私の婚約者とキスする妹を見た時、婚約破棄されるのだと分かっていました

あねもね

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「アリーナ・オーブリット。私はようやく目が覚めた。君の品格は王室に迎えるにあたってふさわしくない。したがって君との婚約は今夜をもって白紙とさせてもらう」

 王位第一継承者であるフォレックス様は、年若い貴族たちの交流のためにと開かれた夜会の場で、冷淡な瞳を向けて婚約破棄の宣言をされました。
 先ほどまでの明るく華やかな雰囲気は一掃され、辺りは途端に不穏な空気に包まれます。

 私には分かっていました。
 そう遠くない未来、こうなるであろうということは。
 分かっていたのです。


 絶世の美女として誉れ高かった母とよく似ている妹は、幼い頃から恐ろしいほどの美貌の持ち主でした。彼女がひと度にっこりと笑えば場は一気に華やかになり、周りの者を笑顔でとろけさせたものです。
 口々に賛美の声をかけられ、幼き心にもきっと自分は特別な人間なのだと思ったことでしょう。

 その容姿は成長するにつれてますます美しくなっていきます。
 意図しなくても彼女が流し目すると男性は皆、魅了され、ふわりと笑みを向ければ恋に落ちて虜になり、ついと視線を外されれば悲しみのどん底に沈むと言われました。

 両親も例にもれず妹を深く愛しました。
 最大限にお金をかけて彼女を美しく飾り立て、褒め立て、望むもの全てを与えてきました。きっと彼女には高位貴族との輿入れが望めると判断したのでしょう。

 妹はすっかりもてはやされることに慣れ、年々、私に対する我が儘さがが増してきました。家族の中で唯一、私を家族の一員として慕い、味方となってくれていた弟も、妹にそそのかされた父が寄宿学校へ追いやってしまいました。それから、なお彼女の行動は悪化したように思います。

 私が何度も懇願し、学校で良い成績を修めることを条件にようやく手に入れた物さえも、お姉さまばかりずるいわの一言で奪っていくのです。

 お姉さんなのだから譲りなさいと、大人気ないと、彼女の方が似合うのだからあげなさいと、どれ程言われたことでしょう。その度に、どれ程の痛みを心に覚えたことでしょう。
 両親に強くたしなめられて泣く泣く渡すと、ありがとうと彼女はいつも勝ち誇ったようにその場は笑みを浮かべるけれど、瞬く間に興味を失うのです。

「これ。わたくしがあなたにあげた物よ。どうしてゴミ箱に捨てているの!?」

 ある時、ゴミ箱に捨てられていた私のハンカチに気付いて慌てて取り出すと、彼女に突きつけました。

「ああ。それ? よく見れば大して綺麗でもないし、使うこともないわと思って捨てたの。だってほら。もっと私に似合う素敵なハンカチをお父様に買っていただいたから」

 繊細なレースが施された白いハンカチを綺麗でしょうと妹は私に見せつけてきました。私の捨てられたハンカチよりもはるかに技術が高く、品質の高い素材だと分かります。

「ああ。私が捨てたそれはもういらないから、良かったら姉さまに差しあげるわ。ゴミ箱に捨てたけど、一度も使っていないから綺麗よ。洗えば使えるわ」

 彼女は残酷なまでに美しく微笑みました。

「――っ」

 妹は私と同じ物が欲しいのではなく、ただ私の物・・・が欲しかっただけなのです。私が大切にしていたものを奪って捨てたかっただけなのです。私が怒りに、屈辱に震える姿を見たかっただけなのです。

 だからいずれこうなると分かっていました。
 私の婚約者と初めての顔合わせで、妹が彼に艶めかしく微笑みを送ったその時に、また私から……奪っていくのだろうと。
 事実、彼と逢瀬を繰り返していることを言葉の端々に匂わせていました。
 夜会で彼を人気のない庭に連れ出し、熱い抱擁と口づけをしているのを見せつけられました。その様子を目撃して傷つく私を笑いものにしたかったのでしょう。

 だけど私はあなたを愛していました。
 生まれたばかりのあなたを見て、お姉ちゃんになるのだと嬉しく思ったことは嘘ではありません。
 あなたのふっくらした頬をつつきながら、私がこの子を守るのだと思ったことは嘘ではありません。
 舌足らずな甘い声で、おねえちゃま待ってと私の後をいつも追いかけてきたあなたを愛おしく思ったことは嘘ではありません。

 そんな時代は確かにあったのです。
 だからこそこんな仕打ちは耐えられません。

 私の頬につと冷たい雫が伝いました。
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