2 / 11
2 ※妹視点(1)
しおりを挟む
姉と私、そして弟はオーブリット伯爵の子供。
年が近いきょうだいだけれど、仲が良いとは言えないかな。
姉さまは美しい母には似ておらず、十人並みの顔。そのせいなのか、お父様は姉さまには厳しい教育をなさっていたわ。平凡な顔では良い所に輿入れは難しいから教養をつけさせようと思われたのかもしれないわね。
一方、母の美しさをふんだんに引き継いだ私は、幼い頃より蝶よ花よと育てられてきた。少し微笑んであげるだけで、何でも手に入ったし、何でもしてくれたし、両親は私に愛情をたっぷり注いでくれた。
そして弟ね。私と似て美形の弟なのだから、私に従っていればいいようにしてあげたのに、弟は姉さまを慕い、日頃から私に敵意の目を向けた。面倒だから家から追い出してやったわ。つまり家族の中では私が頂点に立ち、私に逆らえる人間はいなくなったの。
けれどその環境に慣れすぎてしまったのだと思う。
いつしか簡単に与えられるものに興味を引かれなくなってしまった。
どんな素敵なドレスでも、どんな輝く宝石でも、高貴で麗しい異性たちから向けられる私の愛を乞う視線も甘美な言葉も、もう私の心には響かなくなってしまった。
もちろん私を飾り立てるものはいくらあっても足りないぐらいだもの。頂くものは頂いておくけれどね。
でも、何も心に響かないというこの事態はなかなか不幸なことだと思う。
そんなある日、姉さまは学業で良い成績を修めたとのことで、かねてから約束していたというレースのハンカチをお父様に買っていただいて、喜んでいる姿を見たの。
レースのハンカチごとき、私はいくらでもお父様に買っていただいているのだから、これっぽっちの興味もなかったけれど、姉さまが両親に褒められている姿には激しい苛立ちを覚えたわ。
いつだって可愛いと褒めそやされるのは私で、注目されるのは私で、話題の中心はいつも私でなければならないのに、なぜ何の特徴もない地味な姉さまがその中心に立つのかと。その輝かしい舞台に立って良いのは私だけ。
私だけがふさわしい場を汚された気がして許せなかった。
その舞台から引きずり下ろし、両親の愛は私にだけ向けられているのよと、姉さまに思い知らせてやらなければ気が済まなかった。
だからその席で、可愛らしい笑顔で姉さまに言ってやったわ。
「ねえ。お姉さま、そのハンカチ素敵ね」
「ありがとう。お父様に買っていただいたばかりなの。今とても人気でなかなか手に入らなかったのだけれど、一枚だけ残っていたのよ」
「そうなの? 私も欲しいわ」
姉さまは顔を引きつらせて笑った。
私の思惑を察したのでしょうね。これまで何度か欲しがったことがあったから。
「あ、だからこれは本当に今は無いのよ。それにわたくしは今回、懸命に勉強して、それで」
「えぇ!? お姉さまばかりずるぅい。ねえ、お父様ぁ。私も欲しいのだけれど」
「そうか。仕方がないな。じゃあ、それを譲ってあげなさい」
お父様は姉さまに向かってそう言ってくれた。
「お、お父様。これはわたくしが頑張ったからと買ってくださったもので」
「たかだかレースのハンカチ一枚だろう。また買ってやるから、それぐらい妹に譲ってやりなさい。大人気ないぞ」
「で、でもこれはなかなか手に入らなくて」
「いい加減にしなさい。あなたはお姉さんでしょう。我慢しなさい」
姉さまは必死になって抵抗するけれど、お父様もお母様も私の味方をしてくれる。当然よね。私は姉さまよりもずっとずっと可愛くて愛されているのだから。
「第一、お前よりもこの子の方が似合っているだろう」
ふふ。お父様って残酷なお方。
姉さまはお父様の一言が決定打で、顔を蒼白にしてハンカチを手放した。
たわいないものね。でも青ざめた姉さまの顔を見て、とても心が晴れやかになったわ。爽快感っていうの? 胸がすっとした。
まあ、これで姉さまも少しぐらいは自分の立場を理解したでしょ。
私はゆったりと微笑んだ。
年が近いきょうだいだけれど、仲が良いとは言えないかな。
姉さまは美しい母には似ておらず、十人並みの顔。そのせいなのか、お父様は姉さまには厳しい教育をなさっていたわ。平凡な顔では良い所に輿入れは難しいから教養をつけさせようと思われたのかもしれないわね。
一方、母の美しさをふんだんに引き継いだ私は、幼い頃より蝶よ花よと育てられてきた。少し微笑んであげるだけで、何でも手に入ったし、何でもしてくれたし、両親は私に愛情をたっぷり注いでくれた。
そして弟ね。私と似て美形の弟なのだから、私に従っていればいいようにしてあげたのに、弟は姉さまを慕い、日頃から私に敵意の目を向けた。面倒だから家から追い出してやったわ。つまり家族の中では私が頂点に立ち、私に逆らえる人間はいなくなったの。
けれどその環境に慣れすぎてしまったのだと思う。
いつしか簡単に与えられるものに興味を引かれなくなってしまった。
