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第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』
48 その隣に
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太陽はすでに半分ほど山の向こうに沈みかけている。
ハーヴィンたちとの戦闘によって、瓦礫の散乱している更地になったその場所で、三人は瓦礫の上でうまい具合に腰をかけていた。
「……落ち着いた?」
シアンがそう言うまでは、三人の間では沈黙が流れていた。シアンの言葉を聞いたアレンは顔を上げると、どこか溶けてしまいそうな笑顔で返す。
「大丈夫……。気を使わせてしまったね」
そう言ったアレンはシアンだけでなく、シルヴァの方にも視線を寄越して笑って見せる。大丈夫だということを表情で証明したかったのだろう。シルヴァとシアンは少し安心して息をはいた。
「それじゃ、この後の話をするけど……。寝る場所とか、どうしようか」
とりあえず、アレンの情緒は大丈夫そうであると安心できた。引っかかりがなくなったところで、現実的なすぐ先のことをシルヴァ切り出す。
現状、シルヴァたちのいる場所は瓦礫の散乱した更地のようなところになってしまっている。家は完全に破壊されてしまっており、この場所で一夜を過ごすとするならこのままでは雨風を防げない。
故にこの後、近くの町の宿へ向かうのか、それともこの場所、または近くの森の中で野宿するのか。その選択が必要だった。
時間はすでに夕暮れの終わりが近づいている。すぐに辺りは暗闇へと包まれてしまうので、早々と決めておきたかった。
シルヴァがちょっと不安気に尋ねたすぐ後に、アレンは笑って言う。
「大丈夫。家の上部分は壊れてしまったけれど、実は地下室があってね」
そういって立ち上がるアレン。二人の視線が彼に向かう。
そのままアレンは二人の視線を受けながら、ある場所へ移動した。そこには瓦礫の山が積み重なっており、地面が見えない。
「ここだね」
そういうと、アレンは瓦礫に向かって手をかざす。――刹那、その瓦礫が音を立てて遠くへと吹っ飛ばされた。
瓦礫をどかして出てきたのは、分厚い鉄の板だった。見る限りは取っ手がなく、さらに厚さもほどほどにあるので、彼の言動からしてこの下に地下室があるとするならば、その鉄の板をどけるのにちょっと苦労しそうだ。まあシルヴァの支配の力を使えば大したことはなさそうだが。
アレンはその場でしゃがみ、その鉄の板に手をつけた。そして目を閉じると、静かに何かを囁いた。
すると、その鉄の板に紫色の光の線が入り、その全身が振動し始める。それを感じ取ったアレンは目を開けると、後ろに下がってその板から遠ざかった。
「危ないから近づかないでね」
そうアレンが言っている最中にも、鉄の板は震えている。そしてすぐに、その板が変形をし始めた。
最初は上にボコリと出っ張りができたかと思うと、それがどんどん増えていき、最終的には板状だったそれが六面体となっていった。そこで鉄の振動は止まり、再びシーンと静まり返る。その六面体の高さは人ひとりの身長よりも高く、細長い形状だ。
「これは……?」
その六面体が出来上がったところで、シアンは立ち上がると、とても不思議そうな顔をしながらその六面体に近づく。シルヴァも彼女に続いた。
その二人がアレンの隣まで来たところで、アレンは再び今では六面体となった鉄の物体に近づきながら言う。
「言っただろ? 地下室だよ」
そしてアレンはさっきの鉄の板にやったように、再び六面体の壁に手をつけた。途端に鉄の壁にはアレンのつけた手を中心に紫色の光の線が通り、それが各面へ広がって全体へと通っていく。
それから、全ての面にその線がいきわたると、正面の壁に長方形の穴が開き始めた。鉄の部分が地面へ吸い込まれるように下がっていき、ついにはそれが六面体の中への入り口となった。
「さあどうぞ。地下室だよ」
アレンは二人の方へ振り替えると「どうぞ」と言って手を六面体の中へと向ける。シルヴァとシアンは彼に従い、その六面体の中へ入って行った。
「……階段?」
その中は下へと続く階段があって、その先には明かりが見えた。
