせなかったのでなんとか周りを確認してみると、ここは王都の王宮内にある一室のようであった。壁に描かれているグランディア王家の紋章からして間違いない。



「――――――私……生きてるの……?」



 ありえないと思っていた事実に驚きながらも、シノは自身の生還を今まさに実感していた。これがもし夢だったらガッカリなんてものじゃないが、確かな身体の感覚からしてそうではないと思う。
 少しだけ上げていた首を元に戻して一息付こうとした彼女だったが、何やら寝息のような音が聞こえることに気付いて視線を下に落とした。


 そこにあったのは、ベッドに寄り掛かるような形で突伏して眠っている精霊の少女――――――リエルの姿。


 もしかしてずっと傍にいてくれたのだろうか? 頬にはうっすらと涙の痕が見えるような気がする。そんな彼女の姿を見て若干苦笑したシノはその身体を揺すってみると、寝ぼけたような声と共にゆっくりを顔を上げた。
 と、その瞬間――――――――



「……シノさんっ!!!」



 何かに弾かれたような勢いでリエルが思いっきり抱き着いてくる。その身体は、喜びに打ち震えていた。急に彼女が動いたので驚いたシノであったが、自分より一回り小さなその身体を優しく抱き返してみせる。

「よかった……ご無事で本当によかった……! 本当に……!」

 金色の瞳から大粒の涙を流しながら子どものようにわんわん泣いており、つられて自分も泣いてしまいそうだ。そのまま一分ほど泣き続けた彼女だったが、それを受けてシノは本当に大切に思われてるんだなと改めて実感していた。
 命を懸けた行動をしたとしても、死んでいい結末など存在してはいけなかったと。

「心配……かけちゃったみたいだね。ありがとう、リエル」

「本当に本当に……心配したんですからね! もっと、自分の身を大事にしてください!」

 怒っているのか喜んでいるのか。そんなリエルの言葉を聞いて、少し前に自分が全く同じことを彼女に言ったことをシノは思い出す。こんな形で返されてしまうとは予想外だった。
 その後シノはリエルから、事の顛末を聞かされる。
 禁呪によって鋼の災厄を倒した後、シノは魔力の枯渇によって倒れてしまい、丸三日も眠り続けていたというのだ。そして、あの討伐作戦による犠牲者の数も明らかとなっていた。

「千名余り、か……。全員が無事だったらいいなんて、夢見過ぎだよねやっぱり……」

「……誰もが覚悟の上で挑んだ戦いです。どうしようも無かったんですよ、きっと……」

 だが、鋼の災厄という超存在と戦ってこれだけの犠牲で済んだのは奇跡に近いらしい。三百年前に襲来した時は十万人以上の犠牲者が出たと、国の記録に残されていたそうだ。
 それでもやはり、犠牲となってしまった人達のことを偲ばずにはいられないのも確かではある。

「とにかく、二度とあんな厄災が現れることはありません。なので……誰かが犠牲になる必要は、もうないんですよ」

「そうだね……そうならないのが一番だよ」

 自分達は成すべきことを成した。ただそれだけだ。ならば今はその勝利を喜ぶべきだろう。それが、犠牲となった人達への弔いにもなるのだから。
 しばらくすると部屋のドアがノックされ、返事も待たずに誰かが中へと入ってくる。その小さな影の正体は――――――――



「――――――やっと気が付いたのね、シノ! 心配かけんじゃないわよ全く!!!」



 凄い勢いで接近してくると同時に、シノに詰め寄るような形でのセリアからの第一声。よく見ると瞳が若干潤んでいるのは気のせいだろうか。
 こんな時でもやっぱり、セリアはセリアだなと内心可笑しくなってしまう。ベッドに両手をついたままじーっと見ている彼女に対して、

「ありがとう、セリア。私はもう大丈夫だから」

 と言ってみせるとようやく安心したのか、少し離れて大きく息をついた。騒いだり涙ぐんだり急に黙ったりと忙しい子である。
 続けて彼女はいつもの調子でビシッとシノを指さしてみせると、

「あんたが倒れたりしたら、力を貸している私の面子に関わるんだからね!」

 相変わらず傲慢さが滲み出る発言が飛び出した。やっぱり彼女は色んな意味でブレない人物である。それも彼女の個性ということで、今はよしとしておこう。喜んでくれていることに変わりはないので、シノとしてはそれで充分だ。

「そういえば……他の人達はあの後どうしたの?」

「騎士団や冒険者の皆さんは、討伐作戦の褒賞を受け取られて一旦解散したそうです」

「もちろんステラもね。あんたが無事に回復したら知らせてほしいとは言っていたけれども」

「褒賞といえば……二人はまだ貰ってないの?」

「まだよ。あんたが起きるまで待つって、こいつが聞かなかったもんだから……」

「い、いいじゃないですか別に!」

 ということは、褒賞を貰う時は三人一緒になるということか。人数が少ない分注目度は上がるとは思うけれど、そこは仕方ないだろう。とはいってもシノ自身はまだ完全に動けるわけではないので、授与式などに出向くのは明日以降になりそうだ。
 二人もそれには同意してくれたようで、今日はここでゆっくり休むことにしよう。

「じゃ、私は騎士団の様子を見てくるわ。負傷者が多いようだし、救護の人手も足りてないらしいから」

「そ、それなら私も――――――」

「あんたはシノに付いてなさい。その方がお互いにとってもいいでしょ?」

 付いていこうとしたリエルを手で制したセリアは、そのまま足早に部屋を出ていってしまう。これは彼女なりの気遣いなのだろうか。素直じゃないなぁとシノは内心そう思った。
 シノのことを任されてしまったリエルもリエルで張り切ったようで、


「……それじゃあ、今日は私がずっとシノさんのお世話を致しますので!」


 まんざらでもない様子で笑顔を浮かべると大きく何度も頷いてみせる。
 この日はこうして世話を焼かれながら、あれだけの戦いがあったことすら感じさせないほど穏やかに過ぎていくのであった。
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