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第一章 傀儡使い、獣耳少女に出会う
5 開戦の火蓋
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勝負は一瞬で着いた。
いや、『それ』が勝負として成立したのかは怪しい。二つの嵐が積み木を崩して進んだ、と表した方が適切なぐらいだったのだから。
「――」
片や、強大すぎる拳の威力に門ごと吹き飛び、片やシルヴァに能力で支配された見張り番たちの同士討ちにより、十秒も経たずシルヴァたちは見張り番を突破した。
砂埃が舞う中、刑務所の門の外へシルヴァと無精ひげが堂々と歩み出て、その後ろにシアンが砂埃に咳込みながらついてくる。
そんなシアンを見ると、シルヴァは慌てて彼女を抱きかかえ、砂埃の中から出した。彼女はただでさえ弱っているのだから、こういう体に悪そうなところで長居させるわけにはいかない。
「大丈夫?」
「ごほっ……んんっ、はい」
シルヴァに抱きかかえられながらも、シアンは気丈だけれど少しやわい笑顔を見せる。シルヴァに気を使っていることがバレバレの笑顔に、シルヴァは自らの至らなさに反省した。
「よっし新入り! なんとか脱獄成功ってわけだな!」
ハハハ、と大声で笑う無精ひげ。
刑務所の門が半壊し、人だかりができている中、そのようなことを大声で言える神経が少し信じられない。
が、彼の滅茶苦茶な強さを目の当たりにしたシルヴァであれば、その豪胆さも少しは納得がいく。
恐らく彼は、例えこの町の住人が束になって襲ってこようとも、返り討ちにできる実力を持っている。だから、卑屈になる必要がないのだ。
すべてを力で捻じ伏せられる。その事実は、強者に力で服従されられている弱者よりも、弱者を服従させている強者の方が深く理解しているのだ。
この無精ひげは、十中八九『強者』、すなわち『弱者を服従する側』の者。だからシルヴァは、彼を警戒していた。
勿論、彼と殺りあうことになっても、負ける気はしないが。
「新入り……いや、もう囚人じゃねえしな。少年! お前、なかなか面白いやつじゃねえか!」
「……はあ。すみません。先を急ぐので」
コホコホ、と腕の中のシアンがせき込むのを悟り、無精ひげとの会話を終わらせ、その場を離れようとするシルヴァ。
その選択を選ぶシルヴァの思惑として、病弱なシアンをこの場に置いておきたくないというのもあるが、何より無精ひげとこれ以上関わりたくなかった。
奴はやばい。シルヴァの本能がそう警告している。
そんなシルヴァを知ってか知らずか、無精ひげは「おいおい」とその場を去ろうとするシルヴァを呼び止めた。
「待てよ、少年! 俺はゴルドっていうんだが、やっぱ俺と一緒に働かねえか? 給料もいいし、何よりお前に向いてる仕事だぜ?」
「……いいえ、大丈夫です」
「その嬢ちゃんも安心して暮らせる家も探してやるしよ! なあ! 一緒に行こうぜ!」
シルヴァはその無精ひげの大男――ゴルドに、完全に気に入られていた。シルヴァが求めていることを報酬として片っ端から述べて、何としてでもシルヴァを引き込もうとするただならぬ意思を感じる。
シルヴァは冷静にゴルドを見つめると、もう一度言葉を返す。
「申し訳ないですが、結構です」
シルヴァの言葉に押し黙るゴルド。
こんなに否定すれば諦めてくれるだろうか。早くこの場を離れておきたいんだけどな。
そんな風に思って、シルヴァがゴルドの出方を待っていると、ゴルドははあ、と肩を下した。
「あー、そうかあ。残念……。俺、すっげえ少年のこと、気に入ったんだがなあ……」
その言い草からして、何とか勧誘を諦めてくれるようだ。シルヴァもほっとして、その場を動こうとする。