そんな光景を茫然と立ち尽くし見下ろす二人に、アレンは後ろから言った。
「その下に地下室があるんだ。魔力を使った仕組みでね。さ、行こうか」
階段を下がった先には、木製のドアがあった。地面の中に木製のドアがあるというのは少し違和感があるものの、シルヴァはそのままドアノブを回し、ドアを開ける。
「わぁ……」
扉の先にあった光景に、シアンは思わず声を漏らした。シルヴァも同様の表情で、その先の光景に見惚れる。
中は普通のログハイスと変わらないような、とても住みやすい内装となっていた。木製の壁に床、天井にはゆっくりと四枚羽のシーリングファン――プロペラのようなもの――が回っており、まるで少し値の張る宿屋の一部屋みたいな内装をしている。
「魔力を使って設置できる、即席の地下室でね。設置には時間かかるけど、持ち運びもできる優れものなんだよ」
アレンの説明と共に、三人はその部屋の中へ入って行った。最後尾のアレンが忘れずに扉を閉めると、そのまま部屋にあるカウンターの向こう側へ歩いていく。
「二人は適当に座っててよ。俺はなんか飲み物取ってくるからさ」
「ありがとう」
二人はアレンの言われた通り、目の前に置かれているテーブルとイスの方へ向かい、そのまま腰掛けた。シルヴァは気になってその内装を見回してみるも、窓さえないものの一見地下室だとは思えないほどの暖かみのある内装だ。こんなものがあるなんて、素直に関心してしまう。
「すごいねー……。こんなの初めて見たよ」
「僕も」
シアンも同じことを思っていたようで、天井でゆっくりと孤高に回るシーリングファンを見上げながら、彼女は呟くように言った。シルヴァもそれにうなずいて同意する。
「知り合いにこういうものを専門的に造ってる人がいてね、『お友達価格』ってので買ったんだ」
その声が聞こえていたのか、三人分のグラスを両手で持ちながら、飲み物の入ったビンを脇に挟んでカウンターから出てきたアレンが言った。そのままテーブルの前まで歩いて来ると、持ってきたそれらをテーブルの上に置いた。
「……その、それも冒険者時代に?」
「まあね」
シルヴァは少し遠慮がちにそう尋ねた。彼の事情からして、冒険者時代のことを言うのはタブーかな、と思いつつ様子を見たが、アレンは気にする様子もなく平然と応える。
アレンはビンの栓を魔力でカラっと開けると、三つのグラスに中身を注いでいく。その香りからして、中身はリンゴジュースのようだ。お酒でも出てくると思ってシルヴァは少し身構えたが、未成年である二人に考慮してアレンは飲み物を選んでくれたらしい。
「ま、とりあえずどうぞ」
アレンは二つのグラスをそれぞれの前に置くと、自分もイスに座ってグラスを目の前に持ってきた。構図としては、シルヴァとシアンが隣同士に座っていて、テーブルを挟んで向かい側にアレンが座っているというものだ。
その光景に既視感を得たシルヴァは、その原因を知って少し目を伏せた。本来ならば、アレンの隣には――。
「……君ら、今俺の隣にカレンがいないってことを思って、少しきまずくなったろ」
アレンは鋭くシルヴァと、その隣で彼と同じことを思って獣耳を伏せていたシアンの心情をあっさりと捕らえた。二人は心を見透かされて思わずビクリと肩を震わせる。
そんな二人を見て、アレンは小さく笑うと目の前のグラスに手を伸ばし、それを口に運んだ。そして言う。
「もう大丈夫さ。……姉貴の『本当の思い』は、あの時に伝わったからね」
「……やっぱあの光は」
アレンの口ぶりにシルヴァはそう呟いた。アレンもそれを聞いて何も言わずに小さくうなずく。
少し前。アレンが破壊した傀儡のカケラから青い輝きが放たれたと思うと、それは人影となってシアンの頭を撫でた後、アレンの方へ向かって言ったのだった。彼の言う『あの時』というのは、恐らくこの時だろうとシルヴァは推測する。
アレンとの接触は青い霧に阻まれてよく見えなかったが、あの青い光がカレンの魂だったのだろう。アレンはあの時、カレンの魂と接触して、何を交わしたのだろうか。シルヴァはアレンを見つめながら、静かにそう考えていた。
「……アレンさ、私に聞いたよね? カレンがあの時私に何を言ったのか、って」
ふと、シアンがアレンへと言った。その言葉に、アレンはちょっと面食らったような表情になったが、すぐに唇を緩ませる。
