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第二部
67:小さな村の英雄譚
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生死の境を彷徨っていたシノが無事に目を覚ました翌日。
リエルの献身的な世話のお陰もあってか無事に回復した彼女は、普通に動けるようになっていた。これも種族として彼女が有する特性なのかはわからないが、あまり長く王宮にお世話になるわけにもいかないのでこれはこれで良いと思う。
「ステラさんには先ほど連絡を入れておいたので、そろそろ来られると思いますよ」
王都の広さは誰もが知るところなので、いざ誰かを呼ぼうと思っても連絡するのは普通に考えると難しい。そのため王都には魔法を応用して特定の人物へ伝文を送ることができる技術があるのだ。端っこから端っこだったとしてもすぐに連絡を取ることができる便利なものである。
鉄道もそうだが、やはり王都だけは無駄に色々な技術が発達しているとつくづく感じさせられる。
そうして王宮の前でしばらく待っていると、街の雑踏の中にから見慣れた人影が近づいてくるのが見えた。
「――――――ステラさん!」
シノが名前を呼ぶと、気づいたステラがこちらへと走ってくる。彼女もあの戦いでかなりの傷を負っていたのだが、それもすっかり治っているようで何よりだ。
更にステラは、二人の前まで来て立ち止まるのかと思いきや、
「シノさん……無事で本当によかった……!」
勢いそのままにシノに抱き着いてみせると、心底安心したように生還の喜びを口にした。まさかこんな行動に出る人だとは思ってもいなかったため、シノは妙にドキッとしてしまう。
普段の姿こそ凛としていてカッコいいと思うことすらあるステラだが、こういうところは普通の女性らしい一面があるのだなと安心する。
「昨日からなんだか、妙に誰かに抱き着かれる気がしますね……」
「それだけあなたが生きていることが嬉しいということよ。もちろん、私を含めてね」
「シノさんはそれだけのことをやってみせたんですから!」
「ええ。あなたのような勇敢な人に出会えたことを、私は誇りに思うわ」
立て続けに褒められてしまい何だか照れ臭くなったシノは思わず俯いてしまう。誇りに思われるだなんて、なんだか英雄にでもなったような感じだ。
とりあえずこの後は王宮へ戻って褒賞などを受け取りにいくことになっているのだが、シノの姿を見たステラはちょっと苦笑する。何故ならば――――――――
「これからせっかくの晴れ舞台なのに、ちょっと服がボロボロね……」
あの時禁呪を使った反動によるものなのか、シノが着ていた服はあちこちが破れてしまっていたのだ。肌が見えてしまっている部分もあるため、出歩くにしても相応しい格好ではない。
仕方ないといえばそうなのだが、これから国王の御前に出向くことになるのだし、これではさすがに失礼になってしまうだろう。
しかし今から替えの服を選ぼうにも時間がかかってしまうし、それではお偉いさん全員を待たせることになりかねない。
さてどうしたものかと悩んでいると、
「おーーーいっ!!!」
さっきステラがやって来た方向から声が聞こえ、こちらに走ってくる小さな人影が見えた。その声の主はセリアで、何やら大きな包みを抱えている。
「ギリギリ間に合ったってところね……朝一番で受け取りに行くのは苦労したわ……」
「受け取りに行ったって……これのこと?」
「そうよ。ほら、早く開けてみなさい!」
セリアから急かされるままに受け取った包みを開けてみると、中に入っていたのは見覚えのあるものだった。
「これって……私が着ていたのと同じ服……!」
「多分必要になるかと思って、あの武具屋の夫婦に私が依頼しておいたのよ。キッチリ同じ物を作ってもらったわ」
セリアは、シノが褒賞を受け取るために国王に会うことを見越して武具屋――――――ザッカス夫妻に服の制作を頼みに行っていたらしい。
さすがは名のある職人の技だ。現在シノが着ているものとうり二つである。セリアがちゃんとデザインを伝え切れたというのもあるとは思うが。
ああでもないこうでもないとセリアと夫婦が問答していた様子が目に浮かぶようである。
「とにかく! 私に雑用染みたことをやらせた恩は高くつくわよ!」
「なら、無事に授与式が終わった後に何か驕らせてもらおうかな?」
「あら、私への接し方が中々わかってきたじゃないの」
「昔から現金な人ですからねー……セリアさんは」
ちなみに、服の制作代金はいらないと言われてしまったらしい。その理由をセリアは聞いたらしいが、何故かシノには教えてくれなかった。いずれ理由がわかるとのことなので、あまり突っ込むのも野暮ということだろうか。
ともあれ新しい服も届いたので、これで保留になっていた褒賞授与式に臨むことができる。シノは着替えのため、さっきまで居た王宮の一室へと再び戻る事にし、リエルとセリアもそれに続く。
ステラも付いてきてはどうかと提案してみたが、彼女は一般の観覧として授与式を見守らせてもらうと言い残し、一旦その場では別れることとなった。
◇
時間も昼を過ぎた頃。新品の服に身を包んだシノは、他二人と並んで王宮の広間に立っていた。目の前には謁見の間へと続く大きな扉があり、その向こうにはかなりの人数が集っている気配が感じ取れる。
「うわぁ……緊張なんてもんじゃないよこんなの……」
「一国の主との対面ですからね……」
「セラフ様と対面しておきながら、今更こんな場面で縮こまってんじゃないわよ」
ジェネスで武道大会に参加した時もそうだったが、大勢の真ん中で注目を浴びるというのはやっぱり慣れない。しかも今回は国王の御前なのだ。緊張するなという方が無理な話である。
人とは違う精霊社会で生きてきたリエルとセリアは比較的落ち着いてはいるようだが、それでも今から臨む場が重大だということは感じているようだ。
「……よし、いこう!」
「……はい!」
「言われなくとも!」
シノの言葉が合図となったのか大きな扉がゆっくりと開け放たれ、謁見の間への道が開かれる。三人は互いに頷き合うと、国王が待つ奥へとゆっくりと歩を進め始めた。
謁見の間に入ると、そこには撃退作戦に参加した冒険者達や騎士団の面々がずらりと並んでおり、騎士団長のグレンの姿も見える。その際にシノと目が合うと互いの無事を安心したのか、笑みを返してみせた。
そしてその先には、三人の到着を待っていた国王―――――レイヴァン・フィル・グランディアが立っている。
短く切り揃えられた白髪交じりの髭に荘厳な顔つきの人物で、その黒い瞳でこちらをじっと見据えていた。
その真正面まで来た三人は、片膝をついて頭を垂れる。相手が相手なのだから至極当然の反応だ。が、しかし――――――――
「そう畏まらずともよい。お三方よ、顔を上げてはくれぬか」
なんと国王はそんな言葉を口にし、それに対して周囲が少しざわついた。一体どういうことなのか理解しかねたシノ達だったが、その思いを知ってか知らずか国王は更に続ける。
「此度は、かの鋼の災厄を打ち倒した活躍……実に見事であった。これで我がグランディア王国から今度こそ脅威は去り、更なる安寧が訪れることになるであろう」
「……私には勿体ないお言葉です。国王陛下」
「まずは精霊のお二方、前へ出られよ」
三人一緒に受け取るのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。呼ばれたリエルとセリアは前へ出ると国王の正面へと立った。そして控えていた付き人から何かを受け取った国王は、それを二人へと授与する。
「リエル殿。並びにセリア殿。お二方にはグランディア銀勲章を授ける」
そう告げた国王の言葉に対して、周囲から「おおっ」という驚きの声があがった。それもその筈だ。銀勲章は、国に対して大きな貢献をした者にしか授与されないからである。
「此度の戦いで、精霊という存在がいかに強く正しき存在であるかを、我々は改めて知ることができた。だからこそこれはその栄誉といえよう。重ねて感謝を伝えたい」
「あ、ありがとう御座います……!」
「有難く受け取らせて頂きます。国王陛下」
どうやら、騎士団長であるグレンの窮地を救ったことが高く評価されたのが大きな理由らしい。グランディア王国の将来を担う重要な人材であるため、それを救った功績はかなりのものといえるだろう。
リエルは若干声を上ずらせていたが、セリアは至って平静な様子だ。さすがにこんな場においては態度も普通になるということか。
手渡された勲章は盾を象った手のひらほどの大きさをしており、銀色の輝きを放っていた。盾ということは、セリアのイメージに合っているかもしれない。本人がどう思っているかはともかく。
そして、次はいよいよシノの番だ。入れ替わるようにして前へ歩み出た彼女であったが、国王は意味ありげな笑みを浮かべると、二人に渡したのとは別な物を手に持っていた。
なんとそれは――――――――
「――――――――冒険者シノ・ミナカワ殿。貴女に、グランディア英雄勲章を授けよう」
国王の言葉を聞いた途端、シノは聞き間違いなのではないかと思うぐらいに驚いてしまう。
グランディア英雄勲章とは、二千年近くの歴史があるグランディア王国において多大なる功績を残した冒険者や騎士に贈られる称号であり、その人数はわずか数名ほどしかいないからだ。
それをまさか自分が貰うことになるとは思わず、目の前に差し出された勲章と国王を交互に見る。彼はもちろん大真面目な表情をしており、間違いではないことは明白だった。
「貴女は己の命を顧みることなく世界を揺るがす鋼の災厄に引導を渡し、この国を救ってくれた。それを英雄と呼ばずしてなんと呼ぼうか」
こればかりは譲れないといわんばかりの国王の言葉に対して、シノは納得する他ない。彼女が思っているより何倍も、何十倍もの栄誉を成し遂げたということなのだろう。
後から聞いた話だが、服の代金が必要なかった理由は「国の英雄に対して服の代金を請求するわけにはいかない」ということだったらしい。
「……この栄誉、謹んで受け取らせて頂きます」
「うむ。だからこそ、貴女にはこれを授けるのに相応しいと私は思っている」
深く一礼をした後、シノが着ている服の胸部分には黄金に輝く英雄の証が着けられた。大きな一枚の羽根を背景に二本の剣が交差しており、その周りには星空を模ったような細工がなされたデザインだ。
過去に英雄勲章を授かった人々は皆既に亡くなっているため、現存する英雄はシノただ一人ということになる。その事実は結構な重荷かもしれないが、そこは受け入れる他ないだろう。
改めて笑顔で大きく頷いた国王は改めて三人を見渡した。続けて後ろを振り返ったシノ、リエル、セリアは自分達を見守っている全員と向かい合う形となる。
そして――――――――
「――――――皆の者! 此処に、新たなる英雄達の誕生を称えようではないか!!!」
小さな村から生まれた一人の英雄とその功労者達を称える拍手喝采が送られ、それらはしばらく鳴りやむことがなかったのであった。
リエルの献身的な世話のお陰もあってか無事に回復した彼女は、普通に動けるようになっていた。これも種族として彼女が有する特性なのかはわからないが、あまり長く王宮にお世話になるわけにもいかないのでこれはこれで良いと思う。
「ステラさんには先ほど連絡を入れておいたので、そろそろ来られると思いますよ」
王都の広さは誰もが知るところなので、いざ誰かを呼ぼうと思っても連絡するのは普通に考えると難しい。そのため王都には魔法を応用して特定の人物へ伝文を送ることができる技術があるのだ。端っこから端っこだったとしてもすぐに連絡を取ることができる便利なものである。
鉄道もそうだが、やはり王都だけは無駄に色々な技術が発達しているとつくづく感じさせられる。
そうして王宮の前でしばらく待っていると、街の雑踏の中にから見慣れた人影が近づいてくるのが見えた。
「――――――ステラさん!」
シノが名前を呼ぶと、気づいたステラがこちらへと走ってくる。彼女もあの戦いでかなりの傷を負っていたのだが、それもすっかり治っているようで何よりだ。
更にステラは、二人の前まで来て立ち止まるのかと思いきや、
「シノさん……無事で本当によかった……!」
勢いそのままにシノに抱き着いてみせると、心底安心したように生還の喜びを口にした。まさかこんな行動に出る人だとは思ってもいなかったため、シノは妙にドキッとしてしまう。
普段の姿こそ凛としていてカッコいいと思うことすらあるステラだが、こういうところは普通の女性らしい一面があるのだなと安心する。
「昨日からなんだか、妙に誰かに抱き着かれる気がしますね……」
「それだけあなたが生きていることが嬉しいということよ。もちろん、私を含めてね」
「シノさんはそれだけのことをやってみせたんですから!」
「ええ。あなたのような勇敢な人に出会えたことを、私は誇りに思うわ」
立て続けに褒められてしまい何だか照れ臭くなったシノは思わず俯いてしまう。誇りに思われるだなんて、なんだか英雄にでもなったような感じだ。
