魔女として断罪された悪役令嬢は婚約破棄されたので魔王の妃として溺愛されることを目指します

悠月

文字の大きさ
16 / 106
第一章 婚約破棄されたので魔王のもとに向かいます

14 我が館にジャンがやって来ました

しおりを挟む
 寝台の中、うとうととまどろんでいたところに、アンナの慌てふためいた声が聞こえてくる。

「お嬢様、お嬢様、大変です! ジャン様がお見えになりました!」

 このイベントの顛末てんまつを知っている私は、たいして驚きもせず、

(来たわね)

 と、心の中で呟き、寝台の中でギュッと拳を握った。

 いよいよ、この婚約破棄・断罪イベントも佳境に入ってきたようだ。
 私、公爵令嬢エレインは、魔女として断罪される。
 父は爵位を奪われるから、私は何の身分も持たない、ただの一文無しとして、国を追われることになるはずだ。

「わかったわ、アンナ、支度をお願いね」

 いくら伏せっているとはいえ、寝巻きのまま、聖堂騎士団の団長殿の前に出るわけにはいかない。
 婚約者の間柄なら、まだそれも許されたかもしれないが、今のジャンと私は、何の関係もない、赤の他人だ。
 公爵令嬢として、その身分に相応ふさわしい装いが必要である。
 私は、アンナをはじめとする侍女たちの手を借りて、入念に身支度を整えた。

 侍女たちは、コルセットで私のウエストをギュウギュウに締め上げる。
 背骨が折れそうだ。
 朝食に食べたものを戻してしまいそうなぐらい渾身こんしんの力で締め上げられると、私のウエストは、前世で見たグラビア・アイドルのごとき細さになった。
 前世の成人式で着た振袖の、10倍は苦しい。いや、100倍か。

 前世の記憶が蘇ってみて、あらためて思う。
 昨日までよく、このような窮屈な装いに、毎日、平然と身を包んできたものである。
 それに比べて、前世の世界で身に付けていた服装の何と楽だったことか……。
 ジャージにスウェット、フリースにパーカー。着心地楽々で、ぬくぬくだった当時の装いが、今となっては懐かしい。

(レイヤーさんの写真、SNSで綺麗だなぁ、と眺めていたけれど。彼女たちも、こんなに苦しい思いをしていたのね)

 前世の私は、ゲームと言えばもっぱらプレイするばかりだった。
 『聖なる乙女と光の騎士たち』に関しては、ヴィネ様愛のあまり、少しばかりとち狂って同人誌を作ってしまった黒歴史は、ある……が、コスプレの経験はいまだかつてない。
 ゲームをプレイする立場だった時にはまったく気付いていなかった。
 綺麗な装いの裏には、このように人知れぬ努力が必要なのである。

 ウエストが細くなったところで、とっておきの絹のドレスを身につける。
 髪も結い上げてもらい、唇には丁寧に紅をく。

 騎士たちが甲冑で戦支度をするのと同じ。
 これが、公爵令嬢としての戦支度だ。

 今の私は、前世の世界の記憶や自我と、これまで生きてきた公爵令嬢エレインとしての記憶や自我が混じり合った状態にある。
 かつての世界を懐かしみ思い出しつつも、今の世界の常識も習慣も礼儀も理解できるのだ。
 我ながら不思議な感覚である。

 鏡の前で、身支度の最終チェックをした私は、ジャンの待つサロンへと向かった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜

りい
恋愛
悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜 「もっとゲームがしたかった……!」 そんな切実な未練を残し、山積みの積ゲーと重量級の設定資料集に埋もれて物理的に「尊死」した限界オタクの私。 目が覚めると、そこは大好きな乙女ゲーム『幻想のルミナス』の世界。しかも、推しカプ(王子×聖女)を邪魔して最後には無残に断罪される悪役令嬢・リリアーナに転生していた! 普通なら破滅フラグ回避に走るところだけど、オタクの私は一味違う。 「断罪イベントを特等席(悪役席)で見られるなんて……これって最高のご褒美じゃない!?」 完璧な婚約破棄を勝ち取り、二人の愛の軌跡を「生」で拝むため、私は悪役として嫌われる努力を開始する。さらに、転生特典(?)で手に入れた**『好感度モニター』**を駆使して、二人の愛の数値をニヤニヤ見守るはずだった。 ――なのに、視界に映る現実はバグだらけ。 「嫌われようと冷たくしたのに、王子の好感度が**【100(カンスト)】を超えてエラーを吐き出してるんですけど!? というか、肝心のヒロインまで私を姉様と慕って【200(唯一無二)】**ってどういうこと!?」 推しカプの二人は私を見るばかりで、お互いへの好感度は一向に上がらない。 果たしてリリアーナは、重すぎる全方位からの溺愛をはねのけ、理想の「婚約破棄」に辿り着けるのか? 勘違いとバグが加速する、異色の溺愛(?)ファンタジー開幕!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

処理中です...