私の婚約者とキスする妹を見た時、婚約破棄されるのだと分かっていました

あねもね

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2 ※妹視点(1)

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 姉と私、そして弟はオーブリット伯爵の子供。
 年が近いきょうだいだけれど、仲が良いとは言えないかな。

 姉さまは美しい母には似ておらず、十人並みの顔。そのせいなのか、お父様は姉さまには厳しい教育をなさっていたわ。平凡な顔では良い所に輿入れは難しいから教養をつけさせようと思われたのかもしれないわね。

 一方、母の美しさをふんだんに引き継いだ私は、幼い頃より蝶よ花よと育てられてきた。少し微笑んであげるだけで、何でも手に入ったし、何でもしてくれたし、両親は私に愛情をたっぷり注いでくれた。

 そして弟ね。私と似て美形の弟なのだから、私に従っていればいいようにしてあげたのに、弟は姉さまを慕い、日頃から私に敵意の目を向けた。面倒だから家から追い出してやったわ。つまり家族の中では私が頂点に立ち、私に逆らえる人間はいなくなったの。

 けれどその環境に慣れすぎてしまったのだと思う。

 いつしか簡単に与えられるものに興味を引かれなくなってしまった。
 どんな素敵なドレスでも、どんな輝く宝石でも、高貴で麗しい異性たちから向けられる私の愛を乞う視線も甘美な言葉も、もう私の心には響かなくなってしまった。
 もちろん私を飾り立てるものはいくらあっても足りないぐらいだもの。頂くものは頂いておくけれどね。

 でも、何も心に響かないというこの事態はなかなか不幸なことだと思う。

 そんなある日、姉さまは学業で良い成績を修めたとのことで、かねてから約束していたというレースのハンカチをお父様に買っていただいて、喜んでいる姿を見たの。
 レースのハンカチごとき、私はいくらでもお父様に買っていただいているのだから、これっぽっちの興味もなかったけれど、姉さまが両親に褒められている姿には激しい苛立ちを覚えたわ。

 いつだって可愛いと褒めそやされるのは私で、注目されるのは私で、話題の中心はいつも私でなければならないのに、なぜ何の特徴もない地味な姉さまがその中心に立つのかと。その輝かしい舞台に立って良いのは私だけ。

 私だけがふさわしい場を汚された気がして許せなかった。
 その舞台から引きずり下ろし、両親の愛は私にだけ向けられているのよと、姉さまに思い知らせてやらなければ気が済まなかった。

 だからその席で、可愛らしい笑顔で姉さまに言ってやったわ。

「ねえ。お姉さま、そのハンカチ素敵ね」
「ありがとう。お父様に買っていただいたばかりなの。今とても人気でなかなか手に入らなかったのだけれど、一枚だけ残っていたのよ」
「そうなの? 私も欲しいわ」

 姉さまは顔を引きつらせて笑った。
 私の思惑を察したのでしょうね。これまで何度か欲しがったことがあったから。

「あ、だからこれは本当に今は無いのよ。それにわたくしは今回、懸命に勉強して、それで」
「えぇ!? お姉さまばかりずるぅい。ねえ、お父様ぁ。私も欲しいのだけれど」
「そうか。仕方がないな。じゃあ、それを譲ってあげなさい」

 お父様は姉さまに向かってそう言ってくれた。

「お、お父様。これはわたくしが頑張ったからと買ってくださったもので」
「たかだかレースのハンカチ一枚だろう。また買ってやるから、それぐらい妹に譲ってやりなさい。大人気ないぞ」
「で、でもこれはなかなか手に入らなくて」
「いい加減にしなさい。あなたはお姉さんでしょう。我慢しなさい」

 姉さまは必死になって抵抗するけれど、お父様もお母様も私の味方をしてくれる。当然よね。私は姉さまよりもずっとずっと可愛くて愛されているのだから。

「第一、お前よりもこの子の方が似合っているだろう」

 ふふ。お父様って残酷なお方。
 姉さまはお父様の一言が決定打で、顔を蒼白にしてハンカチを手放した。

 たわいないものね。でも青ざめた姉さまの顔を見て、とても心が晴れやかになったわ。爽快感っていうの? 胸がすっとした。
 まあ、これで姉さまも少しぐらいは自分の立場を理解したでしょ。

 私はゆったりと微笑んだ。
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