海のモグラ

蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)

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《また会えたら》

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 仁田の連絡を受けてからの記憶を海月はあまり覚えていない。三重と甲斐と一緒に泣き明かした後に元気のない様子で仁田に会いに行ったのは覚えている。そこから先はよく覚えていないのだ。
 今ならどうすればモグラとまた暮らせるのかを考えようとしたが、金の神を勧めたのは自分だ。そして応えてくれたのはモグラ自身。モグラだって自分と別れを惜しむような発言をしていたし、本当であれば仁田とちゃんと会ってから天界へ帰りたかったようだが……、別れを決めた途端に帰ってしまった。
 逆にそっちの方が良かったのかもしれない。仁田たちに会ってしまえば自分の決心が揺らぐと思ったのだろう。
「自分でも、そうかもしれない……な」
 あれから月日が流れた。海月は海に来ていた。だがモグラと別れてから海に毎日のように海へ来ているのだ。海に来ればモグラに会える。だってモグラさんは海のモグラだから、なんて空で呟いて冷酒を傾けた。
 もう海月も成人した大人になっていた。酒の頻度はほどほどにしているが、今日は特別である。今日は自分の誕生日であった。
 今日まで色々とあった。占いの能力は落ちていなかったが、水面占いのアフターサービスであるモグラの役割が自分にも回って来たので法学や経済学などのようなものまで勉強する羽目になった。
 あとは店に出す茶である。海月は茶を淹れるのがへたくそすぎた。それに料理もだ。だから、貯めていた貯金を使って料理教室へ通い、図書館で茶の入れ方を勉強したりしていた。図書館がこんなにも役に立つだなんて思いもしなかった。ちなみに専門的な知識の前に基本的なベースの法学や経済学などの本も図書館から借りていた。
 ちなみに驚いたのは地政学という分野である。ざっと目を通しただけではあるが、日本が小柄な民族でありながら戦争に勝てたのは海が関係しているらしい。
 海に囲まれた国をシーパワーと呼ぶ。昔の国々は航海をする際に食料や燃料なども尽きるので日本に来る前に食料が尽きて戦争をする際に不利になりやすいということだ。
 海は人間に偉大な力を与えてくれたと言うまでもないとその時、海月は感じたのだ。
 冷酒を一口飲んで海のさざ波を聞く。海は穏やかな波をなびかせていた。そして今日は満月だ。自分が海の供物として助けられた日もそうであった。
「モグラさん……、やっぱり、会いたいですよ。会って、話したい。海が偉大で広大で優しいということを。時に怒ることもあるけれど、――海は平等であることを」
 砂浜にどうしてだが『海』と書いた。それから続けて『モグラ』と書こうとする。だが、打ち際の波にモグラをかき消されてしまった。
 海月はとめどなく涙を見せた。それから立ちあがる。
「また明日も来ますね。俺、モグラさんと会えることを楽しみにしていますからっ!」
 満月を背に進もうとする。だが急変したことがあった。波が海月の足元を掠めたのだ。まるで海月を誘うように海が海月を導こうとしていた気がした。海月はそれに気が付き、そして振り返る。
「やぁ、ひさしぶりだな」
 少し恥ずかしげに頬を掻く茶色の髪に金色の瞳となった懐かしい顔に海月は目を見開き、海の中へと突き進もうとする。その人物は悲哀な顔を見せて右手で制した。
「待った。それ以上はいけないよ。――海月が死んじゃうから」
「死んでも良いですっ! だってモグラさんと――」
「俺は海月に生きて欲しい。俺は海のモグラだ。俺は海さえも統べられる」
 力強い言葉に圧倒されるが海月は負けられなかった。モグラにまた会えるなんて思いもしなかったからだ。だが海が荒れたかと思えば、モグラを覆うような波がやって来る。「――モグラさんっっ!!!!」
 モグラはそのまま微笑んで、……海の中へと消えたのだ。海月は海に押し返されるように砂浜へと着陸する。空は満月のままだが少し傾いていた。
 海月は水びだしの身体を震わせて先ほどの光景を思い起こす。もしかしたら自分の誕生日祝いをしてくれたのかもしれない、なんて都合のいいことを考えた。海月は涙を浮かべて空を仰ぐ。
「モグラさん。俺、自分の誕生日を素直に祝えました。今度はケーキ持ってきます。苦手だけど、ケーキを持って来たら、今度こそ、ちゃんとモグラさんと、会えるかなって……!」
 満月が滲んで見えた。それでもとめどなく溢れる涙は懐かしさと嬉しさでいっぱいであった。
 ~FIN~
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