傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

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第一章 傀儡使い、獣耳少女に出会う

1 始まりは理不尽な投獄で

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 シルヴァはシルヴァ。『傀儡使い』という、一般的には・・・・・人形とかを操って戦う職業の冒険者。

 今シルヴァたちのパーティは、『オルレゾー』という町の周囲の森で、魔獣狩りの仕事をしていた。

「おいシルヴァ! ちゃんと抑えてろよ!」

 この大きな声で大きな体の男の人は、戦士のノル。
 その後ろで杖を構えている女の人が、魔術師のセカイ。
 セカイさんの隣で弓を持っている女の人は、弓術の使い手、マハ。

 シルヴァはその三人と一緒に魔獣狩りの仕事をしているわけだが。

「しっかりとやりなさいよ!」

 大きな杖を前に差し出しながら、セカイはシルヴァへそう怒鳴る。
 マハもそれに倣って、弓に矢を装填した。

 ――なんだかなあ……。

 シルヴァもその扱いに思うところはあったが、文句を言わず黙ってうなずいた。そして、目の前に現れた魔獣へと意識を集中する。

 シルヴァたちの前には十ほどの熊の魔獣がいた。
 しかし、その魔獣たちはシルヴァたちを目視し、敵意をあらわにしているのにも関わらず、その場で立ち尽くしている。

「だ、大丈夫なんだろうな……?」

 剣を持った戦士ノルは、立ち尽くす魔獣を前にして、シルヴァへと問う。若干声が震えているようだ。

「大丈夫ですって」

 そんな臆病なノルの姿に、シルヴァはため息混じりに答えた。

 その間にも魔獣は一切体を動かさない。指一本でさえ、ピクリとも動いていなかった。

 そのカラクリは、シルヴァの『傀儡使い』としての能力にあった。

「……」

 シルヴァの能力――それは弱い『魔獣』を操ることができるものだ。現に、目の前の十匹ほどの魔獣は、全てシルヴァの『傀儡』となっており、動きが封じられていた。

 これがシルヴァの『傀儡使い』としての能力で、このような弱い魔獣程度なら、簡単に支配下における。

 ちなみに、一般的な『傀儡使い』というのは、自らで戦闘用の人形を持参し戦う役職のことをいう。

 しかしシルヴァはその人形を持っていない。何故なら、どうしてだか分からないが、傀儡にできるのは『弱い魔獣』だけで、人形は今のところ操れないから。

 人形を操れない『傀儡使い』。それは剣を使えない剣士みたいなもの。

 だから、よく落ちこぼれと思われてしまう。けど、うだつの上がらないことは自分でもよく知っているし、あながち間違いでもない。

「よォ~し! いくぞ」

 シルヴァの力によって動けない魔獣たちの前に、さっきまでビクビク震えていたノル、セカイ、マハの三人が、意気揚々とシルヴァの前に出てきた。

 今回の作戦では、シルヴァが動きを止めて彼らがとどめをさす、ということになっていた。

 が、

「なんだかなあ……」

 シルヴァはちょっと不満を感じていた。

 魔獣を支配下におけるということはつまり、そのまま操って自害させたりなどやりたい放題できるのだ。だから本当は、こんな回りくどいことをしなくても良いのである。

 でも、さっきシルヴァがそれを一人やったら、

「チームプレイなんだよ!? 少しは私たちにも配慮してよ!」

 と、謎のバッシングを受けた。

 これが理由で、このパーティで組んだばかりだが、シルヴァはもうすでにパーティから抜けたい気分だった。

 それに、何故だか分からないけれど、パーティメンバーからシルヴァへの扱いがヒドい。やたら命令口調だし、理不尽だし。嫌なメンバーに当たってしまった。

 だが、残念ながらそれは当分叶わないだろう。何故なら、パーティを組んでからすぐに抜けてしまうと、冒険者としての経歴にそれが残ってしまうからだ。

 記録が残るということは、『この人は組んだばかりのパーティをすぐに抜けてしまうような人です』という烙印が押されるということ。

 それはシルヴァのような、特定の仲間を持たず、依頼ごとに初対面の相手とパーティうぃ組むような冒険者にとっては、死活問題だ。

 というわけで、シルヴァはしばらくの間、居心地の悪いこのパーティを抜けたくても抜けられないのだ。

「ちゃんと抑えてろよ!」

 意気揚々としていたさっきまでの姿勢はどこへやら、抜き足差し足で、シルヴァが止めている魔獣に近づいていく三人。シルヴァはため息をついて、その臆病な後姿を見つめていた。

 シルヴァの能力は完璧だ。支配下においているものは絶対に勝手に動かない。そんなに脅える必要はないのに、何度言っても彼らは逆ギレして聞かないし、現にビクビクしている。

