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「アリーナ・オーブリット。私はようやく目が覚めた。君の品格は王室に迎えるにあたってふさわしくない。したがって君との婚約は今夜をもって白紙とさせてもらう」
王位第一継承者であるフォレックス殿下は、年若い貴族たちの交流のためにと開かれた夜会の場で、冷淡な瞳を向けて婚約破棄の宣言をされました。
先ほどまでの明るく華やかな雰囲気は一掃され、辺りは途端に不穏な空気に包まれます。
私には分かっていました。
そう遠くない未来、こうなるであろうことは。
分かっていたのです。
……けれど。
あの子には、妹には分かっていないようでした。
「え……?」
フォレックス殿下から婚約破棄宣言をされた妹のアリーナは、唖然とした様子で殿下を見つめます。
「な……どういう、ことでしょうか。殿下」
「言葉の通りだが? 君との婚約はなかったものとさせてもらう」
「ど、どうして!? どうしてです! なぜわたくしが婚約破棄されなければならないのです!」
皆、呼吸すら忘れたように静まり返った会場に妹の声だけが高らかに響きます。
状況を顧みずに食ってかかる彼女に対して、殿下は忌々しそうに目を細めました。
「自分の胸に問うてみればいい」
「わ、分かりません。分かりません、殿下!」
「呆れたな。私の口から言わせるか。どこまで私を愚弄すれば気が済む。君はそこの男と随分親しげではないか。友人関係を越えるほど過度にな」
殿下は横に視線を流され、私もつられて見ると、そこには私の婚約者であるマリオット・イミドール侯爵令息が青ざめて硬直している姿がありました。
彼は妹に王太子殿下という婚約者がいることをご存知なかったようです。それもそのはず。今は内密とされていて、公には一年後の妹の学園卒業と共に発表される予定だったのですから。もちろん妹もそのことを彼に打ち明けてはいなかったのでしょう。
「彼は君の姉の婚約者だろう? 私を欺くばかりではなく、人の、まして身内の婚約者まで奪うとは何と下卑た性悪女か。穢らわしい」
「――っ。で、殿下! それは誤解です!」
アリーナは傍観者の一人として立っていた私を憎しみのこもった表情で睨み付けると、また殿下に向き直りました。
「ね、姉さまに! あ、姉に何かを吹き込まれたのでしょう! それは全くのでたらめでございます! 姉は幼き頃より両親の愛情を一身に受けるわたくしを、殿下にご寵愛いただき選ばれたわたくしを妬ましく思い、陥れようと嘘をついているのです! 信じてください。殿下は姉に騙されているのです!」
「私が嘘かどうかも分からぬ愚か者だと、そう言いたいのか?」
殿下の口調は険しくなっていくばかりです。一方、妹は必死になって釈明をしようとしています。
「そ、そうではありません! 姉はとても狡猾なのです! 皆、人の良さそうな姉に騙されるのです! わたくしも何度姉に傷つけられてきたことか! 両親は美しいわたくしだけを愛してきました。逆恨みした姉は自分には得られぬ親の愛情を奪おうと嘘をつき、わたくしを悪者扱いし続けてきたのです!」
ああ、アリーナ。
私はあなたを守るべき妹として愛していたのに、愛し続けたかったのに、あなたは……どこまでも私を貶めたいのね。
先ほどの哀れみとは違う悲しみの涙が頬を伝いました。
王位第一継承者であるフォレックス殿下は、年若い貴族たちの交流のためにと開かれた夜会の場で、冷淡な瞳を向けて婚約破棄の宣言をされました。
先ほどまでの明るく華やかな雰囲気は一掃され、辺りは途端に不穏な空気に包まれます。
私には分かっていました。
そう遠くない未来、こうなるであろうことは。
分かっていたのです。
……けれど。
あの子には、妹には分かっていないようでした。
「え……?」
フォレックス殿下から婚約破棄宣言をされた妹のアリーナは、唖然とした様子で殿下を見つめます。
「な……どういう、ことでしょうか。殿下」
「言葉の通りだが? 君との婚約はなかったものとさせてもらう」
「ど、どうして!? どうしてです! なぜわたくしが婚約破棄されなければならないのです!」
皆、呼吸すら忘れたように静まり返った会場に妹の声だけが高らかに響きます。
状況を顧みずに食ってかかる彼女に対して、殿下は忌々しそうに目を細めました。
「自分の胸に問うてみればいい」
「わ、分かりません。分かりません、殿下!」
「呆れたな。私の口から言わせるか。どこまで私を愚弄すれば気が済む。君はそこの男と随分親しげではないか。友人関係を越えるほど過度にな」
殿下は横に視線を流され、私もつられて見ると、そこには私の婚約者であるマリオット・イミドール侯爵令息が青ざめて硬直している姿がありました。
彼は妹に王太子殿下という婚約者がいることをご存知なかったようです。それもそのはず。今は内密とされていて、公には一年後の妹の学園卒業と共に発表される予定だったのですから。もちろん妹もそのことを彼に打ち明けてはいなかったのでしょう。
「彼は君の姉の婚約者だろう? 私を欺くばかりではなく、人の、まして身内の婚約者まで奪うとは何と下卑た性悪女か。穢らわしい」
「――っ。で、殿下! それは誤解です!」
アリーナは傍観者の一人として立っていた私を憎しみのこもった表情で睨み付けると、また殿下に向き直りました。
「ね、姉さまに! あ、姉に何かを吹き込まれたのでしょう! それは全くのでたらめでございます! 姉は幼き頃より両親の愛情を一身に受けるわたくしを、殿下にご寵愛いただき選ばれたわたくしを妬ましく思い、陥れようと嘘をついているのです! 信じてください。殿下は姉に騙されているのです!」
「私が嘘かどうかも分からぬ愚か者だと、そう言いたいのか?」
殿下の口調は険しくなっていくばかりです。一方、妹は必死になって釈明をしようとしています。
「そ、そうではありません! 姉はとても狡猾なのです! 皆、人の良さそうな姉に騙されるのです! わたくしも何度姉に傷つけられてきたことか! 両親は美しいわたくしだけを愛してきました。逆恨みした姉は自分には得られぬ親の愛情を奪おうと嘘をつき、わたくしを悪者扱いし続けてきたのです!」
ああ、アリーナ。
私はあなたを守るべき妹として愛していたのに、愛し続けたかったのに、あなたは……どこまでも私を貶めたいのね。
先ほどの哀れみとは違う悲しみの涙が頬を伝いました。
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