欲深い聖女のなれの果ては

あねもね

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第1話 愛を誓い合う二人

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「ヴィオレーヌ。私は魔王討伐隊に加わることにした」

 私の婚約者であり、我が国の第二王子であるアルバート様が私にそうおっしゃった。

 彼の発言に動揺が隠せない。
 確かに今この国の地方では突如現れた魔族によって被害が出ていると、連日のように報告されている。また、土壌汚染によって人がじわじわと追いやられている現状があると言う。……けれど。

「な、なぜ第二王子であるあなた様が御自らでしょうか。高貴な王家の血を引くアルバート様の御身に、もし。……ご無礼を承知で申し上げます。も、もし万が一の事があったらどうするのです」

 お兄様であり、現在第一王位継承者のストラウス殿下はご病弱な方で、一年のほとんどをベッドでお過ごしになり、公務もままならないという状況だ。だからアルバート様を王位第一継承者にすべきではないかという議論が貴族間で上がっている。
 つまり、ただ二番目に産まれた王子というわけではない。第一王位継承権のお立場になるかもしれないという御身なのである。

 恐れながらそう申し上げると。

「確かに兄上がこの先、国王として政務をこなすことは難しいと言えるだろう。だから私を第一王位継承者として押し上げてくれる者は多数いる。しかし一方で、やはり嫡男を第一王位継承者とすべきだと言う者もいるんだ。私が魔王討伐を成し得れば、それらの者も私の王位継承順位を検討すると言っている」

 不敬ながらも考えられることは、ご病弱なストラウス殿下が国王の座に就くこととなれば、後ろ盾となった第一王子派の貴族が代わりに権力を意のままにすることができるという思惑があるからだろう。
 そしてアルバート様への支持の条件が魔王討伐なのは、あわよくば遂行中に第二王子の薨去をと望んでいる貴族がいるということなのかもしれない。

 第一王子派は影響力が強い高位貴族ばかりだから、その声を無視することはできない。彼らの条件を飲むしかないのだ。

「兄上はお優しく聡明なお方で敬愛もしているが、王国の権力を手中にせんとする強欲な貴族どもに奪われるわけにはいかないんだ」

 アルバート様はひどく苦々しいご様子で、握り拳を作った。

「……アルバート様」

 お声をかけると彼は一転、自信の満ちあふれた表情になる。

「大丈夫だ。私が必ず我が王国を守ってみせる。幸い私は幼少期より剣術を学んでいる。もちろん実戦となれば話も違うのは承知の上だが、魔王討伐の出立まで時間はふた月ある。騎士と混じり、改めて実戦訓練を受けるつもりだ。それに私たちには頼もしい味方がいる」
「え? 頼もしい味方ですか?」
「そう。聖女が見つかったんだ! 近い内に君にも紹介するよ」

 聖女。
 その者は天より授かりし力をもってあらゆる魔を排除して腐敗した地を清浄化し、傷ついた人々を癒やすと共に安寧な世界をもたらすと言う。

「聖女様が……」
「ああ。きっと彼女は魔王討伐の大きな力となってくれるだろう」

 低級な魔物は鍛え上げられた騎士や魔術師だけでも討伐することは可能だが、さすがに魔王相手だと特別な力が必要となるそうだ。その力は鍛錬によって得られることはなく、天啓を受けた者のみ得られる力。選ばれた人間だけが手にできる力ということだ。

 私にもそのような力があればアルバート様と共に戦えるのに。私には何の力もない。彼のために何もできない。
 苦しい心の内を汲んでくださったのだろうか。ヴィオレーヌと優しい声で私の名を呼んでくださった。

「私は君がいるから強くなれるんだ。戦いに身を投じる勇気を出すことができる。帰って来られる場所があるから、君が待っていると思えるから勝って帰ろうと思える。約束する。私は必ず君の元に帰る」
「アルバート様……」

 アルバート様の強い思いに胸が熱くなる。

「そしてたとえこの手を」

 彼は自分の手をひらいて視線を落とし、次に胸にその手を当てた。

「この身を汚してでも魔王を討ち取り、王位第一継承者にふさわしいと認めさせてみせよう。だから君も私を信じてほしい。私を信じて待っていてほしい。そして全てが終わったら皆の前で結婚を発表しよう」
「――っ。はい、アルバート様」

 アルバート様は表情を緩めると私の頬に手をそっと置く。

「ヴィオレーヌ、愛している。君だけを。心から愛している。これからも君を愛し続けると約束する」
「わたくしもアルバート様を心よりお慕いしております。わたくしの心はアルバート様のものです」

 アルバート様は瑞々しい青色の瞳を熱っぽい瞳に変えると、私の唇に熱い唇を重ねた。


 ――けれど。
 彼が与えてくれた深い愛も安心感も、固く交わしたはずの約束も、現実には儚く脆いものなのではないだろうか。

 そう心に不安が過ぎったのは、彼女が聖女のティアナ・ルージュだとアルバート様にご紹介いただいた時だった。
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