――直後、殺気が具現化し、不透明な波となってシルヴァを襲った。
「ァああ……! 俺と一緒に来てくれねェんならよォ……! ここでちょいと『思い出作り』、していけや……!」
殺気の波の出どころは、当然無精ひげを生やした男、ゴルドである。その常人ならば、そのとてつもないプレッシャーに吐いてしまうような殺気を受け、シルヴァは咄嗟にシアンをかばう。
それからシアンを離し、後ろへと逃した。
「早くこの町から出て……! 僕は後で追いつくから」
「……で、でも」
「いいから、早く」
不安と焦燥、そして恐怖が入り混じった青い瞳でシルヴァを見つめるシアン。
そして、そのか弱い腕でシルヴァに抱きつくと、顔をシルヴァに押し当てながら震えた声で言う。
「ちゃんと、本当に追いつく?」
「当たり前だ」
シルヴァも自分に抱き着くシアンを軽く抱擁した。
数秒、抱き合ったままで過ごすと、シアンがシルヴァから名残惜しそうに離れる。彼女の目が涙で腫れていた。
「っ!」
シアンは駆け出した。シルヴァはその後姿がある程度遠くへ行ったところで、改めて殺気を放ち続けるゴルドと向き合う。
「……案外、空気を読んでくれるんですね」
「俺の求めているものは、勝利じゃねぇんだよ、少年!」
また豪勢に大笑いをするゴルド。周りに来ていたやじ馬たちも、彼のただならぬ殺気に阻まれて、彼から距離をとって二人を観覧していた。
シルヴァは能力を使い、倒れている刑務所の見張り番の一人を動かした。
立ち上がらせると、その見張り番の近くに落ちていた槍を拾わせ、自分の方へ投げてシルヴァはそれを受け取る。そしてゴルドに向かって構えた。
「槍術か……。だが、俺に効くかな……?」
「さあ」
二人は見つめ合う。その滅法界なケンカを止めようとするものは、誰もいなかった。
ピリピリと切り刻むかのような殺気が飛び交い、その闘いの始まりの時は着々と近づいていく。
「――ッ!」
「――」
耳を劈く残響。石畳が破壊され、破片が宙に舞う。
――規格外同士の闘いが、始まりを告げた。
いや、『それ』が勝負として成立したのかは怪しい。二つの嵐が積み木を崩して進んだ、と表した方が適切なぐらいだったのだから。
「――」
片や、強大すぎる拳の威力に門ごと吹き飛び、片やシルヴァに能力で支配された見張り番たちの同士討ちにより、十秒も経たずシルヴァたちは見張り番を突破した。
砂埃が舞う中、刑務所の門の外へシルヴァと無精ひげが堂々と歩み出て、その後ろにシアンが砂埃に咳込みながらついてくる。
そんなシアンを見ると、シルヴァは慌てて彼女を抱きかかえ、砂埃の中から出した。彼女はただでさえ弱っているのだから、こういう体に悪そうなところで長居させるわけにはいかない。
「大丈夫?」
「ごほっ……んんっ、はい」
シルヴァに抱きかかえられながらも、シアンは気丈だけれど少しやわい笑顔を見せる。シルヴァに気を使っていることがバレバレの笑顔に、シルヴァは自らの至らなさに反省した。
「よっし新入り! なんとか脱獄成功ってわけだな!」
ハハハ、と大声で笑う無精ひげ。
刑務所の門が半壊し、人だかりができている中、そのようなことを大声で言える神経が少し信じられない。
が、彼の滅茶苦茶な強さを目の当たりにしたシルヴァであれば、その豪胆さも少しは納得がいく。
恐らく彼は、例えこの町の住人が束になって襲ってこようとも、返り討ちにできる実力を持っている。だから、卑屈になる必要がないのだ。
すべてを力で捻じ伏せられる。その事実は、強者に力で服従されられている弱者よりも、弱者を服従させている強者の方が深く理解しているのだ。
この無精ひげは、十中八九『強者』、すなわち『弱者を服従する側』の者。だからシルヴァは、彼を警戒していた。
勿論、彼と殺りあうことになっても、負ける気はしないが。
