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《モグラの秘密》
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海月はそんな卑小な気持ちを切り替えて占いをしていけば時刻は夕方となってしまった。
「よしっ、そろそろ帰るか」
公園側に椅子と簡易式テーブルを返却し、看板も指定の場所に置かせてもらって帰宅することにした。
だが今日は普段とは違う。――誰かに付けられているのだ。
(だれ……だろう?)
占いをしていた頃から人相の悪い二人組に睨みつけられるような視線を向けられていたのだ。まるで値踏みでもするかのような下品で醜悪な視線に海月は深く息を潜め、――素早く立ち去った。すると二人組が驚いて走り出す。
「待て、供物野郎! 供物の分際で逃げ出すんじゃねぇよ!!」
「火の神様に捧げろ!」
めちゃくちゃな言い分で二人から逃げ出していくが追いつかれてしまった。醜い顔の二人組の片方は海月の胸倉を掴んだ。
「やっとぉ見つけたぜぇ。このクソ供物がっ!」
前に立ちはだかり、クツクツと喉元で笑われ掴まれ、今にも食べられてしまいそうな、その瞬間であった――
「それは俺の大切な人だ。火の鳥ごときに渡すわけにはいかんのよ」
「……モグラさん!」
海月が驚いて目を見張れば、モグラはすぅと息を整えた。空が静寂となり、地面が濡れる。
「……土と水を司る我に力を」
しんと静まり返って空と地面に水面が浮かび、弾ける。まるで海の波のように際立った。
「――土雨の雫と土の防壁を」
そしてモグラは術のようなものを唱えたのだ。海月はモグラと居て初めての光景であった。――なぜならば忽然と自分の前には土が覆いかぶさり、シールドのように守ってくれたからだ。だがそれはとても優しく温かい。まるでモグラのようだ。
それからザァザァとまるで通り雨のように音が鳴り響き、土の防御壁から解放された頃には……二人組の男は小さな鳥になってしまっていたのだ。海月は呆気に取られていた。
「これは、どういう?」
「お~い火の神の隷属ども。……用事があるなら俺を通してからって言っておけ」
ニヒルな笑みでモグラが告げれば、雨で濡れた鳥たちは逃げるように飛び去って鳴き声を上げた。――海月は今、非現実的なことに再び当惑する。
「いったいこれは……どういうことですか?」
赤いインコのような鳥たちが羽ばたいていく様を見ながら、海月はこうなることなどわかっていたモグラへ尋ねた。
供物だとも言われた。それに昨日の水面占いのこともモグラから提案されたのだ。
――この事態が来ることをわかっていたかのように。だから先手を打って占わせたかのように。
「モグラさん、やっぱりあれは、あの人たちは俺が海の供物なのだと知っているからモグラさんに攻撃を……」
「まぁそうだな。お前が海の供物で捧げるというのを、み~んな周知のようだな」
まぁ歩こうぜなどと言って歩き出していくモグラへ海月は放った。「じゃあ海に捧げます」そう言い切った。モグラは驚いて振り向いた。
「だったら俺が海の供物として捧げればいい話でしょう? だったらそれでいいじゃないですか」
「……海月」
「もうそれでいいじゃないですか。俺は供物として生きてきたんです。もうこれ以上生きても――」
モグラが海月の頭へ急に拳を入れたかと思えばぐしゃぐしゃに髪を乱した。その行為は痛みが伴ったものの、優しさに溢れたものであった。
「俺はさ、お前が供物としてじゃなくて人間として幸せになって欲しいんだよ。親代わりの俺が言ってもダメなのか?」
「いてて……。駄目とかじゃない、ですけど……」
「ならよし! 火の神ごときに負けるかっての。海月は俺が守ってやるからな!」
太陽のような笑みを零すモグラに海月は安堵して頷いた。
「よしっ、そろそろ帰るか」
公園側に椅子と簡易式テーブルを返却し、看板も指定の場所に置かせてもらって帰宅することにした。
だが今日は普段とは違う。――誰かに付けられているのだ。
(だれ……だろう?)
占いをしていた頃から人相の悪い二人組に睨みつけられるような視線を向けられていたのだ。まるで値踏みでもするかのような下品で醜悪な視線に海月は深く息を潜め、――素早く立ち去った。すると二人組が驚いて走り出す。
「待て、供物野郎! 供物の分際で逃げ出すんじゃねぇよ!!」
「火の神様に捧げろ!」
めちゃくちゃな言い分で二人から逃げ出していくが追いつかれてしまった。醜い顔の二人組の片方は海月の胸倉を掴んだ。
「やっとぉ見つけたぜぇ。このクソ供物がっ!」
前に立ちはだかり、クツクツと喉元で笑われ掴まれ、今にも食べられてしまいそうな、その瞬間であった――
「それは俺の大切な人だ。火の鳥ごときに渡すわけにはいかんのよ」
「……モグラさん!」
海月が驚いて目を見張れば、モグラはすぅと息を整えた。空が静寂となり、地面が濡れる。
「……土と水を司る我に力を」
しんと静まり返って空と地面に水面が浮かび、弾ける。まるで海の波のように際立った。
「――土雨の雫と土の防壁を」
そしてモグラは術のようなものを唱えたのだ。海月はモグラと居て初めての光景であった。――なぜならば忽然と自分の前には土が覆いかぶさり、シールドのように守ってくれたからだ。だがそれはとても優しく温かい。まるでモグラのようだ。
それからザァザァとまるで通り雨のように音が鳴り響き、土の防御壁から解放された頃には……二人組の男は小さな鳥になってしまっていたのだ。海月は呆気に取られていた。
「これは、どういう?」
「お~い火の神の隷属ども。……用事があるなら俺を通してからって言っておけ」
ニヒルな笑みでモグラが告げれば、雨で濡れた鳥たちは逃げるように飛び去って鳴き声を上げた。――海月は今、非現実的なことに再び当惑する。
「いったいこれは……どういうことですか?」
赤いインコのような鳥たちが羽ばたいていく様を見ながら、海月はこうなることなどわかっていたモグラへ尋ねた。
供物だとも言われた。それに昨日の水面占いのこともモグラから提案されたのだ。
――この事態が来ることをわかっていたかのように。だから先手を打って占わせたかのように。
「モグラさん、やっぱりあれは、あの人たちは俺が海の供物なのだと知っているからモグラさんに攻撃を……」
「まぁそうだな。お前が海の供物で捧げるというのを、み~んな周知のようだな」
まぁ歩こうぜなどと言って歩き出していくモグラへ海月は放った。「じゃあ海に捧げます」そう言い切った。モグラは驚いて振り向いた。
「だったら俺が海の供物として捧げればいい話でしょう? だったらそれでいいじゃないですか」
「……海月」
「もうそれでいいじゃないですか。俺は供物として生きてきたんです。もうこれ以上生きても――」
モグラが海月の頭へ急に拳を入れたかと思えばぐしゃぐしゃに髪を乱した。その行為は痛みが伴ったものの、優しさに溢れたものであった。
「俺はさ、お前が供物としてじゃなくて人間として幸せになって欲しいんだよ。親代わりの俺が言ってもダメなのか?」
「いてて……。駄目とかじゃない、ですけど……」
「ならよし! 火の神ごときに負けるかっての。海月は俺が守ってやるからな!」
太陽のような笑みを零すモグラに海月は安堵して頷いた。
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