傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

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第一章 傀儡使い、獣耳少女に出会う

6 成長する『支配』

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「――ッ」

「――っ」

 地面の石畳を粉砕し、目にもとまらぬ速さでシルヴァへ殴り込んだゴルド。

 しかしその行動は途中で静止した。シルヴァの『支配』能力だ。突撃するゴルドを能力の支配下に置いたのだ。

 ――が。

 シルヴァとゴルドは力を込め、殺気を飛ばしあいながら静止していた。シルヴァはそんな中、異常に気づく。

 こいつ、支配の能力が完全に入らない……!

 そう、ゴルドが能力の射程内に入り、支配下においたのまではよかった。

 しかし、操ろうにも行動を止めること以上に能力が発言していない。彼の行動を止めることが精一杯で、『操る』段階まで到達できていない。

 いいや、違う。シルヴァは気づく。

 『支配』が満足に機能しない理由。それはゴルドはシルヴァの支配の能力に抗っているからだ。能力を少しでも緩めたら、最高速の拳が僕に飛んでくるだろう。

 フェイクのつもりで調達したが、必要なかった槍を投げ捨てて、冷静に物事を推理していくシルヴァ。この時点で二人の力関係は拮抗していた。

 ――そんな中で、シルヴァは微笑んだ。そう、微笑んだのだ。自棄になったわけでもなく、ただ嬉しさを前にして微笑んだのだ。

「……ありがとう。ゴルドさん」

 シルヴァの言葉をゴルドは不可解に思ったに違いない。だがそれをゴルドの意識が認識する前に、事態は動く。

 突如、ゴルドの両隣にある石畳が長方形の石の板となってせり上がり、そのまま起き上がってゴルドを押しつぶした。

 それだけでは飽き足らず、半壊した刑務所の門の瓦礫などが一気にゴルドへ押し寄せ、そのままゴルドを潰していく。ゴルドの足元の石畳が割れ、そのまま土の中へ沈んでいった。

「貴方のおかげで、僕は『成長』し『理解』できたよ」

 シルヴァは追い詰められていたのだ。シルヴァの『支配』とゴルドの『力』。双方が拮抗し千日手の状態となっていた。あのままではシルヴァは勝てない。だから――

 シルヴァの勝利への執着が、本能が、彼の能力をさらに成長させた。

 シルヴァの能力が『成長』し、魔獣や人間だけでなく、物質までもをありのままに動かせるようになったのだ。故にシルヴァは石畳を支配し、その数々をある程度の大きさの『群れ』として形成し、そのまま起動させてゴルドを左右から押しつぶしたのだ。

 その後も、落ちていた瓦礫を動かし、さらに地中の砂までも操り、彼を地中奥深くまで沈めた。

 勿論、ゴルドを支配する能力は継続中だ。だから彼は動けない。動けないまま土に沈んでいく。

 ここで気づいたが、『支配』には十二メートル程度しか射程がないようだ。けれど、そこまで埋めてしまえば、圧力によって動けなくなるだろう。つまり、もうこの時点でシルヴァの勝ちは確定――。

「ォらああああァァァア!」

 地中から大きな弾丸が飛び出し、空に放たれる。そしてそれは猛スピードで直角に曲がり、瞬きひとつの内にシルヴァへ突っ込んだ。

「――ァっ!」

 シルヴァはその攻撃を受け斜め上に吹っ飛び、刑務所近くの建物の三階付近へ激突した。壁を貫通し、中の部屋で新たに壁にぶち当たり、ようやくその勢いは止まった。

「……なるほど」

 ボロボロになった服を身にまとい、シルヴァはふらっと立ち上がる。

 轟音を鳴らしながら外壁を貫通し、建物中にまで吹っ飛ぶという大きな力を受けても、シルヴァに目立ったダメージはない。

 ……いいや、少し見栄を張った。かなり痛い。背中、めっちゃ痛い。

 だが、致命傷にはなりえない程度のダメージだ。誤差である。

 さっきの衝撃でヒビが入った天井から、パラパラと小さなクズが落ちてきていた。

 しかし、あの拳が直撃すれば、この程度の傷ではすまなかったかもしれない。拳が当たる直前に、辺りに舞っていた砂を圧縮し集め、それを盾代わりにして衝撃を多少なりと押さえたが、それでもこの威力だ。

 シルヴァは顎に手を当てながら歩き出す。そして、自分が空けた穴から下を見つめた。

 もう日が沈み、辺りが暗くなっているので、とても見づらかったが、何とかその姿をとらえる。

 そこには、シルヴァを殴り飛ばしたであろうゴルドが、深く息を切らしてこちらを見ていた。体中が傷だらけで、破れた囚人服の所々から血が滲んだり、流れたりしている。

 彼は地中の圧力の中でも、持ち前の筋肉でなんとか肉体を維持し、そのまま力任せにに飛び出したのだろうか。

 一度、シルヴァの射程から逃れてしまえば、能力の支配対象から外れ、また能力を使うには再び支配しなくてはいけない。今のはシルヴァの慢心が原因である。そのせいで、ゴルドが射程から外れるや否や、勝ったと思い込んだゆえに支配し直すよりも先に、彼の攻撃に当たってしまった。

 さらに厄介なことに、ゴルドはシルヴァの能力の射程に気づいた恐れがある。だからこうして、建物の三階まで吹っ飛ばしたのだろう。ここからではゴルドに『支配』は届かない。

 本来ならば、あの状況では一撃で終わらさせずに畳みかけるのが良いはず。それをしなかったということは、シルヴァの近くにいることは危険であると、ゴルドは気づいていたからだ。

 そもそも、彼は凄まじい力以外にも、何か特殊能力を持っていた。空中に飛び出た際、何もない場所で進先の角度を一瞬にして変えた。まるで、見えない壁を蹴って、自分の軌道を変えるが如く。

「だけど、距離を取ったのは悪手だったね」

 シルヴァは小さく呟き、両手を広げた。
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