「新入り……いや、もう囚人じゃねえしな。少年! お前、なかなか面白いやつじゃねえか!」
「……はあ。すみません。先を急ぐので」
コホコホ、と腕の中のシアンがせき込むのを悟り、無精ひげとの会話を終わらせ、その場を離れようとするシルヴァ。
その選択を選ぶシルヴァの思惑として、病弱なシアンをこの場に置いておきたくないというのもあるが、何より無精ひげとこれ以上関わりたくなかった。
奴はやばい。シルヴァの本能がそう警告している。
そんなシルヴァを知ってか知らずか、無精ひげは「おいおい」とその場を去ろうとするシルヴァを呼び止めた。
「待てよ、少年! 俺はゴルドっていうんだが、やっぱ俺と一緒に働かねえか? 給料もいいし、何よりお前に向いてる仕事だぜ?」
「……いいえ、大丈夫です」
「その嬢ちゃんも安心して暮らせる家も探してやるしよ! なあ! 一緒に行こうぜ!」
シルヴァはその無精ひげの大男――ゴルドに、完全に気に入られていた。シルヴァが求めていることを報酬として片っ端から述べて、何としてでもシルヴァを引き込もうとするただならぬ意思を感じる。
シルヴァは冷静にゴルドを見つめると、もう一度言葉を返す。
「申し訳ないですが、結構です」
シルヴァの言葉に押し黙るゴルド。
こんなに否定すれば諦めてくれるだろうか。早くこの場を離れておきたいんだけどな。
そんな風に思って、シルヴァがゴルドの出方を待っていると、ゴルドははあ、と肩を下した。
「あー、そうかあ。残念……。俺、すっげえ少年のこと、気に入ったんだがなあ……」
その言い草からして、何とか勧誘を諦めてくれるようだ。シルヴァもほっとして、その場を動こうとする。
――直後、殺気が具現化し、不透明な波となってシルヴァを襲った。
「ァああ……! 俺と一緒に来てくれねェんならよォ……! ここでちょいと『思い出作り』、していけや……!」
殺気の波の出どころは、当然無精ひげを生やした男、ゴルドである。その常人ならば、そのとてつもないプレッシャーに吐いてしまうような殺気を受け、シルヴァは咄嗟にシアンをかばう。
それからシアンを離し、後ろへと逃した。
「早くこの町から出て……! 僕は後で追いつくから」
「……で、でも」
「いいから、早く」
不安と焦燥、そして恐怖が入り混じった青い瞳でシルヴァを見つめるシアン。
そして、そのか弱い腕でシルヴァに抱きつくと、顔をシルヴァに押し当てながら震えた声で言う。
「ちゃんと、本当に追いつく?」
「当たり前だ」
シルヴァも自分に抱き着くシアンを軽く抱擁した。
数秒、抱き合ったままで過ごすと、シアンがシルヴァから名残惜しそうに離れる。彼女の目が涙で腫れていた。
「っ!」
シアンは駆け出した。シルヴァはその後姿がある程度遠くへ行ったところで、改めて殺気を放ち続けるゴルドと向き合う。
「……案外、空気を読んでくれるんですね」
「俺の求めているものは、勝利じゃねぇんだよ、少年!」
また豪勢に大笑いをするゴルド。周りに来ていたやじ馬たちも、彼のただならぬ殺気に阻まれて、彼から距離をとって二人を観覧していた。
シルヴァは能力を使い、倒れている刑務所の見張り番の一人を動かした。
立ち上がらせると、その見張り番の近くに落ちていた槍を拾わせ、自分の方へ投げてシルヴァはそれを受け取る。そしてゴルドに向かって構えた。
「槍術か……。だが、俺に効くかな……?」
「さあ」
二人は見つめ合う。その滅法界なケンカを止めようとするものは、誰もいなかった。
ピリピリと切り刻むかのような殺気が飛び交い、その闘いの始まりの時は着々と近づいていく。
「――ッ!」
「――」
耳を劈く残響。石畳が破壊され、破片が宙に舞う。
――規格外同士の闘いが、始まりを告げた。
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