49 / 49
《また会えたら》
しおりを挟む
仁田の連絡を受けてからの記憶を海月はあまり覚えていない。三重と甲斐と一緒に泣き明かした後に元気のない様子で仁田に会いに行ったのは覚えている。そこから先はよく覚えていないのだ。
今ならどうすればモグラとまた暮らせるのかを考えようとしたが、金の神を勧めたのは自分だ。そして応えてくれたのはモグラ自身。モグラだって自分と別れを惜しむような発言をしていたし、本当であれば仁田とちゃんと会ってから天界へ帰りたかったようだが……、別れを決めた途端に帰ってしまった。
逆にそっちの方が良かったのかもしれない。仁田たちに会ってしまえば自分の決心が揺らぐと思ったのだろう。
「自分でも、そうかもしれない……な」
あれから月日が流れた。海月は海に来ていた。だがモグラと別れてから海に毎日のように海へ来ているのだ。海に来ればモグラに会える。だってモグラさんは海のモグラだから、なんて空で呟いて冷酒を傾けた。
もう海月も成人した大人になっていた。酒の頻度はほどほどにしているが、今日は特別である。今日は自分の誕生日であった。
今日まで色々とあった。占いの能力は落ちていなかったが、水面占いのアフターサービスであるモグラの役割が自分にも回って来たので法学や経済学などのようなものまで勉強する羽目になった。
あとは店に出す茶である。海月は茶を淹れるのがへたくそすぎた。それに料理もだ。だから、貯めていた貯金を使って料理教室へ通い、図書館で茶の入れ方を勉強したりしていた。図書館がこんなにも役に立つだなんて思いもしなかった。ちなみに専門的な知識の前に基本的なベースの法学や経済学などの本も図書館から借りていた。
ちなみに驚いたのは地政学という分野である。ざっと目を通しただけではあるが、日本が小柄な民族でありながら戦争に勝てたのは海が関係しているらしい。
海に囲まれた国をシーパワーと呼ぶ。昔の国々は航海をする際に食料や燃料なども尽きるので日本に来る前に食料が尽きて戦争をする際に不利になりやすいということだ。
海は人間に偉大な力を与えてくれたと言うまでもないとその時、海月は感じたのだ。
冷酒を一口飲んで海のさざ波を聞く。海は穏やかな波をなびかせていた。そして今日は満月だ。自分が海の供物として助けられた日もそうであった。
「モグラさん……、やっぱり、会いたいですよ。会って、話したい。海が偉大で広大で優しいということを。時に怒ることもあるけれど、――海は平等であることを」
砂浜にどうしてだが『海』と書いた。それから続けて『モグラ』と書こうとする。だが、打ち際の波にモグラをかき消されてしまった。
海月はとめどなく涙を見せた。それから立ちあがる。
「また明日も来ますね。俺、モグラさんと会えることを楽しみにしていますからっ!」
満月を背に進もうとする。だが急変したことがあった。波が海月の足元を掠めたのだ。まるで海月を誘うように海が海月を導こうとしていた気がした。海月はそれに気が付き、そして振り返る。
「やぁ、ひさしぶりだな」
少し恥ずかしげに頬を掻く茶色の髪に金色の瞳となった懐かしい顔に海月は目を見開き、海の中へと突き進もうとする。その人物は悲哀な顔を見せて右手で制した。
「待った。それ以上はいけないよ。――海月が死んじゃうから」
「死んでも良いですっ! だってモグラさんと――」
「俺は海月に生きて欲しい。俺は海のモグラだ。俺は海さえも統べられる」
力強い言葉に圧倒されるが海月は負けられなかった。モグラにまた会えるなんて思いもしなかったからだ。だが海が荒れたかと思えば、モグラを覆うような波がやって来る。「――モグラさんっっ!!!!」
モグラはそのまま微笑んで、……海の中へと消えたのだ。海月は海に押し返されるように砂浜へと着陸する。空は満月のままだが少し傾いていた。
海月は水びだしの身体を震わせて先ほどの光景を思い起こす。もしかしたら自分の誕生日祝いをしてくれたのかもしれない、なんて都合のいいことを考えた。海月は涙を浮かべて空を仰ぐ。
「モグラさん。俺、自分の誕生日を素直に祝えました。今度はケーキ持ってきます。苦手だけど、ケーキを持って来たら、今度こそ、ちゃんとモグラさんと、会えるかなって……!」
満月が滲んで見えた。それでもとめどなく溢れる涙は懐かしさと嬉しさでいっぱいであった。
~FIN~
今ならどうすればモグラとまた暮らせるのかを考えようとしたが、金の神を勧めたのは自分だ。そして応えてくれたのはモグラ自身。モグラだって自分と別れを惜しむような発言をしていたし、本当であれば仁田とちゃんと会ってから天界へ帰りたかったようだが……、別れを決めた途端に帰ってしまった。
