傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

文字の大きさ
33 / 119
第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』

31 ひらめき

しおりを挟む
 シルヴァとシアンが捕らえた襲撃者四人が先行し、その後ろをその二人が歩いていた。

 前に進む四人衆は、シルヴァの能力に行動の全てを支配されており、ただの操り人形と化している。彼らの親指の骨が折れているのにも関わらず、一切根をあげていない。まあ実際のところ、根を上げることすらできないだけなのだが。

 そんな感じでアレンたちの家へ向かっている最中、シルヴァの隣を歩いていたシアンが彼を小さく小突いた。
 シルヴァはそれに気づき、目線を彼女へ向ける。彼女は獣耳を元気なさそうにへなへなと垂らし、ぼやくように言った。

「ねえシルヴァ。いくら相手が敵だからって、あんな乱暴にしなくたってよくない……?」

 それはもちろん、シルヴァが情報を円滑に聞き出すため、白髪だけでなく四人全員の親指を折って、脅迫したことを指示している。シルヴァはじっとシアンを見た。

 彼女がそんな風のことを言うのは何となく察しがついていた。暴力の脅しを始めてから、彼女の反応が薄くなっていたことぐらい、シルヴァにだって分かっている。

 もしかしたら、シアンはシルヴァの暴力の行使を見て、看守との出来事を連想してしまったのかもしれない。
 気づくのが遅かった、とシルヴァは唇をかみしめる。もう少し、彼女に配慮するべきだった。

 しかし、あの状況で迅速で正確に情報を吐き出させるための手段として、暴力が最適解でもあったのも間違いない。

 初対面の、しかも自分より年下の男に情報を吐くほど、あの男たちは甘くはないだろうし。その甘ったれた考えをぶっ潰すには、絶対的な強さ関係を脳内に痛みとして染み込ませることが一番簡単だ。

「それに、アレンは、何か隠し事をしているかもしれないけど、たぶん悪い人じゃないでしょ……? そこまで警戒しなくても……」

「……いや」

 四人衆に対する暴行は完全にシルヴァに落ち度があったといえる。故に彼女の意見を肯定し黙っていたが、アレンについては少し違った。

 シアンはシルヴァの否定が気になったのか、シルヴァの顔をのぞき込む。
 シルヴァはその否定の訳を話した。

「アレンは、結界の維持にほとんどの魔力を使ってる、って言ってたよね? だから、戦闘には参加できない、と」

「うん」

「でもちょっと考えると、それはおかしいんだ。戦闘になるってときは、カレンが襲撃者、えーっと、ハーヴィンたちに見つかった後ってことでしょ? 自分を探している相手に見つかっているのに、その隠れみのを維持する必要はない。戦闘になったら、結界を閉じればいいだけでしょ?」

「あー、確かに。もう見つかってるんだから、隠れる意味はないね」

 落ち葉を踏みしめながら、シアンは手を顎に当てた。シルヴァも彼女に倣って考える。ついつい、その思考が口に出てしまった。

「アレンは隠し事をしているけど、確かに悪人ではなさそう。でも、その戦闘に参加できない、と言っていたことが引っかかってるんだよねぇ……。なんでそんなウソをついたのか、いや、それとも『戦闘に参加できない』というのは本当で、魔力が使えない理由が他にあるのか……」

 それを聞いたシアンは何かを思い出したのか、顎から手を放して小さくジャンプし、人差し指をシルヴァの頬にちょこんと突き立てた。
 シルヴァは黙ってそれを見返す。

 なんだこの生き物、かわいい。

「思い出したよ! んん? 思い出したというよりは、つっかえていたものが取れそうな気分?」

「どうしたの?」

「アレンの持ってた魔導書だよ! 確か、リグなんとかって言ってたよね」

 シアンの言葉に、シルヴァはうなずく。
 そもそも、その魔導書が原因でアレンたちは狙われているのだから、そんな重要な品を忘れるわけがない。

 シアンは駆けだして歩くシルヴァの前に回り込むと、後ろ歩きをしながら、今度は得意そうにシルヴァの前から彼の顔を覗き込んだ。
 獣耳が誇らしげにピーーン! とたっている。

「あの魔導書には、世界に一つだけしかない、魔法の使い方が書いてあるんでしょ? 世界で一つしかない魔法のトリセツっていうこと」

取扱説明書トリセツ……そうだね」

「じゃあ、なんでその魔導書は複製されなかったのかな? ずっと唯一の魔導書として出回ってるのはおかしいじゃん? 内容を映した本を出版すれば大儲けなのに、かつて魔導書を手にしたであろう人たちは、それをしなかった。だから、今宵も唯一の魔法のトリセツが書いてある、唯一の魔導書として出回ってる」

「……なるほど。僕にも分かってきたよ。その理由は多分、魔導書を『複製できなかった』から」

「そういうこと!」

 嬉しそうにニヘヘ、と笑うシアン。シルヴァもほほ笑んで、自分の中でこじれていた糸がほつれていく感覚を覚える。
 そして、シルヴァは饒舌になって語り始めた。

「その魔導書には、魔方陣みたいな、魔法の発動に必要なものが直接記されていたんだ。やり方とかだけでなく、魔法の発動に必要に不可欠なキーアイテムそのものとして」

「そういうこと! その唯一の魔導書に記されている、オリジナルの魔方陣みたいなものを介さないと、例の魔法は発動しない。いくら複製しようとも、オリジナルの魔方陣でしか魔法が発動しないのなら、複製しても意味がない!」

 シアンはピシーっと指をシルヴァに差し向けた。それはシルヴァにとって、個人的にとても腑に落ちる結論だった。思わず拍手したくなるぐらいに。

 シルヴァはその納得のいく予測をうんうん、と何度もうなずくと、目の前で嬉しそうにこちらを向いて後ろ歩きをしているシアンに聞いた。

「どうしてそんなことを思いついたの? 何かきっかけとかあったんでしょ?」

「うん。魔導書をアレンが開いたときだよ」

 シルヴァはシアンの言ったときのことを思い出す。

 確か、アレンはテーブルの上に魔導書を開いた。途端にとてつもない魔力が溢れ出し、無防備なシルヴァとシアンを襲ったのだ。
 その点については、シルヴァとしても印象深い。その魔力に屈しないアレンを見て、シルヴァはアレンがただ者ではないと推測をしたのだ。

「ただの魔法のトリセツなら、普通魔力を噴き出すなんてことはないと思うの。魔法の杖を買っても、付いてきたそのトリセツからは炎の玉も風の刃も出ないでしょ?」

「そうか……。ということは、あの時魔導書から魔力があふれ出でいたのは、魔導書に記されていた魔法を使っていたから……! 魔導書の原典オリジンそのものが、魔法の発動に使われる『魔法の杖』だったってことか」

「うん! それでシルヴァが悩んでた、『アレンが魔法を使えない理由』……これでもう分かったんじゃない?」

「――魔導書の魔法を展開して維持し続けているから……! アレンの魔力の大半は『結界を維持するため』じゃなく、『魔導書の魔法を発動したままにしておくため』に使われてたってことか……!」

 シルヴァとシアンはお互いに顔を見合わせ、思わずハイタッチをした。
 これで推測ではあるが、一応の仮組はできた。

 全てがわかったわけではない。
 しかし、シアンのおかげで色々と悩んでいた場面のほとんどは解決された。シルヴァは不意にシアンの頭を撫でる。

「さすが」

「えへへ~ぇ」

 撫でられたシアンはとても嬉しそうに、猫耳を揺らしたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...