「もういいよ、そのことは。俺にはもう、十分に伝わったから」
「そう」
それを聞いたシアンは、安心したような表情で自らのグラスに手を伸ばしたのだった。
ハーヴィンたちとの戦闘によって、瓦礫の散乱している更地になったその場所で、三人は瓦礫の上でうまい具合に腰をかけていた。
「……落ち着いた?」
シアンがそう言うまでは、三人の間では沈黙が流れていた。シアンの言葉を聞いたアレンは顔を上げると、どこか溶けてしまいそうな笑顔で返す。
「大丈夫……。気を使わせてしまったね」
そう言ったアレンはシアンだけでなく、シルヴァの方にも視線を寄越して笑って見せる。大丈夫だということを表情で証明したかったのだろう。シルヴァとシアンは少し安心して息をはいた。
「それじゃ、この後の話をするけど……。寝る場所とか、どうしようか」
とりあえず、アレンの情緒は大丈夫そうであると安心できた。引っかかりがなくなったところで、現実的なすぐ先のことをシルヴァ切り出す。
現状、シルヴァたちのいる場所は瓦礫の散乱した更地のようなところになってしまっている。家は完全に破壊されてしまっており、この場所で一夜を過ごすとするならこのままでは雨風を防げない。
故にこの後、近くの町の宿へ向かうのか、それともこの場所、または近くの森の中で野宿するのか。その選択が必要だった。
時間はすでに夕暮れの終わりが近づいている。すぐに辺りは暗闇へと包まれてしまうので、早々と決めておきたかった。
シルヴァがちょっと不安気に尋ねたすぐ後に、アレンは笑って言う。
「大丈夫。家の上部分は壊れてしまったけれど、実は地下室があってね」
そういって立ち上がるアレン。二人の視線が彼に向かう。
そのままアレンは二人の視線を受けながら、ある場所へ移動した。そこには瓦礫の山が積み重なっており、地面が見えない。
「ここだね」
そういうと、アレンは瓦礫に向かって手をかざす。――刹那、その瓦礫が音を立てて遠くへと吹っ飛ばされた。
瓦礫をどかして出てきたのは、分厚い鉄の板だった。見る限りは取っ手がなく、さらに厚さもほどほどにあるので、彼の言動からしてこの下に地下室があるとするならば、その鉄の板をどけるのにちょっと苦労しそうだ。まあシルヴァの支配の力を使えば大したことはなさそうだが。
アレンはその場でしゃがみ、その鉄の板に手をつけた。そして目を閉じると、静かに何かを囁いた。
すると、その鉄の板に紫色の光の線が入り、その全身が振動し始める。それを感じ取ったアレンは目を開けると、後ろに下がってその板から遠ざかった。
「危ないから近づかないでね」
そうアレンが言っている最中にも、鉄の板は震えている。そしてすぐに、その板が変形をし始めた。
最初は上にボコリと出っ張りができたかと思うと、それがどんどん増えていき、最終的には板状だったそれが六面体となっていった。そこで鉄の振動は止まり、再びシーンと静まり返る。その六面体の高さは人ひとりの身長よりも高く、細長い形状だ。
「これは……?」
その六面体が出来上がったところで、シアンは立ち上がると、とても不思議そうな顔をしながらその六面体に近づく。シルヴァも彼女に続いた。
その二人がアレンの隣まで来たところで、アレンは再び今では六面体となった鉄の物体に近づきながら言う。
「言っただろ? 地下室だよ」
そしてアレンはさっきの鉄の板にやったように、再び六面体の壁に手をつけた。途端に鉄の壁にはアレンのつけた手を中心に紫色の光の線が通り、それが各面へ広がって全体へと通っていく。
それから、全ての面にその線がいきわたると、正面の壁に長方形の穴が開き始めた。鉄の部分が地面へ吸い込まれるように下がっていき、ついにはそれが六面体の中への入り口となった。
「さあどうぞ。地下室だよ」
アレンは二人の方へ振り替えると「どうぞ」と言って手を六面体の中へと向ける。シルヴァとシアンは彼に従い、その六面体の中へ入って行った。
「……階段?」
その中は下へと続く階段があって、その先には明かりが見えた。
そんな光景を茫然と立ち尽くし見下ろす二人に、アレンは後ろから言った。
「その下に地下室があるんだ。魔力を使った仕組みでね。さ、行こうか」
階段を下がった先には、木製のドアがあった。地面の中に木製のドアがあるというのは少し違和感があるものの、シルヴァはそのままドアノブを回し、ドアを開ける。
「わぁ……」
扉の先にあった光景に、シアンは思わず声を漏らした。シルヴァも同様の表情で、その先の光景に見惚れる。
中は普通のログハイスと変わらないような、とても住みやすい内装となっていた。木製の壁に床、天井にはゆっくりと四枚羽のシーリングファン――プロペラのようなもの――が回っており、まるで少し値の張る宿屋の一部屋みたいな内装をしている。
「魔力を使って設置できる、即席の地下室でね。設置には時間かかるけど、持ち運びもできる優れものなんだよ」
アレンの説明と共に、三人はその部屋の中へ入って行った。最後尾のアレンが忘れずに扉を閉めると、そのまま部屋にあるカウンターの向こう側へ歩いていく。
「二人は適当に座っててよ。俺はなんか飲み物取ってくるからさ」
「ありがとう」
二人はアレンの言われた通り、目の前に置かれているテーブルとイスの方へ向かい、そのまま腰掛けた。シルヴァは気になってその内装を見回してみるも、窓さえないものの一見地下室だとは思えないほどの暖かみのある内装だ。こんなものがあるなんて、素直に関心してしまう。
「すごいねー……。こんなの初めて見たよ」
「僕も」
シアンも同じことを思っていたようで、天井でゆっくりと孤高に回るシーリングファンを見上げながら、彼女は呟くように言った。シルヴァもそれにうなずいて同意する。
「知り合いにこういうものを専門的に造ってる人がいてね、『お友達価格』ってので買ったんだ」
その声が聞こえていたのか、三人分のグラスを両手で持ちながら、飲み物の入ったビンを脇に挟んでカウンターから出てきたアレンが言った。そのままテーブルの前まで歩いて来ると、持ってきたそれらをテーブルの上に置いた。
「……その、それも冒険者時代に?」
「まあね」
シルヴァは少し遠慮がちにそう尋ねた。彼の事情からして、冒険者時代のことを言うのはタブーかな、と思いつつ様子を見たが、アレンは気にする様子もなく平然と応える。
アレンはビンの栓を魔力でカラっと開けると、三つのグラスに中身を注いでいく。その香りからして、中身はリンゴジュースのようだ。お酒でも出てくると思ってシルヴァは少し身構えたが、未成年である二人に考慮してアレンは飲み物を選んでくれたらしい。
「ま、とりあえずどうぞ」
アレンは二つのグラスをそれぞれの前に置くと、自分もイスに座ってグラスを目の前に持ってきた。構図としては、シルヴァとシアンが隣同士に座っていて、テーブルを挟んで向かい側にアレンが座っているというものだ。
その光景に既視感を得たシルヴァは、その原因を知って少し目を伏せた。本来ならば、アレンの隣には――。
「……君ら、今俺の隣にカレンがいないってことを思って、少しきまずくなったろ」
アレンは鋭くシルヴァと、その隣で彼と同じことを思って獣耳を伏せていたシアンの心情をあっさりと捕らえた。二人は心を見透かされて思わずビクリと肩を震わせる。
そんな二人を見て、アレンは小さく笑うと目の前のグラスに手を伸ばし、それを口に運んだ。そして言う。
「もう大丈夫さ。……姉貴の『本当の思い』は、あの時に伝わったからね」
「……やっぱあの光は」
アレンの口ぶりにシルヴァはそう呟いた。アレンもそれを聞いて何も言わずに小さくうなずく。
少し前。アレンが破壊した傀儡のカケラから青い輝きが放たれたと思うと、それは人影となってシアンの頭を撫でた後、アレンの方へ向かって言ったのだった。彼の言う『あの時』というのは、恐らくこの時だろうとシルヴァは推測する。
アレンとの接触は青い霧に阻まれてよく見えなかったが、あの青い光がカレンの魂だったのだろう。アレンはあの時、カレンの魂と接触して、何を交わしたのだろうか。シルヴァはアレンを見つめながら、静かにそう考えていた。
「……アレンさ、私に聞いたよね? カレンがあの時私に何を言ったのか、って」
ふと、シアンがアレンへと言った。その言葉に、アレンはちょっと面食らったような表情になったが、すぐに唇を緩ませる。
「もういいよ、そのことは。俺にはもう、十分に伝わったから」
「そう」
それを聞いたシアンは、安心したような表情で自らのグラスに手を伸ばしたのだった。
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