逆にそっちの方が良かったのかもしれない。仁田たちに会ってしまえば自分の決心が揺らぐと思ったのだろう。
「自分でも、そうかもしれない……な」
あれから月日が流れた。海月は海に来ていた。だがモグラと別れてから海に毎日のように海へ来ているのだ。海に来ればモグラに会える。だってモグラさんは海のモグラだから、なんて空で呟いて冷酒を傾けた。
もう海月も成人した大人になっていた。酒の頻度はほどほどにしているが、今日は特別である。今日は自分の誕生日であった。
今日まで色々とあった。占いの能力は落ちていなかったが、水面占いのアフターサービスであるモグラの役割が自分にも回って来たので法学や経済学などのようなものまで勉強する羽目になった。
あとは店に出す茶である。海月は茶を淹れるのがへたくそすぎた。それに料理もだ。だから、貯めていた貯金を使って料理教室へ通い、図書館で茶の入れ方を勉強したりしていた。図書館がこんなにも役に立つだなんて思いもしなかった。ちなみに専門的な知識の前に基本的なベースの法学や経済学などの本も図書館から借りていた。
ちなみに驚いたのは地政学という分野である。ざっと目を通しただけではあるが、日本が小柄な民族でありながら戦争に勝てたのは海が関係しているらしい。
海に囲まれた国をシーパワーと呼ぶ。昔の国々は航海をする際に食料や燃料なども尽きるので日本に来る前に食料が尽きて戦争をする際に不利になりやすいということだ。
海は人間に偉大な力を与えてくれたと言うまでもないとその時、海月は感じたのだ。
冷酒を一口飲んで海のさざ波を聞く。海は穏やかな波をなびかせていた。そして今日は満月だ。自分が海の供物として助けられた日もそうであった。
「モグラさん……、やっぱり、会いたいですよ。会って、話したい。海が偉大で広大で優しいということを。時に怒ることもあるけれど、――海は平等であることを」
砂浜にどうしてだが『海』と書いた。それから続けて『モグラ』と書こうとする。だが、打ち際の波にモグラをかき消されてしまった。
海月はとめどなく涙を見せた。それから立ちあがる。
「また明日も来ますね。俺、モグラさんと会えることを楽しみにしていますからっ!」
満月を背に進もうとする。だが急変したことがあった。波が海月の足元を掠めたのだ。まるで海月を誘うように海が海月を導こうとしていた気がした。海月はそれに気が付き、そして振り返る。
「やぁ、ひさしぶりだな」
少し恥ずかしげに頬を掻く茶色の髪に金色の瞳となった懐かしい顔に海月は目を見開き、海の中へと突き進もうとする。その人物は悲哀な顔を見せて右手で制した。
「待った。それ以上はいけないよ。――海月が死んじゃうから」
「死んでも良いですっ! だってモグラさんと――」
「俺は海月に生きて欲しい。俺は海のモグラだ。俺は海さえも統べられる」
力強い言葉に圧倒されるが海月は負けられなかった。モグラにまた会えるなんて思いもしなかったからだ。だが海が荒れたかと思えば、モグラを覆うような波がやって来る。「――モグラさんっっ!!!!」
モグラはそのまま微笑んで、……海の中へと消えたのだ。海月は海に押し返されるように砂浜へと着陸する。空は満月のままだが少し傾いていた。
海月は水びだしの身体を震わせて先ほどの光景を思い起こす。もしかしたら自分の誕生日祝いをしてくれたのかもしれない、なんて都合のいいことを考えた。海月は涙を浮かべて空を仰ぐ。
「モグラさん。俺、自分の誕生日を素直に祝えました。今度はケーキ持ってきます。苦手だけど、ケーキを持って来たら、今度こそ、ちゃんとモグラさんと、会えるかなって……!」
満月が滲んで見えた。それでもとめどなく溢れる涙は懐かしさと嬉しさでいっぱいであった。
~FIN~
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
熱い風の果てへ
朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。
カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。
必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。
そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。
まさか――
そのまさかは的中する。
ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。
※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる