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10話
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「すまない、我々は国家機関だからな。申し訳ないが、お前の身辺について調べさせてもらった」
東堂の言葉に、俺は諦め半分な気持ちで答えた。
「……いや、別に隠していたわけじゃないんで、大丈夫です」
本当は隠していたかったのだが、ここまで調べられてしまったなら仕方ない。
「でも、今は魔力量が当時の10分の1になってしまってるんで、だいぶ劣化してしますけどね」
俺は苦笑いを浮かべながら、自分を卑下した。
「それでも貴方は災厄級を撃退してくれた。今でも伝説級の名は健在だな」
東堂は感心したような口調で言った。
「レイジさん、深淵の探求者って……」
そこで、それまで静かに話を聞いていたソウマが俺に尋ねてきた。
俺はため息をつきつつ答える。
「俺は……20年前、初めてダンジョンの『最下層』と呼ばれる階層に到達したパーティのうちの一員だったんだ。その時のパーティメンバーは、それから『深淵の探索者』って二つ名で呼ばれている」
「……!」
ソウマは驚きに目を見開いた。まあ、無理もない。深淵の探索者の名はあれから噂に色々と尾ひれがついて、今やすっかり伝説の探索者の代名詞になっている。とはいえ、現実はそんないいものではない。
俺は苦笑いを浮かべてソウマに告げる。
「今じゃ伝説のパーティなんて言われているが、実際はそんな立派なもんじゃない。当時はまだダンジョンに対する法整備がしっかりしていなくて、それでもダンジョンに挑む奴らといったら、つまり──社会になじめない、落伍者たちが多かった」
俺は自分の過去を振り返りながら続けた。
「俺もその一人だ。たまたまダンジョンの中で人より戦闘向きなスキルが使えたから、現実社会でまっとうに生きる道を投げ捨てて、ダンジョン探索者なんてギャンブルな道を選んでしまった」
当時の俺は若くて、現実逃避したかっただけなのかもしれない。普通の仕事に就いて、普通の人生を歩むことができなかった。ダンジョンという非日常に逃げ込んで、そこで英雄気取りをしていただけだ。
「そのせいで今や俺はこの通り、役所の末端で派遣社員として働く身だ。全く凄くなんてない」
「そんなことは——」
ソウマが言いかけた時、東堂が口を挟んだ。
「そのことなんだが」
東堂は俺たちの方を向いて、真剣な表情で話し始めた。
「今、国家公務員騎士をダンジョンに向かわせて調査を進めているが、モンスターの生息域が変化しているなど、内部で何かしらの変化が起きていることは間違いない」
モニターに新しい映像が映し出される。通常とは違う場所に出現したモンスターたちの映像だった。本来なら下層にいるはずのモンスターが中層に現れていたり、普段は単独行動する種族が群れを作っていたりと、明らかに異常な状況が写っている。
(これは確かにヤバそうだな……)
俺は映像を見ながら眉をひそめた。ダンジョンの生態系に何らかの異変が起きているのは間違いない。
「しかし、国家公務員騎士で最も戦闘力のある騎士・ソウマをもってしても、災厄級は一人で対処しきれなかった。だから騎士たちには今後の安全も考えて、バディを組んで仕事をしてもらいたいと考えている」
東堂は俺の方を見た。
(まさか……)
嫌な予感がする。この流れ、まさか俺に何かを頼もうとしてるんじゃないだろうな?
「だが国家公務員騎士は人数が少なく、加えてソウマはこの通り騎士の中でも戦闘力が抜きんでて高い。半端な能力の騎士をバディにつけると、逆にソウマの足を引っ張りかねない」
そして、東堂は俺に向かって続けた。
「そこで、レイジ。貴方にソウマとバディを組んでもらえないか」
(来たっ……!)
俺は心の中で叫んだ。やっぱりそういう話か。
「いやいや、俺は確かに20年前はそれなりに戦えた探索者だったかもしれません。でも今は、当時の10分の1ほどの魔力量しかないので、戦闘じゃ低ランクの魔術をごまかしごまかし使うぐらいしかできませんよ。騎士さんの役に立てるとは到底思えません」
「しかし、この前の災厄級との戦いでは、ずいぶんと派手な複合魔法を使っていたではないか」
東堂は指摘した。
(ぐっ……そこを突いてくるか)
確かに使ったけど、あれは特殊なスキルを使ったからであって、普段使いできるものじゃない。
「あれはデメリットが多いスキルを使ったからで、あれを使うと自分は戦闘不能になってしまうし、それに——」
俺はそこまで言いかけて、ソウマをちらりと見た。
(魔力枯渇の症状で、またこの騎士さんに迷惑はかけられない……)
昨夜のことが頭をよぎり、俺は必死にその記憶を頭から締め出そうとした。
しかし──
「私はかまいません」
突然、ソウマが口を開いた。
「ぜひレイジさんとバディを組ませてください」
「お前、正気か?」
俺は思わず突っ込んだ。
(昨夜のことがあったのに、まだ俺とバディを組みたいって言うのか?)
