転生しました、脳筋聖女です

香月航

文字の大きさ
88 / 113
連載

17章-04

しおりを挟む
「……ねえ神様、何故私だったのか聞いてもいいですか?」

[ん? 何がだい?]

「アンジェラの体に入ったのが私だった理由ですよ。他にも〝候補〟がいたのでしょう?」

 なんとか気持ちを落ち着かせてから声をかけると、神様はやや古典的な驚き方で『ああ』と声をこぼす。
 かつての私の人生が壮絶すぎて流されるところだったけれど、神様は確かに〝他にも候補がいた〟ことを口にしていた。
 アンジェラの体に合う他の魂――私と同じような、悲惨な最期を遂げて連れてこられた人々だ。

「馴染むかどうかが賭けになる私よりも、もっとちゃんと『アンジェラ』になれる子はいなかったんですか? まさか、私なんかが一番合致していたと?」

[違うよ。むしろ、君よりもアンジェラに似た性格で、体に合いそうな子は沢山いたさ]

 やはりか。ずっと思っていたけど、あの聖女アンジェラに会って確信したもの。
 私とアンジェラは、あまり似ていない。
 あっちは聖女らしい聖女になろうとしていた、正真正銘の後衛職。
 対して私は、チートを駆使してでもメイスをふるうことを選んだ脳筋だ。

 今ここにいる神様の姿だって、私の好みじゃない。……いや別に、サイファも王子様も顔はきれいだと思うけど。
 でもやっぱり、私の幼馴染の顔のほうが好みなのよね。

「だったら、どうして両親を憎むかもしれなかった私を選んだんですか?」

 あえて低い声を作って聞いてみれば、神様はへらっとしたまま肩をすくめて見せる。このヒトのことだから、何となくとか言われても別に驚きはしないけど。

[さすがに何となくでは選んでいないよ。『聖女』はわたしと人々を繋ぐ大切な存在なんだから]

「では何故です?」

[それは、またちょっと説明が長くなると言うか……〝君の前提〟を壊してしまう話になるのだけど。……まあ、いいか。ここまできたのだから、君には全てを知ってもらおう]

 神様は白い髪をくしゃっと一掻きすると、おもむろにその場に座り込んだ。
 そのまま、ポンポンと隣の床……といっても全部真っ白だからわからない……を叩いて、私にも座るよう誘ってくる。
 仕方なく私も隣へ腰を下ろせば、彼は自分の前にぽつぽつと光の塊を浮かべ始めた。
 平べったい板のような……地球で言うなら、極薄型のモニターのようなものだろうか。そこには、それぞれ別の映像が流れている。

(……あれ? これは)

 そこに映っているのは、私もよく知る仲間たちの姿だけど――よく見ると違う。〝ゲーム版〟の彼らの姿だ。
 ジュードは黒い鎧を着て戦っているし、参加しなかったクロヴィスやハルトが仲間として見える。
 そして、私はその映像に見覚えがあった。

「これは、私が初めて見た……」

 ――記憶だ。
 五歳の私が、高熱にうなされながら見た光景。仲間や戦場、魔物の情報などと一緒に思い出したそれだ。かつての私が愛し、散々やり込んでいたアクション系乙女ゲーム。
 ……なのだけど、今見るとどこかおかしい気がする。

「このゲーム画面、HPゲージもアイテム欄も何もないわ」

 そう、神様が見せる画面には、プレイヤーが操作できる項目が一切表示されていないのだ。
 ムービー画面ならまだわかるけど、映像の中のジュードやディアナは普通に魔物と戦っている。その頭上には、ゲージはもちろん敵ネームすらもない。見栄えはいいだろうけど、プレイするにはとても不便だ。
 こんなゲームではなかったと思うけど……?

