聖剣に知能を与えたら大変なことになった

トンボ

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第一章 聖剣『クラウス・ソラス』

15 聖剣、頑張る。

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 三日目の午前中。ニコラリーは目をつぶり、体内に魔力を維持していった。クラウスは腕を組み、黙ってそれを見ている。

 ニコラリーは体内で熱波のようなものが広がり、骨の芯までゆっくりと広がっていくのを感じていた。これが肉体に魔力を馴染ませる、ということなのだろうか。

「いい感じだな。その状態を二日ほど維持しよう」

「二日もこれか……。キツイな」

 その熱波のようなものは、気を離せばすぐに外へ発散してしまいそうだ。体内に魔力を維持するのと同時に、この熱波も留めておかなくてはいけない。気を張り続けておかなくてはいけないというのは、精神力を断続的に大きく消費していくということだ。

 しかも他の稽古と並列で行うことになるだろう。口では簡単に言ったが、密かにニコラリーの頬には冷や汗が流れていた。

 そんな二人に、草むらを踏み近づいてくる一つの影があった。ニコラリーはその足音に気付いてその方向へ目線を向けるが、そこは木々が生い茂っており、その向こう側は暗くて見えない。そんな場所にいる人の足音など聞こえるはずもないか、と目線を戻そうとしたところで、クラウスも同じところへ目線を向けていたことに気づいた。クラウスもそこから視線を外し、ニコラリーの方へ向ける。

「気づいたか、主殿」

「やっぱり足音がしたよな……?」

「ああ。魔力が馴染み、聴覚が若干にも強化されたのだろうな。良い傾向だ」

 楽しそうに笑うクラウス。魔力を神経に働きかける以前の、体に馴染ませる段階でもうこれほどの効果があるとは思っておらず、ニコラリーは自分の手のひらを広げて握りしめた。

 この調子なら、あの温室育ちのクソ野郎クロードにも勝てるような気がする。しかし油断は禁物だ。

 数秒後、さっき二人が感知した足音の主が茂みの中から出てくる。その姿を見てニコラリーは不意にその名を呼んだ。

「テオ、なんでここに」

 引き締まった筋肉を見せつけるようなタンクトップ姿で、木刀を二本携えたテオドールが、驚いた顔のニコラリーに白い歯を見せたのだった。






「なるほどな……。ということは、あの三人に啖呵をきったのはこっちのお嬢さんか」

 どうしてニコラリーがこんなことをしているのか、事の顛末を直接本人から聞いたテオドールが、黄色い瞳で自身の茶髪をかきながら、クラウスの方を向く。

「俺はテオドール。よろしくなあ、お嬢さん。こいつ、抜けてるとこあるだろ? 頑張ってなあ」

「ふむ、我はクラウスだ。頑張るぞ」

 クラウスは腰に手をあて胸を張り尊厳を見せつけようとするも、体型のせいで威厳はない。親戚の子供を見る兄のような瞳で、テオドールはクラウスを見て微笑んでいた。しかしふとその笑顔も消える。どうしたのだろう、とニコラリーが思っていると、テオドールが口を開いた。

「……重ねてになるが、あの三人組を震え上がらせたのは、君ということでいいのだね?」

「そうだな。ちょっとお灸をすえてやったぞ」

 勇ましい笑みを浮かべるクラウスに、テオドールは小さくため息をつく。そして手を顎に当て少し考えてから、テオドールは再び口を開いた。

「街中でもちょっと話題になってたよ、君の力。変に拡散されないといいんだけどね」

「話題? そんなにすごかったのか?」

 実は、ニコラリーはクラウスからどのように三人組を脅かしたのかは聞いていない。ニコラリーが首を傾けて疑問を示すと、クラウスは何故か恥ずかしそうにえへへ、と笑った。どうして恥ずかしそうにしたのか分からないが、まあそれは一先ず置いておくとして、テオドールの口からの説明を待った。テオドールはニコラリーの目線に促されて、口を動かす。

「数少ない目撃者の話なんだがな。何でも石畳はボロボロ、銅像はバラバラ、スキンヘッドは水没って」

「色々気になることはあるけど、とりあえずスキンヘッド水没って何だ……?」

「えへへい」

「何故照れる……?」

 聞いたところで疑問だらけのニコラリーだったが、とりあえず目撃者に意味不明な印象を与えるぐらいには大きな魔力で暴れたのだろう。それでも一応死者はいなかったらしいので、流石は聖剣、人間の強度はしっかりと分かっていたようだ。

 まあ、あの三人組はその後、クロードにボコられて大怪我をしたようだが。

 どうしてだか知らないが照れてるクラウスの横で、ニコラリーはため息をついた。そして立ち上がって、嬉しそうな恥ずかしそうな彼女に向かって言う。

「そういや、テオも一応傭兵なんだ。折角来てくれたんだし、手伝って貰おうぜ」

「ほう、そうなのか。良い体つきをしていると思っていたが、傭兵だったか。なら丁度良いな、手伝って貰おう」

「んん? 俺は最初からニコラリーの貧弱な体に筋肉を……、じゃなくて、一週間後の決闘のために鍛えてやろうとしに来たんだ。だからこれ、ほら木刀」

 二本の木刀を器用に両手の上で回しながら、にやりと豪快に笑うテオドール。本人の意欲が見え隠れしたのはまあ置いておいて、特訓に付き合ってくれるというのだ。ナツメだけでなく、テオドールも来てくれれば手数は単純に二倍。傭兵に対する立ち回りを学べる機会が増えることに越したことはない。

「では主殿、テオドール。位置についてくれ。テオドール、傭兵の基本的な戦闘様式で主殿を打ってくれ」

「はいよ」

 ニコラリーとテオドール、両者が距離を開けて立つ。テオドールは木刀を片手に、ニコラリーは木刀を持たず素手で構えた。テオドールが持ってた二本目の木刀は、クラウスが持っている。

 クラウスの合図を境に、テオドールは駆け出した。ニコラリーは魔力を体内に保ちながらも、その攻撃に備え構える。


 クラウス、ナツメだけでなくテオドールの協力まで得られたニコラリーは、四苦八苦しながら特訓の七日間を消費していった。

 そして、ついにその日が訪れる――。
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