海のモグラ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

文字の大きさ
7 / 49

《モグラの秘密》

しおりを挟む
 海月はそんな卑小な気持ちを切り替えて占いをしていけば時刻は夕方となってしまった。
「よしっ、そろそろ帰るか」
 公園側に椅子と簡易式テーブルを返却し、看板も指定の場所に置かせてもらって帰宅することにした。
 だが今日は普段とは違う。――誰かに付けられているのだ。
(だれ……だろう?)
 占いをしていた頃から人相の悪い二人組に睨みつけられるような視線を向けられていたのだ。まるで値踏みでもするかのような下品で醜悪な視線に海月は深く息を潜め、――素早く立ち去った。すると二人組が驚いて走り出す。
「待て、供物野郎! 供物の分際で逃げ出すんじゃねぇよ!!」
「火の神様に捧げろ!」
 めちゃくちゃな言い分で二人から逃げ出していくが追いつかれてしまった。醜い顔の二人組の片方は海月の胸倉を掴んだ。
「やっとぉ見つけたぜぇ。このクソ供物がっ!」
 前に立ちはだかり、クツクツと喉元で笑われ掴まれ、今にも食べられてしまいそうな、その瞬間であった――
「それは俺の大切な人だ。火の鳥ごときに渡すわけにはいかんのよ」
「……モグラさん!」
 海月が驚いて目を見張れば、モグラはすぅと息を整えた。空が静寂となり、地面が濡れる。
「……土と水を司る我に力を」
 しんと静まり返って空と地面に水面が浮かび、弾ける。まるで海の波のように際立った。
「――土雨つちあめの雫と土の防壁を」
 そしてモグラは術のようなものを唱えたのだ。海月はモグラと居て初めての光景であった。――なぜならば忽然と自分の前には土が覆いかぶさり、シールドのように守ってくれたからだ。だがそれはとても優しく温かい。まるでモグラのようだ。
 それからザァザァとまるで通り雨のように音が鳴り響き、土の防御壁から解放された頃には……二人組の男は小さな鳥になってしまっていたのだ。海月は呆気に取られていた。
「これは、どういう?」
「お~い火の神の隷属ども。……用事があるなら俺を通してからって言っておけ」
 ニヒルな笑みでモグラが告げれば、雨で濡れた鳥たちは逃げるように飛び去って鳴き声を上げた。――海月は今、非現実的なことに再び当惑する。
「いったいこれは……どういうことですか?」
 赤いインコのような鳥たちが羽ばたいていく様を見ながら、海月はこうなることなどわかっていたモグラへ尋ねた。
 供物だとも言われた。それに昨日の水面占いのこともモグラから提案されたのだ。
 ――この事態が来ることをわかっていたかのように。だから先手を打って占わせたかのように。
「モグラさん、やっぱりあれは、あの人たちは俺が海の供物なのだと知っているからモグラさんに攻撃を……」
「まぁそうだな。お前が海の供物で捧げるというのを、み~んな周知のようだな」
 まぁ歩こうぜなどと言って歩き出していくモグラへ海月は放った。「じゃあ海に捧げます」そう言い切った。モグラは驚いて振り向いた。
「だったら俺が海の供物として捧げればいい話でしょう? だったらそれでいいじゃないですか」
「……海月」
「もうそれでいいじゃないですか。俺は供物として生きてきたんです。もうこれ以上生きても――」
 モグラが海月の頭へ急に拳を入れたかと思えばぐしゃぐしゃに髪を乱した。その行為は痛みが伴ったものの、優しさに溢れたものであった。
「俺はさ、お前が供物としてじゃなくて人間として幸せになって欲しいんだよ。親代わりの俺が言ってもダメなのか?」
「いてて……。駄目とかじゃない、ですけど……」
「ならよし! 火の神ごときに負けるかっての。海月は俺が守ってやるからな!」
 太陽のような笑みを零すモグラに海月は安堵して頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

熱い風の果てへ

朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。 カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。 必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。 そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。 まさか―― そのまさかは的中する。 ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。 ※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...