とりあえずこの後は王宮へ戻って褒賞などを受け取りにいくことになっているのだが、シノの姿を見たステラはちょっと苦笑する。何故ならば――――――――
「これからせっかくの晴れ舞台なのに、ちょっと服がボロボロね……」
あの時禁呪を使った反動によるものなのか、シノが着ていた服はあちこちが破れてしまっていたのだ。肌が見えてしまっている部分もあるため、出歩くにしても相応しい格好ではない。
仕方ないといえばそうなのだが、これから国王の御前に出向くことになるのだし、これではさすがに失礼になってしまうだろう。
しかし今から替えの服を選ぼうにも時間がかかってしまうし、それではお偉いさん全員を待たせることになりかねない。
さてどうしたものかと悩んでいると、
「おーーーいっ!!!」
さっきステラがやって来た方向から声が聞こえ、こちらに走ってくる小さな人影が見えた。その声の主はセリアで、何やら大きな包みを抱えている。
「ギリギリ間に合ったってところね……朝一番で受け取りに行くのは苦労したわ……」
「受け取りに行ったって……これのこと?」
「そうよ。ほら、早く開けてみなさい!」
セリアから急かされるままに受け取った包みを開けてみると、中に入っていたのは見覚えのあるものだった。
「これって……私が着ていたのと同じ服……!」
「多分必要になるかと思って、あの武具屋の夫婦に私が依頼しておいたのよ。キッチリ同じ物を作ってもらったわ」
セリアは、シノが褒賞を受け取るために国王に会うことを見越して武具屋――――――ザッカス夫妻に服の制作を頼みに行っていたらしい。
さすがは名のある職人の技だ。現在シノが着ているものとうり二つである。セリアがちゃんとデザインを伝え切れたというのもあるとは思うが。
ああでもないこうでもないとセリアと夫婦が問答していた様子が目に浮かぶようである。
「とにかく! 私に雑用染みたことをやらせた恩は高くつくわよ!」
「なら、無事に授与式が終わった後に何か驕らせてもらおうかな?」
「あら、私への接し方が中々わかってきたじゃないの」
「昔から現金な人ですからねー……セリアさんは」
ちなみに、服の制作代金はいらないと言われてしまったらしい。その理由をセリアは聞いたらしいが、何故かシノには教えてくれなかった。いずれ理由がわかるとのことなので、あまり突っ込むのも野暮ということだろうか。
ともあれ新しい服も届いたので、これで保留になっていた褒賞授与式に臨むことができる。シノは着替えのため、さっきまで居た王宮の一室へと再び戻る事にし、リエルとセリアもそれに続く。
ステラも付いてきてはどうかと提案してみたが、彼女は一般の観覧として授与式を見守らせてもらうと言い残し、一旦その場では別れることとなった。
◇
時間も昼を過ぎた頃。新品の服に身を包んだシノは、他二人と並んで王宮の広間に立っていた。目の前には謁見の間へと続く大きな扉があり、その向こうにはかなりの人数が集っている気配が感じ取れる。
「うわぁ……緊張なんてもんじゃないよこんなの……」
「一国の主との対面ですからね……」
「セラフ様と対面しておきながら、今更こんな場面で縮こまってんじゃないわよ」
ジェネスで武道大会に参加した時もそうだったが、大勢の真ん中で注目を浴びるというのはやっぱり慣れない。しかも今回は国王の御前なのだ。緊張するなという方が無理な話である。
人とは違う精霊社会で生きてきたリエルとセリアは比較的落ち着いてはいるようだが、それでも今から臨む場が重大だということは感じているようだ。
「……よし、いこう!」
「……はい!」
「言われなくとも!」
シノの言葉が合図となったのか大きな扉がゆっくりと開け放たれ、謁見の間への道が開かれる。三人は互いに頷き合うと、国王が待つ奥へとゆっくりと歩を進め始めた。
謁見の間に入ると、そこには撃退作戦に参加した冒険者達や騎士団の面々がずらりと並んでおり、騎士団長のグレンの姿も見える。その際にシノと目が合うと互いの無事を安心したのか、笑みを返してみせた。
そしてその先には、三人の到着を待っていた国王―――――レイヴァン・フィル・グランディアが立っている。
短く切り揃えられた白髪交じりの髭に荘厳な顔つきの人物で、その黒い瞳でこちらをじっと見据えていた。
その真正面まで来た三人は、片膝をついて頭を垂れる。相手が相手なのだから至極当然の反応だ。が、しかし――――――――