 ついに魔獣の目の前に到達した各々。
 戦士のノルが唾をゴクンと呑んで、剣を振り上げた。

「たーっ!」

 大きく振りかぶって、目の前の魔獣を切り裂く。そして反撃してこないと分かるや否や、ノルは魔獣を滅茶苦茶に切り刻んだ。

 そのノルの行動を見て、安心したのか勇気づけられたのか、セカイとマハもそれぞれの武器を構えた。

 セカイが詠唱を始め、マハが弓を引く。

 ――と、その時だった。

「――ッ!」

 多分、鳥の鳴き声だろう。大きな鳴き声が森のどこかでこだまして、木々をざわざわと揺らした。

 場の悪いことに、それに驚いたセカイが、詠唱した火炎魔法の方向を誤った。杖から放たれた炎の渦は魔獣の隣を過ぎ去り、その先の茂みに放たれる。

「おい! 何やってんだ!」

 ノルの怒声が響く。火炎魔法が着弾した茂みは一気に燃え上がり、近くにある木々や草むらに炎が広がっていった。

 セカイは慌ててその行動を弁解する。

「ま、魔獣がいきなり動きだしたから外したのよ!」

「え……?」

「なっ! シルヴァてめぇ!」

 まさかの発言にシルヴァは思わず目を丸くした。

 セカイの言葉を信じたノルがシルヴァの目の前まで走ってきて、胸倉をつかんできた。シルヴァは慌てて首を横にぶんぶん振って、否定の意思を示す。

 いや待ってほしい。

 シルヴァは確かに魔獣の動きを止めていた。セカイが鳥の鳴き声に驚いて狙いを外したのだ。
 
 シルヴァはセカイの方をチラリと見る。セカイはシルヴァの視線に気づいてか、さらに事実無根の言いがかりを放った。

「こいつ、私たちのことに嫌がらせをしたんだわ!」

 逆だ。シルヴァは嫌がらせをされた覚えはあれど、した覚えはない。

「ま、待ってください! 僕は……」

「言い訳すんのかよ! おい!」

 なんとか弁明しようにも、シルヴァの胸倉をつかむノルには届きそうになかった。彼の中では完全にシルヴァが悪者になっている。これではらちがあかない。

 そんな中で、弓使いのマハが慌てた様子で叫ぶ。

「とりあえず、火を消さなきゃ! 人を呼んでくる!」

「おう、頼む! ……シルヴァ! てめぇ後で覚えとけよ! このッ!」

「……っ!」

 シルヴァはノルに投げ飛ばされて、地面に叩きつけられた。
 その叩きつけられたシルヴァを、セカイは笑う。

「アンタ、この炎、どう責任とるつもりよ! アンタは放火犯! 犯罪者よ! 刑務所行きね!」

「……酷い言われようですね」

「黙ってろ!」

 小言を言いつつ体をあげたら、ノルが上から蹴りを入れてきて、シルヴァは再び地面に転がった。その姿を見たノルは忌々しそうに舌打ちをすると、セカイに指示を出す。

「この無能はほっとけ! 俺たちはどうにか炎を消すぞ!」

「ええ!」

 二人はそう頷き合うと、シルヴァを置いてどこかへ走り去っていってしまった。

 二人がいなくなったその場所で、シルヴァは舌打ちしながら起き上がる。

「冗談じゃない……!」

 先ほどの蹴りで口の中が切れ、出血していたのを手で拭うと、シルヴァは目の前に燃え広がる炎を見つめた。

 シルヴァに罪を着せた彼らに言いたいことは山ほどあるが、今はそれどころではないだろう。マハが放った火はどんどん広がっている。

 どうにかして、この炎を消化しなければ。

 シルヴァは未だ支配下にしている熊の魔獣十匹を動かして、消火を試みる。

 まずは燃えている部分の周りの木を鋭い爪で切り倒していき、燃えている木々の部分と燃えていない部分の間の木をすべて撤去した。

 これでさらに燃え広がるまでの時間を少しは稼げるだろう。

 あとは特に効果的なことはできない気がする。とりあえず、シルヴァは魔獣たちを操って、燃えている部分の周りに穴を掘らせ、堀ったときに出た土を炎にかぶせていった。

 消火という観念からして効果は薄いかもしれないが、近くに湖もないこの状況では、やらないよりはマシだろう。


 そうやってシルヴァが炎と格闘して十分ほどが経った。

「あそこだ!」
「了解した! 我らで消火しよう!」

 ようやくマハたちが水属性の魔法を得意とする魔術師たちを連れてきたようだ。シルヴァは彼らを尻目に、ほっと息をついた。

 到着した彼らの水魔法によって、火はどんどん消火されていく。

 瞬く間に火が完全に消えた。大きな被害が出る前に消火できて、その場にいた者が安堵するもつかの間。

 どこからか出てきたノルが、シルヴァを指さして高らかに叫んだ。

「こいつが火事を起こしたんだ!」

 ――その一言が放たれた直後、魔術師たちの白い視線がシルヴァに集まる。

 その後は問答無用で、本来はセカイが被るはずの罪をシルヴァがかぶされた。放火の場にいた四人のうち三人がシルヴァを指名したのだ。

 言い訳する暇もなく、シルヴァはその場で魔術師たちとマハたちによって組み伏せられた。

 抵抗するとさらに罪が大きくなるのではないか、と不安に思ったシルヴァは、抵抗せず素直に牢屋まで連れられ、そのまま投獄される。

 牢屋の中はひんやりとしていて、窓は数センチ四方の鉄格子のみ。

「……クソっ!」

 シルヴァはこぶしを地面にぶつけた。

 言わずもがな、シルヴァは何も悪くない。それどころか、あれ以上火が燃え広がらないようにシルヴァは力を尽くしていたのに。

「……いや、嘆くのは後だ。まずはここから脱出しないと……」

 しかしシルヴァは極めて冷静であった。シルヴァの青い瞳には、まだ煌く光が灯っている。




 この時点では、誰も思いもしなかっただろう。

 獄中にいるシルヴァがこの後、最高ランクの『傀儡使い』となり、王族に認められ、国中にその名を轟かせることになろうとは。


 これは、牢獄にぶち込まれたシルヴァの、成り上がりの物語である。
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