海のモグラ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《秘密を打ち明ける》

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 美波が海月に駆け寄って抱き着いた。どういう対応をすべきなのかわからないでいる海月に啓二が終わった課題を片付けている。
「甲斐から聞いてます。また来てくれて嬉しいですよ」
「お兄ちゃん! 一緒にご飯食べよう~!!!」
 海月の脚にひっつきながらにこにこ笑う美波に海月はどうしたら良いかわからずとも、少し朗らかに微笑んだ。すると美波は少々驚いたかと思えば、頬を染めて隠すように顔を俯かせる。そこへ楓がやってくる。
「へぇ~、こんなに人間が居るのね。大家族だこと」
「えっ、お姉ちゃん……誰?」
「あ、えっと……あたしは木風、じゃなかった楓よ。よろしくね」
 楓は不愛想な海月とは打って変わり、啓二や部屋から出てきた一馬やほかの仁田の子供たちとも軽く挨拶をしていた。愛想の良い楓に仁田たちは警戒心など解かれるが、ソリの合わない三重は舌打ちをしている。
「なんだよあいつ。……ぜってぇ化けの皮剥がしてやる」
「兄さんは楓さんのことが悪い意味でも気に掛かるみたいだね」
「うっせぇ。なんかムカつくんだよ、あいつ」
 そんな双子ではあったが、美波から離れられた海月は商売道具のタロンプを取り出していた。
 キッチンで作っている仁田以外の人間が集まる。出張占いの開始である。
「俺、彼女出来るか教えて欲しいな」
「俺はテストをなくすやり方教えて欲しい!」
 中学生の岳と小学生の七貴が海月に駆け寄った。海月は戸惑いつつもタロンプで占っていく。
 岳の占いは比較的簡単であった。よくある占い内容だからだ。
 カードを切りながら五枚のカードをめくっていく。
「岳さんには好意を持っている人が多いですね。……ただ、岳さんが大人びているのか、安直に付き合うことがない」
「えっ、なんでわかるの!??」
「岳~、お前モテていたんだなぁ」
 三重たちがニヤけているなかで海月はカードの意に沿う。
「慎重に物事を判断する岳さんはなかなか彼女ができづらいですね。ただ、あともう少し経てば運命の相手と出会います。その人はたとえ友達の関係になっても大切な存在になるでしょう。……焦りは禁物ですよ」
「あ……うん」
 顔を赤らめて頷く岳に今度は七貴が元気よく手を上げた。海月は太い息を吐く。
 テストが出ない魔法なんてものはない。「うーん、テストか……」
「こらこら七貴。テストは仕方がないんだ。海月さんを困らせるな」
「えー! だってテストめんどうなんだもん! 先生が出さないことになんないの~?」
 困っている様子の海月に一馬が七貴へ疲弊を示した。
「それと占いは関係がないだろう? だったら、お前の勉強運が上がるかどうかとか海月さんに聞いてみろ。……海月さん、それなら占えますか?」
「あ、はい」
 勉強運ならと海月はカードを切って五枚のカードを出して示させた。すると意外にも勉強運を司るカードが出揃っている。
 海月はカードの意を汲んだ。
「なるほど。七貴くんは頭の回転数が速く物覚えも良いんですね。余裕があったら、逆に勉強を楽しい方法で教えた方が伸びしろがありますよ」
「あ……確かに、七貴はテストの点数は良い方ですけれど」
 一馬の言葉に海月は頷いた。
「お兄さん方が余裕のある時、一緒に勉強を見てあげたり、励ましてあげたりした方がもっと良くなります。七貴くんは大物になる可能性が高いです」
「ま……じか、七貴っ! すげぇな、お前!」
「みえ兄、俺すごい?」
「すげぇよ、海月の占いは当たるからな!! かず兄もけい兄も、七貴の勉強見とけよ~」
「万年赤点のお前に言われたくないな」
 一馬が三重の頭を小突けば、海月はなんとなく温かい気持ちになる。人間と触れ合うのも悪くないなと感じてしまう。
「あのツリ目も家族とは仲が良いのね」
「はい。仲が良いですよ」
 海月の出張占いを傍目に仁田の手伝いをしている甲斐と楓ではあるが、海月はそういえばとふと思った。
(モグラさんと、火実さんが……いない?)
 海月は一旦占いを打ち切り、料理を作っている仁田へ声を掛けた。
「おう、海月か。あのニワトリとモグラなら縁側に居るぞ。呼んできてくれないか?」
「あ、はい」
「もうできるからさ」
「私も行くっ!」
 すると今度は美波が来て海月の手を握ってきた。海月は握られる温かな体温に驚きつつも、幼い少女に縁側に誘われた。
 穏やかな満月だ。天から誘われるように空にはきらめく星々が浮かび上がりうっとりとしてしまうほどだ。
 仁田から頂いた冷酒を煽ってモグラは空を見上げる。「奇麗だね、星」
「まぁ、野郎と見るには惜しいほどだな」
「三重と甲斐と見たかった?」
「お前と見るよりかは幾分良いな」
 器用に両翼を掲げて冷酒を自身のグラスに注ぎ、飲み干す火実に「呑める口だね」そう言ったモグラは火実に冷酒を傾けた。
「まぁあの双子にも人気だからね、ニワトリさんは」
「俺は神々のなかでも女にも男にも人気だ。俺の神々しさは男女関係ないのだ」
「わぉ。まさかの両方イケる口で」
「違うわ!!!」
 軽やかに微笑むモグラと不満げな様子の火実は会話を交わす。そして一緒になってグラスを傾けた。冷酒は芳醇な甘みと米のツンとした香りが鼻を紡がせた。
「なぁ、海を統べるモグラよ」
「なに急に?」
 火実は真剣な顔を向けた。
「お前はどうして海の神の顔と似ている? 海の神となにか関係があるのか?」
 海月は間を空けて微笑んだ。「……まぁ、そう思うよね。な~んで、火実は神なのに俺のこと聞かなかったわけ?」
 「いちばん海の神と会っているでしょう?」などと問いかけるモグラに火実は鼻を鳴らした。
「海の神の一族には落ちこぼれで勘当した者が居ると聞いた。そいつは海の神として生きるはずなのに泳げなかった。ただ、水の加護にも土の加護にも十分すぎるほどとても適応しており恵まれていた。――それを神が疎んで存在を消した、と。落ちこぼれとして、双子の片割れであっても容赦をしなかったようだな」
 火実がモグラに視線を向ければ、彼はふと悲しげに笑った。まるで自嘲を含めたような表情を灯して。
「やっぱり知っていたけど言わなかったんだね。神の気まぐれかは知らないけどね」
 悲哀ある追放者の笑みに、呼びに来た海月はなんと声を掛ければ良いかわからず立ち竦んでしまったのだ。
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