上 下
31 / 86
第三章

□仮面舞踏会イベント

しおりを挟む
「やっぱり、仮面舞踏会イベントだったぁっ!」

 顔を覆って嘆くシュラの背を軽く叩く。

「内緒だと言っているだろう。大きな声で言うな」

 守秘義務はあったが、万が一仮面舞踏会だった場合は教えてくれと言われていたために、やむを得ず彼に伝えたとたんこれだ。

「バルザクト様、絶対に変な男に付いていかないでくださいね。この舞踏会は非合法な、人身売買まがいの売春斡旋の現場なんです。万が一、あなたの身になにかあったらっ」
「万が一があったら、女装しているのがバレてしまうな」

 シレッとそう答えれば、両肩を掴んできた涙目の彼が頭を横に振る。

「そうじゃなく! もしかしたら、そのまま喰われちゃうかもしれないでしょっ! 身の危険を感じてくださいっ」
「喰われるって、私がか?」

 苦笑いしてソファに座る私に、彼は目前に跪いて私を見あげて真顔で頷く。

「薬を飲まされて身動きが取れないうちに、ベッドのある部屋に連れ込まれます。第一騎士団の団長との好感度次第では、服を脱がされる前に救出されますが、そうでない場合は……」

 濁された言葉に思わず顔をしかめる。

「ともかく、いまから好感度を上げるのは難しいですし」
「そもそも私が好感度をあげても、関係あるのか? それが関係するのは、ヒロインだけではないのか?」

 私の指摘に、アッと声をあげた彼が、一層眉間にしわを寄せて悩み出す。

「やっぱり、自分もこっそり潜入して、万が一に備えましょう」
「第一騎士団が潜入捜査してる場にか? それに会場は貴族の邸宅だぞ、万が一見つかれば、犯罪者として首を刈られても文句は言えん。首一つで納まればいいが、最悪の場合、第五騎士団にまで累が及ぶ」
「じゃぁ、どうすればいいんですかっ」

 声を荒げる彼の肩を宥めるように叩いて、ソファから立ち上がる。

「どうもせずともよい」
「それなら、せめて、これだけは使ってください」

 そう言って彼が空中から取り出したのは、黒を基調とし精緻な刺繍が施された布製の仮面だった。

幽幻蝶ゆうげんちょうの繭から作った、意識阻害の効果を持つ仮面です。流す魔力の量によってその効果が変わります。そして、ナイフと装着できるガーターベルト、あと、これは革紐に見えますが強度が高いので立派な武器になるので、どこかに巻き付けておいて、いざという時に、相手の隙をついてきゅっと締めちゃってください。あとはこの四本指の指輪も装備してくださいね」
「これは指輪ではなくて、ナックルダスターだろう」
「自分のとこでは、メリケンサックとも呼ばれていました」

 一目で武器とわかる物を持たせようとする彼に、押し返す、勿論ナイフなどの武器もだ。身を改められることがないと言い切れないのだから、不用意なものを持ち込むわけにはいかないだろう。

「せめて! せめて、この仮面だけは使ってくださいっ」



 仕方なく、懇願された仮面だけは受け取った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,212pt お気に入り:91

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,572pt お気に入り:139

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:688pt お気に入り:305

婚約者の浮気相手は母でした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:1,730

一番でなくとも

Rj
恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:1,209

オススメネット小説

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:568pt お気に入り:15

処理中です...