傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

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第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』

26 信じたくない疑心

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「……今度はどうしたの?」

 シルヴァはシアンに連れられ、外に出ていた。

 さっきの一幕で、シアンがシルヴァと共にカレン達を守るということになった。シルヴァはそれに関して色々と話し合っておきたかったのだが、それを始める前にシアンに連れ出されたのだ。

 一応、家を出るときはカレン達へ一言伝えた方が良いのではないだろうか。

「……ここなら、カレンにも聞かれないね」

 林の中で拓けた場所にある家からは少し離れた木々の中で、シアンは獣耳をピンと立てて注意深く呟いた。

 その行動で何をしたいのか分からず、シルヴァは困惑しながらシアンへ言う。

「……どうしたの? これからシアンのことも交えて、カレン達と話し合いたいんだけど」

「カレン……うん、カレンの話なの。……この話は、たぶんあの二人に聞かれちゃいけないと思う」

「カレン……?」

 木の陰の中で、シアンは声を潜めて言った。

 シルヴァはその話の中心がカレンということに、さらに困惑した。アレンとカレン、どちらかに何か問題がありそうならば、どっちかといえばアレンの方だと思っていたのだ。彼は昔そこそこの冒険者だったようだし、何か問題があるとしたらそこだろう。

 しかし、シアンが言うにはカレンに問題があるらしい。
 シルヴァはシアンの言葉に耳を傾ける。

「ねえシルヴァ。私の話を、どの程度まで信じられる?」

「ある程度なら。明日隕石が降ってくるとか言われたら、ちょっと疑心暗鬼になるかも」

「真面目な話なんだけど」

 状況がなかなか飲み込めず、つまらない冗談で返答したシルヴァを、シアンはジト目で睨みつけた。

 流石に真剣さを見誤っていた自分が悪い。シルヴァはその圧にひるみながら、ごめん、と真摯に謝罪を口にした。

 それから、少し考えてから、シルヴァは困ったように言う。



「……まあ、真剣に考えても、隕石レベル未満なら信じる、かな」

「……」

 そのシルヴァの言葉に、シアンは目を細めた。まるで言葉の信ぴょう性を見定めるかのように。

 しかしそんな目で見られても、今度に限ってシルヴァはひるまなかった。改めて考えなおしても、彼女を疑う余地はない。

 さっきの家の中での二人の間のやり取りにおいて、シアンから受け取った言葉には、確かな重圧が存在していた。それから口が乾かぬ内に、でまかせを言い出すような人ではないと、シルヴァは確かな信頼を彼女に置いている。

 故に、真剣に考えても、そのレベルでの信頼がシアンに向けられていた。

 見定めが終わったのか、シアンは軽く咳ばらいをする。
 それから後ろの木に寄り掛かって、ぽつぽつと話し始めた。

「……さっき、カレンとキッチンに行ったの、覚えてるでしょ?」

「覚えてる」

「その時に、まあなんというか、カレンの心臓の音を聞く機会があったの」

「……? どうしてそんなことに?」

「――っ! それは、その、今はとりあえずどうでもいいの!」

 ほぼ反射的に疑問を口にしたシルヴァに対し、シアンは顔を真っ赤にして叫び返した。
 その異様な慌てように、シルヴァは思わずシアンから少し身を引いた。それから遠慮がちに続きの話を彼女に促す。

 それを見たシアンは、恥ずかしそうにまた咳ばらいをした。

「私の耳は心臓の鼓動を絶対に見逃さない。だけど、私が彼女に抱き着かれたとき、聞こえるはずの心臓の鼓動が聞こえなかった」

「……」

 抱き着かれたとき、というシアンの言葉を聞いて、シルヴァはそれに関して無駄なことを言いそうになり、咄嗟に口をつぐんだ。

 しかし、そんなシルヴァであっても、そのシアンの発言で分かったことがある。
 シアンがどうしてシルヴァに対し、心の内を打ち明ける決心がついたのか。そのきっかけは、カレンにあったのだ。

 冷静に考えてみれば簡単なことだった。シアンの変化にきっかけを探すのならば、シルヴァに拒否されてから帰ってくるまでの間にしか、そのタイミングはない。
 シアンは弱弱しいあの彼女の姿に見かねたカレンに、助言を貰った。そしてその助言は、見事状況を蒸し返した。

 しかし、その助言をくれたカレンには、とある問題があった。

 シルヴァは少し考えたあとに、優しくシアンへ語りかける。

「……カレン、いいやアレンとカレンは何か隠してる。多分それは、彼らが襲われていることに関係している、ってこと?」

「……うん。信じたくはないけど、そう考えちゃう。だって」

 シアンは暗い表情で猫耳を伏せた。

「心臓が動いていないのに生きているなんて、普通に考えておかしいよ……。何か禁術を組み込まないと、あんな風には……」

 シアンの言葉に、シルヴァは沈黙する。

 彼女の言う通りだ。心臓が動いていないのに生きているなんて、普通じゃない。魔法があるからといって、山肌を焼き払えても、人を生き返らせることはできないように、心臓が止まり死ぬことが運命づけられた人間を生かす術など、存在しないのだ。

 シルヴァが眼前のすっかり落ち込んだシアンを見つめる。
 自分に的確な助言をくれた人の、その存在に何か黒い疑いがある。その事実はシアンにとって、とても虚無なものなのだろう。胸にぽっかりと、穴があいたような喪失感を感じているのではないか。

「……とりあえず、襲撃してくる奴らはともかくとして、アレン達のことも探る必要が出てきたってわけか」

 そう言ってシルヴァは、アレンたちのいる家の方を見据えたのだった。
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