欲深い聖女のなれの果ては

あねもね

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第10話 アルバート殿下率いる討伐隊の帰還

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 時折王室に順調であるという戦況報告がある中、私はストラウス殿下のお世話と相変わらずの妃教育を受ける日々を過ごし、討伐隊が出発して三月半も経った頃だった。

「ヴィオレーヌ様、アルバート殿下がご帰還になられました!」
「そう」

 部屋にいた私に侍女が華やいだ声で魔王討伐隊の帰還を知らせた。
 その言葉に共振するように私の胸は高鳴る。

 いよいよこの時が――来た!

 弾かれたように立ち上がった私は、部屋の窓から見下ろすと隊士らが整列して続々と帰ってくる姿が見えた。

 熾烈を極めた戦いだったのだろうか。帰還した多くの隊士は傷つき、その数も減らしているようだった。顔には疲労も色濃く出ているが、ようやく帰ってこられたという喜びと戦い抜いたという誇りで彼らの表情は明るい。
 しかし先頭にいるはずのアルバート様やティアナさんの姿はない。おそらく既に宮殿内に足を踏み入れたのだろう。
 私も逸る心を抑え、国王陛下の謁見室へと足早に向かった。

 室内には国王陛下、王妃殿下の前にアルバート様、ティアナさんの他、謁見を許された高位騎士の数名。そして彼らの帰還を喜び迎えるように両脇に立つ臣下ら、国王専属騎士らの十何人かがいる。
 アルバート様には目立った負傷は見当たらなかったが、表情は凄惨な戦いを経験した者だけが持つ精悍な顔つきに変貌していた。

「国王陛下、王妃殿下。我が国を脅かす全ての魔物を駆逐し、魔王討伐を無事に完遂しましたことをここにご報告いたします」

 アルバート様は恭しく膝を折ってご挨拶した。

「うむ。よくぞ使命を果たしてくれた」

 陛下は威厳をもって、しかし潤んだ瞳で、王妃殿下は感極まった様子で彼らの帰還を喜ばれた。

「私はそなた、アルバートを心から誇りに思う」
「アルバート、本当によく無事で。無事に戻ってきてくれましたね」
「はい。……父上、母上。ただいま帰還いたしました」

 涙ぐみ目を赤くしたアルバート様は立ち上がると、ご両親に討伐隊の司令官としてではなく、王子としてのご挨拶をされた。
 深く頷かれた陛下は次に討伐隊の方に視線を送る。

「討伐隊の皆もアルバートに仕え支え、国のために民のために尊き命を賭して戦い抜いてくれたことに敬意と謝意を示したい。そして……すまぬ。子を持つ一人の親として礼を述べさせてもらう。アルバートを無事に連れ帰ってくれて感謝する。本当にありがとう」
「はっ。ありがたき光栄のお言葉にございます」

 陛下は騎士への礼を述べられた後、今度はティアナさんをご覧になった。

「聖女ティアナよ。そなたは女の身で、細い肩にはさぞかし重荷だったことだろうと思う。だが、よくここまで耐え抜いてくれた。我が国の民を代表して心から礼を申す。のちに開く凱旋パレードにもぜひアルバートと共に参加してほしい。また褒美と言えば無礼だが、そなたには国を救ってくれた功績に値するような褒章を与えたいと思う」

 私の脳裏には、ティアナさんがアルバート様と肩を並べて馬車に乗り込む姿が思い浮かんだ。
 歓迎ムードの大勢の民に見守られながら、気品のある白馬を先頭にきらめく笑顔を振りまきながら進むのだろう。その想像はきっと現実とそう乖離しないに違いない。

「も、勿体ないお言葉です」

 もしかしたら私の考えたことが彼女の脳裏にも浮かんだのかもしれないと思う。とても感激した様子だ。
 アルバート様は身を小さくする彼女の肩に手を置いた。

「私からも礼を言う。これまで支えてくれて本当にありがとう」
「アルバート様……」

 微笑みを残し、彼女の肩から手を下ろすとアルバート様は陛下に視線を戻す。

「陛下、私からもこの場で一つ発表をよろしいでしょうか」
「何だ?」
「私の結婚のことです。国に平和を取り戻した今、身を固めるにはちょうどよい時期かと思いまして」

 そう言ってアルバート様は脇にいた私へと視線を向けた。
 どくどくと心臓が早鐘を打つ。一方、何もご存知ない陛下は笑顔で頷かれた。

「うむ。なるほど。そうか。確かにそれはいい。凱旋と共に結婚祝賀パレードとするか」
「はい。ありがとうございます。それではヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢。こちらへ」
「っ!」

 名を呼ばれて肩が跳ね上がった。
 私が呼ばれると分かっていても尻込みしてしまう。しかしアルバート様は躊躇した私に容赦なく繰り返す。

「ヴィオレーヌ嬢、こちらへ」
「は、い。ただいま」

 皆の視線が集中した私は動揺を懸命に抑えながら、ゆっくり一足一足と地を踏みしめて彼の横に並んだ。

「陛下、王妃殿下。改めて申し上げます。私の婚約者、ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢との婚約を、本日をもって解消し」

 アルバート様は一度言葉を切ってティアナさんに視線をやる。
 つられて私も見ると彼女の頬は紅潮し、目はきらきらとした期待の光で満ちていた。

 ――が。

 彼は私に再び視線を戻すと柔らかな笑みをこぼした後、国王陛下に宣言した。

「この場で正式に婚姻を結びたいと思います」
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