[わたしはね、〝アンジェラの候補者〟全員に同じ情報を与えたよ。世界のこと、戦う魔物の情報。そして、共に戦う仲間たちのこと。結構量が多かったから、その取捨選択はヒトそれぞれだったみたいだけど。でも、与えたものは全員同じだ。君が特別多かったなんてことはない]

「は、はあ……つまり、今見ているコレのことですよね?」

[そう。君に与えたものも、コレだよ]

 つまり、何の表示もないゲーム画面だ。インターフェースと言えば、それを見ただけでゲームシリーズを割り出せるぐらいに重要な部分だというのに。
 こんな殺風景な画面を見せられたって、他の人はきっと困っただろう。私のように、廃人と呼べるほどやり込んでいた人間ならまだしも――――

「――…………待って」

 おかしい。
 もし与えられた情報が同じだとしたら、アンジェラとして選ばれる魂は、最初から私一択のはずだ。候補なんているわけがない。だって、あまりにも不利だもの。
 他の候補者が私同等のゲーム廃人だと言うならわかるけど、私ほど悲惨な最期を遂げるようなプレイヤーが、そうそういるわけがない。いても困る。


 ――だけど、この世界が〝ゲームではないのなら〟


[……まあ、そういうことなんだよね]

 少しだけ困った様子で、神様が呟く。
 ……ということは、それが正解なのか。

[うん、そうだよ。この世界は、君の言う『アクション系乙女ゲーム』ではないし、それに関わるものも一切存在しない。……君だって、元廃人プレイヤーを自負しているのにでしょう?]

「あ」

 ストン、と抜けていたものがはまるような感じがした。

 ああ、そうだ、そうだった。
 私は『このゲーム』をやり込んだと自負していながら、一度もゲームのタイトルを気にしたことがなかった。
 冷静になればおかしな話だ。使用していたゲーム機も、発売した大手メーカーの名前も全然出てこない。
 ……当然だ。そんなものは、最初から存在していなかったのだから。

「……恋愛イベントの記憶が全くないわけよね。聖女アンジェラは、部隊の誰とも恋仲になっていないもの。ディアナだって、思い返せば一人としかそういうイベントがないわ」

 存在しないものを、思い出せるはずがない。
 逆に、なんとなくでも覚えていられた記憶……〝ディアナとハルトのイベント〟があったのは、つまりディアナ様になる前の彼女とハルトさんが、そういう関係だったというだけのことだ。

[君の記憶を辿ったら、類似するゲームがいくつか見つかったよ。多分わたしの与えた情報と混じって〝そう思い込んで〟いたのだろうね。でも、その思い込みのおかげで、君はこの世界に対して最初から友好的であったし、膨大な情報もアッサリと飲み込んでくれた]

「思い込み、か」

 以前の【アラクネ】との戦闘で、ここは現実なのだと考えを改めてはいたものの。確かに私を支えてきた根底は、〝元廃人プレイヤー〟というプライドだ。
 私なら絶対勝てるという、プレイヤーならではの自信。それは数多の場面で勇気を与え、私を前へと進ませてくれた。

 ――何もかも全てが、思い込みだったとは。

[自分の好きなジャンルへ情報を落とし込み、対応する。それはとても大事なことだったよ。君以外の候補者たちは、与えた情報が飲み込めなくて、アンジェラにはなれなかったのだから]

「それってアレですよね? 歴史の偉人も、漫画やゲームのキャラクターに落とし込めば忘れない……みたいな。ちょっとオタクっぽいですかね」

[ううん、正にソレだよ。地球の文化はそういうものがとても上手だった。順応性が高い君たちに、わたしは心から感謝したいね!]

「それはどうも」

 私が育った日本という国は、特にそういう文化に強かったものね。
 偉人といえばだいたいイケメンか美少女にされていたし、教科書を読んで覚えられなくても、他の媒体に出た人物は絶対に忘れなかった。
 ……悲惨な人生だった割には、かつての私もばっちりオタクだったと。まあ、家に閉じ込められていたのだから、正真正銘のオタクか。

(そもそも、アクション系乙女ゲームってまず何よって感じだものね。まあでも、そのおかしな思い込みのおかげで、私はここまで来られたのね)

 ジュードや皆と絆を結び、二度目となるこの世界で、私はここまで戦ってきた。
 やり方はアレだとしても、決して間違ってはいなかった。
 ならば誇っておきましょう。オタク脳万歳! ゲーム脳万歳!!

[うん、万歳!]

 何だかよくわかってもいないだろうに、神様まで嬉しそうに両手をあげた。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。