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EP38【些細な幸せに興じて】

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 格好を付けた台詞と共に、俺はネジの手を取り返した。

 ネジのドレスはオフショルダー、俗に言う肩出しドレスという奴だろうか? 普段はローブを羽織って厚着ばかりの彼女が、白い肌を露にしてるのは、少し新鮮だった。

 そして、そんな物珍しい格好をしている彼女に俺はついつい視線を奪われてしうわけで。

「ジロジロは見ないで欲しいかな……ほら、傷があるから」

 そう、彼女の白い肌には過去の虐待によって残された痛々しい傷痕が残っていた。傷を負ってから相応の時間が経っているからこそ、魔法での治癒も敵わないのだろう。

「……ごめんね。やっぱ、ちょっと見苦しいかな?」

 口元では笑っていながらも、そう目を逸らすネジはらしくなかった。というか、俺なんかをダンスに誘う辺りから、らしくなさすぎるのだ。

 酔狂のつもりなら、細かいことを気にせず酔狂に興じればいいものを。

「はぁ……いちいちツッコむのも面倒だから言ってやるがな、ネジは綺麗だ。俺が保証する」

「スパナ……ありがと」

 らしくないのは俺もだな。普段ならこんなこと絶対にこんなこと言わない。

 強引に飲まされたアルコールのせいで酔っ払ちまったのか? 魔導人形(ドール)の身体でそんなこと絶対にないのだろうが、今はそういうことにしておこう。

 何かに酔ってなくちゃ、こんな小っ恥ずかしいこと言えるわけがないからな。

「踊るんだろ、音楽は?」

「そ、そうね! 音楽魔法(ミュージック・マジック)」

 俺たちの周りをいくつもの魔法陣が取り囲む。この魔法陣たちが音楽を流してくれるのだ。

 流れるのはパグリスの軽快な民謡楽曲。ヴァイオリンにギター、フルートの音を魔法陣が奏でてみせる。

「っと!」

 テンポはどんどん速くなり、俺たちはそれに合わせてステップを踏んだ。俺は勿論、ネジだってダンスの経験はないようで、ほぼ雰囲気で俺たちは足を動かしてゆく。

「こういうのも悪くねぇな」

「ふふ! そうね」

 傍から見れば、俺たちのダンスは二人でもつれあっているようにしか見えないのかもしれない。それでも俺は彼女と手を取り合って、踊り続けた。

 不意に、彼女と視線がぶつかる。

 よく澄んだ金色の瞳は、見通す全てを吸い込んでしまうようだった。

「ネジって綺麗な目をしてるよな」

「ふふ。だったらスパナの方こそ。貴方の瞳は子供の頃のまんまよ」

「お前なぁ……俺は褒めたんだから、褒め返してくれたっていいだろ︙︙」

「あら? 私は今ので褒めたつもりよ」

 彼女はクスクスと笑っていた。俺には、どうにもそれが誉め言葉に聞こえなんだけどな。

 ただ、はにかんだ表情には愛嬌があった。彼女にこんな可愛い一面があったとは少々驚きだ。

「なぁ、ネジ」

「ん?」

「ネジってさ、今は幸せか?」

 音楽に合わせ彼女を抱き寄せながら、俺は思い切ってそんな質問をぶつけてみた

 すると彼女はまた企んだような顔で、その指先を張りのある唇まで持ってくる。

「内緒。それも借金を返したら教えてあげなくはないけど」

「……お前はいくつ、俺に借金を返さなきゃならない理由を増やすつもりだよ?」

「さぁ? それも内緒」

 どうやら俺の幼馴染は秘密主義でもあったらしい。

 コイツがいったい、いくつ俺に隠し事をしてるのか、わかったもんじゃないな。
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