魔力枯渇状態になった俺を介抱してもらったのに、またそんな迷惑をかける可能性がある俺とバディを組むなんて、正気の沙汰じゃない。
「レイジさんのフォローは適切でしたし、とても戦いやすかったです」
ソウマは真剣な表情で続けた。
「他の騎士ではなく、私はレイジさんとバディを組みたいです」
その言葉には、迷いが全くなかった。
「相手はそう言っているが、どうする?」
東堂が俺に尋ねた。
「もちろん、レイジとバディを組むというなら、お前の所属はここ、国家公務員騎士の部署となる。まずは契約社員という扱いにはなるが、公務員騎士としての福利厚生はそのまま使えるように取り計らおう」
東堂は具体的な条件を説明し始めた。
「給料は現在の3倍程度、ボーナスも年2回。家賃補助や各種公務員の福利厚生も利用可能だ」
その言葉に、俺の心が大きく揺れた。
(3倍……!)
派遣社員の時にはなかったボーナスはもちろん、家賃補助まで出るという。魅力的過ぎる条件だった。
なんたって週末に動画配信してお小遣い稼ぎをしていたくらいだ。単純な給料アップに心惹かれないわけがない。
ちらりと隣を見ると、何故かめちゃくちゃ期待に満ちた目で自分を見ているソウマがいた。
(いやいや、このお兄さん、おじさんとバディ組むなんて嫌じゃないの? しかも魔力枯渇の時にあんな迷惑なお願いしちゃったのに……)
俺は内心で困惑したが、同時に若い子に期待される目をされて、まんざらでもない気持ちもあった。
そして何より——この条件は断るには惜しすぎる。
俺は意を決した。
「……分かりました。やらせていただきます」
東堂とソウマの顔に、安堵の表情が浮かんだ。
こうして俺は、思いがけず国家公務員騎士の仲間入りを果たすことになったのだった。
東堂の言葉に、俺は諦め半分な気持ちで答えた。
「……いや、別に隠していたわけじゃないんで、大丈夫です」
本当は隠していたかったのだが、ここまで調べられてしまったなら仕方ない。
「でも、今は魔力量が当時の10分の1になってしまってるんで、だいぶ劣化してしますけどね」
俺は苦笑いを浮かべながら、自分を卑下した。
「それでも貴方は災厄級を撃退してくれた。今でも伝説級の名は健在だな」
東堂は感心したような口調で言った。
「レイジさん、深淵の探求者って……」
そこで、それまで静かに話を聞いていたソウマが俺に尋ねてきた。
俺はため息をつきつつ答える。
「俺は……20年前、初めてダンジョンの『最下層』と呼ばれる階層に到達したパーティのうちの一員だったんだ。その時のパーティメンバーは、それから『深淵の探索者』って二つ名で呼ばれている」
「……!」
ソウマは驚きに目を見開いた。まあ、無理もない。深淵の探索者の名はあれから噂に色々と尾ひれがついて、今やすっかり伝説の探索者の代名詞になっている。とはいえ、現実はそんないいものではない。
俺は苦笑いを浮かべてソウマに告げる。
「今じゃ伝説のパーティなんて言われているが、実際はそんな立派なもんじゃない。当時はまだダンジョンに対する法整備がしっかりしていなくて、それでもダンジョンに挑む奴らといったら、つまり──社会になじめない、落伍者たちが多かった」
俺は自分の過去を振り返りながら続けた。
「俺もその一人だ。たまたまダンジョンの中で人より戦闘向きなスキルが使えたから、現実社会でまっとうに生きる道を投げ捨てて、ダンジョン探索者なんてギャンブルな道を選んでしまった」
当時の俺は若くて、現実逃避したかっただけなのかもしれない。普通の仕事に就いて、普通の人生を歩むことができなかった。ダンジョンという非日常に逃げ込んで、そこで英雄気取りをしていただけだ。
「そのせいで今や俺はこの通り、役所の末端で派遣社員として働く身だ。全く凄くなんてない」
「そんなことは——」
ソウマが言いかけた時、東堂が口を挟んだ。
「そのことなんだが」
東堂は俺たちの方を向いて、真剣な表情で話し始めた。
「今、国家公務員騎士をダンジョンに向かわせて調査を進めているが、モンスターの生息域が変化しているなど、内部で何かしらの変化が起きていることは間違いない」
モニターに新しい映像が映し出される。通常とは違う場所に出現したモンスターたちの映像だった。本来なら下層にいるはずのモンスターが中層に現れていたり、普段は単独行動する種族が群れを作っていたりと、明らかに異常な状況が写っている。
(これは確かにヤバそうだな……)
俺は映像を見ながら眉をひそめた。ダンジョンの生態系に何らかの異変が起きているのは間違いない。
「しかし、国家公務員騎士で最も戦闘力のある騎士・ソウマをもってしても、災厄級は一人で対処しきれなかった。だから騎士たちには今後の安全も考えて、バディを組んで仕事をしてもらいたいと考えている」
東堂は俺の方を見た。
(まさか……)
嫌な予感がする。この流れ、まさか俺に何かを頼もうとしてるんじゃないだろうな?
「だが国家公務員騎士は人数が少なく、加えてソウマはこの通り騎士の中でも戦闘力が抜きんでて高い。半端な能力の騎士をバディにつけると、逆にソウマの足を引っ張りかねない」
そして、東堂は俺に向かって続けた。
「そこで、レイジ。貴方にソウマとバディを組んでもらえないか」
(来たっ……!)
俺は心の中で叫んだ。やっぱりそういう話か。
「いやいや、俺は確かに20年前はそれなりに戦えた探索者だったかもしれません。でも今は、当時の10分の1ほどの魔力量しかないので、戦闘じゃ低ランクの魔術をごまかしごまかし使うぐらいしかできませんよ。騎士さんの役に立てるとは到底思えません」
「しかし、この前の災厄級との戦いでは、ずいぶんと派手な複合魔法を使っていたではないか」
東堂は指摘した。
(ぐっ……そこを突いてくるか)
確かに使ったけど、あれは特殊なスキルを使ったからであって、普段使いできるものじゃない。
「あれはデメリットが多いスキルを使ったからで、あれを使うと自分は戦闘不能になってしまうし、それに——」
俺はそこまで言いかけて、ソウマをちらりと見た。
(魔力枯渇の症状で、またこの騎士さんに迷惑はかけられない……)
昨夜のことが頭をよぎり、俺は必死にその記憶を頭から締め出そうとした。
しかし──
「私はかまいません」
突然、ソウマが口を開いた。
「ぜひレイジさんとバディを組ませてください」
「お前、正気か?」
俺は思わず突っ込んだ。
(昨夜のことがあったのに、まだ俺とバディを組みたいって言うのか?)
魔力枯渇状態になった俺を介抱してもらったのに、またそんな迷惑をかける可能性がある俺とバディを組むなんて、正気の沙汰じゃない。
「レイジさんのフォローは適切でしたし、とても戦いやすかったです」
ソウマは真剣な表情で続けた。
「他の騎士ではなく、私はレイジさんとバディを組みたいです」
その言葉には、迷いが全くなかった。
「相手はそう言っているが、どうする?」
東堂が俺に尋ねた。
「もちろん、レイジとバディを組むというなら、お前の所属はここ、国家公務員騎士の部署となる。まずは契約社員という扱いにはなるが、公務員騎士としての福利厚生はそのまま使えるように取り計らおう」
東堂は具体的な条件を説明し始めた。
「給料は現在の3倍程度、ボーナスも年2回。家賃補助や各種公務員の福利厚生も利用可能だ」
その言葉に、俺の心が大きく揺れた。
(3倍……!)
派遣社員の時にはなかったボーナスはもちろん、家賃補助まで出るという。魅力的過ぎる条件だった。
なんたって週末に動画配信してお小遣い稼ぎをしていたくらいだ。単純な給料アップに心惹かれないわけがない。
ちらりと隣を見ると、何故かめちゃくちゃ期待に満ちた目で自分を見ているソウマがいた。
(いやいや、このお兄さん、おじさんとバディ組むなんて嫌じゃないの? しかも魔力枯渇の時にあんな迷惑なお願いしちゃったのに……)
俺は内心で困惑したが、同時に若い子に期待される目をされて、まんざらでもない気持ちもあった。
そして何より——この条件は断るには惜しすぎる。
俺は意を決した。
「……分かりました。やらせていただきます」
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