どんな素敵なドレスでも、どんな輝く宝石でも、高貴で麗しい異性たちから向けられる私の愛を乞う視線も甘美な言葉も、もう私の心には響かなくなってしまった。
もちろん私を飾り立てるものはいくらあっても足りないぐらいだもの。頂くものは頂いておくけれどね。
でも、何も心に響かないというこの事態はなかなか不幸なことだと思う。
そんなある日、姉さまは学業で良い成績を修めたとのことで、かねてから約束していたというレースのハンカチをお父様に買っていただいて、喜んでいる姿を見たの。
レースのハンカチごとき、私はいくらでもお父様に買っていただいているのだから、これっぽっちの興味もなかったけれど、姉さまが両親に褒められている姿には激しい苛立ちを覚えたわ。
いつだって可愛いと褒めそやされるのは私で、注目されるのは私で、話題の中心はいつも私でなければならないのに、なぜ何の特徴もない地味な姉さまがその中心に立つのかと。その輝かしい舞台に立って良いのは私だけ。
私だけがふさわしい場を汚された気がして許せなかった。
その舞台から引きずり下ろし、両親の愛は私にだけ向けられているのよと、姉さまに思い知らせてやらなければ気が済まなかった。
だからその席で、可愛らしい笑顔で姉さまに言ってやったわ。
「ねえ。お姉さま、そのハンカチ素敵ね」
「ありがとう。お父様に買っていただいたばかりなの。今とても人気でなかなか手に入らなかったのだけれど、一枚だけ残っていたのよ」
「そうなの? 私も欲しいわ」
姉さまは顔を引きつらせて笑った。
私の思惑を察したのでしょうね。これまで何度か欲しがったことがあったから。
「あ、だからこれは本当に今は無いのよ。それにわたくしは今回、懸命に勉強して、それで」
「えぇ!? お姉さまばかりずるぅい。ねえ、お父様ぁ。私も欲しいのだけれど」
「そうか。仕方がないな。じゃあ、それを譲ってあげなさい」
お父様は姉さまに向かってそう言ってくれた。
「お、お父様。これはわたくしが頑張ったからと買ってくださったもので」
「たかだかレースのハンカチ一枚だろう。また買ってやるから、それぐらい妹に譲ってやりなさい。大人気ないぞ」
「で、でもこれはなかなか手に入らなくて」
「いい加減にしなさい。あなたはお姉さんでしょう。我慢しなさい」
姉さまは必死になって抵抗するけれど、お父様もお母様も私の味方をしてくれる。当然よね。私は姉さまよりもずっとずっと可愛くて愛されているのだから。
「第一、お前よりもこの子の方が似合っているだろう」
ふふ。お父様って残酷なお方。
姉さまはお父様の一言が決定打で、顔を蒼白にしてハンカチを手放した。
たわいないものね。でも青ざめた姉さまの顔を見て、とても心が晴れやかになったわ。爽快感っていうの? 胸がすっとした。
まあ、これで姉さまも少しぐらいは自分の立場を理解したでしょ。
私はゆったりと微笑んだ。
580
あなたにおすすめの小説
妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。
夢草 蝶
恋愛
シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。
どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。
すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──
本編とおまけの二話構成の予定です。
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
〖完結〗親友だと思っていた彼女が、私の婚約者を奪おうとしたのですが……
藍川みいな
恋愛
大好きな親友のマギーは、私のことを親友だなんて思っていなかった。私は引き立て役だと言い、私の婚約者を奪ったと告げた。
婚約者と親友をいっぺんに失い、失意のどん底だった私に、婚約者の彼から贈り物と共に手紙が届く。
その手紙を読んだ私は、婚約発表が行われる会場へと急ぐ。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
前編後編の、二話で完結になります。
小説家になろう様にも投稿しています。
欲に負けた婚約者は代償を払う
京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。
そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。
「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」
気が付くと私はゼン先生の前にいた。
起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。
「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる