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「殿下、お待ちください」
私もまた泣き叫ぶ妹をそのままに会場を後にし、殿下を追って廊下でお声をかけますと、振り返ってくださいました。
「ああ、ナタリア嬢。君か」
「この度の妹の件、誠に申し訳ございませんでした」
深々と礼を取って謝罪します。
謝罪したところで許されるものではないと知りながら。
「そうだな。アリーナ・オーブリットには恥をかかされた」
公の場で婚約破棄を宣言されたのは殿下の意思とはいえ、大勢の貴族の前で王族の顔に泥を塗ってしまったのです。私どもがどんな謝罪をしたとしても受け入れられず、当人のみならず我が家にも当然、厳しい処分が言い渡されることでしょう。
「だが、君も災難だったな」
共に婚約者からの裏切りにあった同士ということで、お情けの気持ちを抱いてくださったのでしょうか。殿下はわたくしのことまで気にかけてくださいます。
私が婚約者になる妹の家族として殿下とお会いしたのは数回程度で、ほとんどお人柄を存じません。しかし、妹に私の婚約者との逢瀬を見せつけられて硬直していた私を穏やかになだめて連れ出してくださった方です。気遣いのできるお優しい方なのでしょう。
「わたくしのことなどは……」
むしろ殿下は私と妹の関係の中で巻き込まれてしまった被害者なのかもしれないと思うと、気が咎めました。
「ですが、殿下には、王族の皆様方には大変なご迷惑をおかけいたしました。お詫びしても償いきれないことは重々承知しております。お願いする筋ではないことも存じております。ですが、どうか。どうか」
そこまで言うと、何を要求するつもりかと殿下の視線が強いものに変わります。けれど私もまた逸らさないで真っ直ぐに見つめ返しました。
「どうかお家断絶だけはお許しいただけないでしょうか」
妹が生まれてからは親に愛情深く包まれてきたとは言えません。それでも先祖代々続いてきた歴史ある家系であり、私がここに至るまで生まれ育てられた家で家族。それなりに愛着も愛情もあります。何よりも愛おしい弟のためにオーブリット伯爵家は残したいのです。
「まさかただで許されるとは思っていないのだろう? 君がその分、責任を取ると言うのか? たとえどんなことを要求されようとも、黙って引き受ける覚悟が君にあるのか?」
覚悟と言われて一瞬怯んでしまいましたが、自分から言い出したこと。私は身を小さくして頷きます。
「か、覚悟の上です。お家断絶をお考え直しいただけるのならば、な、何でも……致します」
「なるほど。いいだろう。では――」
気を張っていても殿下の口から出るお言葉が正直怖くて、殿下を直視できずに視線を落とし、ぐっと手を握りました。
「私の婚約者になれ」
「は、い。承知いた…………はい? あ、あの? 申し訳ありません。今何とおっしゃいましたか?」
婚約者になれとおっしゃったように聞こえたけれど、きっと聞き間違えでしょう。
この状況下で、殿下のお言葉を聞き落とすなど不敬にも程があると思いながらも、おそるおそる尋ねることにします。
「私の婚約者になれと言った」
腕を組み、厳しい表情をしている殿下は改めてそうおっしゃいました。
「婚約者ですか? で、殿下の。フォレックス王太子殿下の婚約者に、わたくしがでしょうか」
「そうだ。私の婚約者になれ」
困惑しながら再び確認すると、殿下は同じ言葉を繰り返しました。
私もまた泣き叫ぶ妹をそのままに会場を後にし、殿下を追って廊下でお声をかけますと、振り返ってくださいました。
「ああ、ナタリア嬢。君か」
「この度の妹の件、誠に申し訳ございませんでした」
深々と礼を取って謝罪します。
謝罪したところで許されるものではないと知りながら。
「そうだな。アリーナ・オーブリットには恥をかかされた」
公の場で婚約破棄を宣言されたのは殿下の意思とはいえ、大勢の貴族の前で王族の顔に泥を塗ってしまったのです。私どもがどんな謝罪をしたとしても受け入れられず、当人のみならず我が家にも当然、厳しい処分が言い渡されることでしょう。
「だが、君も災難だったな」
共に婚約者からの裏切りにあった同士ということで、お情けの気持ちを抱いてくださったのでしょうか。殿下はわたくしのことまで気にかけてくださいます。
私が婚約者になる妹の家族として殿下とお会いしたのは数回程度で、ほとんどお人柄を存じません。しかし、妹に私の婚約者との逢瀬を見せつけられて硬直していた私を穏やかになだめて連れ出してくださった方です。気遣いのできるお優しい方なのでしょう。
「わたくしのことなどは……」
むしろ殿下は私と妹の関係の中で巻き込まれてしまった被害者なのかもしれないと思うと、気が咎めました。
「ですが、殿下には、王族の皆様方には大変なご迷惑をおかけいたしました。お詫びしても償いきれないことは重々承知しております。お願いする筋ではないことも存じております。ですが、どうか。どうか」
そこまで言うと、何を要求するつもりかと殿下の視線が強いものに変わります。けれど私もまた逸らさないで真っ直ぐに見つめ返しました。
「どうかお家断絶だけはお許しいただけないでしょうか」
妹が生まれてからは親に愛情深く包まれてきたとは言えません。それでも先祖代々続いてきた歴史ある家系であり、私がここに至るまで生まれ育てられた家で家族。それなりに愛着も愛情もあります。何よりも愛おしい弟のためにオーブリット伯爵家は残したいのです。
「まさかただで許されるとは思っていないのだろう? 君がその分、責任を取ると言うのか? たとえどんなことを要求されようとも、黙って引き受ける覚悟が君にあるのか?」
覚悟と言われて一瞬怯んでしまいましたが、自分から言い出したこと。私は身を小さくして頷きます。
「か、覚悟の上です。お家断絶をお考え直しいただけるのならば、な、何でも……致します」
「なるほど。いいだろう。では――」
気を張っていても殿下の口から出るお言葉が正直怖くて、殿下を直視できずに視線を落とし、ぐっと手を握りました。
「私の婚約者になれ」
「は、い。承知いた…………はい? あ、あの? 申し訳ありません。今何とおっしゃいましたか?」
婚約者になれとおっしゃったように聞こえたけれど、きっと聞き間違えでしょう。
この状況下で、殿下のお言葉を聞き落とすなど不敬にも程があると思いながらも、おそるおそる尋ねることにします。
「私の婚約者になれと言った」
腕を組み、厳しい表情をしている殿下は改めてそうおっしゃいました。
「婚約者ですか? で、殿下の。フォレックス王太子殿下の婚約者に、わたくしがでしょうか」
「そうだ。私の婚約者になれ」
困惑しながら再び確認すると、殿下は同じ言葉を繰り返しました。
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