「そう畏まらずともよい。お三方よ、顔を上げてはくれぬか」
なんと国王はそんな言葉を口にし、それに対して周囲が少しざわついた。一体どういうことなのか理解しかねたシノ達だったが、その思いを知ってか知らずか国王は更に続ける。
「此度は、かの鋼の災厄を打ち倒した活躍……実に見事であった。これで我がグランディア王国から今度こそ脅威は去り、更なる安寧が訪れることになるであろう」
「……私には勿体ないお言葉です。国王陛下」
「まずは精霊のお二方、前へ出られよ」
三人一緒に受け取るのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。呼ばれたリエルとセリアは前へ出ると国王の正面へと立った。そして控えていた付き人から何かを受け取った国王は、それを二人へと授与する。
「リエル殿。並びにセリア殿。お二方にはグランディア銀勲章を授ける」
そう告げた国王の言葉に対して、周囲から「おおっ」という驚きの声があがった。それもその筈だ。銀勲章は、国に対して大きな貢献をした者にしか授与されないからである。
「此度の戦いで、精霊という存在がいかに強く正しき存在であるかを、我々は改めて知ることができた。だからこそこれはその栄誉といえよう。重ねて感謝を伝えたい」
「あ、ありがとう御座います……!」
「有難く受け取らせて頂きます。国王陛下」
どうやら、騎士団長であるグレンの窮地を救ったことが高く評価されたのが大きな理由らしい。グランディア王国の将来を担う重要な人材であるため、それを救った功績はかなりのものといえるだろう。
リエルは若干声を上ずらせていたが、セリアは至って平静な様子だ。さすがにこんな場においては態度も普通になるということか。
手渡された勲章は盾を象った手のひらほどの大きさをしており、銀色の輝きを放っていた。盾ということは、セリアのイメージに合っているかもしれない。本人がどう思っているかはともかく。
そして、次はいよいよシノの番だ。入れ替わるようにして前へ歩み出た彼女であったが、国王は意味ありげな笑みを浮かべると、二人に渡したのとは別な物を手に持っていた。
なんとそれは――――――――
「――――――――冒険者シノ・ミナカワ殿。貴女に、グランディア英雄勲章を授けよう」
国王の言葉を聞いた途端、シノは聞き間違いなのではないかと思うぐらいに驚いてしまう。
グランディア英雄勲章とは、二千年近くの歴史があるグランディア王国において多大なる功績を残した冒険者や騎士に贈られる称号であり、その人数はわずか数名ほどしかいないからだ。
それをまさか自分が貰うことになるとは思わず、目の前に差し出された勲章と国王を交互に見る。彼はもちろん大真面目な表情をしており、間違いではないことは明白だった。
「貴女は己の命を顧みることなく世界を揺るがす鋼の災厄に引導を渡し、この国を救ってくれた。それを英雄と呼ばずしてなんと呼ぼうか」
こればかりは譲れないといわんばかりの国王の言葉に対して、シノは納得する他ない。彼女が思っているより何倍も、何十倍もの栄誉を成し遂げたということなのだろう。
後から聞いた話だが、服の代金が必要なかった理由は「国の英雄に対して服の代金を請求するわけにはいかない」ということだったらしい。
「……この栄誉、謹んで受け取らせて頂きます」
「うむ。だからこそ、貴女にはこれを授けるのに相応しいと私は思っている」
深く一礼をした後、シノが着ている服の胸部分には黄金に輝く英雄の証が着けられた。大きな一枚の羽根を背景に二本の剣が交差しており、その周りには星空を模ったような細工がなされたデザインだ。
過去に英雄勲章を授かった人々は皆既に亡くなっているため、現存する英雄はシノただ一人ということになる。その事実は結構な重荷かもしれないが、そこは受け入れる他ないだろう。
改めて笑顔で大きく頷いた国王は改めて三人を見渡した。続けて後ろを振り返ったシノ、リエル、セリアは自分達を見守っている全員と向かい合う形となる。
そして――――――――
「――――――皆の者! 此処に、新たなる英雄達の誕生を称えようではないか!!!」
小さな村から生まれた一人の英雄とその功労者達を称える拍手喝采が送られ、それらはしばらく鳴りやむことがなかったのであった。
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